何が正しいのか?大変難しいテーマです。『対局にも真あり』
とも言われます。それでも社長は日々多くの判断をくだしてい
ます。過去の経営判断の集積が現状であり、これからの判断の
結果が未来の経営成績に反映されます。判断の精度が原因、経
営成績が結果、タイムラグを経て明確な因果関係が生まれます。

社長は、何を基準に経営判断を行っているのでしょうか?理詰
めで考えて判断する以外に方法はありません。常に自身の頭の
中で考えを突き詰めて、論理に沿って判断すべきです。絶対に
やってはいけないことは、曖昧な形で伝わってくる、無責任な
世間の間違え常識を鵜呑みにすることです。

曖昧な形で伝わってくる無責任な世間の間違え常識の中には、
疑問を投げかけたくなる内容も混ざっています。特に違和感を
持つのは、大企業の常識と中小企業の常識の違いが勘案されて
いない内容です。大企業の常識は、時に中小企業の非常識に当
たることがあります。
◆間違え常識3、◆間違え常識8や◆間違え常識14はその典
型例です。

◆間違え常識1:収益性の良し悪しは、マネージメントやマー
ケティングで決まる。

⇒違います。その前に事業立地・ビジネスの型の良し悪しが重
要です。飽和した事業立地で、収益力の低いビジネスの型で
事業を行うことには限界があります。

◆間違え常識2:経営の生産性向上のためには、改善すること
だ。

⇒違います。止めること・絞ることです。

◆間違え常識3:マーケットインこそすべてだ。

⇒必ずしもそうではありません。(中小企業には)プロダクト
アウトこそ重要です。ニッチマーケットを開拓するためには、
仮説から始まるプロダクトアウトこそ重要です。

◆間違え常識4:社長は、急ぎで重要なことに専念すべきだ。

⇒違います。社長の仕事は、急ぎでない重要なことへの対処で
す。

◆間違え常識5:売上こそ経営の肝だ。

⇒違います。多くの場合、利益の方が重要です。

◆間違え常識6:売れないので価格を下げる。

⇒違います。価格を売るための道具に使ってはいけません。
売れるように価値を向上させてください。

◆間違え常識7:協業先を早く作りたい。

⇒違います。その前に自立することです。

◆間違え常識8:衆知の経営を行いたい。

⇒違います。小さな会社は社長の独断こそ正です。

◆間違え常識9:従業員に好かれたい。円満でいたい。

⇒違います。好かれる社長のいる会社は総じてうまく行ってい
ません。

◆間違え常識10:社長が忙しい。

⇒違います。余計なことをし、コントロールできないことを考
えているからです。

◆間違え常識11:従業員(会社)が忙しい。

⇒違います。マネージメントが雑なだけです。余計なことをさ
せています。

◆間違え常識12:十分な費用を費やして最高の管理を行うこ
とが重要だ。

⇒違います。最適な管理を最小のコストで行うべきです。

◆間違え常識13:能力の限界まで出世させてあげたい。

⇒違います。能力の限界の手前に留めるべきです。

◆間違え常識14:お金は、お金が必要な時に借りる。

⇒違います。(中小企業は)お金は、借りられる時に借りられ
るだけ借りることです。

◆間違え常識15:借入れは少ない方が良い。

⇒違います。そうでないことも多いです。

◆間違え常識16:取引する銀行は大きな銀行が良い。

⇒違います。取引する銀行は分相応が良いはずです。

◆間違え常識17:現状の厳しさを強調して、金融機関に融資
を依頼する。

⇒違います。返済できる根拠を書面で示して依頼するべきです。

◆間違え常識18:創業時、自己資金が底をついて資金が逼迫
するタイミングで資金調達する。

⇒違います。デスバレーに突入する前の創業初期か、デスバレ
ーを抜け切った黒字転換後しか調達できません。

経営判断は、とことん理詰めで行ってください。絶対にやって
はいけないことは、曖昧な形で伝わってくる、無責任な世間の
間違え常識を鵜呑みにすることです。上記の間違え常識に対す
るコメントも、本当は間違えかも知れません…とことん理詰め
で考えてください。

創業当初からお付き合いさせていただいているA社の事例です。
5期目の決算が終わったところですが、売上高が約7億円と順
調に成長しています。

A社の特徴的な点は、外部からの借入が無く、代表者個人から
の借入金1億円にて資金を繰り回している点です。創業時に創
業融資をおすすめしましたが、「自己資金で対応するので借入
れはしない。」という経営方針であったため、これまでは税務
顧問のみのお付き合いとなっていました。

毎期順調に売上高を伸ばしてきましたが、それと同時に役員借
入金の額も増加し続け、ついに役員借入金が1億円を超えた時
点で、社長より次の主旨のお電話がありました。

・いよいよ自己資金も尽きてきたので借入れを考えたい。
・金額は、今後事業をさらに伸ばすための資金で1億円、個人
で貸している分を返してもらうために1億円、あわせて2億
円を調達したい。
・預金取引をしている信用金庫に行って融資を依頼したが、短
期で1,000万円しか融資ができないと言われた。
・税務だけでなく資金調達を含めた財務面も見てもらえないか。

どこの金融機関も新規取引は慎重になります。A社は金融機関
との融資取引が全くありませんので、すぐに2億円を調達する
のは簡単ではありません。まずは、今期中に1億円、次の決算
後に1億円を調達する計画で資金調達を開始しました。

まず、今後の業績見込みとそれに伴う1億円の資金計画を作成
し、I地銀に保証協会とプロパー融資の打診をしました。I地
銀は保証協会から無担保枠一杯の8,000万円の事前承認を
取り付けてくださいましたが、「プロパーは来期の決算後に・
・・」という回答でした。保証協会の8,000万円だけで終
わりとなっては困るため、I地銀には、5,000万円だけ保
証付融資を申し込み、3,000万円の枠を残すことにしまし
た。

次にBメガバンクに保証協会とプロパーの打診をしました。保
証協会で3,000万円の承認がおりている旨をご説明してプ
ロパーの積み上げを依頼したところ、保証協会3,000万円
とプロパー2,000万円で提案をいただきました。

2行で目標額1億円の調達は完了しましたが、日本政策金融公
庫の無担保枠2,000万円も利用できると考えて打診しまし
た。1億円の調達は完了したが、本来は2億円の調達をしたい
旨をご説明したところ、「通常は2,000万円が無担保枠の
上限だが、制度融資によって4,800万円まで利用できるも
のがある。そちらを利用して4,000万円でどうか。」とい
う提案をいただきました。

続いて商工中金、中小企業事業にも打診を考えており、順調に
いけば今期中の2億円の調達が見えてきました。

本来は1億円以上の調達が可能な実力があるにも関わらず、社
長様が自身で信用金庫に行くと1,000万円の短期融資しか
できないと言われたのはなぜでしょうか。答えは単なる説明不
足です。

A社は、売上高は順調に推移してきたものの、利益が出始めた
のは2期前からであり、表面は債務超過です。実質自己資本と
見做せる代表者からの借入金が1億円ありますが、30代で1
億円の個人資産を持っているのは逆に不審に思われることもあ
ります。

弊所は、社長の略歴、企業の沿革、資金繰りの状況と計画、利
益の状況と計画を整理して、金融機関に説明しただけです。決
して金融機関と特別なパイプがある訳ではありません。説明の
仕方ひとつで結果がこれだけ変わることがあります。

社長様、経営者としてやってはいけないことがあります。整理
してみました。一つの考え方としてご確認ください。

■その1…社長は、悲観的になりすぎてはいけません。

悲観的になりすぎると心が折れます。逆に、楽観的すぎると心
が緩みます。心は、敢えて、楽観と悲観を行き来させることが
コツです。悲壮感あふれる気の毒な社長に時々出会いますが、
これは損です。改めましょう。

■その2…社長は、体を酷使しすぎてはいけません。

疲れすぎると思考が鈍ります。疲れすぎると気力が落ちます。
これでは経営はできません。常に最高の体調を維持することが
必要です。よく眠ってください。頑張りすぎて疲れ切った社長
に時々出会いますが、これは良くないですね。改めましょう。

■その3…社長は、楽観的に行動してはいけません。

最悪を想定して行動してください。備えて・備えて…備え尽く
すことが重要です。悲観的に考える割に、行動は楽観的な社長
がいます。これは真逆です。

■その4…社長は、結論を先送りしてはいけません。

決めること、社長の最も重要な仕事です。二晩寝て決まらない
ことはいくら考えても決まりません。考え続けて決めない社長、
これは良くないですね。改めましょう。

■その5…社長は、決め込んではいけません。

確信をもって行動してください。ただし、いつでも方向転換す
る心構えを持ってください。確信と柔軟性、この両立が必要で
す。何があっても方向転換しない、これは良くないですね。
改めましょう。

■その6…社長は、部下の話をミスリードしてはいけません。

状況把握は丁寧に根気よく行ってください。部下の話を途中で
遮らず、正確に聴くことが必要です。他人が説明している途中
で自分の意見を挟み、結論を決めつける、これは良くないです
ね。改めましょう。

■その7…社長は、合議制の経営を目指してはいけません。

経営判断は自分一人で行うものです。合議制などありません。
中小企業はトップの独断が重要です。自分が決めて、自分で責
任を取る、これが中小企業の健全な姿です。周りに頼り過ぎて
はいけません。
※判断材料としての話は良く聴いてください。

■その8…社長は、ファジーな指示を出してはいけません。

曖昧な中庸の指示は組織を惑わします。指示は白か黒、左か右、
YESかNOです。気を付けてください。どちらとも解釈でき
るような曖昧な指示を出してはいけません。

■その9…社長は、責任転嫁してはいけません。

隕石が降ってきて自分に当たっても自己責任です。すべての事
象を自己の責任として受け止め対応を考える、または、そうな
らないように備える、これが経営です。責任転嫁からは何も生
まれません。

■その10…社長は、切れて(感情で怒って)はいけません。

すぐ切れて損ばかり繰り返す社長は少なくありません。二晩寝
ても治まらない怒りは真の怒りです。真の怒りに対してのみ怒
りをぶつけてください。

■その11…社長は、構想・アイデアを出し過ぎてはいけません。

現場の理解力、執行力に合わせてアイデアを順次出してくださ
い。現場にアイデアを出し過ぎると消化不良を起こします。現
場へのアイデア出しは、適時・適量を心がけてください。

■その12…社長は、部下と仲良しになり過ぎてはいけません。

いつも部下とつるむ社長がいます。経営者の孤独感を解消しよ
うと、部下との距離を詰め過ぎることはお勧めできません。社
長と社員には一定の距離感が必要です。

色々な考え方があります。また、程度加減の問題もありますが、
一つの指針として心に留めてください。

◎「価格戦略=値決め」は、経営成績の良し悪しに甚大な影響
を与えています。勇気をもって「価格戦略=値決め」をご再考
ください。

平成31年4月~6月のセーフティネット保証5号の指定業種
が発表されました。セーフティネット保証5号とは、業況の悪
化している中小企業が利用できる保証制度です。指定業種に含
まれていなければ利用できない制度ですので、まずはご自身の
業種が指定業種に含まれているか、下記中小企業庁のホームペ
ージにてご確認ください。

◆指定業種一覧
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2019/1903205gou2.pdf

ご自身の業種が指定業種に含まれていたら、直近3ヶ月間の売
上高を前年同期間の売上高と比較します。もし、売上高が5%
以上減少していれば対象となりますので、セーフティネット保
証制度に申し込むことが可能です。(指定業種かつ売上減少が
要件です。)

具体的な申し込みの流れは、まず市区町村長の認定を受け、そ
の後、銀行等金融機関に認定書を持ち込みます。認定の受け方
については中小企業庁のホームページでご確認ください。

◆認定の受け方(中小企業庁HPより引用)
対象となる中小企業の方は、法人の場合は登記上の住所地又は
事業実体のある事業所の所在地、個人事業主の方は事業実体の
ある事業所の所在地の市町村(または特別区)の商工担当課等
の窓口に認定申請書2通を提出(その事実を証明する書面等が
あれば添付)し、認定を受け、希望の金融機関または所在地の
信用保証協会に認定書を持参のうえ、保証付き融資を申し込む
ことが必要です。(引用終わり)

信用保証協会では、中小企業が利用できる保証限度額が無担保
で8,000万円と定められています。あくまでも利用可能な枠の
ことであり、必ず8,000万円の保証を受けられるということで
はありませんが、セーフティネット保証制度は、さらに別枠で
8,000万円の保証枠が設けられます。

通常の融資審査は業績が悪いと通りませんが、本制度は業績が
悪くなければ利用することができません。また、通常の金利は、
業績が悪くなればなるほど高くなりますが、本制度は低い金利
で利用することができます。業績が悪くなることを歓迎したく
はありませんが、そうなった場合には利用したい制度です。

「足元の売上高が一時的に減少しているだけでも利用できるか
?」「売上高は落ちているが利益が出ている場合は?」「売上
高が伸びている事業と落ちている事業がある場合は?」等、本
制度の利用についてご質問やご相談があれば、お気軽にお問合
せください。

■勝ち組と負け組の価格戦略は真逆です。

◆市場が飽和した日本のマーケットにおいては、モノやサービ
スを安く買おうとするエネルギーが蔓延しています。モノや
サービスを提供する企業サイドも、その趨勢に迎合すること
で、自社の売上を確保しようと考える傾向が強いようです。

◇一方、十分な利益を確保できる価格設定を行ったうえで、隆々
と経営を続ける企業もたくさんあります。当然、たくさんの
顧客に支えられているはずです。

◆前者と◇後者、雑駁に分類するなら負け組と勝ち組です。
◆前者(負け組)が4割、◇後者(勝ち組)が2割、中間が4割、
このような分類になりそうです。

◆前者(負け組)の企業の価格戦略は…
・「価格(安売り)を売るための道具」だと思っています。
・「価格は安い方が売れる」と思っています。
・「価格は、できるだけ安めに設定するべき」と思っています。
・「価格が高すぎて売れない」ことを過度に嫌います。
・「売れないより、薄利でも売れた方がよい」と考えています。
※うまく行ってたくさん売れても「繁盛貧乏」に陥ります。儲
からないのに忙しい状態でバランスしてしまいます。後は頑
張って・頑張り続けて…現状維持が関の山です。

◇後者(勝ち組)の企業の価格戦略は…
・「価格を売るための道具には使わない」との信念を持ってい
ます。
・「価格が安くても売れるわけではない」と思っています。
・「価格は、できるだけ高く設定すべき」と思っています。
・「(仮に)高すぎて売れないことが有っても仕方ない」と思
っています。
・「薄利で売るよりも、売れない方がよい」と考えています。
※うまく行けば、たくさん売れて儲かる「繁盛高収益」の状態
になれます。利益で次の投資ができ、さらなる成長を目指せ
ます。うまく行かなければ、「閑散貧乏」の状態です。やり
直せます。

■価格に対する二つの潮流…

◆モノやサービスを安く買おうとする潮流に巻き込まれること
は得策ではありません。
◇もう一つの潮流、「良いモノ・必要なモノが欲しい。対価は
払う」に乗せましょう。
気を付けてください。
◆前者の潮流の方が目立っています。◇後者は静かに流れてい
ます。

■もう一度「価格戦略=値決め」を再考してください。

「値決め」は経営の要諦です。であるにも関わらず、値決めに
掛ける手間暇が少なすぎると思っています。総じて安く付けす
ぎているとも思っています。間違えた「値決め」が経営に与え
るダメージを過小評価してはいけません。
経営者は閑散な状態を嫌います。故に、安すぎる「値決め」を
して、貧乏しても繁盛したいと考える傾向があります。「繁盛
貧乏」がはびこるのはこのためでしょう。
経営者は楽な道を選びます。苦労して付加価値を積み上げるよ
りも、価格を低く抑えて価値とバランスしようと考えてしまい
ます。価格を売るための道具に使ってしまいます。
安売り戦略の大罪は、良いものを創り出そうとする知恵を奪い
取ることです。この愚策を長年続けている集団から、新たな商
品やサービスを創り出す創造力は生まれません。商品やサービ
スの価値と価格のバランスは、その価格を下げて市場に合わせ
るのではなく、その価値を向上させることで調整してください。
多くの偉人たちが語る経営の王道です。

事業は付加価値を求めつづけることでのみ継続できます。値決
めは重要な経営判断です。安売りは悪です。利益を計り、利益
を求めてください。また、コストは自然に膨らみます。意識し
て抑え込んでください。高収益(Profitable)な企業体作りを
強く意識してください。

◎「価格戦略=値決め」は、経営成績の良し悪しに甚大な影響
を与えています。勇気をもって「価格戦略=値決め」をご再考
ください。

金融機関は決算書を中心に審査を行いますが、決算書に存在し
ていると融資が難しくなる勘定科目があります。「貸付金勘定」
と「仮払金勘定」です。

貸付金勘定は、会社が第三者にお金を貸し付けることで発生し
ます。「社長が個人的に使ってしまった。」「友人の会社が資
金繰りに困っていたので用立てした。」という場合等に発生し
ます。

金融機関は、融資したお金が本業以外に使われることを嫌いま
す。会社の運転資金として借りたお金を個人的に使うのはもち
ろんですが、他社の支援資金に回ることも資金使途違反となり
ます。自己資本が充実している会社であれば、銀行から借りた
お金ではなく自己資金で貸したのだと主張はできますが、貸付
金勘定の発生自体がネガティブに捉えられます。

仮払金勘定は、お金の使いみちが不明な場合に発生します。宛
先や支払内容が不明な支払はとりあえず仮払金として処理され、
最後まで内容が分からなければ仮払金勘定として残ります。使
途不明金です。

金融機関はどんぶり勘定を嫌います。融資したお金が使途不明
金になっては困りますので、仮払金勘定が多い会社はネガティ
ブに捉えます。もちろん、出張費用の前渡分が未精算である等、
通常の営業活動で発生した仮払金は問題ありません。

「うちは貸付金や仮払金はないから大丈夫」と高をくくっては
危険です。会社からお金を借りた覚えもないのに、銀行から指
摘されて自社の決算書に多額の貸付金勘定や仮払金勘定がある
ことに気がついたというケースは本当に良くあります。

このような時に「税理士さんが勝手に・・・」とおっしゃる社
長様も多くいらっしゃいますが、個人的な支出、領収証がない
支出、宛先不明の支出等は、税理士さんは貸付金や仮払金とし
て処理せざるを得ません。税理士さんの本来の役目は金融機関
から資金を調達することではありませんので、社長様はそのこ
とをしっかりと理解したうえで任せる必要があります。

まずは、社長自身が、貸付金勘定や仮払金勘定が膨らむと金融
機関の評価を下げるという問題を認識し、そのうえで税理士さ
んとしっかり連携を図って対策を講じましょう。

『値決めこそ経営』(京セラ名誉会長、稲盛和夫先生)、この
言葉を肝に銘じてください。どんなに良いものを創りだしても、
その値決めを間違えると台無しになります。故に、値決めは大
変難しい最高レベルの経営判断事項です。であるにもかかわら
ず、値決めを安易に、どちらかというと安めにつけてしまう経
営者は少なくありません。松下幸之助先生はその著書の中で、
パナソニック(当時松下電器)は、相当大きくなるまで、松下
幸之助先生自身が値決めの最終決裁をされていた、と語ってお
られます。

「自社の値決めが正しいのか?」この解は誰にもわかりません
が、少なくとも多くの手間暇と知恵を最大限投入して、悩んで、
悩んで、悩み抜いて決める…この習慣を持っていただきたいと
思っています。

過去(この数十年)において、日本の企業の多くが、どちらか
というと安すぎる値決めを繰り返してきたために、今の経済の
停滞(デフレ)を招いたのではないかとの仮説を持っています。
特にこの傾向は中小企業に顕著です。

以下、【安売り症候群】という疾病を整理いたします。
自社・ご自身にあてはめてご確認ください。

■【安売り症候群】という疾病の正体は…(有病率50%)

◆価格を売るための道具に使うと「繁盛貧乏」になります。

「値決め」は経営の要諦です。であるにも関わらず、値決めに
掛ける手間暇が少なすぎると思っています。総じて安く付けす
ぎているとも思っています。間違えた「値決め」が経営に与え
るダメージを過小評価してはいけません。
経営者は閑散な状態を嫌います。故に、安すぎる「値決め」を
して、貧乏しても繁盛したいと考える傾向があります。「繁盛
貧乏」がはびこるのはこのためでしょう。
経営者は楽な道を選びます。苦労して付加価値を積み上げるよ
りも、価格を低く抑えて価値とバランスしようと考えてしまい
ます。価格を売るための道具に使ってしまいます。
安売り戦略の大罪は、良いものを創り出そうとする知恵を奪い
取ることです。この愚策を長年続けている集団から、新たな商
品やサービスを創り出す創造力は生まれません。商品やサービ
スの価値と価格のバランスは、その価格を下げて市場に合わせ
るのではなく、その価値を向上させることで調整してください。
多くの偉人たちが語る経営の王道です。

◆「値決め」が弱気で利益を出せない経営体、さらに、新しい
価値を生み出す創造力を無くしてしまった経営体を『安売り症
候群』と呼びます。

◆『安売り症候群』の経営体には、以下のような症状が現れます。

□1.頑張っているのに儲からない。
□2.新しい商品、サービスを創造できていない。
□3.利益は出なくて良い、と思うことがある。
□4.値上げをしたいと思っていてもできない。
□5.ぎりぎりの経営をしていると感じる。
いかがでしょうか?

◆病名:『安売り症候群』を整理します。

値決めに対する姿勢が弱気で、利益管理も曖昧になる病です。

●原因

安くないと売れないとの思い込みが原因です。良いものには相
応の値段を(それなりのものはそれなりの値段を)付けてくだ
さい。良いものを安く売る必要はありません。原価が上がれば
価格を見直す、この当たり前の企業行動を取らなければ、利益
がどんどん減ります。利益が薄くなればなるほど、良いものを
作ろうとする知恵や創造力を失います。最後は、薄利は善、利
益は悪の心境に陥ります。こうなると末期です。

●症状

二つのレベルに分かれます。繁盛貧乏のレベルが第一段階です。
このレベルは頑張っているのに値決めを間違えていて儲からな
い状況です。この段階では価格の見直しを行えば容易に治癒で
きます。第一のレベルを続けていると、頑張っても儲からない
と思い込み、頑張る意欲、より良いものを創造しようとする力
を失くしてしまいます。最後には、儲からない自分を正当化す
るために、儲けは悪、儲からないことが善、ビジネスそのもの
を否定するようになります。

『値決めこそ経営』(京セラ名誉会長、稲盛和夫先生)です。
「値決め」には、多くの手間暇と知恵を最大限投入して、悩ん
で、悩んで、悩み抜いて決める…この習慣を持っていただきた
いと思っています。
「値決め」は現場ではなく、トップが決めるべき事項です。

銀行は社会的に大きな役割を期待されており、時には批判の対
象になることもあります。しかし、銀行と実際にお付き合いを
しなくてはならない経営者にとっては、銀行がどうあるべきか
と議論するよりも、今ある銀行をどう活用すべきかと考える方
が建設的です。自社にとっての銀行の位置づけを明確にするこ
とで、銀行対応の指針も明確になります。

◆ 銀行は救済機関ではありません。
「銀行は業績が悪化して困っている企業にお金を貸すのが仕事
でしょう。」とおっしゃる経営者様も少なくありません。確か
にそのような役割も期待したいところですが、行政ではありま
せんので実際は違います。困ったときに助けを求める救済機関
ではないと明確に位置づけ、平時からしっかりとお付き合いを
することを指針としましょう。

◆ 銀行は新規事業のパートナーではありません。
「新しい商品を開発するための資金を銀行が出してくれない。」
とおっしゃる経営者様も少なくありません。銀行は新規事業へ
の取り組みも行ってはいますが、おっしゃる通り現時点では不
十分です。売れるかどうか分からない新規事業への融資はリス
クが高いため、今後も対応が早急に改善するとは考えにくいで
す。世の中にない革新的な新規事業を思いついた時、銀行はア
イデア段階では事業パートナーにはなりえないと位置付けまし
ょう。まずは自己資金や公的な金融機関を利用してサンプルの
製作とテスト販売を行い、顧客ニーズがあることを最低限確認
したうえで、量産するための資金を相談するようにしましょう。

◆ 事業拡大資金を提供してくれるパートナーです。
「銀行は実績ばかり言ってくるが、そもそも実績があったらお
金はもう必要ない・・・」とおっしゃる経営者様も少なくあり
ません。銀行と経営者がボタンを掛け違えるポイントです。経
営者様の多くは、「資金繰りが苦しい時や新規事業のために仕
方なく融資を利用するが、事業が軌道に乗ったら融資は返すも
の。」という基本認識があるようです。一方、銀行は、「一定
の実績がある事業に対して、それをさらにスケールさせるため
の資金を提供するのが役割である。」と考えています。ゼロま
たはマイナスを1にする資金ではなく、1を10にする資金で
す。

銀行対応は経営者として現実的に対処しなくてはなりません。
銀行は、資金繰り悪化や新規事業に取り組む際に頼るパートナ
ーではなく、実績の出た事業をさらに拡大するための事業パー
トナーとして位置付けるのが正しいと考えます。

■【値上げ】と検索してください。様々な商品やサービスの
値上げが目立ちます。(ほんの一部を紹介します。)

「ポテトチップスなど一部商品を10年ぶりに値上げ、ペヤング
が即席カップ麺ペヤングソースやきそばを193円に値上げ、漁
獲量の減少や需要増加で日本水産がサバ缶11品目を値上げ、
カゴメが野菜飲料を5~10%値上げへ…ポッカサッポロは大型
ペット飲料15品目を物流費や原材料費の高騰により6月1日の納
品分から価格を一律20円引き上げ、赤いきつねや緑のたぬきな
どが原料の小麦粉の価格や人件費が上がったため6月最大30円
値上げ、ココイチが3月1日からカレーを値上げ、食材や人件費
の上昇が理由、明星食品が商品の値上げを発表、チャルメラシ
リーズなど70品目、小麦などの原材料や包装資材の価格、人件
費や物流費の上昇などが理由…スターバックスコーヒーが8年
ぶりに定番ドリンク値上げ10円程度引き上げ、ドリップコーヒ
ーなどが対象商品で、全体的な価格改定は2011年以来8年ぶり、
プッチンプリン実質の値上げへ、日清食品カップヌードルなど
各製品を6月1日出荷分から値上げへ、QBハウスのカット料金
が1,000円から1,200円に値上げ、キリンビバレッジが大型ペッ
トボトルを値上げ、午後の紅茶も物流費の上昇などが原因で5月
1日の出荷分から1本20円程度引き上げる、ハーゲンダッツ値上
げ約4年ぶり…」

原材料費や物流コスト、人件費の上昇により、自社の商品やサ
ービスの価格を上げざるを得ない局面が続きます。
(値上げの好機とも言えます。)

■価格転嫁してください。

◆原価が上昇すれば販売価格に転嫁する、これが常道です。
(×)価格に転嫁できるかどうかで悩む。
(○)どうすれば転嫁できるかで悩む。
後者で悩んでください。

○原価・仕入れ価格が上昇しても売価に転嫁できない、と結論
付ける経営者は少なくありません。これは安易すぎます。思考
放棄です。また、消費税の増税分すら上乗せできない、これは
重症です。

○価格に転嫁しても、売上(利益)を落とさない方法を探す、
こう考えるべきではないでしょうか。原価・仕入れ価格の上昇
を売価に転嫁しながらも、売上(利益)を落とさない方法を考
える、このためには相応の努力が必要です。A案、B案、C案、
それらの組合せなど、創意工夫と知恵が必要です。

■価格転嫁する、この選択をすることで、付加価値アップの必
然性が生まれます。

◆当面続く物価上昇局面において、価格転嫁を前提に創意工夫
を重ねていく会社様と、価格転嫁できないことを前提に創意工
夫を怠る会社様に分かれてしまうのでしょう。

○価格への転嫁は付加価値アップの試練を与えます。商品やサ
ービスへの創意工夫が求められます。

○価格の据え置きは、付加価値アップの意欲を奪います。コス
トに対する過度の忍耐から、知恵の創造・付加価値アップは生
まれません。

◎5年後・10年後、前者と後者には大きな差が生まれます。

■過去におけるこの考え方の差が、現時点の企業の優劣に表れ
ています。

価格の上昇に消極的な判断を続けてきた会社は、付加価値アッ
プへの挑戦を怠り、結果、価格を上げると売れない実態を余儀
なくされています。 一方、価格の上昇に積極的に取り組んでき
た会社は、それに見合う付加価値アップへの挑戦を繰り返して
きました。結果、価格を上げても売上を落とさない企業力を構
築できています。

■自社の過去を振り返り、今後の価格戦略を構築してください。

1.原価や仕入れ価格の上昇分は、確実に価格転嫁してくださ
い。
2.今後の消費税増税分は、そのすべてを価格に転嫁してくだ
さい。
3.価格転嫁するために、様々な創意工夫を行ってください。
この創意工夫こそが経営そのものです。
4.価格を上げることに積極的な経営を行ってください。

価格転嫁を行わない消極的な経営ではなく、より良いものを創
り出して単価アップを狙う経営を目指していただきたいと思っ
ています。後者の方が上手くいくことを、少なくとも歴史と統
計は証明しています。この機会に、自社の価格政策についても
ご再考いただければ幸いです。

ある社長様と決算対策のお打ち合わせをした際、「税金を減ら
す方策はないか?」とのご相談がありました。資金調達が上手
くいかないとのことで今期よりお付き合いを始めた社長様でし
たので、「税金と資金調達のどちらを優先しますか?」とお聞
きしたところ、「両方だ」とお答えになられました。

決算前に利益を一生懸命削って納税額を減らし、決算後に一生
懸命資金調達に動いている社長様が多くいらっしゃいますが、
納税額と資金調達額はトレードオフの関係です。納税額が少な
ければ資金調達は難しくなり、納税額が多ければ資金調達はし
やすくなります。

先述の社長様にも原理原則をご説明し、再度どちらを優先させ
るかお聞きしたところ、「本当に融資を受けられるなら利益を
出しても問題ないが、もしも資金調達ができなかった場合は税
金の支払いで資金繰りが苦しくなる。不安だ。」とおっしゃい
ました。

同社は増収増益で推移しており、このまま決算を迎えることが
できれば、融資を受けられる可能性は非常に高いと考えており
ましたが、社長様の不安を払拭するために、決算前に納税資金
500万円の資金調達を行いました。

無事に納税資金を調達できたため、社長様も安心して利益を出
したところ、決算後に総額で8,000万円の資金調達を行う
ことができました。社長様は、「銀行の対応が全然違う。どう
してこんなに融資をしてくれるのか?」と不思議そうでした。

どちらの社長様も、「利益を出せば融資を受けられるのは何と
なく分かっていたが、思ったよりも大きな金額を調達すること
ができた。」と口を揃えておっしゃいます。思ったよりも大き
な調達ができるのは、融資額は、利益に対するレバレッジ効果
が働くためです。

融資の上限はキャッシュフロー(純利益+減価償却費)に年数
をかけて算出するのが一般的です。キャッシュフローが100
万円ならば、7年返済で700万円の融資が可能です。キャッ
シュフローが500万円ならば7年返済で3,500万円とな
ります。400万円の利益の差で、資金調達力は2,800万
円も違ってきます。

税金面から考えても同様です。実効税率35%と仮定した場合、
100万円の利益で税金は35万円、500万円の利益だと
175万円の税金です。税額の違いは140万円ですが、資金
調達力は2,800万円も違ってきます。

100万円の利益の圧縮が、700万円から1,000万円の
資金調達の機会を失わせています。