資金調達の現場で、銀行との交渉に強い姿勢で臨む経営者様を
しばしば見かけます。「もっと貸してほしい」「金利を下げて
ほしい」「手続きが面倒だ」と、時に圧力をかけるような口調
で交渉を進めようとするケースです。
しかし、残念ながら、そのような態度で望む結果を得られるこ
とはほとんどありません。

銀行と企業の関係は、一見「対等な取引」に見えても、実際に
は貸し手と借り手という非対称な関係にあります。銀行は預金
者の資金を扱う立場であり、リスク管理を最優先に意思決定し
ます。
したがって、経営者がどれほど強い言葉で要望しても、銀行は
社内の稟議基準やリスク許容度を超える判断を下すことはでき
ません。つまり、交渉の勝敗を決めるのは“声の大きさ”ではな
く、銀行の論理をどれだけ理解できるかです。

■ 銀行の論理を理解する
銀行は「どのような条件なら融資できるか」を常に内部で判断
しています。
その評価軸は、業績や担保だけでなく、「情報開示の誠実さ」
「数字の一貫性」「社長の説明力」にも及びます。
特に中小企業の場合、定量的な財務データだけでは判断しきれ
ない部分が多いため、経営者の姿勢そのものが重要な評価ポイ
ントになります。

高圧的な交渉は、この「誠実さ」と「信頼性」を損ねる最も大
きな要因です。一度でも「話しづらい相手」と思われると、銀
行は情報提供を控え、結果的にチャンスを逃すことになります。

■ 銀行交渉は“交渉”ではなく“対話”
銀行交渉は、条件を引き出す場ではなく、相互理解を深める場
だと考えた方がうまくいきます。
たとえば、「なぜ今資金が必要なのか」「どのように返済して
いくのか」を明確に伝えることで、銀行はリスクを具体的に把
握できます。
経営者が銀行の立場を理解し、銀行が経営者の意図を理解する。
この関係が築けたとき、融資はスムーズに進みます。

■ まとめ
・銀行との関係は、交渉力ではなく信用力の積み重ねで決まり
ます。
・日頃から丁寧な情報共有を心がけ、経営の変化を早めに伝え
ましょう。
・銀行の論理を理解し、その枠内で最善の結果を導く努力をし
ましょう。枠外の要望をいくら声高に叫んでも、良い結果は得
られません。
以上が、本当の意味での“銀行交渉の力”と考えます。

銀行は敵ではありません。むしろ、信頼を積み上げるほどに、
最も心強い味方になります。
強気の言葉より、誠実な説明。これこそが、銀行交渉における
最大の武器です。

人手不足、賃上げ、物価上昇、中小企業を取り巻く環境は急速
に変化しています。こうした中、「人を増やす経営」には限界
があります。いまこそ、外注化・アウトソーシングを“守りの
コスト削減策”から“攻めの経営戦略”へと位置づけ直す時です。
自社のリソースを最適に配分し、限られた人材で最大の成果を
上げるための再設計、それこそが現代の外注戦略の本質です。

●1.外注の目的は「削減」ではなく「集中」です

外注化を単なる経費削減と捉えると、本質を見誤ります。真の
目的は、「やるべき仕事に集中するため」です。
たとえば製造業であれば、試作や部品加工を外部に委託し、自
社は設計・営業・品質管理に専念します。小売・飲食業であれ
ば、EC運営やSNS広告を専門家に任せ、顧客体験の磨き込
みに注力します。
重要なのは、“何を外に出すか”よりも、“何を自社に残すか”の
見極めです。コア領域を守り、ノンコアを外部化する、この線
引きが経営の競争力を左右します。

●2.専門性とスピードを「借りる」という発想を持ちましょ

現代の外注化は、専門知識・技術・スピードを“借りる”戦略で
もあります。社内で人材を育てるには時間がかかりますが、外
部の専門家を活用すれば、即戦力をすぐに得ることができます。
デザイン、IT、マーケティング、法務・会計、採用支援など
は、内製よりも外注のほうが速く正確な成果を出せるケースが
多いです。
「自社でできるか」ではなく、「自社でやるべきか」という発
想に切り替えることで、限られた人材を最大限に活かせます。

●3.外注先は「業者」ではなく「経営パートナー」として選
びましょう

価格だけで外注先を選ぶと失敗することが多いです。
成果を上げるためには、「自社の目的を理解し、共に成長を目
指せるパートナー」として選定する姿勢が不可欠です。単なる
作業委託ではなく、理念・目標・KPIを共有できる関係を築
くことで、成果の質も継続性も高まります。
“安い”ではなく、“提案できる”“改善できる”外注先を選ぶこと。
これは、短期的なコストではなく、中長期的な成果を重視する
経営者の判断基準です。

●4.外注化の成否は「仕組み」と「見える化」で決まります

外注を成功させるには、業務の標準化と可視化が不可欠です。
依頼内容、納期、成果基準、責任範囲を明確にしなければ、期
待と実際にズレが生じます。GoogleスプレッドシートやAsana、
Notionなどのクラウドツールで進捗を共有し、コスト・成果を
数値で管理することが望ましいです。
さらに、秘密保持契約(NDA)や業務委託契約を整備し、知
的財産や成果物の帰属を明確にしておくことで、トラブルを未
然に防ぐことができます。

●5.「社員+外部人材」のハイブリッド型組織を目指しまし
ょう

理想は、社員と外注スタッフが連携する“ハイブリッド型組織”
です。営業は自社、クリエイティブは外部、経理はクラウド、
マーケティングは専門チームというように、機能ごとに最適配
置を行います。これにより固定費を変動費化でき、景気変動に
も柔軟に対応できる体制を築けます。また、外注先から得た知
見を吸収し、将来的に内製化することで、自社の組織力そのも
のを強化する好循環を生み出せます。

●6.経営者に問われるのは「任せ方の技術」です

外注化の失敗の多くは、丸投げにあります。
目的、成果、判断基準、報告ルールを明示せずに任せてしまう
と、双方に不満が残ります。経営者に求められるのは、「任せ
る技術」です。外注先に裁量を与えながらも、責任と目的を共
有する、この姿勢が、外注活用を成功に導く最大のポイントで
す。指示が曖昧であれば、外注も迷います。経営者の説明力こ
そが、外注化時代の新たな経営能力といえるでしょう。

外注化は「柔軟な経営」への進化です。
外注化はコスト削減策ではなく、構造改革の一手です。
「自前主義」から「共創主義」へ、すべてを自社で抱え込む時
代は終わりました。外部の力を積極的に取り込み、社内の創造
力を最大化する企業こそ、次の10年を生き抜きます。外注化・
アウトソーシングは、弱者の戦略ではありません。変化の時代
をしなやかに勝ち抜くための、“攻めの経営進化策”なのです。

経営の現場では、税理士、社労士、コンサルタントなど、さま
ざまな専門家の力を借りる機会があります。経営の課題は広く、
専門知識のサポートはとても心強いものです。
ただ、最近少し気になるのは、専門家に頼りすぎてしまう経営
者が増えていることです。専門家に意見を求めるのは良いこと
ですが、経営判断そのものまで任せてしまうと、思わぬリスク
を生むことがあります。

1.判断を委ねすぎると責任がぼやける
「専門家がそう言ったから」と判断の理由を外に置いてしまう
と、社長自身の責任感が薄れます。どんなアドバイスも、最終
的な判断と責任は社長にしか取れません。意見は“材料”であり、
“結論”ではない、という感覚を持つことが大切です。

2.専門家の視点は限定的
専門家はそれぞれの分野に詳しい一方で、視野がその分野に偏
ることもあります。たとえば税務の専門家は節税を、労務の専
門家は法令順守を優先します。しかし経営は全体のバランスで
成り立つものです。専門家の提案を「経営の全体設計」にどう
取り込むかは社長の役割です。

3.現場感覚を失わない
外部の専門家に任せきりになると、社内で数字や状況を把握す
る力が弱まります。会計や人事の判断を外注しているうちに、
経営者自身が現場の変化を感じ取れなくなることもあります。
専門家にお願いする部分と、自社で見るべき部分をしっかり線
引きしておきましょう。

4.依存にはコストもついてくる
専門家に頼るほど費用は増えます。相談のたびに時間もかかり
ます。アドバイスを求めること自体は良い投資ですが、“何を
決めるための相談か”を明確にして依頼することで、ムダを減ら
すことができます。

5.「使う力」を身につける
大切なのは、専門家をどう“使いこなすか”です。意見をもらっ
たら、自社の状況に照らして整理し、判断の軸を自分の中に持
つこと。専門家は社長の代わりに判断する人ではなく、考える
ための材料を提供してくれるパートナーです。

経営者に必要なのは、「専門家に頼らないこと」ではなく、
「専門家をうまく使う力」です。
専門家の助言を取り入れながらも、最終的な判断は自分の言葉
で行う。この距離感を保てる経営者こそが、ブレない経営を続
けられます。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

「値決めは経営である」は稲盛和夫氏の言葉です。
しかし、多くの中小企業では、依然として“原価に利益を乗せ
るだけ”の単純な値決めが行われています。コスト上昇、賃上
げ圧力、消費者の多様化。今の時代、値決めは「守り」ではな
く「攻め」の経営戦略です。ここでは、中小企業でも実践でき
る7つの値決め戦略を提言します。

●1.コスト・プラス方式 ― 経営の最低ラインを守る

もっとも基本的な手法は、原価に一定の利益率を加える「コス
ト・プラス方式」です。製造業であれば原材料費・人件費・間
接費を明確にし、最低限必要な粗利益を確保する。「利益を残
す仕組み」をつくる第一歩は、この下限価格の明確化から始ま
ります。ただし、これを最終価格にするのではなく、“赤字を
防ぐ防波堤”として位置づけることが重要です。

●2.競争ベース方式 ― 市場感覚を持つ

同業他社の価格を参考にしながら、自社の立ち位置を決める方
法です。価格競争が激しい市場では有効ですが、最安値争いに
巻き込まれる危険もあります。肝心なのは「5%高い理由」を
明確にすること。たとえば「納期が早い」「品質が安定してい
る」「担当者が変わらない」など、付加価値を言語化できれば、
価格差は納得に変わります。

●3.価値ベース方式 ― 顧客が感じる価値で決める

顧客が「何に価値を感じているか」を起点に価格を設定する考
え方です。時間短縮、信頼性、安心感、ブランドなど、目に見
えない価値を価格に反映します。たとえば、夜間対応の清掃業
者が通常より高い料金でも選ばれるのは、“安心”という価値
に顧客が対価を払っているからです。値決めとは「顧客の感じ
るベネフィットを数値化する作業」なのです。

●4.ダイナミックプライシング ― 柔軟に価格を運用する

需要・時間帯・在庫状況などによって価格を変える戦略です。
航空会社やホテルだけでなく、今や飲食店、美容室、レンタル
業などでも導入が進んでいます。
・平日昼は割引して空席を埋める
・週末や繁忙期はプレミア価格で利益を確保
AIやPOSデータを使わなくても、曜日・時間帯・天候別料
金といった手法から始められます。「固定価格の経営」から
「運用価格の経営」へ。中小企業にもチャンスがあります。

●5.サブスクリプション方式 ― 継続利用を収益化する

「月額制」「定額制」で安定収益を得る仕組みです。顧客はコ
ストを予測しやすく、企業はLTV(顧客生涯価値)を高めら
れます。
美容室の「通い放題プラン」、飲食店の「定額ランチパス」、
印刷会社の「月額販促セット」。ポイントは、“毎月支払う理
由”を設計すること。単なる値引きではなく、「安心・便利・
特典」を積み重ねることで継続率が上がります。

●6.バンドル価格 ― セット化で価値を高める

複数の商品・サービスをまとめて販売し、単品より割安に見せ
る手法です。たとえば、飲食店なら「ランチ+ドリンク+デザ
ートセット」、製造業なら「部品+メンテナンス契約」など。
セット化することで顧客単価を上げ、在庫処分や新商品の導入
にも活用できます。ただし、単なる値引きにならぬよう、「組
み合わせの意味」を明確にすることが鍵です。

●7.プレミアム・プライシング ― 高価格を戦略に変える

「高いから売れない」ではなく、「高いから選ばれる」を目指
す戦略。価格を上げる代わりに、品質・体験・ストーリーで差
別化します。星野リゾートやスターバックスはその典型で、価
格を“ブランド構築の手段”として使っています。中小企業で
も、「社長が直接対応」「完全予約制」「地域限定」など、特
別感を演出する工夫でプレミアム価格を実現できます。

「値決め力」は「生き残り力」です。物価高・人件費高・市場
縮小という環境の中で、価格を動かさない企業は衰退します。
「いくらで売るか」は、「誰に・何を・どう届けるか」と並ぶ
経営の根幹です。値決めを恐れず、価格を戦略的に設計できる
企業だけが、変化の時代を生き抜くことができます。

中小企業こそ、「値決め=経営」という原点に立ち返り、価格
を“数字”ではなく“戦略”として扱うべき時です。

資金調達のご相談を受けていると、「もっと早くご相談いただ
けていれば、状況は違っていたのに」と感じることが少なくあ
りません。資金繰りの問題は、ほとんどの場合“突発的な出来事”
ではなく、“備えの欠如”から始まります。今回は、財務を後回
しにしたことでチャンスを逃した企業の例をもとに、先手の財
務の重要性を考えてみます。

■ 「今は大丈夫」が一番危ない
業績が安定しているときほど、資金調達への関心が薄れがちで
す。ある企業では、過去に銀行から融資を勧められた際、「必
要ない」と断っていました。その後、取引先の不調で売上が急
減。急いで融資を申し込むも、銀行の回答は「今回は見送り」。
結果的に、手元資金が尽きるまでのわずかな期間で経営が傾き
ました。
中小企業にとっては、「借りられるときに借りておく」ことが
最大のリスクヘッジです。資金の余裕が経営の自由度を生みま
す。

■ 黒字なのに資金が回らないワナ
売上が伸びているのに資金繰りが厳しくなる。これは珍しい話
ではありません。仕入や人件費の支払いが先行し、入金が後に
なる構造が原因です。特に成長期の企業ほどキャッシュアウト
が増え、手元資金が追いつかなくなります。忙しいときほど
「資金繰り表の更新」を怠りがちですが、1か月先、3か月先
の資金残高を見通すだけでも経営判断は変わります。

■ 「返済は早ければ良い」ではない
借入金を早く返すことが美徳とされる傾向がありますが、返済
を急ぐあまり運転資金が枯渇してしまう例も少なくありません。
返済のスピードは経営体力に合わせて設計するものです。手元
資金を厚く保ち、いざという時の選択肢を確保することこそが、
健全な財務管理です。

■ 財務は“結果”ではなく“戦略”
財務とは、決算の数字をまとめる作業ではなく、経営そのもの
を支える戦略的活動です。資金調達・資金繰り・返済設計のど
れをとっても、後手に回れば回るほど選択肢は減っていきます。
問題が起きてからの財務対応は“守り”であり、事前の準備こそ
が“攻め”の経営につながります。

「財務は起きてから考えるものではなく、起きる前に仕組みを
つくるもの。」
この視点を経営に根付かせるだけで、企業の安定感は確実に高
まります。

財務体制を整えたい経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

■企業経営の王道は「選択と集中」にあります。限られた経営
資源を一点に集め、深く掘り下げて競争優位を築く。これは古
今東西を問わず成功企業に共通する原則です。しかし今の日本
では、この原則をそのまま信じて突き進むことが、かえって企
業を危うくする局面が増えています。

人口減少、人手不足、最低賃金の上昇、物価高騰、こうした構
造的変化が中小企業の体力をじわじわと削っています。需要そ
のものが減少し、かつての主力事業が「成長の足かせ」と化す
例も少なくありません。にもかかわらず、「昔からの得意分野
だから」「社員が慣れているから」といった理由で、斜陽事業
にしがみついてはいないでしょうか。

経営において大切なのは、「集中」と「執着」を混同しないこ
とです。守るべきは“強み”であって、“形”ではありません。
環境が変わったなら、強みを新しいフィールドで活かす勇気が
必要です。その具体的なヒントが、多角化で成功した中堅企業
の中にあります。

●M&Aを活用し成長速度を上げたイチネンホールディングス

自動車リース業からスタートしたイチネンHDは、M&Aを通
じて化学品・建設・工具販売などに事業を広げました。安定収
益と成長分野を組み合わせた結果、不況にも強い体質を確立し
ました。

◎教訓は、「ゼロからではなく、他社の強みを取り込んでスピ
ードを得る」ことです。時間を味方につけた多角化は、中小企
業にこそ有効です。

●外部資本を取り込み拡大した星野リゾート

軽井沢の一旅館だった星野リゾートは、外部投資家と組み、運
営に特化したホテル再生ビジネスへ転換。「界」「リゾナーレ」
「OMO」などブランドを細分化し、急成長を遂げました。

◎教訓は、「自前主義に固執せず、外部資源を柔軟に取り込む」
ことです。中小企業ほど連携を恐れてはなりません。

●ブランドの信頼を新分野に拡張した中村屋

和菓子店として創業した中村屋は、洋菓子やカリー、レストラ
ン事業に進出。「中村屋の品質」というブランドを守りながら、
新市場で信頼を獲得しました。

◎教訓は、「ブランドは新事業の共通言語」であるということ。
顧客の信頼は、新分野への最強の橋渡しです。

●シナジーを生かしバリューチェーンを広げたワイズホールデ
ィングス

自動車修理業を核とするワイズHDは、後継者不在の企業をM
&Aで統合し、部品流通やリサイクルにまで事業を拡張しまし
た。

◎教訓は、「多角化は遠くを見るより、近くを掘る」こと。既
存顧客の未充足ニーズにこそ、新事業の種があります。

■成功の共通点と、経営者への示唆

これらの事例に共通するのは、いずれも「逃げの多角化」では
なく「攻めの再構築」であるという点です。本業の強みを核に
据えながら、新市場や新モデルに挑む姿勢。これが現代の中小
企業に求められる“戦略的多角化”の本質です。

■経営者が今取るべき行動は、

・本業の将来性を冷静に見極める
・周辺分野への拡張やM&Aを検討する
・外部パートナーと連携してリソースを補完する
・ブランドの信頼を新事業にも活かす
・そして、撤退を恐れずポートフォリオを動的に運営すること

これらを実行できる企業こそ、環境変化を逆手に取り、次の10
年をリードできるでしょう。

「集中」とは、過去に固執することではなく、未来に焦点を合
わせることです。変化の時代において、最も危険なのは“何も
しないこと”。中小企業にこそ、守るための多角化、そして攻
めるための変革が求められています。

最近、経営の世界でよく耳にする「ファイナンス思考」。これ
は、今期の利益を少しでも大きく見せることにとらわれるので
はなく、企業が将来にわたってどれだけキャッシュを生み出し
続けられるかという中長期的な視点で経営を考える考え方です。

一方、日本の中小企業経営では「銀行に評価されるために黒字
を出さなければならない」「資金繰りを安定させなければなら
ない」というプレッシャーが大きく、どうしても短期の利益に
意識が偏りがちです。ここに、銀行の視点とファイナンス思考
とのギャップがあります。

銀行は「返済原資が安定して確保できるか」を見ています。し
たがって、人件費や広告費を削って目先の利益を増やす方が安
心されやすいのは事実です。しかし、それだけでは将来の成長
の芽を摘んでしまう危険性があります。

ではどうすればよいのでしょうか。答えは、両方の視点を上手
に使い分けることです。

銀行に説明する際には、短期的な利益や返済能力をしっかり示
す。

社内で意思決定する際には、将来のキャッシュフローを最大化
する観点を持ち込む。

この両立のためには、やはり財務の知識が欠かせません。投資
の効果を数値で説明できること、資金繰り表で返済能力を裏付
けられることが、銀行との信頼を築きつつファイナンス思考を
実行するカギになります。

短期利益だけに偏れば、企業は縮小均衡に陥ります。逆に、将
来投資だけに傾れば、資金繰りが回らなくなり会社が持ちませ
ん。財務の知識を武器に、この両者のバランスをどう取るか。
それが、中小企業経営者にとって最も実践的な「ファイナンス
思考」といえます。

ファイナンス思考を自社にどう取り入れるか迷われている経営
者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

中小企業が高収益を上げる背景には、偶然ではなく明確な共通
点があります。資本力や規模で大企業に及ばなくとも、戦略と
工夫次第で高い利益を出すことは可能です。ここではその「7
つの要諦」を実例とともに整理します。

■1.高付加価値型ビジネスモデルの構築

価格競争に巻き込まれず、他社に代替されない存在になること
が第一歩です。独自技術やブランド力を磨き、「選ばれる理由」
を確立する必要があります。

●事例:愛知県の精密部品メーカー
大手自動車メーカーと共同開発できるほどの独自加工技術を保
有。下請けではなくパートナーとして扱われ、利益率は業界平
均を大きく上回っています。

■2.一人当たり生産性の最大化

「社員数を増やして売上を伸ばす」発想では限界があります。
高収益企業はむしろ少数精鋭で、一人当たり粗利益1,000万円
を目安に経営を組み立てています。

●事例:東京都のIT人材派遣会社

安売りせず、特定分野に強い技術者だけを育成・派遣。一人当
たり粗利益は1,200万円を超え、給与水準の高さが採用力を強
化する好循環を生んでいます。

■3.適切な価格設定と値上げ力

物価・人件費の上昇が続く中で、利益を守る鍵は「納得感のあ
る値上げ」です。根拠を示し、顧客に理解を得る力が問われま
す。

●事例:福井県の繊維加工業者
エネルギー使用量を数値化し、環境負荷低減の成果を可視化。
その価値を示したうえで工賃を大幅に引き上げました。単なる
コスト転嫁ではなく、「社会貢献と一体化した値上げ」として
顧客に受け入れられました。

■4.運転資本・資金繰りの徹底管理

利益が出ていても資金繰りが破綻すれば会社は倒れます。高収
益企業は在庫回転・回収・支払いを細かく管理し、資金効率を
高めています。

●事例:大阪府の工具卸会社
回収サイトを90日から60日に短縮し、在庫管理システムで不
良在庫を削減。結果、営業利益率は5%から8%へ改善。資金
管理が直接的に収益力を押し上げた例です。

■5.成長性とリスクのバランスを取る

一点集中ではなく、複数の収益源を持ち、環境変化に備えるこ
とが必要です。市場が縮小しても別の柱があれば安定収益を維
持できます。

●事例:京都府の老舗菓子メーカー
観光客依存から脱却し、ECや海外輸出を強化。コロナ禍でイ
ンバウンドが途絶えても売上を維持しました。市場を分散させ
たことでリスクを吸収できた好例です。

■6.強い組織文化と人材活用

人が辞めない仕組みは、中小企業の競争力そのものです。成果
を可視化し、やりがいと報酬を結び付けることで社員は粘り強
く力を発揮します。

●事例:長野県の精密機械製造業
社員全員に「一人当たり粗利益」の目標を共有し、達成度が賞
与に直結。自分の努力が会社の成果につながると実感でき、定
着率が大幅に向上。技術が社内に蓄積し、競争力を高めていま
す。

■7.経営者の先見性と意思決定力

最後に欠かせないのは、経営者自身の「先を読む力」です。環
境変化を見越して早めに手を打つことで、収益機会を確保でき
ます。

●事例:広島県の自動車整備会社
最低賃金上昇を見越し、早期にDXを導入。予約や顧客管理を
アプリ化し、少人数で効率的に運営。さらにEV整備に対応で
きる人材を育成し、新しい収益源を確立しました。

◆中小企業が高収益を実現する共通項は、
◎独自の付加価値で「比較されない存在」になること
◎少数精鋭で一人当たり生産性を高めること
◎顧客を納得させる値上げ力を持つこと
◎資金効率を徹底的に管理すること
◎市場の変化に対応できる事業ポートフォリオを組むこと
◎人材を定着させ、組織力を収益源にすること
◎経営者が先見性を持ち、決断を恐れないこと
の7点に集約されます。

これらは「当たり前」に見えますが、愚直に実践し続けられる
企業は少数です。高収益企業は例外なく、この原則を徹底し、
自社の現場に落とし込んでいます。中小企業にとって、資本力
や規模の差を埋める唯一の道はここにありそうです。

ある飲食店で経常利益が年間300万円出ているとします。経営
者の多くは「もう1店舗出せば利益は600万円に倍増するので
は」と考えがちです。しかし現実はそう単純ではありません。

まず、新店舗を出すには多額の初期投資が必要です。保証金や
内装工事費、厨房機器の購入、スタッフ採用や教育など、数千
万円単位の資金がかかります。銀行からの借入で賄うにしても、
返済負担が利益を圧迫し、黒字化までには時間がかかるのが普
通です。さらに立地や競合状況によっては、思ったように売上
が立たず、赤字が膨らむリスクもあります。「1店舗で黒字だ
から2店舗でも黒字になる」という単純計算は極めて危険です。

一方で、既存店舗にはまだ改善余地が眠っていることが少なく
ありません。たとえば、

・客単価を上げるためのメニュー改良やセット提案
・回転率を高めるためのオペレーション改善
・食材ロスや人件費シフトの見直しによる原価率・経費削減
・常連客との関係強化やSNSを活用した新規集客

これらはすぐに取り組める施策であり、大きな投資を必要とし
ません。小さな改善を積み重ねるだけで、経常利益300万円を
400万、500万円へと高めることは十分可能です。

重要なのは「既存店舗の収益性を最大化する力」こそが、将来
の出店を成功に導くという点です。既存店舗で十分な利益を出
せない状態で新店舗を増やしても、経営の基盤が広がるどころ
か、リスクと負担だけが増えることになります。逆に、既存店
舗で利益率を改善し、手元にキャッシュを蓄えることができれ
ば、新規出店に踏み切るときも資金面・人材面の余裕を持って
取り組めます。

まとめると、経営者にとって「拡大」への意欲は大切ですが、
その前にやるべきは足元の磨き込みです。既存店舗での最大限
の努力を尽くし、その成果が十分に出てからこそ、次の店舗展
開が「利益を倍にする現実的な道」になります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

2025年現在、日本全国の中小企業が直面している最大の経営課
題のひとつが「人手不足」と「人材確保」です。労働人口の減
少、都市部への人材集中、就労観の変化など複合的な要因が背
景にあり、特に地方や製造業、サービス業では深刻な状況が続
いています。

しかしながら、こうした困難な環境の中でも、独自の工夫と実
践を通じて人材確保・定着に成功している中小企業も少なくあ
りません。以下では、全国の成功事例を5つ紹介し、貴社が今
後取り組むべき実践的なヒントを整理します。

■成功事例に学ぶ5つの戦略

【1】外国人材の積極採用と育成制度の整備
製造業を中心とした複数企業では、外国人労働者の採用と、彼
らを支える教育体制の強化により人材不足を補っています。た
とえば三位一体の社内教育制度(上司・先輩・教育係が連携)
を導入することで、言語や文化の壁を乗り越え、定着率の向上
に成功しています。

【2】IT活用と業務改善による「働きやすさ」の実現
岡山県の製造業企業などでは、事務・現場業務のIT化を推進
し、残業削減・有給取得促進など、働き方の改革を実現。従業
員満足度が向上し、離職率低下と採用力の強化につながってい
ます。

【3】採用広報と企業ブランディングの見直し
金沢市の小規模設計会社では、自社採用サイトのリニューアル
に注力。職場のリアルな雰囲気や社員インタビューを掲載する
ことで、採用後わずか3週間で目標人材の獲得に成功。求人票
やWebコンテンツの「魅せ方」の工夫が効果を発揮しています。

【4】シニア人材・女性の活用と多様な勤務形態の導入
高齢者や子育て世代を積極的に受け入れる体制を構築した企業
もあります。例えば「番頭制度」など、ベテラン技術者の知見
を若手に継承させる仕組みや、短時間勤務の導入で幅広い層か
ら人材を確保しています。

【5】地域密着型採用と職場環境の見える化
滋賀県・福井県など近畿圏では、地域の企業が連携し「採用と
定着成功事例集」を活用。求人活動の分析、リーダー育成研修、
職場環境の改善といった取り組みを通じて、地域ぐるみで人材
の流出防止と定着支援を実現しています。

■人材確保の本質は「選ばれる企業づくり」

以上の事例から明らかなのは、人材確保に成功する企業は「人
を大切にする姿勢」「働く環境の整備」「情報発信の工夫」に
注力しているという点です。

求人広告だけに頼るのではなく、
・社内文化の見直し
・教育制度の充実
・柔軟な働き方の導入
・自社の魅力を適切に伝える力

こうした取り組みが、「人に選ばれる企業」としての競争力を
高めているようです。
「うちは小さい会社だから…」「人事に手をかける余裕がない」
といった声も聞かれますが、小さな工夫でも確かな成果を生む
ことができます。上記等を参考にして、自社の人材戦略を見直
し、持続可能な成長を実現していただければ幸いです。