中小企業の経営者にとって、法定福利費の増加は避けられない
課題となっています。近年の社会保障制度改革や少子高齢化の
進展に伴い、法定福利費は右肩上がりで上昇を続けており、企
業の財務に大きな影響を与えています。中には税負担よりも重
たいと感じておられる社長様もいらっしゃるのではないでしょ
うか。

■ 適用範囲拡大の動き
厚生労働省は、社会保険の適用範囲を段階的に拡大しています。
2024年10月から、従業員数51人以上の企業にも社会保険の
適用が拡大されました。これにより、より多くのパート・アル
バイト従業員が社会保険の対象となり、社会保険料負担が増加
しています。

■ 負担増加の推移
社会保険料率の推移を見ると、中小企業の法定福利費負担が年
々増加していることが分かります。まず、厚生年金保険料率は
2004年の13.58%から段階的に引き上げられ、2017年以降は
18.30%で固定されています。この約5%の上昇は、企業にとっ
て大きな負担増となっています。

健康保険料率も上昇傾向にあります。2003年3月までは月例給
与の8.5%、賞与の1.4%でしたが、2003年4月以降は総報酬制
に移行し、当初4.2%だった料率は年々上昇しています。さら
に、2025年には約15.92%まで上昇すると推計されており、企
業の負担はさらに重くなることが予想されます。

■ 増加の影響
法定福利費の増加は、中小企業にとって以下のような影響が予
想されます。

1.コストの増加:社会保険料の引き上げにより、企業の資金
負担が年々増加しています。

2.法定外福利厚生費の減少:法定福利費の増加を補うため、
他の福利厚生費が減少することが予想されます。

3.採用競争力の低下:大企業と比較して中小企業の福利厚生
費は低く、法定福利費の増加がこの格差をさらに広げる可能性
があります。

4.利益率の低下:法定福利費の増加は直接的に企業の利益率
を圧迫し、中小企業の財務状況に悪影響を与える可能性があり
ます。

■ 対策
中小企業は、法定福利費の増加に対して以下のような対策を講
じることが重要です。

1.生産性向上:業務の効率化や省力化投資を通じて、人件費
の増加を抑える努力が必要です。

2.人材戦略の見直し:採用や定着率向上のために、限られた
予算内で効果的な福利厚生制度を構築する必要があります。

3.価格転嫁の検討:コスト増加分を適切に価格に反映させる
ことも検討すべきです。

4.政府の支援策の活用:中小企業向けの各種支援制度を積極
的に活用し、負担軽減を図ることが重要です。

5.労働時間や雇用形態の見直し:社会保険の適用基準を考慮
しつつ、効率的な人員配置や業務委託の検討が必要です。

人材の雇用や育成は、中小企業にとって最も大きな投資です。
従来の「人が足りないから採用する」という行動様式を見直し、
人の代わりに機械やAIに投資することや、外注や業務委託を
活用することなど、あらゆる可能性を検討していく必要があり
ます。これにより、法定福利費の増加に伴う負担を軽減し、持
続可能な経営を実現する道が開けると考えます。

新年の計画の指針にしてもらえれば幸いです。

◆1:新しい事業計画を立案する時には、今の事業立地に関す
る検証に時間を割いてください。

事業計画作成の要諦は、事業立地の見直しです。斜陽分野では
なく成長分野への事業立地の変更を検討してください。

○以下、高収益企業研究の第一人者でおられる三品和広教授の
言葉を引用します。

『…事業の根底には立地(誰に何を売るか)があり、その上に
構え(出荷するモノをいかに入手して顧客に届けるか)、製品
(いかに個別製品を魅力的に仕立てるか)、管理(いかに品質・
原価・納期を守るか)が重層構造を成している。…中期経営計
画などで立地や構えに手をつけることなく、製品の刷新や管理
の強化を打ち出している企業は数多くあるが、この次元で動き
だしたところで、高収益への転換に結び付いた事例はほとんど
ない。…』 〔三品和広教授(高収益企業研究の第一人者)〕

◎事業計画を作成することは、事業立地を検証し見直すことで
す。過去の流れをそのまま踏襲することを事業計画と呼び、そ
れを繰り返していると事業の革新は生まれません。何十年も同
じ事業立地にとどまって、ジリ貧に陥るのはこのケースです。
過去の流れに沿った体裁の良い数値計画を事業計画と呼ぶのは
止めましょう。

◆2:事業計画は、過去からの流れをそのまま維持する保守的
な計画でない限り、その予測は難解であって、その多くは計画
通りに進捗しません。

多くのクリエイティブな計画の成功事例は、後に理論武装され
て解説を加えられています。後付けです。保守的な計画でない
限り、事業の正確な予測はできない前提で、事業を執行してく
ださい。クリエイティブな計画を鵜呑みにすることは大変危険
です。

『現実的には、ある程度先を考えておきながら適時対応してい
くことになるだろう。実現された戦略は最初から明確に意図し
たものではなく、行動の一つひとつが集積され、その都度学習
する過程で戦略の一貫性やパターンが形成される。』
※マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院にて1965年
に経営学修士及び1968年に博士を取得された異色の経営学者
と呼ばれるヘンリー・ミンツバーク博士の言葉を引用しました。

◆3:事業計画作成時の注意点!

事業計画は、そのアイデアが斬新で素晴らしいほど予測が難し
い!
事業計画は、起点の認識と終点のイメージ化が重要。プロセス
は都度計りながら進める!
作成した事業計画を鵜呑みにしてはいけない。脱・前のめり!

◆4:事業計画作成の要諦!

事業立地の確認・選定…どんな事業を!
収益モデルの創造(ビジネスの型の確定)…どのような形で!
起点(現状)を認識する!…力相応を知る!
(仮)のゴールのイメージ化…目指すゴールは!
起点からゴールまでの道筋を仮決めする!

上記を踏まえた上で、
全体を包括する整合性の取れた数値計画の立案!
数値計画と資金計画との整合性の確認!
マネージメント体制の整備!
日々修正しながら現実的に対応する!

◆5:事業計画執行時の注意事項(追記)!

コントロールできることを完全にコントロールすること。
頑張ればコントロールできることをできるだけコントロールす
ること。
コントロールできないことには、出来るだけ適合すること。

コントロールできることをコントロールしない、これは放漫経
営です。
頑張ればコントロールできることをコントロールしない、これ
は怠慢経営です。
そして、コントロールできないことまでコントロールしようと
する、これは独りよがり経営です。

自社の明るい未来のために、真の事業計画を作成しましょう。
過去の流れに沿った体裁の良い数値計画を事業計画と呼ぶのは
止めましょう。これは事業計画ではなく、進捗管理計画です。

…次回号に続く

経済産業省関連の補正予算案が11月29日に公開されました。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2024/hosei/pdf/r6_point.pdf

日本経済・地方経済の成長、物価高の克服、国民の安全・安心
の確保を3本柱とする総額4.4兆円規模の包括的な経済対策で
す。中小企業にとって、この予算案は様々な支援を得られる機
会となりますのでご紹介します。

■ 成長と生産性向上への投資
中小企業の持続的な成長と賃上げ実現のため、「中小企業生産
性革命推進事業」に3,400億円が計上されています。この事業
では、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続
化補助金、事業承継・M&A補助金などを通じて、革新的な製
品・サービスの開発、デジタル化、販路開拓、事業承継を支援
します。特に、売上高100億円を目指す成長志向の企業には、
ハード・ソフト両面での支援が用意されています。

■ 賃上げと人材確保の支援
「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資
補助金」には1,400億円が割り当てられ、人手不足対策と持続
的な賃上げの実現を目指しています。また、「事業環境変化対
応型支援事業」(112億円)では、エネルギー価格・物価高騰、
最低賃金引き上げ、インボイス対応等の課題に対し、中小企業
団体等と連携した支援体制が強化されます。

■ 事業承継と取引環境の改善
後継者不在問題に対応するため、「中小企業活性化・事業承継
総合支援事業」(61億円)が設けられています。さらに、「中
小企業取引対策事業」(8.3億円)では、適切な価格転嫁や適
正取引の実現に向けた取り組みが強化されます。

■ エネルギーコスト対策
物価高対策として、「省エネルギー投資促進支援事業費補助金」
(300億円)が用意され、省エネ性能の高い設備への更新を支
援します。また、「中小企業等エネルギー利用最適化推進事業
費」(34億円)では、省エネ診断を受けやすい環境が整備され
ます。

■ デジタル化とイノベーション支援
「デジタル人材育成エコシステム構築事業」(21億円)を活用
し、従業員のデジタルスキル向上を図ることができます。また、
「地域大学のインキュベーション・産学融合拠点の整備事業」
(30億円)を通じて、産学共同研究やスタートアップ創出の機
会が拡大します。

中小企業が、厳しい経営環境を乗り越え、持続的な成長と競争
力強化を実現できるかどうかは、特に、生産性向上、デジタル
化、人材育成、エネルギーコスト削減などの分野に、しっかり
と投資が行えるかどうかが鍵だと考えます。

行き当たりばったりな投資は止めて、補助金等を活用しながら、
計画的な投資を心がけましょう。

人手やリソースが十分に満たされている中小企業は稀有です。
一方、これらの不足分を補う仕組みが整備されてきました。副
業者やフリーランスの増加、フリーランスプラットフォームの
充実などがそれにあたります。中小企業が業務を外注化する際
の長所、短所、および導入時の注意点について十分理解した上
で、積極的な外注化をすすめましょう。

■外注化の長所

1.コスト削減
専門スタッフを社内で雇用するよりも、必要なときだけ外注す
ることで人件費や教育コストを削減できます。オフィススペー
スや設備の維持費も節約できます。

2.専門性の活用
専門知識やスキルを持つ外部業者に依頼することで、高品質な
業務成果を得ることができます。自社で不足している分野のリ
ソースを迅速に補うことが可能です。

3.時間の有効活用
単純作業や付加価値の低い業務を外注化することで、社内リソ
ースをコア業務に集中させることができます。

4.柔軟性の向上
プロジェクトの繁忙期や短期的なタスクにも対応しやすくなり
ます。必要に応じて外注範囲を調整可能です。

■外注化の短所

1.品質のばらつき
外注先によっては期待した品質が得られない場合があります。
管理不足により納期遅延やミスが発生する可能性もあります。
社員同等に管理を徹底しましょう。

2.コントロールの難しさ
外注先との意思疎通が不十分だと、自社の意図や価値観が伝わ
りにくくなる場合があります。業務内容の詳細を正確に管理す
る必要があります。社員同等に管理を徹底しましょう。

3.情報セキュリティリスク
機密情報や顧客データが外部に漏れるリスクがあります。セキ
ュリティ対策が不十分な業者を利用すると問題が発生する可能
性があります。契約書に謳い、社員同等に管理を徹底しましょ
う。

4.コストの予測が難しい場合も
外注費用が追加オプションや仕様変更で予想以上に高くなるこ
とがあります。注意が必要です。

■外注導入時の注意点

1.業務の明確化
外注する業務範囲を明確に定義し、成果物や品質基準を具体的
に設定します。外注化の目的を明確にし、自社のリソースと比
較して最適な業務を選定しましょう。

2.信頼できる業者の選定
過去の実績や評判を調査し、信頼できる外注先を選びます。必
要に応じて複数の業者を比較し、契約条件を慎重に検討しまし
ょう。

3.契約内容の明確化
納期、費用、品質基準、対応範囲などを契約書に明記します。
不測の事態に備えたリスク分担や責任範囲も取り決めましょう。

4.コミュニケーションの確立
定期的なミーティングや進捗報告を取り入れて、双方の意思疎
通を図りましょう。連絡窓口を明確にし、迅速な対応が可能な
体制を整えましょう。

5.セキュリティ対策
NDA(秘密保持契約)を締結し、情報の保護を徹底しましょ
う。業者のセキュリティポリシーやシステムについて事前に確
認しましょう。

6.費用対効果の確認
外注費用が実際のコスト削減や成果物の価値に見合っているか
定期的に評価しましょう。必要に応じて外注内容や範囲を見直
しましょう。

■外注化の成功のポイント

外注化を効果的に進めるには、「信頼関係の構築」と「明確な
業務設計」が鍵です。最初は小規模な業務から試験的に外注化
を始め、経験を積みながら適切な範囲を広げていく方法がおす
すめです。

私は長年、多くの経営者と向き合ってきました。その中で、あ
る共通の課題に直面することがあります。それは、手元にお金
が入った途端、すぐに限界までお金を使ってしまう経営者の姿
です。

日々の資金繰りに苦労しているにもかかわらず、融資金が入っ
たら、仕入や採用を「マックス」で行う。そして数か月後には、
再びお金が底をつく。この悪循環を繰り返す経営者が、実は少
なくありません。

もし、この状況に心当たりがあれば、このコラムを最後までお
読みください。

■ 借入金の本質とは
銀行からの借入金は、一時的に使える資金ではありますが、決
して「自由に使えるお金」ではありません。これは会社の負債
であり、必ず返済しなければならないものです。借入金をすぐ
に使ってしまうことは、会社の財務基盤を危うくする大きなリ
スクとなります。

■ なぜ借入金をすぐに使ってしまうのか
多くの経営者が借入金をすぐに使ってしまう背景には、以下の
ような要因があると考えます。

1.短期的な視点:目先の問題解決や事業拡大に焦点が当たり
すぎている。

2.過度の楽観主義:将来の売上や利益を過大に見積もってい
る。

3.リスク認識の不足:資金不足のリスクを適切に認識できて
いない。

4.財務管理能力の欠如:適切な資金繰り計画を立てられてい
ない。

■ 借入金の適切な管理方法
借入金を効果的に活用し、会社の成長につなげるためには、以
下のような取り組みが重要です。

1.資金繰り計画の策定:
・最低1年間の資金繰り表を作成し、毎月更新する。
・借入金の返済スケジュールを明確にし、計画に組み込む。

2.借入目的の明確化:
・なぜ借入が必要なのか、具体的な使途を明確にする。
・借入金で得られる将来のリターンを慎重に検討する。

3.返済能力の評価:
・現在の収益状況で返済が可能かどうか冷静に判断する。
・返済に必要な利益を確保できる事業計画を立てる。

4.緊急時の備え:
・借入金の一部を緊急時の資金として確保する。
・予期せぬ事態に備え、常に一定の手元資金を維持する。

5.定期的な財務状況の確認:
・毎月のB/S、P/Lをチェックし、計画と実績の差を把握す
る。
・資金繰りの状況を常に把握し、必要に応じて計画を修正する。

■ 長期的視点の重要性
会社経営は長期戦です。目先の問題解決や事業拡大に焦点を当
てすぎると、将来の安定性を損なう可能性があります。借入金
は、将来の成長のための種まきであり、慎重に扱う必要があり
ます。

経営者には、物事を迅速に進めたい、早く成果を出したいとい
う強い意志があります。この姿勢自体は、決して悪いものでは
ありません。むしろ、ビジネスを前進させる原動力となり得る
ものです。

しかし、同時にこの特性は「せっかち」「我慢できない」とい
った負の側面も持ち合わせています。特に資金管理においては、
この性質が致命的な経営リスクとなる可能性があります。

「分かっているけど、自分をコントロールできない」と感じて
いらっしゃる場合は、外部の専門家を活用することも、一つ選
択肢です。客観的な視点と専門的なアドバイスが、より健全な
資金管理の実現につながります。

■ ご案内
弊所では、中長期的な視点に立った適切な資金管理のコンサル
ティングを行っています。単なる助言にとどまらず、実践的な
支援を通じて、財務基盤強化をサポートいたします。ぜひ、ご
活用ください。

新規事業を開始する際には、自社でゼロからビジネスを構築す
る方法と、M&A(合併・買収)を利用して事業を開始する方
法があります。それぞれにメリットとデメリットがあり、これ
らのアプローチを比較検討することで、自社の資源、市場環境、
目標に最も適した戦略を選択する必要があります。
※昨今M&Aを選択する会社様が増えてきました。

■1.自社でゼロからビジネスを構築する方法

◆長所

1.完全なコントロール下に置ける
自社で事業を立ち上げる場合、製品開発からマーケティング戦
略、営業活動に至るまで、全ての決定において自由に選択でき
ます。これにより、企業のビジョンに沿った製品やサービスを
市場に導入することが可能です。

2.コストが節約できる
既存の事業を買収するよりも、ゼロから新規事業を構築する方
が、初期投資を抑えることができる場合があります。特に、リ
ソースを段階的に投入することが可能です。

3.イノベーションの促進
新しいアイデアや技術を市場に導入する自由度が高く、革新的
なソリューションを開発することで市場に新たな動きを生み出
すことができます。

◆短所

1.リスクが大きい
新規事業は、市場の受け入れが未知数であり、成功するまでに
時間とコストがかかることが多いです。また、失敗のリスクも
高くなります。

2.市場への進出時間が長い
製品開発から市場調査、販売チャネルの構築に至るまで、すべ
てを自分たちで行う必要があるため、市場への導入まで時間が
かかります。

3.資源の制約がある
特に中小企業の場合、必要な資金、技術、人材が限られている
ことが多く、これが事業のスケールアップを妨げることがあり
ます。

■2.M&Aを利用して事業を開始する方法

◆長所

1.即時性がある
M&Aにより、既存の事業を買収することで、製品やサービス
を直ちに市場に提供することができます。これにより、市場進
出の時間を大幅に短縮することが可能です。

2.既存の顧客基盤とリソースを活用できる
買収した事業には、既に確立された顧客基盤、サプライチェー
ン、人材が含まれていることが多いため、これらを活用して迅
速に事業を展開することができます。

3.リスクが低減できる
既に市場での実績がある事業を買収するため、新規事業をゼロ
から立ち上げるよりもリスクが低い場合があります。

◆短所

1.高額な初期投資を要する
M&Aは高額な買収コストを伴うため、大きな初期投資が必要
になります。また、適切な買収対象を見つけるための費用もか
かります。

2.統合に課題がある
異なる企業文化の融合、システムの統合、人員の調整など、買
収後の統合作業には多大な労力とコストがかかります。

3.隠れた問題が存在する可能性がある
買収する事業には表面上見えない問題が潜んでいることがあり、
これが後に大きなコストを発生させる原因となることがありま
す。

■結論

自社で新規事業をゼロから立ち上げる方法とM&Aを用いる方
法は、それぞれにメリットとデメリットがあります。どちらの
アプローチを選択するかは、企業の戦略、資源の可用性、市場
の動向、リスク許容度によって異なります。経営者はこれらの
要因を総合的に考慮し、企業の長期的な目標と合致する最適な
選択をする必要があります。

企業には導入期、成長期、成熟期、衰退期というライフサイク
ルがあります。各段階に応じた適切な借入戦略を立てることが、
健全な経営につながります。飲食店を例に、ライフサイクルご
との借入の考え方を見ていきましょう。

■ 導入期:成長の土台をつくる借入
導入期の借入は、将来の成長に向けた投資です。例えば、500
万円の自己資金だけでなく、1,000万円の借入を加えて1,500
万円で店舗をオープンすれば、より大きな成長が期待できます。
ただし、借入額に見合う収益を上げられるかどうかが重要です。
5~7年後の目標規模を明確にイメージし、それに見合った借
入額を設定しましょう。1,000万円を7年で返済するなら、7
年以内に1,000万円以上の剰余金を生み出せる成長曲線が必要
です。

■ 成長期:拡大を支える借入
成長期には、事業拡大に伴う運転資金需要が高まります。飲食
業以外の業種では、売上債権や在庫など、資産の増加に伴い借
入も増加します。成長に応じて増加する運転資金の借入は、比
較的リスクの少ない借入です。積極的に活用しましょう。
一方、2店舗目の出店など、新たな設備投資のための借入は慎
重に検討しましょう。導入期の借入が順調に返済できているこ
とが前提です。返済が滞っている場合、予定通りの成長が実現
できていない可能性があります。

■ 成熟期:借入の見直しと返済
成熟期は利益を享受する時期であり、新たな借入需要は通常あ
りません。この時期に資金繰りが厳しい場合、成長曲線が予定
通りではない可能性があります。
成長の踊り場なのか、衰退期に向かう兆候なのか、慎重に見極
める必要があります。必要に応じて、リスケジュールなどの対
応を検討しましょう。

■ 衰退期:慎重な判断が必要な借入
衰退期には、事業規模の縮小に伴い借入も減らしていくのが基
本です。ただし、店舗のリニューアルや商品改良により第2の
成長を目指す場合は、新たな借入を検討することもあります。
しかし、衰退期の追加投資は創業時よりもリスクが高いとされ
ます。慎重な判断が必要で、引き際を見誤ると最後に大きな借
金を抱えてしまう可能性もあります。

企業にはライフサイクルがあり、山を登った後には必ず下り坂
があることを念頭に置く必要があります。自社の現在の位置と
目指す成長曲線を常に意識し、それに合わせた借入戦略を立て
ることが重要です。

適切な借入は企業の成長を後押ししますが、過剰な借入は経営
を圧迫します。ライフサイクルの各段階で、借入の必要性と返
済能力を冷静に判断し、健全な財務体質を維持しながら成長を
目指しましょう。

ダイナミックプライシング(動的価格設定)は、需要と供給に
基づいて価格をリアルタイムで変動させる価格戦略です。ホテ
ルの予約サイトで、日々変動する価格を見ても違和感を持つ方
は少ないでしょう。ツアー旅行の出発日毎の変動料金について
も同様です。繁閑の差の大きい事業体には有効な戦略です。

■ダイナミックプライシングに関するいくつかの業界での実践
例を紹介します。

◆1.航空業界
航空業界では、需要の変動に基づいて航空券の価格がリアルタ
イムで変動します。例えば、休暇シーズンや連休前には、需要
が高まるため価格が上がります。一方、需要が低い時期や日に
は、価格が下がります。これにより、航空会社は利益を最大化
しつつ、座席の空きを最小限に抑えています。

◆2.ホテル業界
ホテル業界でも同様に、需要に応じて宿泊料金が変動します。
大きなイベントが開催される地域のホテルでは、イベント期間
中に料金が上がることが一般的です。また、オフシーズンには
割引料金を設定して客室の稼働率を保つ戦略が取られます。

◆3.エンターテイメント業界(映画館やイベント)
映画館では、公開初日や週末にはチケット価格が高くなること
がありますが、平日の昼間などのオフピークタイムには割引価
格で提供されることがあります。また、コンサートやスポーツ
イベントなどでは、人気が高まるにつれてチケット価格が上昇
することが一般的です。

◆4.小売業界
小売業界では、特にオンラインショッピングにおいてダイナミ
ックプライシングが広く利用されています。需要の変動や競合
他社の価格、在庫状況に基づいて、商品の価格が頻繁に調整さ
れます。例えば、Amazonは数分ごとに価格を更新することで
知られています。

◆5.交通業界(ライドシェア)
UberやLyftなどのライドシェアサービスでは、「サージプライ
シング」と呼ばれる手法が用いられます。これは、需要が供給
を上回る時間帯や地域で料金が自動的に上がるシステムです。
例えば、雨が降っている時やイベント終了後などに需要が高ま
ると、料金が増加します。

これらの事例からもわかるように、ダイナミックプライシング
はさまざまな業界で異なる形で利用されており、それぞれのビ
ジネスモデルや市場環境に応じた戦略が展開されています。ダ
イナミックプライシングは有効な戦略ですが、その導入と運用
には慎重な計画と適切なリソースが必要です。中小企業では、
これらの要素をバランス良く考慮することが成功の鍵となりま
す。

■中小企業が導入する際のメリット、デメリット、そして注意
点を以下にまとめます。

◆メリット
1.収益最大化
需要が高い時に価格を上げることで、利益を最大限に引き出す
ことが可能です。

2.在庫管理の最適化
低需要時に価格を下げることで、在庫を効率的に管理し、売上
を安定させることができます。

3.市場競争力の向上
市場の価格変動に素早く対応することが可能で、競争上の優位
性を保つことができます。

◆デメリット
1.顧客の不満
価格が頻繁に変動すると、顧客が混乱したり不満を持ったりす
ることがあります。特に常連客からの信頼を損ねるリスクがあ
ります。

2.複雑な価格設定システムの必要性
効果的なダイナミックプライシングを行うためには、高度なデ
ータ分析と柔軟な価格設定システムが必要です。

3.市場の不安定化
競争が激しい市場では、価格戦争を引き起こすことがあり、結
果として業界全体の利益が減少する可能性があります。

◎自社の経営に取り込めないか?ご検討ください。

中小企業の事業承継において、退職金支給による株価引き下げ
は一般的な手法ですが、財務面での課題を生む可能性がありま
す。直近の事例を元に解説致します。

先日、ある企業から資金調達の相談を受けました。約1年前に
義理の父から会社を引き継いだものの、お金を借りることがで
きずに困っているということです。

会社の財務状況を見てみると、借金が多く、自己資本がマイナ
スになっていました。これでは銀行もお金を貸しにくい状況で
す。なぜこうなったのか調べてみると、前の2年間で合計
5,000万円の退職金が支払われていました。そこにコロナ
の影響で業績が悪化し、今の厳しい状況になったようです。

話を聞くと、前社長は退職金を欲しがったわけではありません
が、会社の株を引き継ぐために株価を下げる必要があり、あえ
て退職金を払い赤字を出したそうです。

会社を子どもや従業員に引き継ぐ際、社長を変えるのは比較的
簡単です。しかし、株主が変わらなければ、新社長は「雇われ
社長」のままです。本当の意味で事業承継を完了させるには、
株式も一緒に引き継ぐ必要があります。

ところが、株式には決まった価値があるため、簡単には譲れま
せん。この会社の場合、株式の価値は元々5,000万円ほど
あったそうです。新社長が個人的に5,000万円で株を買う
か、贈与を受ければ良かったのですが、税金を払いたくなかっ
たため、税理士さんと相談し、株価をゼロにして無償で譲る方
法を選びました。

確かに、この方法で税金は最小限に抑えられました。しかし、
新社長は借金もできない弱った会社を引き継ぐことになったの
です。

株価を下げて後継者に株を譲る方法は、中小企業の事業承継で
よく使われます。しかし、株価を下げるということは、会社の
価値そのものを下げることになります。当然、銀行から見ても
魅力的ではなくなります。

中小企業にとって、銀行との関係はとても大切です。事業承継
後も銀行と良い関係を続けることが会社にとって最も重要だと
考えるなら、多少の税金を払ってでも会社の価値は下げない、
という考え方も必要かもしれません。

事業承継を考える際は、税金のことだけでなく、会社の財務状
況にも目を向けることが大切です。将来の成長のために、どち
らを優先すべきか、よく検討しましょう。

社長は日々多くの判断をくだしています。
過去の経営判断の集積が現状であり、これからの判断の結果が
未来の経営成績に反映されます。判断の精度が原因、経営成績
が結果、タイムラグを経て明確な因果関係が生まれます。

社長は、何を基準に経営判断を行っているのでしょうか?
理詰めで考えて判断する以外に方法はありません。常に自身の
頭の中で考えを突き詰めて、論理に沿って判断すべきです。そ
れ以外に方法が見当たりません。

絶対にやってはいけないことは、曖昧な形で伝わってくる、無
責任な世間の間違え常識を鵜呑みにすることです。

曖昧な形で伝わってくる、無責任な世間の間違え常識とは…

◎間違え常識1:収益性の良し悪しは、マネージメントやマー
ケティングで決まる。
⇒違います。その前に事業立地・ビジネスモデルの良し悪しが
重要です。儲けるためには儲かる事業をやるべきです。

◎間違え常識2:マーケットインこそすべてだ。
⇒違います。プロダクトアウトこそ重要です。

◎間違え常識3:経営の生産性向上のためには、改善すること
だ。
⇒違います。止めること、変えることです。

◎間違え常識4:売上こそ経営の肝だ。
⇒違います。利益の方が重要です。

◎間違え常識5:売れないので価格を下げる。
⇒違います。価格を売るための道具に使ってはいけません。

◎間違え常識6:社長が忙しい。
⇒違います。余計なことをし、コントロールできないことを考
えているからです。

◎間違え常識7:社長は、急ぎで重要なことに専念すべきだ。
⇒違います。社長の仕事は、急ぎでない重要なことへの対応で
す。

◎間違え常識8:従業員に好かれたい。
⇒違います。好かれる社長のいる会社は総じてうまく行ってい
ません。

◎間違え常識9:衆知の経営を行いたい。
⇒違います。小さな会社は独断こそ正です。

◎間違え常識10:人手が足りない、従業員が忙しい。
⇒違います。マネージメントが雑なだけです。

◎間違え常識11:協業先を早く作りたい。
⇒違います。その前に自立することです。

◎間違え常識12:十分な費用を費やして最高の管理を行うこ
とが重要だ。
⇒違います。最適な管理を最小のコストで行うべきです。

◎間違え常識13:能力の限界まで出世させてあげたい。
⇒違います。能力の限界の手前に留めるべきです。

◎間違え常識14:お金は、お金が必要な時に借りる。
⇒違います。お金は、借りられる時に借りられるだけ借りるこ
とです。

◎間違え常識15:借入れは少ない方が良い。
⇒違います。借入額ではなく、手持ち資金を潤沢にしてくださ
い。

◎間違え常識16:取引する銀行は大きな銀行が良い。
⇒違います。取引する銀行は分相応が良いはずです。

◎間違え常識17:創業時、自己資金が底をついて資金が逼迫
するタイミングで資金調達する。
⇒違います。デスバレーに突入する前の創業初期か、デスバレ
ーを抜け切った黒字転換後しか調達できません。

◎間違え常識18:現状の厳しさを強調して、金融機関に融資
を依頼する。
⇒違います。返済できる根拠を書面で示して依頼するべきです。

経営判断は、とことん理詰めで行ってください。絶対にやって
はいけないことは、曖昧な形で伝わってくる、無責任な世間の
間違え常識を鵜呑みにすることです。
上記の間違え常識に対するコメントも、本当は間違えかも知れ
ません…とことん理詰めで考えてください。