事業の成長と資金調達は密接な関係にあります。特に、サービ
ス提供に先立って開発コストがかかるIT企業にとって、適切
な資金調達は事業拡大の生命線です。今回は、設立初年度で大
型の追加融資に成功したベンチャー企業の事例をご紹介します。

T社のS社長が当事務所に相談に来られたのは約10ヶ月前のこ
とです。「AIを活用した画像認識ソフトウェアの開発・販売
事業を立ち上げたい。会社設立と初期資金の調達をサポートし
てほしい」というご相談でした。

自己資金として100万円、家族からの支援金として200万円を
用意されていたため、日本政策金融公庫の創業融資制度を利用
して300万円の融資申請を行いました。審査の結果、申請通り
の300万円が承認され、合計600万円の資金で事業をスタート
しました。

T社のビジネスモデルは、独自開発のAI画像認識ソフトウェ
アを月額課金制で提供するものです。初期の600万円のうち400
万円をソフトウェア開発に投資し、2ヶ月で最小限の機能を持
つプロトタイプを完成させました。その後1ヶ月で数社の顧客
を獲得し、月額50万円の売上を達成。さらに2ヶ月で機能を拡
充し、月額売上は200万円に成長しました。

順調に見える成長でしたが、6ヶ月が経過した頃、S社長は新
たな課題に直面しました。大手企業からの引き合いが増え、サ
ーバー増強や機能拡張が急務となったためです。しかし、開発
費用や人件費の先行投資により、手元資金が枯渇しつつありま
した。このままでは成長の機会を逃してしまうと危機感を感じ
たS社長は、急遽追加融資の相談に来られました。

設立後わずか6ヶ月の企業への融資は、通常のケースでは困難
です。多くの金融機関は「1期目の決算後に再度ご相談くださ
い」と回答するのが一般的です。しかし、当事務所では以下の
対策を講じました。

1.決算書に近い品質の試算表を作成し、当事務所が金融機関
に直接説明を行いました。税理士事務所が責任を持って数字の
信頼性を担保することで、審査のハードルを下げることができ
ました。

2.詳細な資金繰り表を作成し、過去から現在、そして将来の
キャッシュフローを明確に示しました。これにより、追加資金
が成長のための前向きな投資であることを金融機関に理解して
もらえました。

3.事業計画書を精緻化し、大手企業との商談状況や市場の成
長性を具体的に示しました。

結果として、日本政策金融公庫から500万円の追加融資、地元
の信用金庫から保証協会付きで700万円の新規融資を獲得し、
合計1,200万円の資金調達に成功しました。この資金により、
T社は大規模な開発投資と営業強化を行い、半年後には月商
800万円を達成する見込みです。

この事例が示すように、企業と金融機関の間に税理士事務所が
入り、企業の信用を補完する新しい仕組みを活用することで、
ベンチャー企業の資金調達力は大きく向上します。また、金融
機関にとっても、成長性の高い企業への融資機会が増えるとい
うメリットがあります。

当事務所は銀行融資プランナー協会正会員として、このような
新しい資金調達の仕組みづくりを推進しています。急成長する
ベンチャー企業の皆様、資金調達でお悩みの際は、ぜひ当事務
所にご相談ください。皆様の事業の飛躍的な成長をサポートい
たします。

経営にウルトラCは滅多にありません。
一つ一つ理詰めで考え抜く、一つ一つ確実に行動に移す、都度
調整しながら継続して積み上げていく…この行為を粛々と続け
ていくことこそ王道です。

・理詰めで考える知力と、これを継続する知的胆力が必要です。
・確実に行動し続ける行動力と、これを継続する肉体的胆力が
必要です。
・中々上手く行かないことに耐える耐力、これを継続する精神
的胆力が必要です。

論理だけでは説ききれない世の中の事象を、それでも論理に置
き換えて整理して考えていくしか方法はありません。論理を放
棄して感覚や感情に依存した経営は、総じて上手く行かないよ
うに思います。また、考えるという意味は、「ある瞬間に考え
る」ではなく、「一定期間継続して、繰り返し・繰り返し…、
自分の頭と戦いながら思考を巡らす」と理解すべきです。
これが知的胆力です。

実を結ぶためには一定期間の積み上げが必要です。成果の出な
い努力を相当期間積み上げることでのみ、果樹を手にすること
ができるように思います。この「成果を伴わない努力」、この
存在を肝に銘じておくべきです。今日手にできた果実は、昨日
の努力の成果でも、前月の努力の成果でもありません。多分、
半年から数年前の努力の成果、いや、3年前の努力の成果と考
えるべきでしょう。成果を出すためには時間を要します。「成
果を伴わない努力」を惜しんで、次から次へと努力の対象を切
り替える経営者も、総じて上手く行きません。継続こそ成功の
キーワードです。
これが肉体的胆力です。

狙ったターゲットが正しい場合でも、最初から上手く行くケー
スは稀です。焦点が合っていないからです。この焦点を合わせ
る行為を「作り込み」と言います。おいしい商品を開発できて
も、提供するサイズ・価格・デザイン・販売方法・販売チャネ
ル・広告方法等々、それらの多くがジャストマッチした時にの
み、その商品はブレイクします。これらを合わせる行為を「作
り込み」と言います。開発に手間暇をかけても、「作り込み」
に掛ける手間暇を惜しんでいる会社様が多いように思います。
いきなりヒットすることは稀です。
あきらめずにヒットする商品に仕上げるための「作り込み」を
継続する胆力、これが精神的胆力です。

経営とは、江戸時代に中国の奥地の○○を目指す長い旅のよう
なものです。存在自体が不確実なゴールに向かって、一歩ずつ
歩みを続けて行かねばなりません。
日本から中国の奥地を目指すなら、まずは大陸に渡る手立てを
考えます。渡れる航路を求めて港に向かいます。そのためには、
港に向かうための旅費が必要になります。大陸に渡っても、続
く道の存在は不確実です。それでも渡ります。
ゴールまでの旅費の算段が読めなくても、それでも一歩ずつ前
に進みます。これらの過程では、様々なトラブルにも見舞われ
ることでしょう。トラブルをできるだけ避けながら、遭遇した
ら解決しながら、不確実なゴールに向かって歩み続けます。こ
の旅路にゴールは存在しません。

経営とは、ゴールではなく、そのプロセスそのものであるよう
に思います。知的胆力と肉体的胆力、そして精神的胆力を鍛え
ながら、経営という長旅に共に挑んでいきましょう。楽しみな
がら。

※当事務所は貴社の羅針盤を勤めます。

貴社が融資を申し込んだ後、金融機関の内部でどのようなプロ
セスを通じて審査が行われているかご存じでしょうか。審査の
プロセスを知ることで、融資獲得のコツが分かります。

金融機関の担当者は、融資の申し込みを受けたら稟議書を作成
します。稟議書は、担当者→代理→次長→副部長→部長(支店
長)等、少なくとも4~5名の目を通って決裁となるのが一般
的です。

決裁者は、支店の権限内であれば支店で決裁となりますが、支
店の権限範囲外であれば本部の審査役が決裁者となります。3
百万円の融資案件でも、30億円の案件でも同じ稟議書を作成
し、同じ様に回覧します。

担当者が稟議書を作成するにあたって最も必要なのは情報です。
融資の受け方を熟知している企業は、試算表、事業計画書、返
済計画書、資金繰り計画書、担保一覧などの豊富な情報を担当
者に提供します。目の前の担当者の先にいる数名の上司を納得
させないと融資がおりないことを知っているからです。

一方、とある企業は融資申し込みに際して試算表の提出すら嫌
がります。金融機関の担当者は情報不足により内容の薄い稟議
書しか作成できません。当然ながら数名の上司を納得させるこ
とも難しくなります。

金融機関の担当者は貴社のプレゼン担当でもあります。上司に
向けて最高のプレゼンをしてもらえなければ、決裁を勝ち取る
ことはできません。決して情報の提供を渋らず、上司と渡り合
える武器を提供してあげてください。

もし、どのような情報を提供すればよいか分からない。情報を
まとめるのが苦手等という場合は、是非、弊所までご相談くだ
さい。融資申込資料の作成をお手伝いさせていただきます。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

『経済における革新は、新しい欲望がまず消費者の間に自発的
に現われ、その圧力によって生産機構の方向が変えられるとい
うふうに行われるのではなく…(略)…、むしろ新しい欲望が
生産の側から教え込まれ、したがってイニシアティブは生産の
側にあるというふうにおこなわれるのが常である』
(ヨーゼフ・ シュムペーター )

■成熟社会における商品やサービスの開発について、大きなヒ
ントを、シュンペーターは提供してくれています。

・過去の経験や知識を探るだけでは、なかなか良い商品・サー
ビスは生み出せません。
・もう一つ、大局的な創造力・提案力が必要です。

○日常的に高頻度で消費する食品や雑貨、様々なサービスを、
消費者の近隣に高密度で配置したコンビニチェーン、この業態
を消費者は自ら望んだでしょうか?これらを利用してその恩恵
を知り、結果としてなくてはならないそれになったはずです。

○街中のいたるところに出来上がったコインパーキング場、自
動車を足として利用する人たちにとってはなくてはならない存
在です。小規模な遊休地を活用して、時間単位で課金する仕組
みを開発できたからこれらが成立しています。

○スマートフォンを手元に置いているはずです。この様な機能
を備えたIT端末を消費者は自ら望んだでしょうか?こんなこ
とができるから、便利で楽しいから、…ぜひ使ってください、
といわれて使い始めたら手放せなくなったはずです。

■シュンペーターは、これらの新しい何かを生み出すために
『5つの新結合』を提唱しています。

1.新しい財貨(製品)
・消費者がまだ知らない製品、または品質など。
2.新しい生産方式
・新しい生産方式や取扱い方法など。
フランチャイズ方式なども含まれる。
3.新しい販路の開拓
・従来の販売先ではない先など。
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
・原料や半製品の新しい使い方など。
5.新しい組織の実現
・古い企業ではなく、新しい企業の出現など。

シュンペーターは、これらの新結合(イノベーション)を起こ
す経営者のことを企業家(起業家)と呼んでいます。また、企
業家であることと、事業を単に運営することとは別の行為であ
ると区別しています。

■シュンペーターは、変革を妨げる三つのハードルとして以下
を挙げています。

1.経験よりも洞察を必要とするが、経験に頼りがちであること。
2.実証されていない新しいことを始める難しさ。
3.新しいことを始めることで受ける、社会からの抵抗と批判。

シュンペーターは、新結合を狙う企業家は、(当初は)潮の流
れに逆らって泳ぐようなものだ、とも述べています。

■シュンペーターが提唱するイノベーションとは…

1.新たな欲望を生む魅力を消費者に提示する。
2.5つの新結合をヒントにする。
3.企業家であり続ける。

今から事業を立ち上げる経営者だけでなく、今隆々と経営を続
けている経営者にも、イノベーションは必要です。継続してイ
ノベーションを続けて行かなければ、いつかは衰退の憂き目に
甘んじるからです。

『社会の上層はいわばホテルのようなものであって、いつも人
々で一杯ではあるが、いつも違った人々で一杯なのである。こ
の人々というのは、われわれ多くのものが認めようとするより
もはるかに著しい程度で下から上がってきた人々である。』
(ヨーゼフ・ シュムペーター)

引用図書:「古代から現代まで2時間で学ぶ戦略の教室」
(ダイヤモンド社、鈴木博毅氏著)

複数部門を経営する企業や、複数のアイテムを取り扱う企業に
とって、資金や人員等の経営資源をどこに配分するかは、経営
者にとって最も重要な判断の一つです。この判断を助けるツー
ルが「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)
分析」です。

PPM分析とは、各事業や商品を「花形」「金のなる木」「問
題児」「負け犬」の4つに分類し、経営資源の最適な配分を検
討するためのツールです。

元々は、大企業向けのフレームワークとして開発されましたが、
中小企業でも活用できる部分があります。本コラムでは、中小
企業におけるPPM分析の具体的な手順を紹介します。

PPM分析を中小企業で実施する具体的な手順は以下の通りで
す:

1.データの収集
・各部門の売上高や利益率などの財務データを集める
・市場規模や成長率に関する業界データを調査する
※業界団体の統計や政府の経済指標などを参考に、市場規模を
推定します。
・主要競合他社の情報を収集する

2.市場成長率の算出
・市場成長率 = (本年度の市場規模 / 前年度の市場規模)ー1
・各部門が属する市場の成長率を計算する

3.相対的市場シェアの算出
・相対的市場シェア = 自社シェア / 最大競合他社シェア
・各部門のシェアを最大手競合と比較して算出する

4.PPMマトリクスの作成
・縦軸に市場成長率、横軸に相対的市場シェアをとったグラフ
を作成
・各部門を該当する象限(花形・金のなる木・問題児・負け犬)
に配置

5.分析と戦略立案
・各部門の位置づけを確認し、今後の方向性を検討
・経営資源の配分や重点施策を決定

6.定期的な見直し
・半年や1年ごとに分析を更新し、変化を把握

中小企業の場合、厳密な数値にこだわりすぎず、おおよその位
置づけを把握することが重要です。また、PPM分析だけでな
く、自社の強みや顧客との関係性なども加味して総合的に判断
することをおすすめします。

PPM分析を活用して経営戦略を立てたい方、融資資金の効果
的な使い方を相談したい方は、ぜひ当事務所にお問い合わせく
ださい。

■多くの偉人が、経営者に必要な資質の一つに脳の持久力=
『胆力』を挙げています。『胆力』とは何か?考察してみまし
ょう。

・新しい事業の構想を練る。
・高付加価値の商品やサービスを開発する。
・新しい販売方法を考える。
・効率的な業務の運営方法を考える。
・有事に対応する。

何かを考えるという行為は、大きな力を必要とします。なかな
か思いつかないことを頭の中から絞り出す、小さなひらめきに
論理的な積み上げや検証を繰り返す、来る日も来る日も、そし
て行き詰っては元に戻り、そして前進する…相応の何かを創造
しようとすれば、わからないことを考え続ける力が必要です。
このプロセスに耐え得る力を『胆力』と定義すればわかり易い
はずです。

「知力は論理を要求する。しかし、論理的に考えるからといっ
て、『最後の結論は論理的には不明確です』だけでは行動はと
れない。わからないことはわからないなりに認めて、しかし一
定の方向が正しいであろうと自分なりに納得する結論に至る論
理を構築できるための知力。それが、行動のバイタリティーを
生み出すのに、もっとも重要なのである。では、知力を生み出
す知のエネルギーとは何だろうか。それは、わからないなりに
考え抜くための『考える』プロセスを耐えるエネルギーであり、
そのプロセスでの論理の積み上をきちんとできる脳と心のエネ
ルギーである。」
(「よき経営者の姿」日本経済新聞社、伊丹敬之氏著より引用)

上記は、もっともわかりやすく『胆力』を解説しています。
※本誌は名著です。ご購読をお勧めします。

■よく考える…この意味をよく考えてください。

企画やアイデアは偶然思いつくようなものではないはずです。
自分の頭に考えさせて、思いつかせるものです。漠然と求める
ものがあって、求めるもの自体も明瞭でない状況から、雲をつ
かむようにアイデアのかけらを寄せ集める、寄せ集めてみても
形にならない、再度バラス。また、寄せ集めてみる、少し形が
見えてくる、使い物にならないので一部を残してバラス。何か
が足りないので、仮説を立てて外部からも情報を集める。時に
何千回・何万回も繰り返しながら創り上げる…これが企画やア
イデアの正体です。この過程で、脳細胞が何度も音を立てて破
裂するぐらいの勢いで考えることが必要でしょう。

■よく考えるために必要な能力こそが『胆力』です。

経営者には、胆力が必要です。そして、胆力を持ち続けるため
には、常に高いレベルのエネルギーを維持しておかねばなりま
せん。伊丹敬之氏のお言葉を借りるなら「…わからないなりに
考え抜くための『考える』プロセスを耐えるエネルギーであり、
そのプロセスでの論理の積み上をきちんとできる脳と心のエネ
ルギー…」です。故に、『胆力』は経営者にとって極めて重要
な資質であって、かつ、その欠落は致命傷であると言われるゆ
えんです。

本田技研工業の第二の創業者と言われる名経営者の藤沢武夫氏
は、以下の言葉を残して引退されました。

「三日間くらい、寝不足続きに考えたとしても間違いのない結
論を出せるようでなければ、経営者とはいえない。平常のとき
には問題がないが、経営者の決断場の異常事態発生のとき、年
齢からくる粘りのない体での『判断の間違い』が企業を破滅さ
せた例を多く知っている。…」
(「藤沢武夫の研究」かのう書房、山本祐輔氏著より引用)

『胆力』『よく考える』について、自分自身の生き方と照らし
合わせて再考してください。

中小企業経営者にとって、銀行からの借入は重要な資金調達手
段です。しかし、多くの経営者が金利にこだわりすぎるあまり、
事業成長の機会を逃している可能性があります。本コラムでは、
金利にこだわることのデメリット、WACC(加重平均資本コス
ト)とROIC(投下資本利益率)の観点から、積極的な借入と
投資の重要性について解説します。

■ 金利へのこだわりがもたらすデメリット
金利にこだわりすぎることで、以下のようなデメリットが生じ
る可能性があります。

・銀行との関係悪化:過度な金利交渉は、長期的なパートナー
シップ構築の妨げになります。

・融資機会の喪失:低金利にこだわるあまり、必要な資金調達
の機会を逃す可能性があります。

・成長機会の見逃し:有望な投資案件があっても、金利が高い
という理由で見送ってしまうかもしれません。

■ WACCとROICの重要性
経営者が注目すべきは、単なる借入金利ではなく、WACCと
ROICの関係です。

・WACC(加重平均資本コスト):
企業が資金調達に要する平均的なコスト

・ROIC(投下資本利益率):
投資した資本に対する収益性を示す指標

WACCがROICを下回っている状況では、借入を行って投資する
ことで企業価値を高められる可能性が高くなります。つまり、
資金調達のコストよりも高い収益率が見込める投資機会がある
場合、積極的に借入を行うべきと考えます。

■ 成長志向の経営戦略
中小企業の本来の目的は事業の成長です。金利にこだわるより
も、以下の点に注力することが重要です。

・投資機会の発掘:市場動向を分析し、高いROICが見込める
投資案件を積極的に探索します。

・資金の有効活用:調達した資金を効率的に運用し、事業拡大
や競争力強化につなげます。

・長期的視点:一時的な金利の高低ではなく、中長期的な成長
戦略に基づいた投資判断を行います。

中小企業の経営者は、金利にこだわりすぎることなく、WACC
とROICの関係を重視した財務戦略を採用すべきです。事業成長
の機会を逃さず、積極的な投資を行うことで、企業価値の向上
と持続的な成長を実現できます。同時に、銀行との良好な関係
を構築し、戦略的パートナーシップを通じて、より強固な経営
基盤を築くことが重要です。金利は確かに考慮すべき要素の一
つですが、それ以上に重要なのは、借入を通じていかに事業を
成長させ、競争力を高めていくかという長期的視点です。

中小企業経営者は、百%経営者業務のみを行っているわけでは
ありません。執行部分、大企業流に言うなら執行役員部分や部
長、場合によっては担当者の仕事も担っています。経営者業務
と執行業務を分けて考えておかないと、どうしても執行業務に
追われます。結果として、経営者不在の経営が続くことになり
ます。

■優秀な店舗デザイナーA氏は、数名を連れて起業しました。

○A氏は優秀なデザイナーです。デザインのクオリティーは抜
群です。デザインを24時間考え続けながら、素晴らしいアウ
トプットを行います。クライアントからも高い評価を得ていま
す。執行者として評価するなら満点かもしれません。

○一方、会社の経営は順調ではありません。仕事を安定的に受
注する仕組みがないからです。A氏はいつも、店舗のデザイン
に関する読書に耽っています。A氏は店舗デザインが大好きで、
24時間365日そのことのみを考えています。

○この会社は経営者不在の状況が続いています。A氏は、自分
の好きなデザインに対する執着は強いものの、経営を考えるこ
とが嫌い、苦手なようです。会社としての成長は難しいでしょ
う。本来A氏は、トップデザイナーとしての執行業務と、社長
としての経営者業務を同時に担わねばなりません。今のA氏は、
後者の業務を行っていません。経営が上手くいくはずありませ
ん。

逆に、創業者や小規模企業経営者の場合、自分自身が執行者と
しての役割を果たさず、もっぱら経営のみに専念することも、
物理的に不可能です。最も優秀な執行者、社員としての業務を
担うことも必要です。

■経営管理に長けたB氏は、数名を連れて起業しました。

○B氏は上場企業の取締役まで経験した敏腕ビジネスマンです。
経営管理は大の得意分野です。机上での計画書作りやマネージ
メントは得意ですが、現場で業務を執行するつもりはないよう
です。大きな資本で、人材を確保して始める起業ならこれで良
いのですが、小資本・少人数での起業には向かないタイプです。

○創業者や小規模企業経営者の場合、自らが最も優秀な開発マ
ン・営業マンでなければなりません。この機能を他人に頼るの
は、その資金力に無理があります。経営者としての仕事だけで
なく、執行者としての仕事の比率を高くとる必要があります。

小さな会社と大きな会社では、その仕組みが異なります。小規
模創業から企業規模を拡大できた経営者は、その経営者として
の仕事と、執行者としての仕事の割合を上手にコントロールで
きてきたようです。

■経営者業務と執行業務の業務比率のイメージ…

◆創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=2:8
◆50人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=6:4
◆300人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=9:1
◆1,000人超の人員の時の比率、経営者業務:執行業務=10:0

○創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=0:10の経営
者がいます。A氏です。食ってはいけるかもしれませんが、会
社の成長は望めません。

○創業時の業務比率、経営者業務:執行業務=10:0の経営
者がいます。B氏です。そもそも会社が立ち上がらないはずで
す。(大資本での創業は除く。)

経営者は、会社の置かれている状況やステージによって、その
業務分配比率をバランスよく調整していかねばなりません。こ
のバランス感覚も、経営者にとって必要な資質の一つです。