ある関与先様から、「銀行の担当者から役員報酬が少ないと言
われた。社会保険料の負担が大きいのであまり上げたくないが、
どれぐらい上げたら良いか?」とのご相談がありました。現在
の役員報酬額は25万円です。

普通に回答すると、「適正な役員報酬額は粗利益の○%程度で
すが、社会保険料と所得税の負担が○円増えますので・・・」
となりますが、金融機関担当者の意図がすぐに分かりましたの
で「無理して上げる必要はないですよ。」と回答しました。

金融機関担当者はどのような意図で役員報酬が少ないことを指
摘したのでしょうか。社長の生活を心配して、「もっと役員報
酬を取った方が良いのでは」などと言っている訳ではありませ
ん。「役員報酬が少ないですね。」という質問の本質は、「本
当は赤字ではないでしょうか。」ということです。

たとえ決算上の利益が100万円出ていても、本当に必要な生
活費が500万円だとすれば、経費が200万円過小に計上さ
れていますので、実質の利益はマイナス100万円になります。
金融機関の担当者は、少なすぎる役員報酬を見て実質赤字では
ないかと心配しています。

当社の場合、同居している奥様と子息も一緒に働いており、給
与もしっかり出していますので、「役員報酬が300万円でも
世帯収入は十分にあることを説明してください。」とお伝えし
ました。金融機関担当者の懸念はこれだけで解決します。

仮に担当者の言葉を額面どおりに受け取っていたら、適正な役
員報酬額という難題の解決に時間を費やし、意に反して増加す
る社会保険料を受け入れた挙句、役員報酬の増加により利益は
減少という金融機関担当者の真意に反する結果になっていたと
ころです。

財務の知識が不足していると、金融機関担当者の何気ない一言
に振り回されることがあります。金融機関の考え方を本当に理
解している方をブレインとして持ってください。

前回号の続きです。

事業再構築のヒントは、人事分野にもあります。正社員を、終
身雇用を前提に雇用する時代は終わったようです。以下、新し
い雇用形態とフリーランスを主戦力として経営する会社様の事
例をご紹介します。
■着眼点6:社員を個人事業主化した事例!

●体脂肪計で国内シェア首位の健康機器メーカー、タニタ(東
京・板橋)は2017年に新しい働き方の制度を導入した。タニタ
の社員が「個人事業主」として独立するのを支援するというも
のだ。独立した人には、従来のタニタでの仕事を業務委託し、
社員として得ていた収入を確保する。こうすることで働く時間
帯や量、自己研さんにかける費用や時間などを自分でコントロ
ールできるようにするのが狙いだ。副業としてタニタ以外の仕
事を受け、収入を増やすこともできる。

発案者であり、制度設計を主導した谷田千里社長は、「働き方
改革=残業削減」という風潮に疑問を抱いていたという。働き
たい人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度を作り
たいと考え、導入したのがこの「社員の個人事業主化」だ。
開始から2年半がたち、手ごたえを感じているという谷田社長
に話を聞いた。対象はタニタ本体の社員のうち、希望する人。
退職し、会社との雇用関係を終了したうえで、新たにタニタと
「業務委託契約」を結ぶ。独立直前まで社員として取り組んで
いた基本的な仕事を「基本業務」としてタニタが委託し、社員
時代の給与・賞与をベースに「基本報酬」を決める。基本報酬
には、社員時代に会社が負担していた社会保険料や通勤交通費、
福利厚生費も含む。社員ではないので就業時間に縛られること
はなく、出退勤の時間も自由に決められる。基本業務に収まら
ない仕事は「追加業務」として受注し、成果に応じて別途「成
果報酬」を受け取る。タニタ以外の仕事を請け負うのは自由。
確定申告などを自分で行う必要があるため、税理士法人の支援
を用意している。契約期間は3年で、毎年契約を結びなおす。
2017年1月から始めた8人の場合、平均の収入は28.6%上がっ
た。この中には、従来会社が支払っていた社会保険料が含まれ、
独立した社員は任意で民間の保険などに加入する。一方、会社
側の負担総額は1.4%の増加にとどまった。3年目に入った現在、
26人の社員が独立した。

日経ビジネス・庄司容子氏の記事を引用させていただきました。

◎社員が担っていた社内業務を、その社員が引き継ぎながら独
立してもらう、併せて副業等も可能にして自由に働いてもらう
制度は斬新です。もちろん課題も山積でしょうが、汎用性のあ
る選択肢の一つに挙げられます。
■着眼点7:フリーランスを戦力として活用する事例!

●あるWEBマーケティング会社は、設立当初から社員の雇用
は行わず、年商4億円弱の今に至っても、社長と秘書兼事務の2
名で運営しています。業務は外部のフリーランスに原則すべて
業務委託して、受注窓口業務及び検収責任のみを担っています。
収益は、売上の約80%が外注費(原価)、約20%が粗利益、経
費は極小で極めて高収益です。

◎アウトソーシングではなく、そもそも外部のフリーランスを
戦力と定義して事業を始められたようです。副業解禁やフリー
ランスが増加するトレンドの中で、このモデルは今後ますます
増えるはずです。

■「専門性の高い業務とルーチン業務はアウトソーシングを活
用して」…このやり方はひと昔前の話になりそうです。専門性
の高いフリーランスが多数輩出され、また、ITツールが進化
した令和の時代は、事業の組み立て方も変わってくるのでしょ
う。アウトソーシング業務に対する制約がなくなりそうです。
そもそも外注先に退職リスクはありません。契約先である経営
者(フリーランス)が社員に比して責任感が低いとの論拠も希
薄です。また、労務リスクも大幅に減少します。経営の新しい
型として認識しておいた方がよさそうです。

…次回につづく

ある関与先様から私募債について相談がありました。取引金融
機関から私募債を発行しないかと提案があったようです。

私募債とは、平たく言えば借入とあまり変わりはありませんが、
借入の仕組みが一般的な融資と異なります。一般的な融資は、
金融機関が預金等で集めた資金を、金銭消費貸借契約に基づき
融資金として受け取るのですが、私募債は、自社で有価証券を
発行し、それを相手方に直接購入してもらう仕組みとなってい
ます。一般的な融資を間接金融、私募債の発行等を直接金融と
いう言い方もします。

私募債のメリットですが、そもそも私募債は財務内容の良い会
社しか発行できません。金融機関から私募債の発行を提案され
たという事は、金融機関が財務内容について一定の評価をして
いるという証です。また、私募債の発行は、新聞や金融機関の
ホームページに掲載されることもありますので、対外的に優良
企業であることをアピールすることができます。余談ですが、
私募債を発行すると金融機関が盾などの記念品をプレゼントし
てくれます。その記念品を応接室に飾ることで、信用力が上が
ると考える経営者様もいらっしゃいます。

また、私募債は返済方法が期日一括であるケースが多く、毎月
の返済がないため、期日まで調達資金を有効に使うことができ
るというメリットもあります。

一方でデメリットですが、一括返済やリスケジュール等、不測
の事態に対して柔軟性が低いという点があります。一般的な融
資と違いますので、当初の条件を変更する場合は、違約金が発
生することもあります。

さらに、調達コストを考えると、私募債は決して有利とは言え
ません。金利自体は低く設定されていても、別途、社債発行に
関わる手数料が必要になります。この手数料が決して安くはな
い金額ですので、優良企業であれば、一般的な融資の方が調達
コストは低いかもしれません。

私募債による調達は、調達コスト等の実利では一般的な融資に
劣ることが多いです。しかし、より多くの資金を調達したいと
お考えの経営者様や、ビジネスの基本は信用であり、私募債の
発行が信用補完になるとお考えの経営者様にとっては、一考の
余地があると考えます。

前回号の続きです。

■着眼点5:サービスを特定業種に絞り込む事例を紹介します。

●例えば、店舗の企画設計を行うA社は、製菓業界(菓子専門
店)に対象を絞り込んで店舗の企画・設計、施工管理を行いま
した。飲食店も、雑貨店も、住宅も、工場も…菓子専門店の店
舗以外は一切引受けません。菓子専門店で多くの実績を積み上
げて、その実績を同業界に対してのみ告知することで受注の連
鎖が起きます。当然、様々な業界に対応できる企画設計会社と
は、この業界に対するノウハウ・スキルの差がどんどん広がり
ます。あるレベルに到達した後は、価格競争に巻き込まれるこ
ともなく、極めて高い確率で受注できます。絞ることで習得し
たノウハウ・スキルの差は時間とともにどんどん広がります。

◎総花的な店舗の企画設計会社を経営している会社は星の数ほ
どあります。また、どんな店舗にも対応できるということの意
味は、それぞれに対する深い知見は有していないのと同義です。
上記の会社は、『菓子専門店以外はよくわかりませんが、菓子
専門店の店作りに関しては日本一です。』と言い放つことがで
きます。
●例えば、WEB制作、広告企画を行うB社は整体業に特化し
てホームページの制作と広告コンサルタントを行っています。
整体業に絞り込むことで、再現性の高い成功事例を効率的に収
集することができます。コンテンツの共用化も可能です。強い、
効率的なホームページの制作やコンサルティングを行えます。

◎総花的なWEB制作、広告企画会社は星の数ほどあります。
ここに事業立地を設定すると、上手に広告を行って、他社に負
けない価格設定で受注して、効率的にマネージメントできたと
きにのみ事業が存続できます。サービスを特定業種に絞り込む
こと、ここには大きな活路があります。
●例えば、コンサルタント事業を行うC社は、業種を分類して
その業種ごとにコンサルティングを行っています。また、その
業種は大分類ではなく小分類、とにかく細かく分類して攻めて
います。過去において、多くのコンサルタント会社は、業種で
はなくテーマで分類することが多く、この会社はコンサルタン
ト業界における新しいルールの創造者の地位を獲得しました。
基本の戦略は今も変わっていないようです。継続的な成功を収
めておられます。

◎ただでさえ難解なコンサルティング事業において、対象企業
の範囲を広げることは容易ではありません。業種を小分類まで
絞り込むことの最大のメリットは、コンサルタントの養成が容
易になることです。
■何でもできるは何もできないと同義です。

飲食店も、雑貨店も、住宅も、工場も…何でもできる?店舗の
企画設計会社はたくさんありますが、菓子専門店のみを対象と
する店舗の企画設計会社は稀有です。幅広くWEB制作、広告
企画を行う会社はたくさんありますが、整体業のみを対象にす
るWEB制作、広告企画会社はあまり見受けません。
総花的な経営コンサルタントはたくさんいますが、小さな業種
に真に特化したコンサルタントも稀です。

サービスを特定業種に絞り込む方法は、汎用性のある戦略です。

※困ったら、悩んだら絞り込むこと【Simple化】を考えてくだ
さい。広げるのではなく、絞り込むのです。多くの経営者が真
逆の施策を実行しています。

…次回につづく

コロナ感染症が再拡大しており、経営環境は引き続き厳しい状
態が続いています。対策を再確認しましょう。

■ 資金調達
資金があれば時間を稼ぐことができます。将来的に返済をしな
くてはならない資金ですが、今後も事業を継続するつもりであ
れば、資金の壁を高く積んでおく方が良いと考えます。

現在、コロナ関連融資は申し込み終了となってしまいましたが、
通常の融資は申し込みを受け付けています。資金調達余力があ
るならば、余力一杯の資金調達をしておきましょう。

■ 助成金
赤字を出しながら無理して営業するのではなく、思い切って休
業するという選択肢もあります。休業を選択した場合、要件を
満たせば、雇用調整助成金により休業手当の最大100%の助成
を受けられるため、人件費負担の大きな会社にとっては資金流
出を大幅に減らすことができます。但し、先に人件費を支払わ
なくてはなりませんので、融資とセットで考えましょう。

■ 補助金
国、都道府県、市町村単位で様々な補助金が打ち出されていま
す。要件は様々ですので、情報をしっかりと集め、受けられる
補助は漏れなく受けるようにしましょう。

■ 固定費の見直し、取引条件の交渉
不要な固定費の削減はもちろん、少しでも現金が手元に留まる
よう、売上金の早期回収、支払いの繰り延べ等、取引条件の交
渉も検討しましょう。

■ 新しい仕事の進め方・ビジネスモデルの構築
資金確保により一定の時間稼ぎが出来ます。時間を稼いでいる
間に現状に適合した新しい仕事の進め方、新しいビジネスモデ
ルの構築に取り組みましょう。事業再構築補助金の活用も検討
したいところです。

未だかつて経験したことがない出来事が起こっています。生き
残るためには、この状況に早期に適合しなくてはなりません。
リストラを含め、経営者としては辛い選択に迫られるかもしれ
ませんが、それがやるべきことであればやらなくてはなりませ
ん。まずは、生き残ることを優先してください。

前回号の続きです。

事業全体の活性化や事業立地の付加・転換など、事業自体をそ
の本質から見直そうとするときは、ビジネスの全体像を現した
ビジネスモデル俯瞰図を作ってみるとわかりやすいです。ビジ
ネスモデル俯瞰図を使って、事業の活性化を図りたいときの着
眼点を整理いたします。

■着眼点4:サービス代理店を付加する事例を紹介します。

同業者や新規事業を求める事業者(個人含む)に、自社事業の
ノウハウを提供して自社のパートナーとして活動してもらう事
例です。フランチャイズシステムも含みます。

●飲食店等でよくあるフランチャイズシステムもこの様式です。
自社の商品やサービスは(本来)自社でエンドユーザーに直接
提供・販売すべきものですが、同業者や新規事業を求める事業
者(個人含む)に対して自社のソリューション一式を提供して、
自社と同じビジネスを展開してもらうことで、加盟料やライセ
ンス料、供給品を提供して収益を上げます。

副業やフリーランスの方々が増える中で、比較的大きな資金を
要するフランチャイズシステムではなく、小資金で運営できる
ビジネスパッケージであれば、個人事業者やフリーランスにも
十分受け入れられるはずです。

例えば、多額な投資が必要で大きな売上を見込める商圏は自社
で展開し、自社で展開するのには小さすぎる商圏はそのエリア
に在住する個人に任せるオプションが現実的です。
今、このような小さな事業パッケージがたくさん生まれていま
す。副業やフリーランス、個人事業者はこのようなビジネスパ
ッケージを探しています。
例1)スマートフォンの修理を行う事業者Aは、大商圏では好
立地に自社店舗を出店して展開すると同時に、地方都市やロー
カルエリアでは自社ノウハウを提供する『修理ノウハウ習得者』
を養成して事業を行っています。訓練費用や機材提供収益等を
上げることができます。

例2)造園や庭仕事などのノウハウを、独立希望者に教えて事
業パートナーを募るB社があります。営業活動は本部が一括で
行い、業務は事業パートナーが受託して行います。B社は造園
や庭仕事の専門業者で、すべての業務を自社で行っていました
が、あるタイミングから事業パートナーとのアライアンスモデ
ルに切り替えています。

例3)ウーバーイーツは、本部、飲食店、ユーザーの中に組み
込まれたサプライチェーンです。受注の仕組み作りと加盟飲食
店の開発は本部が行い、ユーザーへのデリバリー機能を引受け
ます。

◎ビジネスモデル俯瞰図で説明すると、今回の事例は、お客様
に伸びる矢印に対して横向きの矢印を新たに作ることになりま
す。同業者や他業種の事業者、個人もパートナーとして引き込
みます。特に、副業やフリーランスの方々を自社のサプライチ
ェーンに引き込んで活躍してもらうモデルは、時流に適合した
最適解の一つです。

◎ビジネスモデル俯瞰図のお客様の軸を変えるという意味だけ
ではなく、今回ご紹介したモデルは拡張性・汎用性に優れたビ
ジネスの型です。独自性のある商品やサービスを有する事業者
様は、自社のみで展開するのではなく、そのソリューションを
ルール化して、同業者を含む第三者に対して提供することもで
きます。自社の有する独自性は、同業者にとっては極めて有益
な個性であり、同業者からのニーズも大きいはずです。一方、
ノウハウやスキルの保護のためには、契約方法や提供方法の工
夫が必要です。

…次回につづく