創業・起業時の資金調達手段として最もポピュラーなのは、日
本政策金融公庫の創業融資や信用保証協会の創業保証です。一
定の要件を満たせば誰でも利用できる制度であり、創業・起業
時の資金調達環境は比較的整っていると感じます。

しかし、創業融資を受けて無事に開業できても、事業を継続し
成長させていくのは容易ではありません。廃業してしまう事業
者と長期的に存続できる事業者の違いはどこにあるのでしょう
か。長年の経験から、事業の存続と成長の鍵は、創業融資の次、
2回目の融資を受けられるかどうかだと感じます。

2回目の融資を受けられる時期は、1期目ないし2期目の決算
が終わった辺りですが、2回目からの融資は、創業融資のよう
に要件の充足ではなく、業績(実績)が重視されます。

2回目の融資で最も重視される業績は売上です。創業して1年
ないし2年が経っても一定の売上が立たない場合は、経営者の
実力が不足している、もしくは提供している商品やサービスが
市場から必要とされていないと考えられます。よって、2回目
の融資を受けるためには売上が必須です。売上が立てば、一般
的には月商の2カ月程度の融資を受けられる可能性が出てきま
す。

売上が立ったけれど赤字の場合はどうでしょうか。赤字の額に
もよりますが、赤字だからといって絶対に融資を受けられない
訳ではありません。損益分岐点に届かなかったため赤字だが、
融資金によって損益分岐点を超える売上を獲得できると判断で
きれば融資をしてもらえるはずです。

創業時にありがちなミステイクの一つは、本当は利益が出てい
るのに納税を嫌って意図的に業績の悪い決算にすることです。
決算内容を悪くすることで、2回目の融資を断られたり、融資
額が少額に留まってしまうと、攻める経営ができない⇒低成長
⇒さらに融資も出なくなる、という悪循環に陥り、事業の拡大
どころか段々と資金が細り遂には廃業ということになりかねま
せん。

一方、納税を受け入れて利益をしっかり出した企業は、2回目
のファイナンスにより事業を成長させることができ、その成長
が更に大きな融資を呼び込みます。1期目もしくは2期目の決
算処理を誤ることで、その後の姿が大きく変わるので気をつけ
てください。

創業・起業された方は、最初の目標を「2回目の融資を受ける
事」に設定することで生き残れる可能性がぐんと高まります。
2回目の融資を受けるために必要なことをひとつひとつ学んで
いきましょう。

このアプローチは、単に事業を存続させるだけでなく、持続的
な成長を実現するための重要な戦略となります。2回目の融資
獲得に向けて計画的に事業を運営することが、財務基盤の強化、
経営スキルの向上、そして市場での競争力強化につながります。
これらの要素が相まって、長期的な事業の成功確率を高めるこ
とができます。

外注化(アウトソーシング)は、多くの中小企業にとって業務
の効率化、コスト削減、そして新たな価値創造の手段となって
います。ここでは、外注化を積極的に活用し、成果を上げた10
社の成功事例の概要を紹介します。

■1.製造業:部品加工の外注化で生産性向上

企業名:A社(精密機械メーカー)
A社は自社で行っていた部品加工を専門の外注企業に委託。
これにより、生産スピードが30%向上し、開発リソースを新
商品の研究に集中できた。

■2.小売業:ECサイト運営を外注し売上拡大

企業名:B社(アパレルブランド)
ECサイトの管理や広告運用を専門の外部企業に委託。
売上が前年比150%増加し、社内は商品開発やブランディン
グに注力できた。

■3.IT企業:カスタマーサポートを外注し業務効率化

企業名:C社(SaaS企業)
カスタマーサポート業務を専門のBPO(ビジネス・プロセス・
アウトソーシング)企業に委託。
対応品質が向上し、顧客満足度が15%改善した。

■4.飲食業:SNSマーケティングを外注し集客アップ

企業名:D社(レストランチェーン)
SNS運用を外注し、プロの手による効果的な広告とインフル
エンサーマーケティングを実施。
フォロワー数が5倍になり、売上も大幅に向上。

■5.建設業:設計業務を外注しプロジェクトの回転率向上

企業名:E社(住宅設計事務所)
設計業務の一部を外部の設計会社に依頼。
納期が短縮され、より多くの案件を受注できるようになった。

■6.人材サービス業:バックオフィス業務を外注しコア業務
に集中

企業名F社(人材派遣会社)
経理や給与計算をアウトソーシングし、社内リソースを営業活
動に集中。
新規取引先が前年比200%増加。

■7.物流業:配送管理を外注しコスト削減

企業名:G社(EC物流企業)
倉庫管理や配送業務を外部の専門業者に委託。
物流コストが20%削減され、配送品質も向上。

■8.医療機関:予約システムを外注し業務効率化

企業名:H社(クリニック)
予約受付を外部のコールセンターとオンライン予約システムに
委託。
待ち時間が短縮され、顧客満足度が向上。

■9.教育業:オンライン講座の制作を外注し事業拡大

企業名:I社(オンライン教育企業)
講座制作を外注し、短期間で多くの講座を提供可能に。
受講者数が3倍に増加。

■10.デザイン業:営業活動を外注し新規顧客獲得

企業名:J社(グラフィックデザイン会社)
営業代行を活用し、新規案件獲得を強化。
売上が前年比130%増加。

外注化は、業務の効率化やコスト削減だけでなく、新たな価値
創造にもつながります。
中小企業の人手不足、スキル不足を補うための最適解です。
ノンコア業務を外注化するとの発想を超えて、場合によっては
コア業務を外注化することも一手です。
領域を設けずに外注化を検討してください。受け皿は整ってい
ます。

先日、スクールビジネスを始めて1年の社長様から相談を受け
ました。「日本政策金融公庫に融資を申し込んだが断られた。
このままでは資金が枯渇してしまう」というものです。
詳しく伺うと、創業時は自己資金だけで十分と考え、創業融資
を受けていませんでした。しかし、1年経った今も単月黒字化
できておらず、役員報酬もほとんど取れていない状況でした。

■ 創業時こそ融資のチャンス
残念ながら赤字で資金繰りが苦しい状況ほど、資金調達は難し
くなります。創業時であれば、将来の「計画」だけで融資を受
けられる可能性が高いのですが、1年経過し上手くいかなかっ
た「結果」が出ている場合、日本政策金融公庫からも保証協会
付き融資も受けることは困難になります。

■ 十分な資金準備の重要性
中小企業庁の統計データに基づくと、法人の場合、起業から3
年後の生存率は約62.8%となります。つまり、約37.2%の企業
が3年以内に廃業していることになります。これは決して低い
数字ではありませんが、適切な資金準備と経営計画があれば、
さらに生存率を高められる可能性があります。

■ 創業後の資金管理
創業後のお金の使い方も重要です。前述の社長様の場合、人件
費、福利厚生費、広告費、接待交際費が売上規模とアンバラン
スでした。従業員のモチベーションアップや広告宣伝の重要性
は理解できますが、資金が枯渇すれば事業継続が不可能になり
ます。
固定費を抑え、できるだけお金を減らさない工夫が必要です。
損益分岐点を下げる努力が、経営の安定化につながります。

■ 日本政策金融公庫の活用
日本政策金融公庫は、新設企業向けに低金利で融資を提供して
います。特に「新規開業資金」は、創業時に利用しやすく、他
の金融機関からの信用向上にもつながります。申請時には、綿
密な創業計画書と資金繰り表を準備し、面談で事業への熱意を
伝えることが重要です。

■ まとめ
創業予定の方、創業後間もない方で、まだ創業融資を受けてい
ない方は、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。
十分な資金準備と適切な資金管理が、事業成功の鍵となります。
自己資金だけでなく、創業融資もしっかり受けて、十分な資金
を持って独立することが、成功への近道です。

少なくない日本の大手企業では、昭和時代の経営スタイルが今
だに根強く残っています。特に、長期間にわたって指揮を執る
経営陣の高齢化や、硬直的な組織運営が問題となっています。
その典型例として挙げられるのが、フジ・メディア・ホールデ
ィングス(以下、フジメディアHD)です。同社の現状は、昭
和型経営が抱えるさまざまな課題を浮き彫りにしています。

■1. 経営陣の高齢化と革新性の欠如

フジメディアHDの取締役陣を見ると、その多くが60代から
80代という高齢者で占められています。例えば、日枝久取締
役相談役は87歳、茂木友三郎取締役(監査等委員)は89歳
と、業界でも最高齢に近い経営陣が要職に就いています。この
ような高齢化した経営陣が多いことは以下のようなデメリット
を生み出しています。

●市場変化への対応の遅れ
メディア業界は、ネット配信やAI技術など、急速に変化して
います。しかし、高齢化した経営陣では新技術や新しい視点を
積極的に取り入れる柔軟性が不足しており、競争力の低下を招
いています。

●組織の硬直化
長期間にわたり同じ体制で運営されることで、社内文化が保守
的になり、新しいアイデアや人材が育ちにくい環境が生まれま
す。

■2. 業績指標の低迷

昭和型経営の弊害は、経営成績にも表れています。以下は、フ
ジメディアHDにおける具体的な課題です。

●PBR、株価純資産倍率の低迷
フジメディアHD のPBRは0.5を割り込んでいます。広告収
益や視聴率の低下、さらには事業構造の効率性の欠如を反映し
ています。これは、従来型のテレビ放送に依存し、デジタル事
業への投資や転換が遅れていることが原因と考えられます。

●ROE、自己資本利益率の低迷
フジメディアHDのROEは6%弱、投資資本が十分に収益を
生んでいないことを示しており、経営資源の効率的な活用が求
められます。

■3. ガバナンスの問題と株主からの不信

昭和型経営の特徴として、経営陣の入れ替えが少なく、ガバナ
ンスの欠如が挙げられます。フジメディアHDでは、アメリカ
の投資ファンド、ダルトン・インベストメンツがガバナンス体
制に対して強い批判を行っています。特に、以下のような問題
が指摘されています。

●経営陣刷新の遅れ
投資家からの意見や提言を軽視する体質が、経営の硬直化をさ
らに助長しています。これにより、投資家からの信頼が低下し、
株主価値の向上が阻害されています。

●スポンサー離れ
経営判断の遅れや対応力の欠如により、主要スポンサーがCM
を取りやめるケースも見られ、広告収益の減少を招いています。

■4. 昭和型経営からの脱却に向けて

フジメディアHDの例は、昭和型経営が日本企業における競争
力をいかに低下させるかを示す象徴的な事例です。これらの問
題を解決し、持続可能な経営を実現するためには、以下の施策
が求められます。

●経営陣の若返り
新しいアイデアを取り入れるために、経営陣の年齢構成を見直
し、若手や外部の多様な人材を登用する必要があります。

●デジタル化とイノベーションの推進
テレビ放送に依存したビジネスモデルから脱却し、ストリーミ
ングやデジタルコンテンツ事業への本格的な転換が急務です。

●株主との対話の強化
株主の意見を取り入れることで、ガバナンスを強化し、企業価
値の向上を目指す必要があります。

フジメディアHDにおける昭和型経営の弊害は、日本の多くの
企業が直面する課題と共通しています。経営陣の高齢化、業績
悪化、株主の信頼低下といった問題は、現代の急速に変化する
ビジネス環境に適応するための障害となっています。こうした
状況を打破するには、経営陣の若返り、多様性の確保、そして
柔軟かつ革新的な経営手法の導入が不可欠です。

フジメディアHDの事例は、日本企業が競争力を維持し、グロ
ーバルな舞台で生き残るための教訓となるでしょう。これから
の時代に適応するためには、昭和型経営からの脱却が急務です。

中小企業にとって、銀行との良好な関係構築は経営の要となり
ます。その中で、適切な情報開示は重要な役割を果たします。
しかし、どの程度の情報をどのように開示すべきか、多くの経
営者が悩むところでしょう。

■ 情報開示の重要性
銀行への情報開示は、単なる義務ではありません。それは、自
社の経営状況を客観的に把握し、銀行との信頼関係を築くため
の重要なツールです。適切な情報開示により、以下のメリット
が期待できます。

1.融資や金融支援を受けやすくなる
2.経営の透明性が評価され、有利な条件での取引が可能になる
3.銀行からの経営アドバイスを得やすくなる

■ 開示すべき情報
一般的に開示が求められる情報には、財務諸表(貸借対照表、
損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)、試算表、資金繰り
表などがあります。加えて、事業計画や業績見通し、経営上の
課題とその対策なども重要です。

■ バランスの取れた開示
しかし、すべての情報を無条件に開示することは賢明ではあり
ません。競合他社への情報漏洩リスクや、銀行からの過度の介
入を招く可能性があるためです。そのため、開示する情報の選
別と、開示のタイミングには十分な注意が必要です。

■ 戦略的アプローチ
情報開示には、以下のような戦略的アプローチが効果的です。

1.定期的な報告:四半期ごとなど、定期的な報告スケジュー
ルを設定する
2.自発的な開示:重要な変更や課題が生じた際は、自発的に
報告する
3.説明能力の向上:開示した情報を正確に説明できる能力を
磨く
4.信頼関係の構築:銀行担当者との良好なコミュニケーショ
ンを心がける

■ リスク管理
情報開示にはリスクも伴います。機密情報の管理や、誤解を招
く可能性のある情報の取り扱いには細心の注意が必要です。必
要に応じて、専門家に相談することも検討してください。

■ まとめ
銀行への情報開示は、透明性と慎重さのバランスが鍵となりま
す。適切な情報開示は、銀行との信頼関係を深め、企業の成長
と安定に寄与します。一方で、過度の開示はリスクを伴う可能
性があります。

自社の状況を冷静に分析し、開示する情報の範囲とタイミング
を慎重に検討することが重要です。また、情報開示を単なる義
務としてではなく、自社の経営改善や成長戦略の一環として捉
えることで、より効果的な活用が可能になります。

銀行との良好な関係構築は、中小企業の持続的成長に不可欠で
す。適切な情報開示戦略を通じて、銀行を単なる資金提供者で
はなく、ビジネスパートナーとして位置づけることができれば、
大きな強みとなるはずです。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

日本の成熟した市場環境において、中小企業が競争優位を築く
ためには、独自の差別化戦略が不可欠です。以下に、具体的な
企業の事例を5つ挙げ、それぞれの戦略を簡潔に解説します。

■1.地域性を活かしたローカル特化型ビジネス

●株式会社一平ホールディングス様(愛媛県)

愛媛県松山市に本社を置く一平ホールディングスは、地元の食
材を活用した飲食店を展開しています。特に、愛媛県産の新鮮
な魚介類や柑橘類を使用したメニューを提供し、地域の魅力を
発信しています。また、地元の伝統的な調理法や郷土料理を取
り入れることで、観光客だけでなく地元住民からも高い支持を
得ています。このように、地域資源を最大限に活用することで、
他地域の競合店との差別化を図っています。

■2.顧客体験を重視したサービス提供

●株式会社スノーピーク様(新潟県)

新潟県三条市に本社を構えるスノーピークは、アウトドア用品
の製造・販売を手掛ける企業です。同社は製品の販売だけでな
く、顧客が実際に製品を試用できるキャンプ場「スノーピーク
ヘッドクォーターズキャンプフィールド」を運営しています。
ここでは、製品の使い方を学べるワークショップや、スタッフ
との交流を通じて、顧客に特別な体験を提供しています。この
ような顧客参加型のサービスにより、ブランドへの愛着とリピ
ーターの獲得に成功しています。

■3.サステナビリティを意識した事業展開

●中川政七商店様(奈良県)

奈良県奈良市に本社を置く中川政七商店は、1716年創業の老
舗企業で、伝統工芸品や生活雑貨を取り扱っています。同社は、
日本各地の伝統工芸の技術を現代の生活に取り入れた商品を展
開し、職人との協業を通じて地域産業の活性化と持続可能なも
のづくりを推進しています。また、環境に配慮した素材選びや
製造工程の見直しを行い、エコフレンドリーな商品開発にも注
力しています。これにより、環境意識の高い消費者からの支持
を集めています。

■4.ニッチ市場への特化

●株式会社バンブークリエイト様(京都府)

京都府京都市に拠点を置くバンブークリエイトは、竹を素材と
した製品の企画・製造・販売を行っています。同社は、竹の持
つ抗菌性や軽量性、美しい質感に着目し、竹製の食器や家具、
生活雑貨などを展開しています。特に、飲食店向けの竹製カト
ラリーや、エコ志向の消費者向けの竹製ストローなど、特定の
ニーズに応える商品開発で成功を収めています。このように、
竹という素材に特化することで、競合他社との差別化を実現し
ています。

■5.デジタル技術を活用した新しい価値提供

●株式会社チームラボ様(東京都)

東京都千代田区に本社を構えるチームラボは、アートとデジタ
ル技術を融合させたインスタレーションを手掛ける企業です。
同社は、最新のデジタル技術を駆使した没入型のアート空間を
提供し、国内外で高い評価を得ています。例えば、東京・お台
場にある「チームラボボーダレス」では、プロジェクションマ
ッピングやセンサー技術を活用したインタラクティブなアート
作品を展示し、訪れる人々に新しい体験価値を提供しています。
このように、デジタル技術を活用することで、従来の美術館や
展示施設とは一線を画す差別化を実現しています。

これらの事例は、それぞれの企業が独自の強みや地域資源、最
新技術を活用して差別化を図り、競争優位を築いていることを
示しています。中小企業が持続的な成長を遂げるためには、自
社の特性や市場のニーズを的確に捉えた差別化戦略が重要であ
ることがわかります。

安売りの対局は差別化です。価値を求めるためには、脱・同質
化、差別化がどうしても必要です。

銀行融資の営業はやや特殊です。融資をしなければ利益は上が
りませんが、融資を行えば、同時に貸倒れのリスクも発生する
ため、貸したいような貸したくないような複雑な心境で営業を
しています。

また、資金使途が適切でなければ融資が出来ない点も営業を難
しくしています。お客様から融資を受けたいという意思表明が
あり、かつ信用状況が良くても、実需に伴う資金使途が無くて
は融資をすることができません。

銀行は、事業に必要な資産を購入する場合の融資には前向きで
す。例えば、工場建設や事業拡大に伴う用地取得などが該当し
ます。一方で、将来の値上がりを期待して土地や株式を購入す
る投機的な目的での融資は行いません。

この方針の背景には、過去の苦い経験があります。かつて銀行
は、土地、株、ゴルフ会員権など、投機目的の購入資金に対し
て積極的に融資を行っていました。その結果、深刻な資産バブ
ルを引き起こし、経済に大きな混乱をもたらしたのです。

この反省から、現在の銀行は、実体経済に資する目的の融資に
注力し、投機的な資金需要には慎重な姿勢を取っています。つ
まり、明確な事業目的がある場合にのみ、融資の検討が可能に
なります。

実は、資産の購入を目的とした設備資金だけでなく、運転資金
にも同様の考え方があります。その企業にとって必要と考えら
れる運転資金の額を算出する算式があり、それを超える融資は、
たとえ企業業績が良くても難しくなります。事業資金であって
も、実需以上の融資は行わないというスタンスです。

当事務所では、不測の事態に備えて「借りられる時に借りられ
るだけ借りておく。」ことを提唱しておりますが、実は不測の
事態に備えるための「倒産回避資金」なる資金使途はありませ
ん。あくまでも「運転資金」として調達しなくてはなりません
が、先ほどの算式で得た額を超える運転資金を調達するにはコ
ツが必要になります。

運転資金を多めに借りることが出来るコツのひとつは銀行の決
算です。融資残高目標を達成するため、一般企業の決算セール
に該当するようなものが実際にあります。当事務所にも「3月
末までに○○億円を融資したいのでお客様のご紹介をお願いし
ます。」と金融機関の担当者が熱心にあいさつに来られます。
普段はお客様から融資を依頼される銀行ですが、この時期は銀
行の方からお客様に融資を依頼するケースが増えますので、実
需を超えた資金を融資してもらえるチャンスがあります。

借金が増えるのは嫌だからと銀行からの融資提案を断る社長様
もおられますが、借金があっても同等の預金があれば実質無借
金です。もし銀行から融資の提案があれば、将来の不測の事態
に備えて借りることをためらわず、キャッシュポジションを高
く取っておくと安心です。

帝国データバンクの「食品主要195社」価格改定動向調査によ
ると、主要な食品メーカー195社における2025年の飲食料品
値上げは3,933品目(値上げ率平均17%)に達し、2025年を
通じて値上げは継続的に見込まれるとしています。

値上げは中小企業にとって難しい経営判断ですが、成功するた
めには戦略的なアプローチが重要です。以下に、値上げを上手
に実施しながら成功を収めた中小企業の事例を4つ紹介します。

■1.「品質向上」をアピールした地元パン屋

ある地域の老舗パン屋は、原材料費の高騰により価格を維持す
るのが困難になりましたが、「品質向上」を前面に打ち出すこ
とで値上げを成功させました。
・高品質な地元産小麦や天然酵母を使用することで、商品の差
別化を実現。
・店舗内やSNSで「より良い材料を使用するための価格改定」
であることを丁寧に説明。
・試食イベントを開催し、新商品の魅力を顧客に直接伝えるこ
とで納得感を創出。

結果として、顧客からの理解を得て、値上げ後も売上を維持。
高品質を求める新規顧客の獲得にも成功しました。

■2.サブスクリプション型サービスの機能追加による値上げ

あるIT企業は、クラウド型の業務管理サービスを提供してお
り、長年同じ価格でサービスを提供していました。値上げ時に
は以下のような戦略を採用しました。
・新機能(データ分析ツールやモバイルアプリ対応)の追加を
先行リリース。
・既存顧客には「アップグレード特典」として、一定期間値上
げ前の価格で利用できるオプションを提供。
・値上げの理由をメールやセミナーで明確に説明し、顧客から
のフィードバックを反映。

この結果、値上げ後も解約率は低下し、むしろサービス価値を
高く評価する顧客が増えました。

■3.パーソナライズド体験で価値を訴求した美容院

ある美容院は、原材料やスタッフの賃金上昇に対応するため、
カットやカラーリングの料金を10%値上げしましたが、以下
の工夫で顧客の満足度を高めました。
・顧客ごとに個別のカウンセリング時間を増やし、よりパーソ
ナライズドな提案を実施。
・値上げ前後でサービス内容の変化を明示し、「さらに贅沢な
体験」を提供することを強調。
・常連客には値上げ記念の無料トリートメントや割引クーポン
を配布し、顧客ロイヤルティを向上。

これにより、値上げに対する不満を最小限に抑えつつ、サービ
スのアップグレードを顧客に実感させることができました。

■4.「希少性」と「限定性」を強調した和菓子店

ある和菓子店では、地域の伝統的な素材を使用した季節限定の
商品を販売しており、値上げ時には以下の工夫をしました。
・使用する材料の希少性や伝統的な製法のストーリーを積極的
に発信。
・限定商品を値上げ前に先行販売し、顧客の反応をテスト。
・値上げに伴い「数量限定」とすることで、付加価値を高めた。

この結果、値上げによる一部顧客の離脱を補って余りある新規
顧客を獲得。売上全体も増加しました。

●値上げ成功のポイント

これらの事例に共通する成功のポイントは次の通りです。

1.顧客に納得感を与える理由付け
品質向上や新機能追加、エコ志向など、価格改定が妥当である
ことを明確に伝える。

2.顧客体験の向上
サービスや製品に対する満足度を高める工夫を値上げとセット
で提供する。

3.コミュニケーションの強化
事前の告知や顧客への説明を十分に行い、信頼を損なわない。

4.テストマーケティング
限定販売や試験的な価格変更で顧客の反応を確認し、本格的な
値上げに備える。

これらを実践することで、中小企業でも顧客との信頼関係を維
持しながら収益向上を実現することが可能です。好む好まざる
に関らず、値上げ対応を迫られるご時世です。値上げを経営の
最重要課題の一つと捉えて、しっかり対応していきましょう。
今年も物価の上昇は続くはずです。

利益は出ているのに、なぜか資金繰りが苦しいという経験はな
いでしょうか。この状況、実は珍しくありません。今回は、こ
の状況を銀行にどう説明し、融資を受けるかについてお話しし
ます。

■ 利益が出ていてもキャッシュフローがマイナスになる理由
簡単に言えば、お金の入りと出のタイミングがずれているから
です。例えば、

・売上は立っているけど、まだお客様からお金をもらっていない
・仕入れはしたけど、まだ商品が売れていない

こういった状況で、利益は出ているのに、手元のお金(キャッ
シュ)が足りなくなることがあります。

■ 銀行員の目線を理解しよう
銀行員は、営業キャッシュフロー(営業CF)がマイナスだと
心配します。しかし、その理由を正しく説明できれば、融資し
てもらえる可能性は十分にあります。説明のポイントは、資金
繰り表を使うことです。

収支の状況を言葉だけで説明するのは難しいため、資金繰り表
を用いて以下のことを明確に示すことが重要です。

1.なぜ今キャッシュフローがマイナスなのか
2.将来どうやってプラスに転じるのか

■ 具体例:通信販売事業者のケース
月の固定費が100万円で、粗利率が30%の会社を考えてみまし
ょう。

1.売上400万円、仕入350万円の場合:
・利益:400万円×30%-100万円=20万円(黒字)
・キャッシュフロー:400万円-350万円-100万円=-50万円(マイナス)

2.同じ売上で仕入を280万円に抑えた場合:
・利益:400万円×30%-100万円=20万円(変わらず)
・キャッシュフロー:400万円-280万円-100万円=20万円(プラス)

この例を使って、「売上が好調であり、更なる売上拡大のため
に仕入を増やしているためキャッシュフローがマイナスとなっ
ているが、仕入れを調整すれば、すぐにキャッシュフローをプ
ラスにできる」と説明できます。

■ まとめ:銀行融資を受けるためのポイント
1.資金繰り表を用意し、視覚的に説明する
2.なぜ今キャッシュフローがマイナスなのか、具体的に示す
3.どうやってプラスに転じるのか、数字を使って説明する
4.自社の成長戦略と、それに伴う資金需要を明確に伝える

こうした準備をしっかりすれば、「利益は出ているけど営業キ
ャッシュフローがマイナス」という状況でも、銀行融資を受け
られる可能性は十分にあります。自信を持って交渉に臨みまし
ょう。

現代の中小企業にとってSNSは、低コストで効果的なマーケ
ティング手段として欠かせない存在です。ここでは、具体的な
事例を5つ挙げて、各企業がどのようにSNSを活用して成功
を収めたかを解説します。

■1.地域密着型カフェのインスタグラム活用
ある地方都市のカフェでは、インスタグラムを活用して地元住
民や観光客にアピールしました。このカフェは以下のような取
り組みを行いました。

●美しい写真投稿
自然光を活かした写真でドリンクやスイーツを紹介。ハッシュ
タグには地名や「#カフェ巡り」といったキーワードを入れる
ことで、検索に引っかかりやすくしました。
●季節感を重視した投稿
桜や紅葉の背景を活かした写真を投稿し、シーズンごとに変化
をつけることで、フォロワーの興味を引き続けました。

結果、このカフェのSNSフォロワーは半年で3倍に増加。フ
ォロワーからの来店報告も相次ぎ、地域内外からの集客に成功
しました。

■2.地元工務店のYouTubeでの情報発信
住宅リフォームを手がける工務店がYouTubeでの発信を始め
ました。SNSの特徴を活かし、専門性と親しみやすさを兼ね
備えた動画を投稿した例です。

● 「お悩み解決型」コンテンツ
「古い家の断熱性能を上げる方法」や「キッチンリフォーム
で気を付けるポイント」といった動画を作成し、視聴者の具体
的な疑問に応えました。
●社長の人柄を前面に出す
社長自らが出演し、地元の信頼できる職人としてのイメージを
構築。コメント欄での積極的な回答も好評を博しました。

結果、動画経由での相談件数が前年比150%増加し、特に地方
の視聴者からの依頼が増加しました。

■3.手作り雑貨店のTwitter活用で全国展開
地元で小さな店舗を構えていた手作り雑貨店は、Twitterを活
用して商品を全国展開しました。具体的な施策は以下の通りで
す。

●「限定商品」の告知
定期的に期間限定の商品や、SNSフォロワー限定の特典を発
表。これが「今すぐ買いたい」という動機付けにつながりまし
た。
●フォロワーとのコミュニケーション
質問への迅速な回答やフォロワーが投稿した写真のリツイート
を行い、SNS上でのエンゲージメントを高めました。

結果、オンラインストアの売上が大幅に増加。SNS経由での
新規顧客獲得率も50%以上を占めるようになりました。

■4.農家のTikTokでのブランディング
地方の若手農家がTikTokで農作業の日常を発信し、地元のブラ
ンド力向上に成功した例です。

●農作業の舞台裏を動画で公開
作物が育つ様子や収穫の瞬間を短い動画にまとめ、農作業の楽
しさや大変さを視聴者に伝えました。
●ユーモアを交えた演出
「農作業あるある」や「収穫ダンス」といった軽快な動画が話
題を呼び、特に若い世代のフォロワーが急増しました。

結果、SNS経由での商品購入が増加し、直販市場での売上も
拡大。農業の魅力を伝える活動として地域からの評価も高まり
ました。

■5.ローカルジムのFacebook活用
小規模なフィットネスジムがFacebookを活用して、地元住民へ
の認知度を向上させた事例です。

●「成功事例」を定期的にシェア
ジム利用者のビフォーアフターを写真付きで投稿し、具体的な
成果を視覚的に伝えました。
●イベント告知とライブ配信
「1日無料体験イベント」の告知や、トレーナーによるライブ
配信を行い、実際に参加者を増やすきっかけを作りました。

結果、新規会員数が前年比20%増加し、特に40代以上の利用
者が大幅に増えました。Facebook広告も活用し、より幅広い
層へのリーチに成功しました。

中小企業がSNSを活用する際の鍵は、「自社の強み」と「顧
客のニーズ」をうまく結びつけることが重要です。今回紹介し
た5つの事例はそれぞれ異なるSNSプラットフォームを活用
し、効果的な手法で成果を上げています。これらを参考に、S
NS活用の戦略を立て、自社の認知度や売上向上を目指してみ
てください。

昭和はチラシ、令和はSNSです。