中小企業経営者として、自社の資金調達力がどれぐらいあるの
か、正確に把握している人は少ないと思います。実際、以下の
ような疑問を抱いている経営者は多いでしょう。

・当社は融資を受けられるのだろうか?
・融資を受けられない理由は何だろうか?
・最大どれぐらい借りることができるのだろうか?
・どうすれば融資を受けられるようになるのだろうか?
・次はいつごろ融資を受けられるのだろうか?

周囲を見渡しても、これらの質問に具体的な根拠を示して答え
てくれる人は少ないです。最も正確に答えられるのは、金融機
関の決裁担当者ですが、彼らは原則としてこの手の質問には答
えません。結果として、憶測や不確かな情報が広がることがあ
ります。

■ 融資審査の基本的な考え方
実際には、金融機関の決裁担当者は、特定の基本的な考え方に
基づいて与信判断を行っています。個別の事情やタイミングに
よって結果が異なることもありますが、「融資審査の基本とな
る考え方」を知れば、第三者でもある程度質問に答えることが
可能になります。

ただし、残念ながらこの基本的な考え方を親切丁寧に教えてく
れる場所は、金融機関の社内研修に限られます。企業側がこの
知識を持つことは非常に有益です。資金があっての事業計画で
あるにも関わらず、自社の資金調達力に見合わない計画を立て
てしまい、資金難に陥っている企業も少なくありません。

■ 銀行融資プランナーの役割
自社の資金調達力が分かれば、適切な新規設備投資額が分かり
ますし、次のファイナンスのタイミングが分かれば、手元資金
を新規事業にどのようなペースで投資していけば良いかが分か
ります。

このため、当銀行融資プランナー協会では「当社は最大どれぐ
らいの借入が可能ですか?」という質問にお答えできる銀行融
資プランナーの育成及び認定を行っています。銀行融資プラン
ナーは、融資審査の基本的な考え方を習得するため、事例を交
えた数十時間の研究会を受講した方だけが受けられる認定です。
企業側の立場に立って、この分野を体系的・網羅的に学習した
方は少ないと思います。

■ 中小企業経営者様へのご提案
中小企業の財務部長の仕事は銀行対応が大半です。銀行の考え
方を知らない財務部長では役目を務めることはできません。是
非、銀行融資プランナーを活用して、自社の資金調達力を正確
に把握し、適切な事業計画を立てていただければと思います。

銀行融資プランナーは、企業が自社の資金調達力を理解し、適
切な資金計画を立てるための重要な役割を果たします。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

近年、物価の上昇に伴う原材料価格の高騰や、人手不足に起因
する人件費の上昇が企業経営に深刻な影響を及ぼしています。
特に中小企業にとって、価格転嫁を行わずにコスト増を吸収し
続けることは、利益の圧迫につながり、最終的には事業の存続
を危うくする可能性があります。しかし、値上げを実施するこ
とで顧客離れが起こることを懸念し、踏み切れない経営者も少
なくありません。

本稿では、中小企業が値上げを積極的に進めるための具体的な
方法と、実際に成功した事例を3つ紹介しながら、適正な価格
設定の重要性について提言します。

●1.価値を伝えることで顧客の納得を得る
(老舗和菓子店の成功事例)

値上げを行う際に最も重要なのは、「なぜ価格を上げるのか」を
顧客に納得してもらうことです。ただ単に「原材料が高騰した
から」という理由ではなく、自社の商品やサービスの価値をし
っかり伝えることが大切です。

例えば、ある老舗の和菓子店では、原材料の質を落とさずに伝
統の味を守るために価格を10%引き上げました。しかし、単に
値上げを発表するのではなく、店頭やホームページ、SNSを
活用して「厳選した国産素材を使用し続けるための決断」であ
ることを伝えました。さらに、商品の製造工程を公開し、職人
の手仕事の大切さを強調することで、顧客の理解を得ることに
成功しました。その結果、売上の減少を抑えながらも利益率を
改善することができました。

このように、値上げを単なる「コスト増への対応」ではなく、
「価値を維持・向上するための施策」として伝えることで、顧
客の理解を得やすくなります。

●2.小幅な段階的値上げで顧客の抵抗を和らげる
(カフェチェーンの取り組み)

一度に大幅な値上げを行うと、顧客が価格の変化を強く意識し、
利用頻度が下がる可能性があります。そのため、段階的な値上
げを行うことも一つの有効な手段です。

全国展開するあるカフェチェーンでは、原材料価格と人件費の
上昇を受けて、主要メニューのコーヒーを一気に30円値上げす
るのではなく、半年ごとに10円ずつ上げる方法を採用しました。
また、値上げに合わせて「より香り高い豆の使用」や「バリス
タの技術向上」といった付加価値も同時に提供することで、顧
客の満足度を維持しました。

その結果、顧客は値上げに対する抵抗感を持ちにくくなり、売
上の減少を最小限に抑えることができました。このように、段
階的な値上げを採用することで、顧客の心理的負担を和らげる
ことが可能です。

●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める
(町工場のブランディング戦略)

価格競争に巻き込まれないためには、「安さ」ではなく「品質」
や「独自性」で勝負することが重要です。

ある町工場では、従来は低価格を売りにした製品を製造してい
ましたが、大手メーカーとの競争が激化し、利益率が低下して
いました。そこで、単なる安価な製品ではなく、高い精度が求
められる高付加価値製品の開発にシフトしました。同時に、工
場の技術力を前面に押し出したブランディングを行い、「高品
質な日本製」としての価値を訴求しました。結果として、価格
を引き上げても取引先は離れず、むしろ新規顧客が増加しまし
た。

このように、他社との差別化を図り、付加価値を高めることで、
単なる価格競争に巻き込まれずに適正な価格を維持することが
できます。

値上げは、単にコスト増を補填するための手段ではなく、企業
が持続的に成長するための戦略の一環として捉えるべきです。

●1.顧客に対して価値を明確に伝える
●2.小幅な段階的値上げを行い、抵抗を和らげる
●3.価格競争から脱却し、付加価値を高める

これらの施策を適切に組み合わせることで、売上の減少を最小
限に抑えながら利益を確保し、安定した経営を続けることが可
能になります。中小企業経営者の皆様には、単なる「値上げ」
ではなく、「適正価格の確立」として前向きに取り組んでいた
だきたいと思います。

財務管理の強化には試算表の作成が不可欠ですが、財務管理は
試算表だけでは不十分です。なぜなら、試算表にはキャッシュ
ベースの収支が反映されないという弱点があるためです。

■ 利益管理と資金繰り管理の重要性
企業経営において、赤字であっても即座に倒産するわけではあ
りません。しかし、黒字企業であっても資金が底をつけば倒産
のリスクに直面します。この観点から、利益管理以上に資金繰
り管理が重要であると言えます。

■ 資金繰り表の重要性
資金繰り管理の要となるのが「資金繰り表」です。これは、毎
月の入金額と支出額を項目ごとにまとめた表で、一見単純です
が財務管理に極めて有用です。

多くの経営者の方々は、何らかの形で資金繰り表を作成されて
いるでしょう。しかし、多くの場合、今月や来月といった短期
間の資金繰りしか把握できていないのが実情ではないでしょう
か。

■ 短期的な資金繰り計画の限界
短期的な資金繰り計画しか立てていないと、資金不足に気づく
のが遅れ、十分な対応時間を確保できません。これでは、経営
者として重要な業務を後回しにしてまで資金調達に奔走せざる
を得なくなり、場当たり的な財務活動に陥ってしまいます。

■ 年間の資金繰り計画の重要性
計画的な財務活動を行うために、向こう1年間の「資金繰り計
画」を作成することをお勧めします。これにより、資金の流れ
を予測し、資金調達や設備投資の計画を立てることができます。

確かに、1年先の売上を正確に予測することは困難です。しか
し、過去1年間の「資金繰り実績」も併せて作成することで、
過去の売上動向から将来の傾向を推測することもできます。

■ 財務管理の最終目標
財務管理の最大の目的は「資金を切らさないこと」です。試算
表で利益を管理しつつ自社の資金調達力を高め、同時に資金繰
り計画を立てて計画的に資金調達や設備投資を行うことで、資
金面での不安を解消し、経営に専念できる環境を整えることが
できます。

■1.お客様の声を聴くだけでは不十分な時代へ
「お客様の声を聴くことが重要」とよく言われますが、令和の
時代においてはそれだけでは十分ではありません。現代のお客
様は自分の困りごとをすでに解決できる手段を持っていること
が多く、本当に必要なものを明確に認識していない場合が多い
からです。

例えば、スマートフォンが登場する前、多くの人は「持ち運び
できる高性能なPCが欲しい」と考えていました。しかし、
Appleは「人々はPCではなく、もっと直感的で便利なデバイ
スを求めている」と考え、iPhoneを開発しました。このように、
成功する企業は市場のニーズを先回りし、お客様自身が気づい
ていない価値を提案しているのです。

■2.マーケットイン vs. プロダクトアウト、時代に合うのは
どちらか
従来、多くの企業は「マーケットイン」型の考え方を重視して
きました。つまり、お客様のニーズを調査し、それに応じた商
品やサービスを提供するという手法です。これは一見合理的に
思えますが、問題点もあります。

●マーケットインの課題
お客様の声に頼りすぎると、すでにある製品の改良にとどまり、
大きなイノベーションが生まれません。競合他社も同じように
市場調査を行うため、同質化します。お客様の意見は「今ほし
いもの」に基づいており、「将来必要になるもの」には気づい
ていないことが多いからです。

一方で、「プロダクトアウト」型の考え方は、企業側が先に仮
説を立て、世の中に新しい価値を提案する手法です。Appleや
Teslaのような企業はこの考え方を採用しており、「お客様の声
を聞く」のではなく、「お客様がまだ知らない価値を提示する」
ことで市場を創り出しています。

■3.中小企業こそ「仮説提案型」の経営が必要
「プロダクトアウト」と聞くと、大企業だからできることだと
思われがちですが、むしろ中小企業こそこの考え方を取り入れ
るべきです。なぜなら、大企業と同じ市場調査をして競争して
も勝てる見込みは薄く、独自の強みを活かした提案力が求めら
れるからです。

●成功事例1:町工場の技術を活かした新商品開発
ある中小企業の町工場では、長年にわたり精密加工技術を活か
して大手メーカーの下請けをしていました。しかし、取引先の
コスト削減が進む中、このままでは厳しいと考え、自社ブラン
ドの商品開発を決意しました。そこで、社内の技術を活かして
「極薄のステンレス製コーヒーフィルター」を開発。市場には
まだなかった商品でしたが、「ペーパーフィルター不要」「環
境に優しい」という価値を訴求し、大ヒットしました。このよ
うに、「お客様が求めるもの」ではなく、「自社の技術を活か
せる新しい価値」を提案したことで成功を収めたのです。

●成功事例2:飲食店のメニュー開発における提案型アプロー

ある地方の和食店では、観光客の減少により売上が落ちていま
した。通常であれば「お客様の声を聴いて、人気メニューを増
やす」といった対応をするかもしれません。しかし、この店は
「お客様が気づいていない魅力を提案する」ことに注力しまし
た。具体的には、地元の食材を活かした創作料理を開発し、
「ここでしか食べられない特別な体験」としてSNSで発信。結
果的に、観光客だけでなく地元客のリピーターも増え、売上が
回復しました。

■4.どうやって「仮説提案型」の経営を実践するか
では、実際にどのようにして「仮説提案型」の経営を進めれば
よいのでしょうか? 以下のステップが有効です。

●1.自社の強みを再確認する
まずは、自社が持っている技術・ノウハウ・リソースを棚卸し
し、「何が他社と違うのか」を明確にします。

●2.お客様の未来の課題を考える
現在のニーズではなく、「この先お客様がどんな困りごとを抱
える可能性があるか」を想像します。

●3.小さく試して反応を見る(MVP戦略)
いきなり大きく投資せず、試作品や試験的なサービスを提供し、
反応を確認しながら調整していきます。

●4.ストーリーを持たせて発信する
単なる商品・サービスとしてではなく、「なぜこれを作ったの
か」「どんな価値があるのか」というストーリーを発信するこ
とで、共感を得られやすくなります。

■5.まとめ
お客様の声を聴くことは大切ですが、それだけに依存すると競
争の中で埋もれてしまいます。成功する企業は、マーケットイ
ンではなくプロダクトアウトの発想で、お客様がまだ気づいて
いない価値を提案しています。特に中小企業は、独自の技術や
強みを活かしながら、未来のニーズを予測し、積極的に仮説を
立てて提案する姿勢が求められます。成功事例に学びながら、
自社ならではの新しい価値を創り出すことで、大企業にはない
独自のポジションを築くことができるでしょう。

2025年、中小企業の成長を加速させる新たな取り組み「100億
宣言」が始動しました。この制度は、売上高10億円から100億
円未満の中小企業を対象に、経営者自らが「売上高100億円」
という野心的な目標を掲げ、その実現に向けた具体的な取り組
みを宣言するものです。

宣言企業には、成長加速化補助金や経営強化税制の拡充措置の
活用、経営者ネットワークへの参加、公式ロゴマークの使用権
など、様々な支援が提供されます。5月頃から特設ポータルサ
イトで申請受付が開始される予定で、多くの中小企業の参加が
期待されています。

■ 政府が100億宣言を実施する背景
この取り組みの背景には、日本経済の構造的な課題があります。
政府は、長年のデフレ経済から脱却するためには、中小企業の
成長が鍵を握っていると認識しているようです。

特に、地域経済の活性化と良質な雇用創出が急務となっており、
売上高100億円規模の企業が増えることで、地域経済に大きな
インパクトをもたらし、持続的な経済成長の基盤を強化するこ
とが期待されています。

また、物価高騰や人手不足など、中小企業を取り巻く経営環境
が厳しさを増す中、企業の「稼ぐ力」を強化し、積極的な投資
を促進する必要性も高まっています。

■ 中小企業が目指すべき経営の方向性
100億宣言は、単なる数字の目標ではありません。中小企業に
求められているのは、究極的には労働生産性の向上です。具体
的には、以下のような方向性が重要になると考えます。

1.経営戦略の抜本的見直し:市場ニーズや競争環境を再評価
し、自社の強みを活かした戦略を構築する。

2.積極的な投資と資金調達:成長に必要な設備投資やM&A
を実行するため、金融機関との連携や外部資金の活用を検討す
る。

3.デジタル化とイノベーションの推進:DXを通じた生産性
向上や、新たな付加価値創造に取り組む。

4.人材育成と組織強化:成長を支える人材の確保・育成と、
それに伴う組織体制の整備を行う。

5.地域・社会との共生:地域経済への貢献や社会課題の解決
を通じて、持続可能な成長を目指す。

日本経済の屋台骨である中小企業の飛躍的成長は、地域の活性
化と国全体の経済発展につながります。100億宣言に挑戦して
みてはいかがでしょうか。

新入社員を受け入れる時期が近づいてきました。どのように伝
え、どのように導くかが、彼らの成長に大きな影響を与えます。
彼らにとって、社会人としての第一歩を踏み出すこの期間は、
単なる仕事のスタートではなく、今後のキャリアを左右する大
切な基礎づくりの時間です。特にこの時期に、「一定期間は加
減をせずに働く」ことの重要性をしっかりと伝えていただきた
いと思います。

新入社員は、まだ仕事の進め方が分からず、体力的にも精神的
にも負荷を感じる場面が多いでしょう。しかし、最初から効率
やバランスばかりを考え、「無理をしない働き方」を覚えてし
まうと、成長の機会を逃してしまいます。仕事の基本を身につ
け、実務を通じて経験を積むためには、一定期間、全力で取り
組む姿勢が不可欠です。

■彼らに伝えるべきことは、スポーツと同じで、「バットを振
らなければ野球はうまくならない」という考え方です。どんな
に理論を学んでも、実際に手を動かし、試行錯誤を繰り返さな
ければ、スキルは身につきません。仕事も同様で、成功も失敗
も含めた経験こそが成長につながります。最初のうちは「がむ
しゃら」に取り組むことが、後々の自信や実力につながること
を、指導の中でしっかりと伝えるべきではないでしょうか。

■指導をする上で、もう一つ意識していただきたいのは、「ビ
ジネスを習得するのに王道はない」という点です。最近はSN
Sや書籍などで「効率的な働き方」や「スマートな仕事術」が
多く紹介されていますが、新人のうちは、それらを意識しすぎ
るのは逆効果です。なぜなら、基礎ができていない状態で応用
に走っても、実力はつかないからです。

「とにかくやってみる」「先輩のやり方を真似てみる」「地道
な作業を徹底してこなす」といった経験こそが、ビジネスの本
質を理解するための唯一の方法です。そのため、新入社員には
「効率」よりも「徹底」を意識させるような指導が必要ではな
いでしょうか。

■また、彼らに伝えるべき重要な考え方として、「自分への投
資のために、身銭を切って学ぶ姿勢」があります。会社の研修
や勉強会はもちろん貴重ですが、それだけでは十分とは言えま
せん。本当に成長したいのであれば、自分の時間やお金を使っ
て学ぶことが大切です。

例えば、専門書を買う、資格取得に挑戦する、セミナーに参加
するなど、自ら学ぶ習慣を身につけることが、長期的な成長に
つながります。この際、「会社が費用を負担してくれるなら勉
強する」のではなく、自分自身の将来のために投資する意識を
持たせることが重要です。ここをしっかり伝えなければ、「会
社のために働く」という受け身の姿勢から抜け出せず、成長の
幅が狭まってしまいます。

特に伝えたいのは、「身につけたスキルは会社の財産ではなく、
自分の一生の財産になる」ということです。会社に貢献するた
めにスキルを磨くのではなく、自分自身の市場価値を高めるた
めに努力する。その結果として、会社にも貢献できるという考
え方を持たせることが重要です。

■どれだけ仕事ができるようになっても、社会人としての基本
を疎かにしてはいけません。その中でも、「約束を守ること」
「時間を厳守すること」は最も重要なルールです。

時間を守る、納期を厳守する、報告・連絡・相談を徹底する。
これらの基本を徹底することで、信頼が生まれます。特に若手
のうちは、「仕事ができるかどうか」よりも「信頼できる人間
かどうか」が評価に直結します。小さな約束を守ることが、や
がて大きなチャンスにつながることを、研修の中で繰り返し伝
えてください。

■さらに、「謙虚であること」も大切です。経験が浅い段階で
は、素直に学ぶ姿勢を持つことが何より重要です。自分の考え
を持つことは大切ですが、まずは周囲の意見に耳を傾けること
を意識させてください。どんなに優秀な人でも、謙虚さを忘れ
た瞬間に成長は止まります。

まずは「守」を徹底させる。指導の際に意識してほしい考え方
として、日本の伝統的な学びの姿勢である「守破離(しゅはり)」
があります。これは、「守」:基本を忠実に守る「破」:基本
を応用し、自分なりの工夫を加える「離」:独自のスタイルを
確立するという成長のプロセスです。新入社員には、まず「守」
の段階を徹底させることが重要です。つまり、基本を忠実に学
び、実践し、身につけることに集中する。自己流でやるのでは
なく、先輩や上司のやり方をしっかり吸収する姿勢を持たせて
ください。

貴社の、日本の未来を担ってくれるかもしれない若手人材を、
優しく、厳しく育ててあげてください。我々が若かりし頃にそ
うしてもらったように。

建設業を営むA社長からの相談です。「融資を申し込んだとこ
ろ、工事台帳の提出を求められた。作成したことがないので手
伝って欲しい。」という内容でした。この相談は、多くの建設
業経営者が直面する課題を反映しています。

■ 金融機関から見た建設業の特殊性
金融機関から見て、建設業の決算書には実態を把握しづらい要
素がいくつかあります。特に注目すべきは、建設業独特の勘定
科目である完成工事未収入金や未成工事支出金です。

建設業は1工事あたりの金額が大きく、毎月の売上も変動する
ため、これらの科目も大きく変動します。残念ながら、その特
性を利用して粉飾決算をする企業もあるため、金融機関は融資
に慎重になります。

■ 工事台帳の重要性
金融機関の不安を払拭するのに有効な資料が工事台帳です。金
融機関が工事台帳から読み取りたい主な内容は以下の通りです。

1)工事ごとの利益状況:各工事の利益率と決算書の利益率が
大きく乖離していないことを示すことで、決算書の正確性を証
明できます。

2)工事のスケジュール:将来にわたって、工事がどのように
進行し、どのタイミングで売上が立つかを示すことで、今後の
業績の見通しを理解してもらえます。

■ 工事台帳の具体例
工事台帳は以下のような形式で作成します。

工事名:○○ビル建設工事
発注者:△△株式会社
工事期間:2025/4/1 ~ 2026/3/31
契約金額:100,000,000円
実行予算:80,000,000円
進捗率:30%
売上高(累計):30,000,000円
原価(累計):24,000,000円
粗利益(累計):6,000,000円

■ 資金繰り表の重要性
工事台帳に加えて、資金繰り表も提出すると効果が高まります。
建設業は決算書の損益とキャッシュの動きに乖離があるため、
全体のお金の流れを示すことが重要です。

■ 建設業の融資申し込みのポイント(まとめ)
1)建設業は決算書の提出だけでは不十分です。
2)工事台帳で工事ごとの利益率を示し、決算書の正確性を補
足しましょう。
3)工事スケジュールを示し、現在の受注残と今後の売上見込
みを説明しましょう。
4)資金繰り表を作成し全体のお金の流れを説明しましょう。
5)設備資金の場合は、さらに詳細な事業計画書が必要になり
ます。

融資申込資料は単に作成すればよいということではありません。
金融機関の意図をくみ取った資料を作成することが、融資を受
けられる確率を高めるカギとなります。

融資申込資料の作成でお悩みの方は、まずはお気軽にご相談く
ださい。弊所にて専門家がわかりやすく丁寧にサポートいたし
ます。

同じ内容を伝えても、言葉の選び方や話す順番で相手に与える
心象は大きく変わります。日常のトラブルの多くは、その事象
の大小だけでなく、伝え方によってもその炎上度合いが変わり
ます。言葉の使い方について、整理して考えてみましょう。

話し方には、その人の知性や思考の整理度が反映されます。賢
い話し方をする人は、相手に分かりやすく伝え、的確に意図を
伝えられるのに対し、頭の悪い話し方をする人は、内容が伝わ
りにくく、相手に余計なストレスを与え、話をこじらせること
があります。具体的に何が違うのか、いくつかのポイントに分
けて解説します。

■1.話の構成が明確かどうか

●賢い話し方:結論が先、理由が後
・「〇〇です。その理由は△△だからです。」
・まず結論を伝え、次に理由や根拠を説明するので、相手が理
解しやすい。
・要点が整理されており、話がスムーズに進む。
※感情的な相手には、結論を先に伝えない方が良い時もありま
すが。

○頭の悪い話し方:ダラダラと前置きが長い
・「えっと、昨日のことなんですけど、実はちょっと困ったこ
とがあって、それがですね…」
・何を言いたいのか分からず、相手を混乱させる。
・結論が出る前に話が長くなるため、聞き手が集中力を失いや
すい。

■2.言葉の選び方

●賢い話し方:シンプルで的確な表現
・「このプロジェクトは成功しました。ただ、次回の課題とし
て〇〇が挙げられます。」
・余計な装飾がなく、簡潔で分かりやすい。
・具体的な言葉を使い、曖昧な表現を避ける。

○頭の悪い話し方:曖昧で回りくどい
・「なんか、いろいろ大変だったけど、まあまあいい感じにな
ったと思うんですよね。」
・「なんか」「まぁ」「~的な」など、曖昧な言葉が多く、伝
わりにくい。
・話に具体性がなく、聞き手が解釈に迷う。

■3.論理的に話せるかどうか

●賢い話し方:論理の筋道が通っている
・「売上が伸びたのは、広告戦略を見直したからです。その結
果、顧客の反応が改善しました。」
・因果関係を明確にし、話の流れがスムーズ。
・論理的な話し方をすることで、説得力が増す。

○頭の悪い話し方:話が飛びやすい
・「売上が伸びたんですけど、最近寒くなりましたよね。それ
でみんなコーヒー飲むようになったんですよ。」
・話があちこちに飛び、聞き手がついていけなくなる。
・主張に根拠がなく、説得力がない。

■4.相手を意識しているか

●賢い話し方:相手に合わせて話す
・「この話はご存じかもしれませんが、念のため説明しますね。」
・相手の知識レベルに合わせ、必要に応じて補足説明を加える。
・話のスピードや言葉遣いを、相手に応じて調整する。

○頭の悪い話し方:自己中心的に話す
・「そんなの常識でしょ?」
・相手の理解度を考えず、一方的に話す。
・相手が知らないことを説明せず、会話が成立しにくい。

■5.感情のコントロール

●賢い話し方:冷静で落ち着いている
・「私はこの意見に賛成です。ただ、一部懸念点もあります。」
・感情的にならず、冷静に意見を述べる。
・否定する際も、柔らかい表現を使い、対立を避ける。

○頭の悪い話し方:感情的で攻撃的
・「それっておかしくないですか?全然ダメじゃないですか!」
・感情をむき出しにし、相手を責める言い方をする。
・冷静さを欠くため、相手に不快感を与え、話し合いがうまく
進まない。

賢い話し方を身につけることで、仕事でもプライベートでもコ
ミュニケーションが円滑になります。まずは「結論を先に言う」
「簡潔に話す」「論理的に整理する」ことを意識すると、自然
と話し方が洗練されていきます。

◎トラブルの多くは、その内容より、話し方に起因する要素が
大きいです。これ自体が非論理的な話ではありますが、人は感
情に左右される生き物です。

多くの企業、特に新興企業や中小企業にとって、財務管理は常
に重要な課題です。この課題に対処するため、企業の成長を2
つのステージに分けて考えてみましょう。

■ 第1ステージ:安全性の確保

最初に取り組むべきは、企業の存続を確実にすることです。
これは「守りの姿勢」と呼べます。具体的には、

・十分な現金(キャッシュ)を確保する
・不測の事態に備える
・倒産リスクを最小限に抑える

この段階では、手元資金を増やすことに重点を置きます。まだ
利益は十分に出ていないでしょうから、日本政策金融公庫や保
証付き融資を積極的に活用し、手元資金を潤沢に保ちます。

■ 第2ステージ:積極的な成長戦略

ある程度の安全性が確保できたら、次は「攻めの姿勢」に転じ
る必要があります。なぜなら、

・現金を単に保有しているだけでは、わずかな利子収入しか得
られない
・企業の真の成長には、積極的な投資が欠かせない

ここで重要なのは、新たな資金需要を自ら創出することです。
これは必ずしも大規模な新規事業だけを意味しません。現状を
少しずつ改善する小さな投資も、立派な成長戦略となります。

■ 具体的な投資アイデア
・人材強化:営業部門を拡充し、売上増加を狙う
・IT投資:業務効率を向上させ、生産性を高める
・専門家の招聘:例えば、経験豊富な工場長を雇い、製造プロ
セスを改善する
・M&A:相乗効果が期待できる企業との合併や買収を検討する

■ 経営者の真の役割
限られた資金をどこに投資すれば最も効果的に事業が成長する
か、その見極めが経営者の重要な役割です。実際、投資先の選
択肢は多すぎるほどあります。だからこそ、優先順位の決定が
重要になります。

■ まとめ
1.まずは十分な安全性を確保する
2.次に、積極的な投資姿勢に転換する
3.小さな投資機会も見逃さない
4.限られた資金の最適な配分を常に考える

企業の持続的な成長には、「守り」から「攻め」への転換が不
可欠です。安全性を確保した後は、成長のための資金獲得と効
果的な投資に積極的に取り組みましょう。そのためには、銀行
からの借入が不可欠です。

守りの資金、攻めの資金、それぞれ調達のポイントが異なりま
すので、資金調達を検討しておられる経営者様は是非ご相談く
ださい。

近年、日本では物価上昇が続いており、それに伴い大企業を中
心に賃上げの動きが加速しています。特に2024年の春闘で
は、大企業が5%を超える賃上げを実施し、新卒の初任給も相
次いで引き上げられました。この流れの中で、中小企業も賃上
げを行わなければ、人材の確保がますます難しくなることが予
想されます。以下では、物価上昇の影響、大企業の賃上げと新
卒初任給アップの現状、中小企業が賃上げを行うべき理由につ
いて解説します。

■1.物価上昇が続く中、実質賃金の確保が課題に

近年の日本経済では、物価の上昇が大きな問題となっています。
総務省が発表する消費者物価指数(CPI)は、2023年に
前年比+3.2%、2024年も+3%前後の上昇が見込まれ
ています。特に、食料品やエネルギー価格の高騰が家計を圧迫
しており、労働者の実質賃金(名目賃金から物価上昇を引いた
もの)は減少傾向にあります。

こうした状況では、従業員が現在の給与のままでは生活水準を
維持することが難しくなります。特に、もともと賃金水準が低
めの中小企業に勤める労働者は、「より給与の高い企業への転
職を検討する」可能性が高まります。そのため、企業が人材を
確保し続けるためには、物価上昇に見合った賃上げが不可欠と
なります。

■2.大企業の賃上げと新卒初任給アップの影響

2024年の春闘では、大企業を中心に大幅な賃上げが行われ
ました。例えば、トヨタ自動車は5%以上の賃上げを実施し、
日立製作所やパナソニックなどの大手企業も同様の動きを見せ
ています。

さらに、多くの企業が新卒初任給の引き上げを決定しました。
例えば、
・三菱UFJ銀行:初任給を25万円に引き上げ
・資生堂:初任給を30万円に大幅アップ
・ソニーグループ:初任給を30万円に引き上げ

このように、大企業が賃上げを進めることで、労働市場全体の
給与水準が引き上げられています。これは中小企業にとって大
きな課題となります。なぜなら、新卒・中途を問わず、人材が
より給与の高い大企業へ流れてしまうリスクがあるからです。

また、従来は「安定志向」で大企業に就職する傾向が強かった
若年層の価値観も変化し、給与を重視して転職を決断する動き
が強まっています。特に、IT・エンジニア職などでは、スキ
ルのある人材が給与の高い企業へ流れる傾向が顕著になってい
ます。

■3.中小企業も賃上げをしなければ人材確保が困難に

こうした状況の中で、中小企業が賃上げを行わなければ、優秀
な人材の確保はますます難しくなります。その理由を以下の3
点に分けて説明します。

●1.人材不足が深刻化している

中小企業ではすでに慢性的な人材不足が続いています。少子高
齢化が進み、特に若手労働力の確保が困難になっています。日
本商工会議所の調査(2024年)によると、中小企業の約60
%が「人材不足」を経営上の大きな課題として挙げています。
こうした中、賃金の低い中小企業は「給与の高い企業へ転職し
たい」と考える従業員を引き留めることが難しくなります。結
果として、人材が流出し、さらに業務が回らなくなる悪循環に
陥る可能性があります。

●2.「給与の低い会社には入りたくない」という意識の変化

近年の新卒採用市場では、「給与の高さ」が企業選びの重要な
ポイントになりつつあります。就職活動をする学生の間では、
「給与の低い企業には将来性がない」という認識が広がってお
り、中小企業が優秀な学生を確保することがますます難しくな
っています。
例えば、2023年のマイナビの調査では、「企業を選ぶ際に
最も重視するポイント」として「給与・待遇の良さ」を挙げた
学生が過去最高となりました。つまり、中小企業が賃金を引き
上げない限り、優秀な新卒が集まらず、将来的な企業の競争力
低下につながる可能性が高いのです。

●3.物価上昇により「今の給与では生活が厳しい」と感じる
人が増えている

物価上昇が続く中で、「現在の給与では生活が厳しい」と感じ
る労働者が増えています。特に、家賃や生活費の高騰が続く都
市部では、給与の低い企業で働くことのリスクを強く感じる人
が多くなっています。こうした状況では、企業が賃上げを行わ
なければ、従業員が転職を検討しやすくなります。特に、中小
企業では「給与が上がらないなら辞めてしまおう」と考えるケ
ースが増えるでしょう。

■中小企業にとって賃上げはコスト負担ではありますが、今後
の経営を考える上で避けて通れない課題です。政府の支援策や
生産性向上を活用しながら、競争力を維持するための対策を講
じることが求められています。厳しいですがこれが現実です。