最近、銀行担当者から「リスケジュールを行うと倒産確率が上
がる」といった意見を聞かれることがありますが、実際はそう
ではありません。むしろ、早めにリスケジュールを行うことで、
企業は将来のキャッシュフローを回復させるための時間的猶予
を得ることができます。

多くの社長様は、「リスケジュールは後ろ向きな話なので相談
しにくい」と感じているようですが、実際にはリスケジュール
は前向きな対応策です。後ろ向きだと考えていると、以下のよ
うな過ちを犯してしまいます。

■ 資金が枯渇する寸前までアクションを起こさない
数か月後には銀行の口座が空になることが分かっているにも関
わらず、リスケジュールは避けたいという安易な気持ちでギリ
ギリまで我慢してしまいます。本当に手元資金が無くなってか
らリスケをするよりも、ある程度の余裕を持ってリスケをする
方が、その後の効果は高くなります。

手元資金に一定の余裕がある段階で金融機関がリスケジュール
に応じてくれるのか?という疑問もあるでしょう。しかし、手
元資金に一切の余裕を持たずに企業経営を行うことはできませ
ん。当然、金融機関も理解していますので、一定の資金を保有
することは認めてくれます。

当事務所が財務部長の代行を務めている工事業のお客様は、年
商3億8,000万円で約2,500万円程度の資金を保有していますが、
継続してリスケジュールをお願いしています。大きな受注を取
った時には材料代や外注費の先払いが発生する可能性がありま
すので、最低でも手元資金が月商の1か月分、3,000万円強にな
るまではリスケジュールの継続をお願いするつもりです。

■ 無理して返済をしようとする
リスケジュールは後ろ向きなので、出来る限りの金額を返済し
たいと考えます。仮に毎月100万円の返済をしていた場合、せ
めて30万円だけでも返済します。といった具合です。会社にと
って、この30万円を返済することに合理的なメリットはありま
せん。30万円を1年間、360万円の資金を返済に充てるよりも、
商品の仕入とか、営業マンの雇用とか、前向きな資金に使う方
が、よほど将来性が高まります。中途半端な金額を返しながら
ズルズルとリスケジュールを継続するより、返済の全てを一旦
止めてしまい、一気に業績回復を狙った方が金融機関にとって
も良いと思います。

繰り返しますが、リスケジュールは「返済を一時的に止めるこ
とで将来のキャッシュフローが回復する。」という前向きな対
応策です。逆に「返済を一時的に止めても将来のキャッシュフ
ローが回復する見込みはない。」という後ろ向きの話であれば、
リスケジュールには応じてもらえません。

当事務所では、リスケジュール後の返済額を0円で経営改善計
画を立案し、金融機関にもご理解いただいた実績が多数ござい
ます。また、当初はリスケジュールの相談で来所されたけれど
も、借り換えで対応してリスケジュールを回避した事例もござ
います。資金面に少しでも不安があれば今すぐご相談ください。
早ければ早い方が良い結果を出せます。

AI(人工知能)はもはや一部の大企業だけの専有物ではあり
ません。現在では中小企業でも手軽に導入・活用できる環境が
整いつつあります。AIは正しく使えば、業務効率化、売上拡
大、人手不足の解消など、様々な課題の解決に直結します。以
下に、AI活用の具体的な利点や導入のポイントをご紹介しま
す。

■1.なぜ中小企業にAIが必要なのか?

●慢性的な人手不足の解消
AIは単純作業を代替でき、人材リソースをより価値ある業務
に振り分けられます。
●経営の「勘と経験」から「データ主導」への転換
売上データや顧客情報をAIが解析し、客観的な経営判断を支
援します。
●競争力強化
同業他社との差別化に繋がり、顧客満足度や生産性の向上が期
待できます。

■2.AIが活躍する具体的な業務領域

●業務の自動化(RPAやAIツール)
経理、受発注、スケジュール管理などの定型業務を自動化。
ミスの削減と業務スピードの向上が実現。
●カスタマーサポートの強化
AIチャットボットにより、24時間対応が可能に。
顧客の満足度と信頼感を高められます。
●販売・需要予測
売上データや天候、季節などをAIが分析し、商品の仕入れや
在庫最適化を支援。
●マーケティング施策の最適化
SNS分析や顧客の行動データから、ターゲット層に合わせた
広告やキャンペーンを提案。

■3.AI導入のメリット

●業務の効率化
少人数でも高い成果を上げられる組織に変革。
●コスト削減
長期的に見ると人件費・教育費の削減にも繋がります。
●人材の活用最適化
単純作業から解放された社員が創造的な業務に注力可能。
●経営の可視化とスピードアップ
分析・レポート機能により、意思決定のスピードが向上。

■4.導入のハードルとその乗り越え方

●初期費用が心配?
無料または低価格で使えるAIサービスも多く存在。まずは小
規模導入から。
●専門知識がない?
ノーコードで使えるAIツールや外部のサポート会社を活用し
ましょう。
●社内のITリテラシーに不安?
社員教育や外部講習を通じて、段階的にスキルを底上げ。
●導入効果が見えにくい?
効果を「見える化」するKPI(指標)を設定し、定期的に振
り返りましょう。

■5.今すぐ始めるための第一歩

●小さな業務(請求書処理、問い合わせ対応など)からAI導
入を始めてみる。
●ITやDXに詳しい外部パートナーに相談する。
●補助金・助成金制度を活用して、費用負担を軽減する。
●社内に「AI推進担当者」を置き、継続的な運用体制を整備
する。

AIは、人の「代わり」ではなく「相棒」です。恐れるのでは
なく、試してみることが大切です。中小企業こそ、機動力を活
かして先行的に活用することで、大きな成果を上げられます。
ぜひ今から、AIを味方にする経営をスタートしましょう。

中小企業の経営者にとって、財務分析は非常に重要なツールで
す。財務分析を通じて、企業の財務状況を把握し、正しい情報
に基づいた決定を下すことができます。このコラムでは、中小
企業の経営者が直面する財務上の課題と、財務分析がどのよう
にして企業の成長を支えるかを説明します。

■ 財務上の課題
多くの中小企業は、資金繰りやコスト管理に苦労しています。
急な支払いが必要になったり、予期せぬコストが発生したりす
ることがあります。そのような中で、経営者はどのようにして
企業を安定的に運営し、成長させることができるでしょうか。

■ 財務分析の重要性
財務分析は、企業の財務状況を明確にし、将来の計画を立てる
ための重要な情報を提供します。まずは、以下の3つの財務諸
表を理解することが重要です。

1.損益計算書:企業の収益や費用、利益を示します。部門別
に管理すれば、どの部門が最も利益を生み出しているか、また
どの部門に改善が必要かを把握できます。

2.貸借対照表:企業の資産、負債、資本を示します。短期的
な資金繰りや長期的な資金調達の計画に役立ちます。

3.キャッシュフロー計算書:企業の現金の流れを示します。
現金がどのように増減しているかを把握し、資金繰りの改善策
を講じることができます。

■ 実践的なアプローチ
1.資金繰りの改善
資金管理が企業の生命線です。財務分析を通じて、現金の流れ
を把握し、予測を立てることで、資金繰りのリスクを軽減でき
ます。具体的には、以下の方法が有効です。

例)
・予算管理:毎月の支出を予算化し、予算内で運営する。
・在庫管理:在庫を最適化し、不要な在庫を削減することで、
現金の流れを改善します。

2.コスト削減と効率化
財務分析により、どの部門でコストがかかっているかを特定し、
無駄を省くことができます。例えば、以下のような改善策があ
ります。

例)
・業務プロセスの最適化:不要な手続きを削減し、業務効率を
向上させる。
・リソースの再配分:利益率が低い部門から、成長が期待され
る部門へリソースを再配分する。

3.リスク管理
財務分析はリスク管理にも役立ちます。財務状況を定期的に確
認することで、潜在的なリスクを早期に発見し、対策を講じる
ことができます。例えば、借入比率が高まっていることをリア
ルタイムで察知できれば、負債のコントロールが可能になりま
す。

財務分析は、中小企業の成長を支える重要なツールです。資金
繰り管理やコスト削減、リスク管理など、具体的なアプローチ
を通じて、経営者は企業の財務状況を把握し、正しい情報に基
づいた決定を下すことができます。財務分析を活用することで、
中小企業は安定的に成長し、将来に向けて強力な基盤を築くこ
とができると考えます。

■1.「部分最適」ではなく「ストーリーとしての競争戦略」
が必要

中小企業の経営では、「売上を伸ばす」「コストを削減する」
といった個別施策に注力しがちです。しかし、それぞれの施策
がバラバラでは、競争優位性を築くことはできません。

一橋ビジネススクールの楠木建教授が著書『ストーリーとして
の競争戦略』で示しておられるように、成功する企業はすべて
の経営施策が「つながり」、一貫したストーリーを持っている
ことが特徴です。

例えば、価格競争に巻き込まれない企業は、単に「良い商品」
を作るだけではなく、顧客に伝わる独自の価値を持っています。
これは「安いから選ばれる」のではなく、「この会社だから選
ばれる」という状況を作ることにほかなりません。

■2.「ストーリー型戦略」を持つ企業の成功事例

●IKEA:「セルフサービス型家具販売」の徹底

IKEAは、安さを追求するだけではなく、以下のような一貫
した戦略を持っています。
・自分で組み立てる前提の家具 → 輸送コスト削減
・巨大店舗でワンストップショッピング → 効率的な在庫管理
・低価格だがデザイン性の高い商品 → ブランドイメージの統一

これにより、「安くておしゃれな家具を、自分で選び、持ち帰
る」という独自のストーリーを確立し、他社が簡単に模倣でき
ない競争力を築きました。

●スターバックス:「体験」を売る戦略

スターバックスは、単にコーヒーを売るのではなく、「第三の
場所(サードプレイス)」としての価値を提供することで成功
しています。
・高級感のある内装とBGM → リラックスできる空間を演出
・パーソナライズされた接客 → 顧客とのつながりを強化
・高価格帯の設定 → 「安さ」ではなく「体験」に価値を持た
せる

もし、価格競争に巻き込まれて「安いコーヒー」を売る方向に
シフトすれば、このストーリーは崩れ、競争力を失うでしょう。

■3.中小企業が実践すべき「ストーリー型競争戦略」

◆1.「価格競争からの脱却」を意識する

多くの中小企業は、競合と差別化するために価格を下げがちで
すが、これは持続的な競争戦略ではありません。むしろ、「な
ぜこの会社なのか?」を明確にすることが重要です。

例:地域密着型の飲食店の場合
「競争に勝つために安売りをする」
「でも高級食材を使って差別化もしたい」
どっちつかずになり、ブランドがぼやける

「地域の常連客を大切にする」というストーリーを明確にして、
価格ではなく、「特別なサービス」や「地元のつながり」を強
みにするべきです。

◆2.「競争しない競争」を目指す

楠木教授は、「競争戦略とは、他社と違う価値を作ること」だ
と述べています。つまり、同じ土俵で戦うのではなく、自社独
自の価値を打ち出すことが必要です。

例:町工場の成功例
「安い下請け業務で仕事を増やす」
「世界で唯一の技術を持つ職人集団としてブランディング」
大手メーカーの下請けではなく、自社ブランド製品を開発

競争が激しい市場で「少しだけ良い」企業を目指すのではなく、
「この会社だからこそ提供できる価値」を追求すべきです。

◆3.すべての施策を「一貫性のあるストーリー」にする

競争優位性を築くには、経営のあらゆる要素が統一されている
必要があります。

例:「高品質な商品」を売る会社の場合
価格設定 → 高品質だからこそ安売りはしない
接客スタイル → 丁寧な説明とアフターサービスを徹底
広告・マーケティング → ターゲット層に適したブランディン
グを行う

単なる「高品質な商品」というだけではなく、それを支えるス
トーリー全体の整合性を確保することが重要です。

■4. 提言:「ストーリーのある経営」で競争力を高めよ

中小企業経営者への提言…
◎競争は「他社より少し良い」ではなく、「独自の価値を作る」
こと
◎部分最適(売上拡大・コスト削減)ではなく、全体の一貫性
を重視する
◎成功企業の真似ではなく、自社独自のストーリーを確立する

価格競争に巻き込まれないためには、「この会社だから選ばれ
る」という独自の価値を持つことが不可欠です。そのために、
自社の経営をストーリーとして捉え、施策の一貫性を確保し、
競争に「勝たない」競争を実現することが求められます。

「安いから選ばれる」のではなく、「この会社だから選ばれる」
会社を目指したいものです。

引用:『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社、一橋
ビジネススクール教授楠木建氏著

中小企業経営者として、自社の資金調達力がどれぐらいあるの
か、正確に把握している人は少ないと思います。実際、以下の
ような疑問を抱いている経営者は多いでしょう。

・当社は融資を受けられるのだろうか?
・融資を受けられない理由は何だろうか?
・最大どれぐらい借りることができるのだろうか?
・どうすれば融資を受けられるようになるのだろうか?
・次はいつごろ融資を受けられるのだろうか?

周囲を見渡しても、これらの質問に具体的な根拠を示して答え
てくれる人は少ないです。最も正確に答えられるのは、金融機
関の決裁担当者ですが、彼らは原則としてこの手の質問には答
えません。結果として、憶測や不確かな情報が広がることがあ
ります。

■ 融資審査の基本的な考え方
実際には、金融機関の決裁担当者は、特定の基本的な考え方に
基づいて与信判断を行っています。個別の事情やタイミングに
よって結果が異なることもありますが、「融資審査の基本とな
る考え方」を知れば、第三者でもある程度質問に答えることが
可能になります。

ただし、残念ながらこの基本的な考え方を親切丁寧に教えてく
れる場所は、金融機関の社内研修に限られます。企業側がこの
知識を持つことは非常に有益です。資金があっての事業計画で
あるにも関わらず、自社の資金調達力に見合わない計画を立て
てしまい、資金難に陥っている企業も少なくありません。

■ 銀行融資プランナーの役割
自社の資金調達力が分かれば、適切な新規設備投資額が分かり
ますし、次のファイナンスのタイミングが分かれば、手元資金
を新規事業にどのようなペースで投資していけば良いかが分か
ります。

このため、当銀行融資プランナー協会では「当社は最大どれぐ
らいの借入が可能ですか?」という質問にお答えできる銀行融
資プランナーの育成及び認定を行っています。銀行融資プラン
ナーは、融資審査の基本的な考え方を習得するため、事例を交
えた数十時間の研究会を受講した方だけが受けられる認定です。
企業側の立場に立って、この分野を体系的・網羅的に学習した
方は少ないと思います。

■ 中小企業経営者様へのご提案
中小企業の財務部長の仕事は銀行対応が大半です。銀行の考え
方を知らない財務部長では役目を務めることはできません。是
非、銀行融資プランナーを活用して、自社の資金調達力を正確
に把握し、適切な事業計画を立てていただければと思います。

銀行融資プランナーは、企業が自社の資金調達力を理解し、適
切な資金計画を立てるための重要な役割を果たします。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

近年、物価の上昇に伴う原材料価格の高騰や、人手不足に起因
する人件費の上昇が企業経営に深刻な影響を及ぼしています。
特に中小企業にとって、価格転嫁を行わずにコスト増を吸収し
続けることは、利益の圧迫につながり、最終的には事業の存続
を危うくする可能性があります。しかし、値上げを実施するこ
とで顧客離れが起こることを懸念し、踏み切れない経営者も少
なくありません。

本稿では、中小企業が値上げを積極的に進めるための具体的な
方法と、実際に成功した事例を3つ紹介しながら、適正な価格
設定の重要性について提言します。

●1.価値を伝えることで顧客の納得を得る
(老舗和菓子店の成功事例)

値上げを行う際に最も重要なのは、「なぜ価格を上げるのか」を
顧客に納得してもらうことです。ただ単に「原材料が高騰した
から」という理由ではなく、自社の商品やサービスの価値をし
っかり伝えることが大切です。

例えば、ある老舗の和菓子店では、原材料の質を落とさずに伝
統の味を守るために価格を10%引き上げました。しかし、単に
値上げを発表するのではなく、店頭やホームページ、SNSを
活用して「厳選した国産素材を使用し続けるための決断」であ
ることを伝えました。さらに、商品の製造工程を公開し、職人
の手仕事の大切さを強調することで、顧客の理解を得ることに
成功しました。その結果、売上の減少を抑えながらも利益率を
改善することができました。

このように、値上げを単なる「コスト増への対応」ではなく、
「価値を維持・向上するための施策」として伝えることで、顧
客の理解を得やすくなります。

●2.小幅な段階的値上げで顧客の抵抗を和らげる
(カフェチェーンの取り組み)

一度に大幅な値上げを行うと、顧客が価格の変化を強く意識し、
利用頻度が下がる可能性があります。そのため、段階的な値上
げを行うことも一つの有効な手段です。

全国展開するあるカフェチェーンでは、原材料価格と人件費の
上昇を受けて、主要メニューのコーヒーを一気に30円値上げす
るのではなく、半年ごとに10円ずつ上げる方法を採用しました。
また、値上げに合わせて「より香り高い豆の使用」や「バリス
タの技術向上」といった付加価値も同時に提供することで、顧
客の満足度を維持しました。

その結果、顧客は値上げに対する抵抗感を持ちにくくなり、売
上の減少を最小限に抑えることができました。このように、段
階的な値上げを採用することで、顧客の心理的負担を和らげる
ことが可能です。

●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める
(町工場のブランディング戦略)

価格競争に巻き込まれないためには、「安さ」ではなく「品質」
や「独自性」で勝負することが重要です。

ある町工場では、従来は低価格を売りにした製品を製造してい
ましたが、大手メーカーとの競争が激化し、利益率が低下して
いました。そこで、単なる安価な製品ではなく、高い精度が求
められる高付加価値製品の開発にシフトしました。同時に、工
場の技術力を前面に押し出したブランディングを行い、「高品
質な日本製」としての価値を訴求しました。結果として、価格
を引き上げても取引先は離れず、むしろ新規顧客が増加しまし
た。

このように、他社との差別化を図り、付加価値を高めることで、
単なる価格競争に巻き込まれずに適正な価格を維持することが
できます。

値上げは、単にコスト増を補填するための手段ではなく、企業
が持続的に成長するための戦略の一環として捉えるべきです。

●1.顧客に対して価値を明確に伝える
●2.小幅な段階的値上げを行い、抵抗を和らげる
●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める

これらの施策を適切に組み合わせることで、売上の減少を最小
限に抑えながら利益を確保し、安定した経営を続けることが可
能になります。中小企業経営者の皆様には、単なる「値上げ」
ではなく、「適正価格の確立」として前向きに取り組んでいた
だきたいと思います。

財務管理の強化には試算表の作成が不可欠ですが、財務管理は
試算表だけでは不十分です。なぜなら、試算表にはキャッシュ
ベースの収支が反映されないという弱点があるためです。

■ 利益管理と資金繰り管理の重要性
企業経営において、赤字であっても即座に倒産するわけではあ
りません。しかし、黒字企業であっても資金が底をつけば倒産
のリスクに直面します。この観点から、利益管理以上に資金繰
り管理が重要であると言えます。

■ 資金繰り表の重要性
資金繰り管理の要となるのが「資金繰り表」です。これは、毎
月の入金額と支出額を項目ごとにまとめた表で、一見単純です
が財務管理に極めて有用です。

多くの経営者の方々は、何らかの形で資金繰り表を作成されて
いるでしょう。しかし、多くの場合、今月や来月といった短期
間の資金繰りしか把握できていないのが実情ではないでしょう
か。

■ 短期的な資金繰り計画の限界
短期的な資金繰り計画しか立てていないと、資金不足に気づく
のが遅れ、十分な対応時間を確保できません。これでは、経営
者として重要な業務を後回しにしてまで資金調達に奔走せざる
を得なくなり、場当たり的な財務活動に陥ってしまいます。

■ 年間の資金繰り計画の重要性
計画的な財務活動を行うために、向こう1年間の「資金繰り計
画」を作成することをお勧めします。これにより、資金の流れ
を予測し、資金調達や設備投資の計画を立てることができます。

確かに、1年先の売上を正確に予測することは困難です。しか
し、過去1年間の「資金繰り実績」も併せて作成することで、
過去の売上動向から将来の傾向を推測することもできます。

■ 財務管理の最終目標
財務管理の最大の目的は「資金を切らさないこと」です。試算
表で利益を管理しつつ自社の資金調達力を高め、同時に資金繰
り計画を立てて計画的に資金調達や設備投資を行うことで、資
金面での不安を解消し、経営に専念できる環境を整えることが
できます。

■1.お客様の声を聴くだけでは不十分な時代へ
「お客様の声を聴くことが重要」とよく言われますが、令和の
時代においてはそれだけでは十分ではありません。現代のお客
様は自分の困りごとをすでに解決できる手段を持っていること
が多く、本当に必要なものを明確に認識していない場合が多い
からです。

例えば、スマートフォンが登場する前、多くの人は「持ち運び
できる高性能なPCが欲しい」と考えていました。しかし、
Appleは「人々はPCではなく、もっと直感的で便利なデバイ
スを求めている」と考え、iPhoneを開発しました。このように、
成功する企業は市場のニーズを先回りし、お客様自身が気づい
ていない価値を提案しているのです。

■2.マーケットイン vs. プロダクトアウト、時代に合うのは
どちらか
従来、多くの企業は「マーケットイン」型の考え方を重視して
きました。つまり、お客様のニーズを調査し、それに応じた商
品やサービスを提供するという手法です。これは一見合理的に
思えますが、問題点もあります。

●マーケットインの課題
お客様の声に頼りすぎると、すでにある製品の改良にとどまり、
大きなイノベーションが生まれません。競合他社も同じように
市場調査を行うため、同質化します。お客様の意見は「今ほし
いもの」に基づいており、「将来必要になるもの」には気づい
ていないことが多いからです。

一方で、「プロダクトアウト」型の考え方は、企業側が先に仮
説を立て、世の中に新しい価値を提案する手法です。Appleや
Teslaのような企業はこの考え方を採用しており、「お客様の声
を聞く」のではなく、「お客様がまだ知らない価値を提示する」
ことで市場を創り出しています。

■3.中小企業こそ「仮説提案型」の経営が必要
「プロダクトアウト」と聞くと、大企業だからできることだと
思われがちですが、むしろ中小企業こそこの考え方を取り入れ
るべきです。なぜなら、大企業と同じ市場調査をして競争して
も勝てる見込みは薄く、独自の強みを活かした提案力が求めら
れるからです。

●成功事例1:町工場の技術を活かした新商品開発
ある中小企業の町工場では、長年にわたり精密加工技術を活か
して大手メーカーの下請けをしていました。しかし、取引先の
コスト削減が進む中、このままでは厳しいと考え、自社ブラン
ドの商品開発を決意しました。そこで、社内の技術を活かして
「極薄のステンレス製コーヒーフィルター」を開発。市場には
まだなかった商品でしたが、「ペーパーフィルター不要」「環
境に優しい」という価値を訴求し、大ヒットしました。このよ
うに、「お客様が求めるもの」ではなく、「自社の技術を活か
せる新しい価値」を提案したことで成功を収めたのです。

●成功事例2:飲食店のメニュー開発における提案型アプロー

ある地方の和食店では、観光客の減少により売上が落ちていま
した。通常であれば「お客様の声を聴いて、人気メニューを増
やす」といった対応をするかもしれません。しかし、この店は
「お客様が気づいていない魅力を提案する」ことに注力しまし
た。具体的には、地元の食材を活かした創作料理を開発し、
「ここでしか食べられない特別な体験」としてSNSで発信。結
果的に、観光客だけでなく地元客のリピーターも増え、売上が
回復しました。

■4.どうやって「仮説提案型」の経営を実践するか
では、実際にどのようにして「仮説提案型」の経営を進めれば
よいのでしょうか? 以下のステップが有効です。

●1.自社の強みを再確認する
まずは、自社が持っている技術・ノウハウ・リソースを棚卸し
し、「何が他社と違うのか」を明確にします。

●2.お客様の未来の課題を考える
現在のニーズではなく、「この先お客様がどんな困りごとを抱
える可能性があるか」を想像します。

●3.小さく試して反応を見る(MVP戦略)
いきなり大きく投資せず、試作品や試験的なサービスを提供し、
反応を確認しながら調整していきます。

●4.ストーリーを持たせて発信する
単なる商品・サービスとしてではなく、「なぜこれを作ったの
か」「どんな価値があるのか」というストーリーを発信するこ
とで、共感を得られやすくなります。

■5.まとめ
お客様の声を聴くことは大切ですが、それだけに依存すると競
争の中で埋もれてしまいます。成功する企業は、マーケットイ
ンではなくプロダクトアウトの発想で、お客様がまだ気づいて
いない価値を提案しています。特に中小企業は、独自の技術や
強みを活かしながら、未来のニーズを予測し、積極的に仮説を
立てて提案する姿勢が求められます。成功事例に学びながら、
自社ならではの新しい価値を創り出すことで、大企業にはない
独自のポジションを築くことができるでしょう。

2025年、中小企業の成長を加速させる新たな取り組み「100億
宣言」が始動しました。この制度は、売上高10億円から100億
円未満の中小企業を対象に、経営者自らが「売上高100億円」
という野心的な目標を掲げ、その実現に向けた具体的な取り組
みを宣言するものです。

宣言企業には、成長加速化補助金や経営強化税制の拡充措置の
活用、経営者ネットワークへの参加、公式ロゴマークの使用権
など、様々な支援が提供されます。5月頃から特設ポータルサ
イトで申請受付が開始される予定で、多くの中小企業の参加が
期待されています。

■ 政府が100億宣言を実施する背景
この取り組みの背景には、日本経済の構造的な課題があります。
政府は、長年のデフレ経済から脱却するためには、中小企業の
成長が鍵を握っていると認識しているようです。

特に、地域経済の活性化と良質な雇用創出が急務となっており、
売上高100億円規模の企業が増えることで、地域経済に大きな
インパクトをもたらし、持続的な経済成長の基盤を強化するこ
とが期待されています。

また、物価高騰や人手不足など、中小企業を取り巻く経営環境
が厳しさを増す中、企業の「稼ぐ力」を強化し、積極的な投資
を促進する必要性も高まっています。

■ 中小企業が目指すべき経営の方向性
100億宣言は、単なる数字の目標ではありません。中小企業に
求められているのは、究極的には労働生産性の向上です。具体
的には、以下のような方向性が重要になると考えます。

1.経営戦略の抜本的見直し:市場ニーズや競争環境を再評価
し、自社の強みを活かした戦略を構築する。

2.積極的な投資と資金調達:成長に必要な設備投資やM&A
を実行するため、金融機関との連携や外部資金の活用を検討す
る。

3.デジタル化とイノベーションの推進:DXを通じた生産性
向上や、新たな付加価値創造に取り組む。

4.人材育成と組織強化:成長を支える人材の確保・育成と、
それに伴う組織体制の整備を行う。

5.地域・社会との共生:地域経済への貢献や社会課題の解決
を通じて、持続可能な成長を目指す。

日本経済の屋台骨である中小企業の飛躍的成長は、地域の活性
化と国全体の経済発展につながります。100億宣言に挑戦して
みてはいかがでしょうか。

新入社員を受け入れる時期が近づいてきました。どのように伝
え、どのように導くかが、彼らの成長に大きな影響を与えます。
彼らにとって、社会人としての第一歩を踏み出すこの期間は、
単なる仕事のスタートではなく、今後のキャリアを左右する大
切な基礎づくりの時間です。特にこの時期に、「一定期間は加
減をせずに働く」ことの重要性をしっかりと伝えていただきた
いと思います。

新入社員は、まだ仕事の進め方が分からず、体力的にも精神的
にも負荷を感じる場面が多いでしょう。しかし、最初から効率
やバランスばかりを考え、「無理をしない働き方」を覚えてし
まうと、成長の機会を逃してしまいます。仕事の基本を身につ
け、実務を通じて経験を積むためには、一定期間、全力で取り
組む姿勢が不可欠です。

■彼らに伝えるべきことは、スポーツと同じで、「バットを振
らなければ野球はうまくならない」という考え方です。どんな
に理論を学んでも、実際に手を動かし、試行錯誤を繰り返さな
ければ、スキルは身につきません。仕事も同様で、成功も失敗
も含めた経験こそが成長につながります。最初のうちは「がむ
しゃら」に取り組むことが、後々の自信や実力につながること
を、指導の中でしっかりと伝えるべきではないでしょうか。

■指導をする上で、もう一つ意識していただきたいのは、「ビ
ジネスを習得するのに王道はない」という点です。最近はSN
Sや書籍などで「効率的な働き方」や「スマートな仕事術」が
多く紹介されていますが、新人のうちは、それらを意識しすぎ
るのは逆効果です。なぜなら、基礎ができていない状態で応用
に走っても、実力はつかないからです。

「とにかくやってみる」「先輩のやり方を真似てみる」「地道
な作業を徹底してこなす」といった経験こそが、ビジネスの本
質を理解するための唯一の方法です。そのため、新入社員には
「効率」よりも「徹底」を意識させるような指導が必要ではな
いでしょうか。

■また、彼らに伝えるべき重要な考え方として、「自分への投
資のために、身銭を切って学ぶ姿勢」があります。会社の研修
や勉強会はもちろん貴重ですが、それだけでは十分とは言えま
せん。本当に成長したいのであれば、自分の時間やお金を使っ
て学ぶことが大切です。

例えば、専門書を買う、資格取得に挑戦する、セミナーに参加
するなど、自ら学ぶ習慣を身につけることが、長期的な成長に
つながります。この際、「会社が費用を負担してくれるなら勉
強する」のではなく、自分自身の将来のために投資する意識を
持たせることが重要です。ここをしっかり伝えなければ、「会
社のために働く」という受け身の姿勢から抜け出せず、成長の
幅が狭まってしまいます。

特に伝えたいのは、「身につけたスキルは会社の財産ではなく、
自分の一生の財産になる」ということです。会社に貢献するた
めにスキルを磨くのではなく、自分自身の市場価値を高めるた
めに努力する。その結果として、会社にも貢献できるという考
え方を持たせることが重要です。

■どれだけ仕事ができるようになっても、社会人としての基本
を疎かにしてはいけません。その中でも、「約束を守ること」
「時間を厳守すること」は最も重要なルールです。

時間を守る、納期を厳守する、報告・連絡・相談を徹底する。
これらの基本を徹底することで、信頼が生まれます。特に若手
のうちは、「仕事ができるかどうか」よりも「信頼できる人間
かどうか」が評価に直結します。小さな約束を守ることが、や
がて大きなチャンスにつながることを、研修の中で繰り返し伝
えてください。

■さらに、「謙虚であること」も大切です。経験が浅い段階で
は、素直に学ぶ姿勢を持つことが何より重要です。自分の考え
を持つことは大切ですが、まずは周囲の意見に耳を傾けること
を意識させてください。どんなに優秀な人でも、謙虚さを忘れ
た瞬間に成長は止まります。

まずは「守」を徹底させる。指導の際に意識してほしい考え方
として、日本の伝統的な学びの姿勢である「守破離(しゅはり)」
があります。これは、「守」:基本を忠実に守る「破」:基本
を応用し、自分なりの工夫を加える「離」:独自のスタイルを
確立するという成長のプロセスです。新入社員には、まず「守」
の段階を徹底させることが重要です。つまり、基本を忠実に学
び、実践し、身につけることに集中する。自己流でやるのでは
なく、先輩や上司のやり方をしっかり吸収する姿勢を持たせて
ください。

貴社の、日本の未来を担ってくれるかもしれない若手人材を、
優しく、厳しく育ててあげてください。我々が若かりし頃にそ
うしてもらったように。