多くの中小企業では、「人が足りない」「人を採らなければ仕
事が回らない」と思い込み、常に採用活動に多くのリソースを
割いています。しかし、その前に考えてください。本当に人を
増やすことが、御社の経営にとって正しい判断でしょうか?

現実には、「人を増やすほど経営が苦しくなる」という悪循環
に陥っている中小企業が少なくありません。その根本的な原因
の一つが、「一人当たりの粗利益額」が低すぎるという問題で
す。

■一人当たり粗利益額1,000万円以下では、十分な報酬を支払
えない
※労働分配率を50%としても、一人当たり人件費は500万円、
支給できる報酬総額は最大で400万円程度です。

企業経営において重要なのは、売上よりも「粗利益額」、そし
てその粗利益を生み出す「人員あたりの生産性」です。目安と
して、一人当たり粗利益額が最低でも1,000万円を下回るよう
であれば、その企業の収益構造には無理が生じます。

たとえば、従業員一人あたり粗利益額が800万円の場合、そこ
から給与、社会保険料、福利厚生費、設備費、間接コストを差
し引くと、会社に残る利益はほとんどありません。結果として、
経営者の報酬もままならず、従業員の給与アップも実現できな
い。これでは誰も幸せになれません。

■人数に頼らず、少数精鋭で経営する発想を

ここで発想を変えてみましょう。「同じ仕事量を、少ない人員
でやり切る」。これが中小企業が生き残るための本質的な経営
戦略です。

人を減らせば、一人あたりの負担は一時的に増えるかもしれま
せんが、同時に人件費全体は軽くなり、残った人により多くの
給与を支払うことができます。つまり、「少人数でしっかり儲
けて、しっかり分配する」構造です。

この考え方を、従業員にも丁寧に伝えることが大切です。「人
数が少なくなった分、効率化の工夫と協力が必要になる。でも、
その分、会社も君たちの給料をきちんと上げていく」というメ
ッセージを明確にするのです。

■生産性向上のために取り組むべき具体策

では、どうすれば一人当たりの生産性を高められるのでしょう
か? 以下のような取り組みが有効です。

●1.業務の見直しと削減
やらなくていい仕事を減らす。非効率な会議、過剰な報告、意
味の薄いルーティンなどを排除する。

●2.デジタルツールの活用
クラウド会計、チャットツール、タスク管理アプリなどを導入
して、情報共有と作業時間を短縮する。

●3.マルチスキル化の推進
1人で複数の役割を担えるよう教育・訓練を行い、チーム全体
の柔軟性を高める。

●4.アウトソーシングの活用
専門性の高い業務や事務作業などは、外注を活用することで内
部リソースを集中させる。

■生産性を高める企業風土を築く

これらの施策を実行するには、「みんなで改善していく」とい
う企業文化が欠かせません。単に上から命じるのではなく、社
員一人ひとりが「自分ごと」として、生産性向上に取り組む意
識を持てるよう、仕組みや評価制度を整えていくことが重要で
す。

たとえば、定期的に業務改善提案を集める制度や、成功した改
善事例を社内で表彰する仕組みなどは、社員の意識と行動を変
える力になります。

■経営者の決断が企業の未来を決める

人件費は、経営資源の中でも最大級のコストです。だからこそ、
「安易に人を増やさない」という判断こそが、企業の持続的成
長につながります。目指すべきは、「一人当たり粗利益額1,000
万円以上」を目標とした、筋肉質で強い会社です。

人を雇い過ぎない、効率化を徹底する、社員にしっかり報いる。
この経営方針を掲げ、実行することこそが、中小企業がこれか
らの時代を勝ち抜くための確かな道なのではないでしょうか。

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