前回は、年初にまず考えるべきはいくら儲けるかではなく、い
くら耐えられるかというお話をしました。

では、その耐える力をどのように把握するか。
それは資金繰り表になります。

資金繰り表というと、銀行に出すための資料、資金が苦しくな
った会社が作るものというイメージを持たれがちです。

しかし、実務の現場では、資金繰り表は会社が元気なときほど
役に立つ資料だと感じています。

理由はシンプルです。
資金繰り表は、未来の話だからです。

決算書は過去の成績表です。
どれだけ細かく見ても、もう起きてしまったことは変えられま
せん。

一方で資金繰り表は、このまま進むとどうなるか、売上が落ち
たらどうなるか、投資をした場合に資金は足りるのか、そうし
たことを事前に考えるための道具です。

特に年初は、まだ一年が始まったばかりです。
売上も、支出も、投資も、まだ調整が効きます。この時点で資
金の流れを一度整理しておくだけで、無理な判断を避けられる
確率は大きく上がります。

よくある誤解についても触れておきます。
「資金繰り表は完璧でなければ意味がない」という考え方です。

実際には、数字が多少ずれていても構いません。予測が外れる
のは当たり前です。
大切なのは、何もしなければこうなるという見通しを持つこと
です。

年初に一度作っておくと、売上が想定より伸びた、経費が増え
た、投資をしたくなった、そうした場面で判断の基準が生まれ
ます。

逆に、資金繰り表がないまま一年を走ると、判断はすべて感覚
になります。
今月はなんとなく大丈夫そう、まだ預金がある気がする、この
感覚的な経営が後から効いてきます。

資金繰りは、苦しくなってから考えるものではありません。
苦しくならないために、先に予測を立てましょう。

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令和8年の幕開けにあたり、日本の中小企業はかつてない構造
的な変化に直面しています。原材料費やエネルギーコストの高
騰による物価上昇、少子高齢化がもたらす人手不足、そして市
場環境の急速な変化に対応するための事業再構築。これらの課
題は一企業の努力だけでは解決が難しく、同時に“変化にどう
適応するか”が企業存続のカギとなります。

以下では、これら三大課題に対する具体的な視点と行動指針を
示します。今こそ、守りから攻めへの意識転換が求められてい
ます。

■【1】物価上昇:価格転嫁は「説得」から「納得」へ

物価上昇は経営体力を確実に削ります。原価高騰を吸収するだ
けの余力がない中小企業にとって、価格転嫁の技術が問われる
年になるでしょう。

単なる「値上げ」では顧客の理解は得られません。大切なのは、
“なぜその価格が必要なのか”を丁寧に伝えること。製品・サー
ビスの背景、品質、持続可能性への取り組みなど、価格に見合
った価値を伝えるストーリーテリングが不可欠です。

あわせて、業務効率化によるコスト構造の見直しも重要です。
クラウドツールやAIの導入で人件費や間接費を削減し、価格転
嫁の必要性そのものを低減させる取り組みが求められます。

■【2】人手不足:採るより育て、繋ぎ、活かす

中小企業の多くが「人が足りない」と嘆く一方、雇ってもすぐ
辞めてしまう現実も深刻です。もはや採用に頼るだけでは立ち
行かず、「定着」と「戦力化」こそが競争力の源泉となります。

具体的には、柔軟な勤務体系の整備(時短勤務、在宅ワーク、
副業容認など)や、成長を実感できるキャリア設計が効果的で
す。働きやすさと働きがいの両立を意識した職場環境が、人材
の流出を防ぎます。

また、シニアや外国人、育児・介護と両立する層など、多様な
人材の受け入れ体制の構築が必要です。業務マニュアルや研修
体制を整え、誰もが早期に活躍できる仕組みを作りましょう。
AIを活用した教育やサポートツールの導入も視野に入れるべき
です。

■【3】事業再構築:「縮小均衡」から「成長戦略」へ

停滞からの脱却には、今こそ大胆な事業見直しと再構築が必要
です。顧客ニーズは変化しており、従来の延長線上では成長は
望めません。

ここで大切なのは、“自社が本当に提供すべき価値は何か”を見
極め、限られた経営資源を集中させることです。小規模でも新
規事業や新市場へのチャレンジを始める企業は増えています。
既存顧客との関係を活かしたサービスの横展開や、ニッチ市場
への特化は有効な戦略です。

補助金制度や支援機関の活用も積極的に行いましょう。また、
AIやデジタルツールを活用したマーケティングや業務改善は、
再構築のスピードと確度を高める武器になります。

変化に強い組織こそ、未来を拓きます。
令和8年は、「変化に順応する企業」が「選ばれる企業」とな
る年です。先の読めない時代においても、正しい情報をもとに
迅速に意思決定し、小さく試し、大きく育てる。その柔軟性と
スピードこそが、これからの中小企業に求められる資質です。

経営者の皆様には、今年を“守り”ではなく“変革の始まり”と捉
えていただき、社内外に新たな価値を生み出す礎としていただ
きたいと願います。

あけましておめでとうございます。
本年も中小企業経営に役立つ財務の話をお届けしていきます。

年始に多くの経営者の方と話をすると、
・今年は売上を伸ばしたい
・今年こそ利益を残したい
そんな言葉をよく聞きます。

一方で、
財務の視点から見ると、年初にまず考えていただきたいのは
今年いくらお金が増えるかではなく、いくらお金が減る可能性
があるかという点です。

会社は利益が出ても倒れます。
逆に言えば、利益が少なくても資金が回っていれば生き残れま
す。
この違いを分けるのが資金繰りです。

資金繰りというと、苦しくなったときに考えるもの、銀行に求
められて作るもの、そのような印象を持たれがちですが、本来
は逆です。

余裕があるときにこそ、資金繰りを考える。
何も起きていない年初こそ、資金の流れを整理する。
これをしておけば多少の環境変化があっても大きく崩れません。

年初におすすめしたいのは、難しい資料を作ることではありま
せん。
・今ある預金はいくらか。
・毎月必ず出ていくお金はいくらか。
・売上が少し落ちたら何か月耐えられるか。

この三つを把握するだけでも、経営の見え方は大きく変わりま
す。

一年は長いようで、資金繰りの視点ではあっという間です。
売上が伸びているときほど、お金は静かに減っていきます。
その変化は、決算書が出来上がる頃には手遅れになっているこ
とも少なくありません。

ですので、今年一年をどう戦うかを考える前に、今年一年をど
うやって生き残るかを考える。それが財務の出発点です。

今年も一緒に、数字で会社を守る一年にしていきましょう。

来年は令和8年です。もちろん、昭和101年ではありません。
誰もが分かっているはずのこの事実ですが、今なお昭和の経営
観に基づいた判断や行動が、現場のあちこちに根強く残ってい
ます。

時代は変わりました。変化に気づいていながらも、経営スタイ
ルを見直すことなく、昭和の延長線上に立ち続けているとした
ら、この年の瀬にこそ、令和の時代にふさわしい「経営のあり
方」について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

■1.昭和と令和は、前提がまったく違います

昭和の時代は、「危険・不便・不快」といった社会課題が明確
でした。たとえば、1964年の東京オリンピック当時、冷蔵庫の
普及率はわずか10%。人々の暮らしはまだまだ不便で、解決す
べきテーマが山積していたのです。
企業は、こうした大きなニーズに応えるために商品開発を進め、
大量生産と均質化を武器に経済成長を支えました。「Japan as
No.1」と称された時代、同質性とスピードが成果を生んだので
す。

ところが、令和の日本はすでに「安全・便利・快適」が当たり
前となりました。大きな課題が見つかりにくい時代においては、
皆が同じ小さなテーマに群がる結果、差別化が難しくなり、激
しい価格競争へと突入。多くの企業が低成長・低収益のスパイ
ラルに悩まされています。

■2.昭和の「正解」が、今もあなたを縛っていませんか?

私たちの思考や判断は、無意識のうちに昭和の影響を受けてい
ます。先輩経営者や業界の常識、書籍、コンサルタントの提言、
その多くが、昭和の成功体験をベースに語られています。だか
らこそ、今こそ疑ってみるべきです。「本当にそのやり方は、
今の時代に合っているのか?」

◆ 新たな経営原則へのシフトが必要です

・【PL(損益計算書)】売上よりも利益。量より質へ。
・【BS(貸借対照表)】「持つ経営」から「持たない経営」へ。
・【MG(マネジメント)】ボトムアップからトップダウンへ。
雇用から業務委託へ。

■3.昭和の「型」から抜け出せていますか?

業界の枠組みや収益モデルも、昭和時代に定義されたものをそ
のまま使い続けていませんか?「この業界はこういうもの」
「このビジネスモデルが定番」、そんな固定観念こそ、変化の
足かせです。

◆ 新たなビジネスの「型」へ

・サブスクリプション1.0 ⇒ 2.0(継続価値の再設計)
・ソリューション提供企業への転換
・D2C(Direct to Consumer)、クラウドファンディング
・DX(デジタル変革)の推進
・業界の垣根を超える展開
・ニューミドルマン(購買代理)⇒ プラットフォーマーへ

■4.これからの変化は「破壊的」に進みます

今後のビジネス環境は、変化ではなく「激変」が常態となりま
す。真にオンラインを武器とする企業が、リアルな世界を飲み
込む「OMO(Online Merges with Offline)」の時代が加速
しています。たとえば、銀行業界の縮小はその一例に過ぎませ
ん。同様の構造変化は、あらゆる分野で起こるでしょう。
・AI(例:ChatGPT)による知的労働の代替
・カーボンニュートラルによる産業構造の変革(特に自動車業
界)
こうした環境変化の波に、旧来型の組織では対応しきれません。

■5.ルールが変わるとき、中小企業には最大のチャンスが訪
れます

競技のルールが変われば、強者が変わります。100mを最速で
走れなくても、「100mを20秒ジャストで走る」競技が新たに
生まれれば、あなたにも金メダルの可能性がある。今はまさに、
その「ルールが書き換わる時代」です。しがらみに縛られない
中小企業や起業家こそが、新たな主役となり得るタイミングで
す。

■6.令和時代を生き抜く企業体へ

同質化・価格競争に巻き込まれず、独自のポジショニングを確
立し、新たな市場や仕組みを自ら生み出していく、そのような
企業こそが、これからの時代に求められます。

「与えられたルールで戦う」から「自らルールを創る」企業へ。
あなたの会社も、令和のリーダー企業となれるかもしれません。

※お世話になりました。来年もよい年でありますように。
感謝・合掌

先日、在庫型ビジネスの経営者の方から、利益が出ているのに
資金繰りが苦しいという相談を受けました。実はこの悩みは多
くの企業に共通しており、理由を一言でまとめると、利益がそ
のまま在庫に置き換わってしまうという構造にあります。

企業が本当に儲かったと判断できるのは、最終的にキャッシュ
が残ったときです。損益計算書で利益が出ていても、売掛金や
在庫が増えると資金は手元に戻りません。特に在庫ビジネスで
は、売上が伸びるほど在庫の量も比例して増えていくため、利
益が在庫の購入に吸収される流れが続きます。

在庫型ビジネスの特徴は、売れる量が増えるほど必要な在庫も
増える点にあります。仕入や製造のために先にお金が出ていき、
商品が売れてようやく回収できます。しかし、成長を続ける企
業ほど仕入も増え続けるため、利益が増えた分だけ在庫が膨ら
み、手元資金は一向に増えません。

極端に言えば、会社が右肩上がりで成長し続ける限り、在庫に
囚われたキャッシュは返ってこないという状態になります。本
当にキャッシュを回収できるのは、売上が横ばいになったとき
か、在庫が減ったとき、または在庫回転率が改善したときです。
つまり、成長ではなく効率化や停滞の局面で初めてお金が戻っ
てきます。

この構造は在庫ビジネスに特有のもので、黒字倒産が多い理由
もここにあります。売上が増えれば利益も増えるため経営が順
調に見えますが、実際には同時に在庫が増え続け、キャッシュ
不足が慢性化します。銀行から見ると、在庫が過大な企業は資
金繰りリスクが高いと判断されがちです。

ではどうすればよいのか。最も効果が大きいのは在庫回転率の
改善です。同じ売上でも、在庫が少なければ少ないほどキャッ
シュは早く戻ります。また、粗利益率を高めることで、在庫に
吸収される資金の圧力を緩和することも有効です。さらに、売
上拡大のスピードと在庫増加のバランスを管理することも重要です。

在庫ビジネスでは、利益よりも資金繰りの管理が重視されます。
売れれば売れるほど資金が減るという逆説的な構造を理解し、
自社の在庫の持ち方を見直すことが、健全な経営の第一歩です。
黒字だけを見て安心するのではなく、キャッシュがどの段階で
手元に戻るのかを意識した経営判断が求められます。

深刻な人手不足と採用難が続く日本において、中小企業にとっ
て「優秀な人材の離職」は事業の根幹を揺るがす重大リスクで
す。特に優秀人材は、利益・改善・顧客関係・組織活性の中心
に位置しており、その離脱は売上や生産性だけでなく、企業文
化にも長期的な損失をもたらします。離職が起きてから手を打
つ企業は常に後追いになります。今求められるのは、「離職が
起こらない組織」を意図して設計する経営姿勢です。

1.優秀人材を“横並び”の中に埋没させないこと

中小企業では公平性を重視するあまり、全員を同じ基準で扱う
傾向が根強くあります。しかし、企業の成長を牽引しているの
は少数の高い成果を上げる人材です。優秀人材が離職を考える
最大要因は、「努力と成果が正しく評価されない環境」にあり
ます。

経営者は、
・権限の付与
・経営情報へのアクセス
・処遇・昇進のスピード
・重要プロジェクトへの参画
といった点で明確に差をつけ、「成果の高い人材にこそ多くの
機会が開かれる」という組織文化を築く必要があります。これ
は不公平ではなく、企業を存続・成長させるための戦略的配慮
です。

2.経営の意思決定に関与できる環境を整える

優秀人材が会社に残る理由は、給与よりも、「この会社の未来
づくりに携われている」という手応えにあります。

そのため、
・経営計画づくりへの参加
・新規事業リーダーとしての抜擢
・横断プロジェクトへのアサイン
・経営会議への出席
など、会社の方向性を決める場に関わるチャンスを積極的に提
供することが重要です。優秀人材ほど裁量の少ない業務に強い
ストレスを感じ、「成長が止まった」と思った瞬間に外部へ視
線を向けます。「あなたの力が必要です」というメッセージを
制度として示すことが離職防止の大きな鍵になります。

3.成長機会を設計し、“成長し続ける実感”を提供する

優秀人材の共通点は「成長意欲が高い」ことです。現状維持を
求める社員は残りますが、優秀人材は成長実感が消えた瞬間に
辞める準備を始めます。そのため、成長機会は偶然に任せるの
ではなく、経営者が明確に設計し、継続的に提示する必要があ
ります。

・外部研修・資格取得支援
・新サービス開発への参加
・部門間ローテーション
・若手リーダー育成制度
・社内講師・メンター制度
など、成長の階段が連続している企業は離職率が低く、優秀人
材が根付きやすくなります。「この会社にいれば、3年後の自
分が今より確実に成長している」という感覚を与えることが最
も重要です。

4.評価・給与の透明性が“離職の芽”を摘み取る

優秀人材の離職理由の大半は、評価額そのものより「なぜこの
評価なのかがわからない」という納得感の欠如にあります。

経営者は、
・数値基準(売上、KPIなど)
・行動基準(改善提案、挑戦姿勢、チーム貢献など)
・ランク・役割定義
・昇給・昇格条件
を明文化し、評価プロセスを透明化する必要があります。曖昧
な評価は不信感を生み、優秀人材から順に離職していきます。
経営者は「優秀人材への処遇はコストではなく投資である」と
いう視点を持ち、他社に奪われない環境づくりを進めるべきで
す。

5.離職を防ぐ最大の要因は、経営者自身の姿勢です

多くの中小企業では、制度以上に経営者の振る舞いが離職を引
き起こしています。

・朝令暮改
・感情的な指示
・不公平な評価
・情報共有の欠如
・経営者自身が学ばない
優秀人材ほど、こうした組織の“不健全さ”を敏感に察知しま
す。逆に、経営者が学び、変わり、未来を語り、組織に誠実に
向き合う姿勢を示す会社には、人材は定着し、強い結束が生ま
れます。優秀人材は「経営者の成長スピード」をよく見ていま
す。

離職は“防ぐ”のではなく“発生しない構造に変える”

優秀人材の離職は個人の問題ではなく、経営設計の問題です。
採用市場が厳しくなる今、優秀人材1名の定着は、新規採用10
名に匹敵する価値を生みます。

中小企業は、
・能力に応じた機会提供
・意思決定プロセスへの参画
・成長機会の体系化
・評価・処遇の透明性
・経営者自身の変化
を経営の最優先テーマとして掲げるべきです。

優秀人材が集まり、根付き、成長し続ける企業こそ、これから
の厳しい経営環境を勝ち抜く力を持つはずです。

先日、ある経営者の方から「接待費が多いので、自分の店を作
ったほうが安上がりではないか」と相談を受けました。じつは
この手の相談は珍しくありません。
本業が好調になり資金に余裕が出ると、接待の場として飲食店
を持ちたい、税金を払うくらいなら店でも作っておこうという
気持ちが湧いてくる経営者は多いものです。

しかし、このような理由で飲食店経営に踏み出すのは、経営判
断として非常にリスクの高い選択です。本気で新規事業として
取り組む場合とは前提が全く異なり、想像以上に悪影響が大き
くなります。

■ 接待費の節約目的では、飲食店の赤字は埋まらない
飲食店を持てば、外で飲むより安く済むだろう。こうした発想
はもっともらしく見えますが、現実には成立しません。

飲食店は看板を上げた瞬間から固定費が発生し続けます。
家賃、人件費、光熱費、仕入れ、消耗品など、接待費の削減で
賄えるレベルではありません。
たとえ接待費が月に数十万円かかっていたとしても、飲食店の
赤字はその金額を軽く超えることがほとんどです。

結果として、節約するどころか本業の利益で飲食店の赤字を穴
埋めする構造になりがちです。

■ 税金を払うくらいなら飲食店でも…という発想も危険
「税金を払うくらいなら店を作ったほうが良い」という考え方
もよく聞きますが、これは典型的な誤解です。

税金は利益の一部ですが、飲食店の赤字は利益を確実に減らし
ます。
税金を減らすために飲食店を始める行為は、節税どころか、本
業まで巻き込んで会社全体の財務体質を弱める可能性が高くな
ります。

■ 金融機関の評価は確実に下がる
金融機関は、飲食店を道楽的に始めたかどうかを非常に敏感に
見ています。
理由は以下の三つです。

1.本業の集中力が落ちると判断される
2.利益を生まない投資に走り、財務規律が緩んでいると見え

3.「赤字体質の事業を作った」ことで、返済能力の評価が下
がる

特に3つ目は深刻で、赤字の飲食店を持っているだけで、会社
全体の格付が下がり、資金調達力が落ちることがあります。

金融機関は何を始めたかよりも、なぜ始めたかを重視します。
そこに経営的な合理性がない場合、評価がマイナスに振れるの
は避けられません。

■ 背景にあるのは「本業好調期の油断」
飲食店を道楽的に始める経営者の多くは、本業が好調な時期に
判断しています。
資金に余裕がある、気持ちにも余裕があるため、「少しくらい
遊びでやっても大丈夫だろう」と感じてしまうのです。

しかし、事業の黄金期こそ、
・内部留保を積む
・組織を強くする
・本業の改善に投資する
べきタイミングです。

余剰資源を本業と無関係な事業に流すことは、会社の成長可能
性を自ら削ってしまう行為です。

飲食店を始めたいという気持ち自体は否定しません。しかし、
経営の基本は資源を最も効果的に使うことにあります。もし、
飲食店という選択肢が本気の事業計画ではなく気分や感覚に近
いのであれば、もう一度立ち止まって考えてみる方が賢明です。

2026年を目途に政府が進める労働基準法の抜本的見直しは、
単なる制度改正を超えたインパクトを私たち中小企業経営者に
与えるものとなるでしょう。連続勤務の上限規制、勤務間イン
ターバルの義務化、有休取得時の賃金算定の統一、副業・兼業
との向き合い方の見直し、さらには「つながらない権利」の制
度化まで、これらの改正は、まさに“人”を中心に据えた経営”
への転換を私たちに促しています。

以下では、迫りくる制度改正を単なる義務としてではなく、
「競争力の源泉」として捉えるための視座を提示します。

1.「時間」より「成果」で評価する文化へ

これまで多くの企業では、「長く働く」ことが熱意や忠誠心の
証とされてきました。しかし、勤務間に11時間以上の休息を義
務づけるインターバル制度や、14日以上の連続勤務の禁止とい
った改正の方向性は、明確に「働く時間」よりも「働く質」を
重視する未来を示しています。

中小企業こそ、限られたリソースの中で最大の成果を上げる工
夫が求められます。属人化された業務の棚卸し、業務プロセス
の見える化、ITツールの活用による生産性向上は、もはや選
択肢ではなく必須課題です。時間に依存しないマネジメントへ
と舵を切ることが、労務リスクの回避と利益の最大化を同時に
実現します。

2.「健康経営」は人材確保の切り札に

働き方の見直しは、法令順守だけでなく、「選ばれる企業」に
なるための必須条件でもあります。近年、求職者が企業に求め
るものは報酬や安定性だけでなく、「安心して働ける環境」に
重きが置かれています。

休日を明確に定めることや、勤務時間外の連絡を制限する「つ
ながらない権利」の尊重は、従業員の心身の健康だけでなく、
企業への信頼感とエンゲージメントの向上に直結します。法改
正に先んじて、健康管理を経営課題として捉えた取り組みは、
採用市場でも他社との差別化につながるでしょう。

3.副業・兼業・フリーランスとの関係性を再定義する

働き方の多様化に伴い、「業務委託」や「フリーランス」とい
った非正規的な関係性が増加しています。しかし、改正案では、
「名ばかり業務委託」や「偽装請負」への警鐘が鳴らされてお
り、契約上は業務委託であっても、実態が“労働者”に該当すれ
ば労基法の適用対象となる可能性がある点に注意が必要です。

さらに、副業・兼業者の労働時間通算や割増賃金の扱いに関し
ても、企業間での責任分担や管理体制が問われることになりま
す。契約書の整備はもちろん、業務の指示範囲、勤務実態の記
録などを含めて、法令と整合性の取れた運用体制の構築が急務
です。

4.中小企業だからこそ、変化への“即応力”を武器に

大企業に比べ、組織規模が小さい中小企業は、意思決定のスピ
ードと柔軟性において優れています。つまり、制度改正に対し
て「いち早く対応すること」自体が、競争力の源泉となり得ま
す。

例えば、今のうちから就業規則を見直し、インターバル時間の
設定や休日の明確化、有休の取得ルールなどを整備しておくこ
とで、制度施行時に慌てることなく対応できます。さらに、従
業員との対話を通じて制度設計を行えば、社内の信頼関係を深
める好機にもなります。

2026年の法改正は、ただの「義務」ではありません。それは、
私たちが目指すべき「持続可能な企業経営」と「働く人を大切
にする企業文化」への扉を開くものであり、そのチャンスをど
う活かすかが、これからの経営者の力量です。

目の前の制度改正を超え、次世代に選ばれる企業へ。今こそ、
働き方の再設計に取り組む絶好のタイミングです。

人を雇う、広告を出す、値引き販売をする。
経営にはさまざまな意思決定がありますが、最も気がかりなの
は採算が取れるかどうかという点ではないでしょうか。
最終的には実際にやってみなければ分からない部分もあります。
しかし、その前に机上で採算が合うかどうかを検証することは、
非常に重要なプロセスです。

投資判断において鍵になるのが、採算ラインとなる売上高です。
専門的には損益分岐点売上高と呼びます。
損益分岐点売上高は固定費を変動費率で割ることで求められま
すが、変動費率を正確に算定するのは手間がかかるため、まず
は粗利益率で代用して大まかな採算ラインを把握する方法が実
務上便利です。
固定費を粗利益率で割った金額が、投資が採算に乗る最低限の
売上高となります。

ここからは、よくある3つのケースで考えてみましょう。

■ 営業人員を採用する場合

粗利益率が30%の商品を扱う会社が、新たに営業社員を雇うケ
ースを考えます。
例えば、この営業社員にかかる固定費が総額で45万円(月収30
万円、福利厚生費5万円、営業経費10万円)だとします。

固定費45万円を粗利益率30%で割ると、損益分岐点売上高は
150万円となります。
つまり、この営業社員が毎月150万円の販売を達成できなけれ
ば赤字要員となり、採用が企業収益に貢献しません。
さらに会社として利益を上げたい場合は、この150万円に期待
利益を上乗せした金額が、採用時の最低ラインになります。

■ 広告費の採算を考える場合

粗利益率30%の商品について、広告費として100万円を投じる
ケースを考えます。

固定費となる広告費100万円を粗利益率30%で割ると、損益分
岐点売上高は333万円となります。
つまり、100万円の広告投資を行う場合、その広告によって333
万円以上の売上が見込めなければ採算が取れないということに
なります。

■ 値引き販売の採算を考える場合

粗利益率30%の商品を5%値引きして販売する場合、粗利益率
は約26.3%に低下します。

固定費が50万円だとすると、通常販売時の損益分岐点売上高は、
50万円を30%で割って約166万円。
値引き販売後は、50万円を26.3%で割って約190万円。

つまり、値引きによって必要な売上高は24万円ほど増えること
になり、ここを超えて初めて値引き販売の効果が出てくるとい
う計算になります。

投資判断を誤る会社の多くは、明確な損益分岐点の把握をせず
に意思決定を行っています。無謀な値引きや過大な広告投資、
人員採用の失敗などがその典型です。

投資に踏み切る前に、固定費と粗利益率から損益分岐点売上高
を算出し、そのラインが現実的に達成できるかどうかを必ず確
認していただきたいと思います。

中小企業が長期的に発展するためには、収益の柱を複数持つこ
とが重要です。しかし、限られた人材や資金の中でゼロから新
規事業を立ち上げるのは、容易ではありません。新しい市場や
技術に対応しきれず、試行錯誤の末に撤退を余儀なくされるケ
ースも珍しくないのが現実です。

こうした中で注目されているのが、「M&A(企業・事業の買
収)」を起点とした新規事業創出のアプローチです。既存の経
営資源だけでは届かなかった分野やスピードを、M&Aによっ
て一気に補完し、成長の軌道に乗せることが可能になります。

■M&Aはなぜ新規事業の有効な手段となるのか?

まず第一に、M&Aは「すでに顧客や収益を持つ事業」を取り
込む手段です。自前で一から市場開拓や商品開発をするよりも、
はるかにリスクと時間を抑えることができます。

第二に、M&Aは技術・ノウハウ・人材といった「見えない資
産」を獲得する機会でもあります。たとえば、自社が不得意と
するデジタル領域やマーケティング分野を強みとする企業を買
収すれば、短期間で競争力のある新サービスの展開が可能です。

第三に、現在の日本では後継者不足に悩む中小企業が多く、良
質な事業を比較的安価に取得できる環境が整っています。これ
は中小企業にとって大きなチャンスであり、将来の成長エンジ
ンを外部から取り込む好機といえるでしょう。

■中小企業がM&Aを活用して新規事業を成功させるためのス
テップ

●目的の明確化と戦略立案

まず、自社の経営課題や成長ビジョンを整理し、「なぜ新規事
業が必要か」「どの分野に進出すべきか」を明確にします。将
来のポートフォリオをどう描くかが、すべての判断軸になりま
す。

●M&Aの狙いを具体化する

単なる事業規模の拡大ではなく、「どのような相乗効果を得た
いか」を明確に定義します。既存顧客へのクロスセル、新しい
サービスの開発、または人材の獲得など、目的を明確にして初
めて、適切な対象企業が選定できます。

●専門家と連携し、適切なマッチングを行う

M&Aは専門的な知見が求められる領域です。中小企業の立場
に立って支援してくれるM&A支援事業者、税理士、金融機関
などと連携し、実行可能性の高い候補を見極めることが重要で
す。中小企業庁や商工会議所など公的支援の活用も有効です。

●買収後の統合(PMI)を重視する

M&Aは「買ったら終わり」ではなく、「買ってからが始まり」
です。文化や業務の違いを乗り越え、一体感ある組織を築くた
めの統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)を丁寧に
設計し、段階的に実行する必要があります。

●新しい価値を創出する事業モデルの再構築

単なる延長線上ではなく、自社のリソースと買収先の強みを掛
け合わせることで、「これまでにない価値」を創出することが
最終目標です。製造業×IT、小売×地域サービス、既存事業×
海外市場など、多様な組み合わせの可能性を探りましょう。

かつては「守りの経営」が重視されてきた中小企業経営ですが、
いまや「攻めの一手」が未来を切り拓く鍵となります。M&A
は中小企業にとって未知の領域に思えるかもしれませんが、適
切に戦略を練り、信頼できるパートナーと共に進めれば、十分
に実現可能な成長戦略です。

リスクを恐れるより、未来への布石をどう打つか。自社の強み
を活かしながら、外部資源を取り込むことで、これまでにない
新しい事業展開の途が開かれるかもしれません。