全3回でお届けしてきた「資金繰り改善シリーズ」も、今回が
最終回となります。第1回では資金繰り悪化の根本原因と早期
発見のチェックリスト、第2回では売掛金と在庫のスリム化と
いう具体的な改善策について解説しました。最終回となる今回
は、資金調達の多様な選択肢と、金融機関との賢い付き合い方
について掘り下げていきます。

内部努力による資金繰り改善には限界がある場合もあります。
そんな時に頼りになるのが外部からの資金調達です。一口に資
金調達といっても、その方法は多岐にわたります。

■ 主な資金調達の選択肢

・銀行融資:
中小企業の資金調達の王道とも言えるのが銀行融資です。プロ
パー融資(信用力に基づく融資)と信用保証協会付き融資(信
用保証協会の保証を得ることで融資を受けやすくするもの)が
あります。

・制度融資:
地方自治体や政府系の金融機関が提供する融資制度です。低金
利や保証料の優遇など、中小企業にとって有利な条件で利用で
きる場合があります。

・ビジネスローン:
銀行融資に比べて審査が比較的早く、担保や保証人が不要なケ
ースもありますが、金利は高めに設定されていることが多いで
す。

・補助金・助成金:
国や地方自治体が、特定の政策目標に合致する事業を行う中小
企業に対して資金を援助する制度です。返済義務がないため、
積極的に活用したい制度です。

・投資:
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などから出資を受け
る方法です。事業の成長性や将来性が評価される必要がありま
すが、資金調達だけでなく、経営ノウハウやネットワークの提
供も期待できます。

・手形割引・ファクタリング等:
第2回でも触れましたが、保有している手形や売掛金を金融機
関に買い取ってもらうことで、早期に現金化する方法です。

これらの資金調達手段の中から、自社の状況や資金使途に合わ
せて最適な方法を選択することが重要です。

■ 金融機関との賢い付き合い方
資金調達を円滑に進めるためには、金融機関との良好な関係を
築くことが不可欠です。

・日頃からの情報共有とコミュニケーション:
経営状況や事業計画など、自社の情報を積極的に金融機関に開
示し、良好なコミュニケーションを心がけましょう。

・正確な財務情報の開示:
決算書や試算表など、正確な財務情報をタイムリーに提出する
ことは、金融機関からの信頼を得る上で非常に重要です。

・事業計画や資金計画の明確な説明:
資金調達の目的や必要額、返済計画などを明確かつ論理的に説
明できるように準備しましょう。

・担当者との信頼関係の構築:
金融機関の担当者も人間です。誠実な対応を心がけ、長期的な
視点で信頼関係を構築することが大切です。困ったことがあれ
ば早めに相談することも重要です。

■ 資金調達成功のポイント

・早めの準備と計画的な実行:
資金が必要になる前に、余裕をもって情報収集や準備に取り掛
かりましょう。

・複数の選択肢を検討する:
一つの金融機関や一つの資金調達方法に固執せず、複数の選択
肢を比較検討しましょう。

・専門家のサポートも検討する:
必要に応じて、財務の専門家のアドバイスを受けることも有効
です。

この「資金繰り改善シリーズ」を通じて、資金繰りの重要性、
悪化の原因、具体的な改善策、そして資金調達の選択肢につい
て解説してきました。資金繰りの安定は、中小企業が持続的に
成長していくための重要な基盤となります。

資金繰りに関するお悩みがあれば、是非ご相談ください。

前回号の続きです。

現在、多くの中小企業が人手不足に直面しています。採用が難
しく、人件費も上昇傾向にある中、「少ない人員でもしっかり
と経営がまわる体制」をつくることが、持続的成長の鍵になり
ます。単に「人を減らす」ことが目的ではありません。「少数
精鋭」で高い生産性と効率性を実現するための戦略を、以下に
整理してお伝えします。

■1.業務の棚卸とムダの徹底排除

まず着手すべきは、自社の業務全体の可視化です。全社員の業
務を洗い出し、「本当に必要な仕事か」「もっと簡略化できな
いか」を精査しましょう。たとえば毎日行っている会議、紙の
書類管理、手書き伝票など、慣習的に続けている非効率な作業
は驚くほど多く見つかるはずです。

不要な業務を削減し、手間のかかる仕事をIT化・システム化す
るだけで、業務量は30%50%削減できる例もあります。

■2.デジタルツールの導入による効率化

小規模な組織ほど、デジタルツールの恩恵を大きく受けます。
クラウド会計、オンライン勤怠管理、チャットやタスク管理ツ
ール(SlackやNotionなど)を導入することで、時間と工数の
削減が可能です。

たとえば、勤怠管理と給与計算を連動させることで、経理担当
の月末処理が半減する。顧客管理(CRM)をクラウド化すれば、
営業・事務間のやりとりの手間が減る。こうしたツール導入は、
ITが苦手な企業にこそ、大きな効率化効果をもたらします。

■3.業務の標準化とマニュアル整備

属人化された業務が多い企業は、人が抜けたとたんに混乱しま
す。そこで大切なのが「誰がやっても同じ品質でできる仕組み
=標準化」です。作業手順を簡潔に言語化し、写真や動画つき
のマニュアルを整備しておくことで、新人でもすぐに即戦力に
なります。

これはパートやアルバイトを活用する際にも有効で、人件費を
抑えながら戦力化を図ることが可能になります。

■4.外注・業務委託の活用

「全部自社でやる」という考えは捨てるべきです。経理、採用、
営業事務、Web管理などは、信頼できる外注先やフリーランス
に任せることで、固定人件費を変動費化できます。外注と社内
スタッフの役割分担を明確にし、内製すべき部分と外に出すべ
き部分を見極めることで、限られた人数でも機動的な経営が可
能になります。

たとえば、繁忙期だけ受電業務をコールセンターに任せる、SNS
更新を外部パートナーに任せるなど、コア業務に集中するため
の工夫を取り入れましょう。

■5.「自律型人材」の育成

少人数経営では「指示待ち人材」では回りません。一人ひとり
が自分の役割を理解し、自律的に動ける組織文化が必要です。
そのためには、「目的と全体像を共有する」「裁量を与える」
「失敗を責めない」マネジメントが求められます。

毎週の短い全体ミーティングで情報を共有し、進捗を見える化
することで、チーム内の連携や課題解決のスピードも向上しま
す。

■まとめ

人手が増えれば経営がラクになる時代は終わりました。むしろ
少数精鋭でスリムな経営を実現している企業こそ、利益率が高
く、柔軟で強い会社です。無駄を省き、業務を可視化し、デジ
タルや外注をうまく使いながら、自律的に動く人材と共に、少
人数でも機能する「仕組み経営」を目指してください。

それが、次世代の中小企業経営の理想形ではないでしょうか。

前回のコラムでは、資金繰りが悪化する根本原因と、早期発見
のためのチェックリストをお伝えしました。今回は、具体的な
改善策として、比較的すぐに効果が期待できる「売掛金管理の
徹底」と「在庫のスリム化」について解説します。

1.売掛金管理の徹底:
入金サイクルを早め、確実なキャッシュフローを確保

売掛金は、将来入金される予定のお金とはいえ、回収が遅れれ
ば遅れるほど、手元の資金繰りを圧迫します。以下の対策を講
じることで、入金サイクルを早め、安定したキャッシュフロー
の確保に繋がります。

・取引先の信用調査の徹底
回収不能が発生すると資金繰りに大きな影響が出ます。新規取
引先はもちろん、既存の取引先についても定期的に信用状況を
確認しましょう。必要に応じて与信限度額を設定することも有
効です。

・請求書の発行サイクルの見直し
請求書は、商品やサービスを提供したら速やかに発行すること
が鉄則です。月末締め翌月末払いといった慣習にとらわれず、
早期の発行を検討しましょう。電子請求書の導入も効率化に繋
がります。

・入金状況の定期的な確認と迅速な対応
入金予定日を過ぎても入金がない場合は、速やかに取引先に連
絡を取り、状況を確認しましょう。放置すればするほど、回収
が困難になる可能性があります。

・回収条件の見直し
必要に応じて、前金払いや手付金の導入、支払サイトの短縮な
どを検討しましょう。取引先との交渉は重要ですが、自社の資
金繰りを守るための毅然とした姿勢も必要です。

・ファクタリングの活用
売掛金を早期に現金化する手段として、ファクタリングを検討
するのも一つの方法です。手数料はかかりますが、急な資金需
要に対応できるメリットがあります。

2.在庫のスリム化:
不要な在庫を減らし、キャッシュを有効活用する

過剰な在庫は、保管コストだけでなく、陳腐化のリスクも伴い
ます。以下の対策を通じて、在庫のスリム化を図り、キャッシュ
を有効活用しましょう。

・定期的な棚卸の実施と不良在庫の処分
定期的に棚卸を行い、長期滞留している不良在庫を把握し、思
い切って処分しましょう。不良在庫は、会社の利益を圧迫する
だけでなく、保管スペースも無駄にします。

・発注ルールの見直し
過去の販売実績や今後の需要予測に基づき、適切な発注量を決
定しましょう。安易なまとめ買いは、過剰在庫の原因となりま
す。

・先入れ先出しの徹底
古い在庫から順に出庫する「先入れ先出し」を徹底することで、
陳腐化のリスクを低減できます。

・サプライチェーンの見直し
納入リードタイムの短縮や、サプライヤーとの連携強化により、
必要な時に必要なだけ納品される仕組みを構築することも有効
です。

・ITツールを活用した在庫管理の効率化
在庫管理システムを導入することで、在庫状況をリアルタイム
に把握し、発注ミスや過剰在庫を防ぐことができます。

3.事例紹介:
ある製造業のA社では、請求書の発行を月末締めから週締めに
変更し、入金状況を毎日確認する体制を整えた結果、売掛金の
回収期間を2週間短縮することに成功しました。月商1,000万
円ですので、約300万円のキャッシュを生み出したことになり
ます。また、定期的な棚卸と不良在庫の処分を徹底したB社で
は、在庫量を30%削減し、保管コストと仕入代金の支払額を
大幅に削減することができました。

売掛金管理と在庫管理の見直しは、すぐに効果が現れやすい資
金繰り改善策です。今日からできることを実践し、キャッシュ
フローの改善に繋げていきましょう。

多くの中小企業では、「人が足りない」「人を採らなければ仕
事が回らない」と思い込み、常に採用活動に多くのリソースを
割いています。しかし、その前に考えてください。本当に人を
増やすことが、御社の経営にとって正しい判断でしょうか?

現実には、「人を増やすほど経営が苦しくなる」という悪循環
に陥っている中小企業が少なくありません。その根本的な原因
の一つが、「一人当たりの粗利益額」が低すぎるという問題で
す。

■一人当たり粗利益額1,000万円以下では、十分な報酬を支払
えない
※労働分配率を50%としても、一人当たり人件費は500万円、
支給できる報酬総額は最大で400万円程度です。

企業経営において重要なのは、売上よりも「粗利益額」、そし
てその粗利益を生み出す「人員あたりの生産性」です。目安と
して、一人当たり粗利益額が最低でも1,000万円を下回るよう
であれば、その企業の収益構造には無理が生じます。

たとえば、従業員一人あたり粗利益額が800万円の場合、そこ
から給与、社会保険料、福利厚生費、設備費、間接コストを差
し引くと、会社に残る利益はほとんどありません。結果として、
経営者の報酬もままならず、従業員の給与アップも実現できな
い。これでは誰も幸せになれません。

■人数に頼らず、少数精鋭で経営する発想を

ここで発想を変えてみましょう。「同じ仕事量を、少ない人員
でやり切る」。これが中小企業が生き残るための本質的な経営
戦略です。

人を減らせば、一人あたりの負担は一時的に増えるかもしれま
せんが、同時に人件費全体は軽くなり、残った人により多くの
給与を支払うことができます。つまり、「少人数でしっかり儲
けて、しっかり分配する」構造です。

この考え方を、従業員にも丁寧に伝えることが大切です。「人
数が少なくなった分、効率化の工夫と協力が必要になる。でも、
その分、会社も君たちの給料をきちんと上げていく」というメ
ッセージを明確にするのです。

■生産性向上のために取り組むべき具体策

では、どうすれば一人当たりの生産性を高められるのでしょう
か? 以下のような取り組みが有効です。

●1.業務の見直しと削減
やらなくていい仕事を減らす。非効率な会議、過剰な報告、意
味の薄いルーティンなどを排除する。

●2.デジタルツールの活用
クラウド会計、チャットツール、タスク管理アプリなどを導入
して、情報共有と作業時間を短縮する。

●3.マルチスキル化の推進
1人で複数の役割を担えるよう教育・訓練を行い、チーム全体
の柔軟性を高める。

●4.アウトソーシングの活用
専門性の高い業務や事務作業などは、外注を活用することで内
部リソースを集中させる。

■生産性を高める企業風土を築く

これらの施策を実行するには、「みんなで改善していく」とい
う企業文化が欠かせません。単に上から命じるのではなく、社
員一人ひとりが「自分ごと」として、生産性向上に取り組む意
識を持てるよう、仕組みや評価制度を整えていくことが重要で
す。

たとえば、定期的に業務改善提案を集める制度や、成功した改
善事例を社内で表彰する仕組みなどは、社員の意識と行動を変
える力になります。

■経営者の決断が企業の未来を決める

人件費は、経営資源の中でも最大級のコストです。だからこそ、
「安易に人を増やさない」という判断こそが、企業の持続的成
長につながります。目指すべきは、「一人当たり粗利益額1,000
万円以上」を目標とした、筋肉質で強い会社です。

人を雇い過ぎない、効率化を徹底する、社員にしっかり報いる。
この経営方針を掲げ、実行することこそが、中小企業がこれか
らの時代を勝ち抜くための確かな道なのではないでしょうか。

日々の経営において、常に頭を悩ませるのが「資金繰り」では
ないでしょうか。「黒字倒産」という言葉があるように、たと
え利益が出ていても、手元の現金がショートすれば会社は立ち
行かなくなってしまいます。

この「資金繰り改善シリーズ」では、全3回にわたり、皆様の
会社がより安定した財務状況を築くための具体的なステップを
解説していきます。第1回となる今回は、「なぜ資金繰りは悪
化するのか?」その根本原因を探り、早期に異変を察知するた
めのチェックリストをご紹介します。

資金繰りが悪化する背景には、様々な要因が複雑に絡み合って
います。ここでは、特に中小企業でよく見られる5つの根本原
因を見ていきます。

1.売上減少
最も直接的な原因の一つが、売上の減少です。顧客離れ、市場
の変化、競合の台頭など、外部環境の変化によって売上が伸び
悩むと、入ってくるお金が減少し、資金繰りを圧迫します。

2.売掛金回収の遅延
商品を販売したりサービスを提供したりしても、代金がすぐに
回収できないと、一時的に資金が不足します。取引先の信用不
安はもちろん、自社の請求・回収ルールの不備も、回収遅延の
原因となります。

3.過剰な在庫
売れ残った在庫は、保管コストがかかるだけでなく、現金化さ
れない不良資産となります。見込み違いの発注や、販売戦略の
失敗などが、過剰な在庫を生み出す要因となります。

4.無計画な投資や支出
将来を見据えた投資は重要ですが、無理な設備投資や、効果が
見込めない広告宣伝費などの無計画な支出は、資金繰りを悪化
させる可能性があります。

5.利益率の低下
売上があっても、原価の高騰や価格競争などによって利益率が
低下すると、手元に残るお金が少なくなり、資金繰りが苦しく
なります。

これらの根本原因は、早期に発見し、適切な対策を講じること
で、深刻な事態を避けることができます。そこで、資金繰りの
異変を早期に察知するための簡単なチェックリストをご用意し
ました。以下の項目について、現状を振り返ってみてください。

【資金繰り早期発見チェックリスト】
□ 最近、預金残高が以前に比べて明らかに減少している。
□ 売掛金の回収サイトが以前よりも長くなっている、または回
収できていない売掛金が増えている。
□ 在庫が積み上がっており、保管スペースを圧迫している。
□ 支払い期日が近づくと、資金調達のことで頭がいっぱいにな
る。
□ 試算表や資金繰り表を定期的に確認する習慣がない。
□ 銀行の担当者とのコミュニケーションが最近途絶えている。
□ 経営判断をする際に、どんぶり勘定になっていることが多い。

いかがでしょうか。もし一つでもチェックがついた項目があれ
ば、資金繰りに注意が必要です。特に複数の項目にチェックが
ついた場合は、早急な対策を検討する必要があります。
早めにご相談ください。

中小企業の経営者にとって、後継者育成は非常に重要な課題で
す。特に、親から子へ、あるいは社員から後継者を選ぶ場合、
どのようにして“経営者の器”を育てるかに悩む方も多いのでは
ないでしょうか。

そのような方にぜひお伝えしたいのが、「後継者には、自分で
小さな事業を立ち上げさせ、実際に経営させることが最も効果
的である」という考え方です。なぜなら、経営というのは、理
屈ではなく“実践”の中でしか身につかないからです。

■後継者教育に「小さな事業を任せる」理由

1.背中を見せるだけでは限界がある
経営の本質は、実務と責任の中でしか学べません。理論や観察
では身につかない“判断力”や“責任感”が必要です。

2.実際に事業を立ち上げさせる
小規模の社内ベンチャーやプロジェクトを一任することで、市
場調査から資金管理、採用、販売まで一貫して経験できます。

3.“経営のリアル”を体験できる
数字のプレッシャー、人材管理、取引先との交渉など、日々の
判断に責任を持つことで“本物の経営感覚”が養われます。

4.失敗からこそ学びがある
小さな事業なら失敗しても会社への影響は限定的。むしろ、失
敗から立ち直る力こそが、後継者の本当の成長を促します。

5.親(経営者)は伴走者に徹する
答えを与えるのではなく、考えるヒントを与えることで、自立
心と創造性を育てます。

6.将来の引き継ぎがスムーズに
実務を通して力をつけた後継者なら、自信と覚悟を持って事業
を受け継げます。

ある企業では、若手の後継者候補にECサイト運営や新規サー
ビス立ち上げといった小さな事業を任せた結果、数字への感覚
や部下のマネジメント力が飛躍的に高まりました。その後、本
業にも参画させたときには、周囲も納得するリーダーとして自
然に受け入れられたそうです。

■まとめ

経営は教科書だけでは学べません。だからこそ、「任せて失敗
させる」「責任を持たせて育てる」このシンプルな原則が、も
っとも効果的な後継者教育となるはずです。

あなたの会社の未来を真剣に考えるなら、守られた環境の中で
こそ思い切った経験をさせるべきです。そして、自分の手で数
字を作り、人を動かす経験を通して、本物の経営者としての
「覚悟」と「責任感」を身につけさせてください。

事業拡大の局面では、経営者と金融機関の間に大きな認識の隔
たりが生じます。特に中小企業や飲食店の多店舗展開では、そ
の傾向が顕著です。たとえば、ある飲食店経営者が銀行融資で
2号店を開業し、半年後に好条件の物件を見つけて3号店の融
資を相談したところ、「出店ペースが早すぎる」として断られ
るケースが実際にあります。

経営者にとっては、魅力的な物件との出会いは一期一会であり、
スピード感を持って意思決定することが競争優位の源泉です。
しかし、金融機関は「まずは2号店の安定化を優先すべき」と
慎重な姿勢を崩しません。これは、金融機関が過去の失敗事例
から、着実な成長を重視する傾向を強めているためです。回収
リスクを避けたい金融機関と、成長機会を逃したくない経営者、
両者の間には、事業を進める速度に対する考え方の根本的な違
いがあります。

■ 急成長のリスクと金融機関の論理
急速な事業拡大は、資金繰りの悪化や経営管理の複雑化といっ
たリスクを伴います。金融機関は、安定した実績やキャッシュ
フローを重視し、無理な拡大には融資を渋る傾向があります。
これは、貸し倒れリスクを最小化するための合理的な判断です。

一方で、経営者の多くは「2年に1店舗のペースでは、10店舗
展開するのに20年もかかってしまう」と、成長スピードの遅さ
に焦りを感じるものです。しかし実際には、最初の数年で着実
に実績を積み上げることで金融機関からの信頼が高まり、その
後は融資が受けやすくなります。その結果、出店のペースを後
半で大きく加速できるケースが多く見受けられます。例えば、
設立から10年で10店舗を展開したある経営者の場合、最初の
5年間で3店舗を出店し、次の5年間で一気に7店舗を増やし
ています。このように、序盤でしっかりと信用を築くことで、
後半の成長スピードを上げることが可能になるのです。

では、スピード感を持って成長したい経営者はどうすればよい
のでしょうか。ひとつは、銀行以外の資金調達手段、たとえば
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家など、リスクマネー
を供給する機関を活用することです。ただし、株式上場を目指
すようなビジネスモデルでなければ、こうした選択肢は限られ
ます。

よって、多くの中小企業にとって現実的なのは、金融機関の論
理に合わせた事業計画を立てることです。事業拡大の際は、ま
ずは既存店舗の安定化と実績作りに注力し、金融機関の信頼を
積み上げていくことが重要です。加えて、セーフティネット保
証や自治体の制度融資など、別枠の資金調達のタイミングを活
用し、成長のチャンスを逃さない工夫が求められます。
事業拡大には、経営者の情熱とスピード感が不可欠ですが、金
融機関の論理を無視した計画は実現可能性が低くなります。持
続的な成長を目指すなら、金融機関の視点を理解し、堅実な実
績づくりと計画的な資金調達を組み合わせることが、最終的に
は最短距離での成長につながります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

イノベーションとは技術革新の意味ではありません。
イノベーションとは新・結合(=新しい組み合わせ)を意味し
ます。

経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションとは
「新結合(New Combination)」によって社会に新たな価値
をもたらす行為だと定義しました。これは大企業だけの話では
ありません。むしろ、制約の多い中小企業だからこそ、機動力
を活かした“結合の再構築”が競争優位の鍵になります。

以下では、「5つの新結合」を中小企業の具体事例とともに紹
介し、経営者が自社の成長戦略にどう活かせるかのヒントを紹
介します。

■1.新しい財貨(製品)の導入

事例:株式会社ユーグレナ(ミドリムシ関連製品)

同社は、健康食品や燃料の原料として注目される「ユーグレナ
(和名:ミドリムシ)」の大量培養技術を確立し、食品・化粧
品市場に参入しました。当初、消費者には馴染みのない素材で
したが、「体に良い微細藻類」という価値訴求により、徐々に
市場を創出しました。これはまさに「消費者が知らなかった新
しい財貨の導入」によるイノベーションです。

◎自社にとって「当たり前」の技術や知見が、世の中ではまだ
知られていない価値かもしれません。マニアックな知識や独自
素材こそ、新市場を開拓する鍵です。

■2.新しい生産方式の導入

事例:町工場による3Dプリンタ活用(都内・板金加工業者)

ある金属加工中小企業は、従来の切削中心の加工工程に加え、
3Dプリンタによる試作品製造を導入しました。開発リードタ
イムを大幅に短縮し、デザイン事務所やベンチャー企業からの
受注が急増しました。これにより、従来のBtoB製造業からプ
ロトタイピング支援企業へとポジションを転換しました。

◎「この業界ではこうするもの」という前提を疑いましょう。
設備投資やIT技術の導入は、中小企業こそ柔軟に取り入れら
れます。生産方式の革新は、新たなビジネスモデルへの扉を開
きます。

■3.新しい販路の開拓

事例:地方の和菓子店が越境ECを活用(新潟県・創業100年
の菓子舗)

地方にある老舗和菓子店が、海外向けの越境ECに参入しまし
た。(コロナ禍の)インバウンド需要の消失後も、SNSと連
動した発信で台湾・香港・北米の固定ファンを獲得しました。
国内だけでは維持が難しかったブランドを世界に広げました。

◎販路は「地域」や「業界」の常識に縛られる必要はありませ
ん。オンラインを活用すれば、ニッチな商品にも世界中にファ
ンが生まれます。自社の強みを誰に届けるか、視野を広げるだ
けで売上構造が変わります。

■4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

事例:廃棄野菜を使ったクラフトビール開発(兵庫県の醸造所)

農家が廃棄予定だった規格外野菜を副材料に使用し、ユニーク
なクラフトビールを開発しました。サステナブル志向の若年層
や観光施設に受け入れられ、話題性と環境貢献性の両立を実現
しました。

◎既存の仕入先や材料を見直し、「捨てられていたもの」や
「使われていなかったもの」に着目してください。今ある資源
を別の視点で捉えることで、競合がいない“ブルーオーシャン”
に踏み出せます。

■5.新しい組織の実現

事例:シェアリング人材で形成された経営チーム(福岡県・
ITベンチャー)

正社員雇用にこだわらず、業務委託や副業プロ人材を活用して、
マーケティングや開発部門を構築しています。固定費を抑えつ
つ、高度なスキルを持つ人材で組織を形成しました。フルリモ
ート前提の組織体制は、コロナ禍以降の変化に柔軟に対応して
います。

◎「社員がいないと会社じゃない」という思い込みを捨てまし
ょう。今は“人を雇う”ではなく“人と組む”時代です。経営資源
を外部に求め、柔軟な組織構造を設計することで、規模の壁を
超える力が得られます。

■まとめ:経営者こそ「新結合の担い手」であれ

シュンペーターが語った「企業家」とは、まさに“常識の再結
合”に挑む存在です。中小企業であっても、あるいは中小企業
だからこそ、固定観念を打ち破る柔軟性と実行力が求められま
す。

現状維持はリスクであり、変化こそが成長の源泉です。今日か
ら、あなたの会社の中にある“結合可能な資源”を探し、何かを
組み直すことから始めてみてください。イノベーションは、あ
なたの手の中にすでに眠っているかもしれません。

中小企業の経営者にとって、資金繰りの安定は事業継続の生命
線です。当事務所では一貫して「借りられる時に借りられるだ
け借りておく」ことをファイナンス戦略の基本と推奨していま
す。その理由を、実際の支援事例をもとに改めてご紹介します。

■ A社のケース
A社様とのご縁は、会社設立のサポートから始まりました。設
立後は税務顧問として、さらに財務部長代行として資金管理も
お手伝いしてきました。A社様は、手形割引を活用しながらも、
毎月2,000万円ほどの預金残高を維持。資金繰りに窮すること
なく経営されていましたが、売上の多くをスポット取引に依存
していたため、社長様は常に将来の売上減少に対する不安を抱
えていました。

■ 「今は困っていない」時こそ備えるべき理由
設立間もない企業が急な資金ショートに直面した場合、銀行が
すぐに融資をしてくれるとは限りません。A社様も「今すぐ必
要ではないが、将来のリスクに備えたい」との思いから、既存
の銀行以外にも2行と新たに合計1,500万円の融資取引を開始
しました。

その後、業績は順調に推移し、2期目には売上高4億円を達成。
これを受けて、主要取引銀行から7,000万円の大型融資提案が
ありました。資金使途に明確な予定はなかったものの、金利は
1%未満。年間コストは約50万円(月4万円)という条件でし
た。

「今は必要ない資金」を借りるかどうか、社長様と慎重に検討
した結果、「借りられる時に借りておく」という原則に従い、
融資を受ける決断をしました。

■ 危機は突然やってくる
融資実行から半年後、不良品を出してしまったことが原因で最
大の取引先から突然の取引停止を受け、月2,000万円、3か月
で計6,000万円の売上を失いました。もし手元資金が2,000万
円だけだったら、資金繰りは即座に行き詰まっていたでしょう。
しかし、1億円のキャッシュポジションがあったことで、冷静
に状況を分析し、再開交渉や新規開拓などの対策に十分な時間
を確保できました。結果、3か月後には取引が再開し、事業は
無事に継続できました。

社長様も「余裕資金があったからこそ、慌てずに対応できた」
と振り返っておられます。

■ 借金推奨ではなく自己防衛策
「借りられる時に借りる」というのは、単なる借金の奨励では
ありません。中小企業は資金調達力が弱く、いざという時に銀
行が融資をしてくれるとは限りません。だからこそ、平時にこ
そキャッシュポジションを高めておくことが、経営の安心と事
業継続の保険になります。

高いキャッシュポジションを維持するためには、銀行対応や資
金管理に精通した財務責任者の存在が不可欠です。当事務所で
は、こうした財務戦略の立案・実行を一貫してサポートしてい
ます。資金調達やキャッシュマネジメントに不安を感じている
経営者の皆様、ぜひ一度ご相談ください。

近年、事業環境は急激に変化し、中小企業を取り巻く競争は一
層激しさを増しています。限られた経営資源の中で利益を確保
し、持続的に成長していくためには、自社のビジネス環境を構
造的に分析し、競争優位を築く戦略的視点が不可欠です。

マイケル・ポーターの「5の競争要因(Five Forces)」は、
その判断基準として極めて有効です。以下に、このフレームワ
ークを活用して導き出される中小企業向けの具体的な施策を列
記します。

■1.業界内の競争が激しい場合、差別化と顧客密着で勝つ

中小企業が直面しがちな課題は、同業他社との価格競争です。
たとえば、都市部に乱立する美容院やラーメン店では、価格や
サービスの小さな違いで顧客が流動し、利益率が低下します。
こうした環境下では、「価格競争に巻き込まれない差別化」が
鍵です。

対策は、自社の強みを活かしたブランディングを行い、独自性
を明確にすることが重要です。たとえば、「地域密着型の子ど
も歓迎美容室」「無添加・地元野菜使用のランチ専門店」とい
った明確なコンセプトは、価格以外の価値を提供し、顧客のロ
イヤルティを高めます。また、LINEやアプリでの来店ポイ
ント、誕生日クーポンなどの仕組みを活用し、リピーターの獲
得を強化することで、利益の安定性を高めることができます。

■2.新規参入の脅威が高い場合、参入障壁を構築する

IT・サービス分野では、特に新たなプレイヤーが低コストで
市場に参入しやすく、競争が激化しています。たとえば、クラ
ウド会計ソフト市場ではfreeeやマネーフォワードといっ
たスタートアップが次々と参入し、老舗ソフト会社に大きな影
響を与えました。

このような環境では、「顧客との関係性を資産にする」ことが
有効です。中小企業であれば、導入後の手厚いフォロー、定期
的な相談サービスなどを提供することで、顧客の乗り換えコス
ト(スイッチングコスト)を高め、長期的な関係性を築くこと
ができます。また、自社でしか提供できないノウハウやプロセ
スを体系化し、知的財産や業務マニュアルとして蓄積すること
も、模倣困難性の高いビジネスモデルの構築に繋がります。

■3.代替品の脅威がある場合、体験価値の提供と技術導入

異業種や新技術による代替も大きな脅威です。たとえば、タク
シー業界にとってはUberなどのライドシェア、飲食業では
出前アプリやゴーストレストランが既存のビジネスモデルを揺
さぶっています。

このような場合、中小企業に求められるのは、「機能の提供」
から「体験の提供」への転換です。たとえば、老舗和菓子店が
単に商品を売るのではなく、「季節の和菓子作り体験」や「贈
り物文化を伝える講座」などを提供すれば、ECや大量生産品
では代替できない価値が生まれます。

同時に、新技術を取り入れて自社の競争力を高めることも重要
です。飲食業でのモバイルオーダー導入、小売店でのネット通
販併設などは、代替される前に自ら変化する「自己破壊型イノ
ベーション」として有効です。

■4.買い手(顧客)の交渉力が強い場合、提案力と客層の見
直し

顧客が強い立場にあるBtoB取引では、価格や納期の交渉に
苦慮しがちです。特に大手企業との取引では、値下げや無償対
応を迫られがちです。

このような状況では、「価格で勝負せず、課題解決力で勝負す
る」ことが必要です。たとえば、中小製造業が「納品スピード
の短縮」「現場での直接フィードバック」などを売りにすれば、
大手にない柔軟性が武器になります。また、価格競争を避ける
ために、客層自体を見直すことも有効です。こだわりを重視す
る中小事業者や個人客へのサービス提供にシフトすることで、
利益率の高い経営が可能となります。

■5.売り手(仕入先)の交渉力が強い場合、調達の多様化と
共創

原材料の高騰や供給制約は、中小企業のコスト構造を直撃しま
す。2020年代に顕著だった半導体不足は、家電や自動車業界の
生産にも大きな影響を与えました。

対策としては、「仕入先を複数持つ」「サプライヤーとの関係
性を強化する」ことが有効です。たとえば、飲食店が一社から
の仕入れに依存せず、地元農家や市場との直接取引を組み合わ
せれば、価格交渉力を持ちやすくなります。また、仕入れ先と
共同で商品開発や改善活動を行う「共創関係」を築くことで、
単なるコスト負担先ではなく、パートナーとしての連携が可能
になります。

■まとめ

中小企業が持続的に利益を生み出すためには、目の前の売上だ
けでなく、業界構造そのものを理解し、それに応じたポジショ
ニングを確立することが重要です。マイケル・ポーターの5つ
の競争要因は、そのための強力な分析ツールであり、経営戦略
の出発点です。

今、自社に最も影響を与えている競争要因は何か。それに対し
て、どのような独自の打ち手を講じるか。ぜひこのフレームワ
ークを活用し、競争優位の構築に取り組んでいただきたいと思
います。