先日、ある経営者の方から「接待費が多いので、自分の店を作
ったほうが安上がりではないか」と相談を受けました。じつは
この手の相談は珍しくありません。
本業が好調になり資金に余裕が出ると、接待の場として飲食店
を持ちたい、税金を払うくらいなら店でも作っておこうという
気持ちが湧いてくる経営者は多いものです。

しかし、このような理由で飲食店経営に踏み出すのは、経営判
断として非常にリスクの高い選択です。本気で新規事業として
取り組む場合とは前提が全く異なり、想像以上に悪影響が大き
くなります。

■ 接待費の節約目的では、飲食店の赤字は埋まらない
飲食店を持てば、外で飲むより安く済むだろう。こうした発想
はもっともらしく見えますが、現実には成立しません。

飲食店は看板を上げた瞬間から固定費が発生し続けます。
家賃、人件費、光熱費、仕入れ、消耗品など、接待費の削減で
賄えるレベルではありません。
たとえ接待費が月に数十万円かかっていたとしても、飲食店の
赤字はその金額を軽く超えることがほとんどです。

結果として、節約するどころか本業の利益で飲食店の赤字を穴
埋めする構造になりがちです。

■ 税金を払うくらいなら飲食店でも…という発想も危険
「税金を払うくらいなら店を作ったほうが良い」という考え方
もよく聞きますが、これは典型的な誤解です。

税金は利益の一部ですが、飲食店の赤字は利益を確実に減らし
ます。
税金を減らすために飲食店を始める行為は、節税どころか、本
業まで巻き込んで会社全体の財務体質を弱める可能性が高くな
ります。

■ 金融機関の評価は確実に下がる
金融機関は、飲食店を道楽的に始めたかどうかを非常に敏感に
見ています。
理由は以下の三つです。

1.本業の集中力が落ちると判断される
2.利益を生まない投資に走り、財務規律が緩んでいると見え

3.「赤字体質の事業を作った」ことで、返済能力の評価が下
がる

特に3つ目は深刻で、赤字の飲食店を持っているだけで、会社
全体の格付が下がり、資金調達力が落ちることがあります。

金融機関は何を始めたかよりも、なぜ始めたかを重視します。
そこに経営的な合理性がない場合、評価がマイナスに振れるの
は避けられません。

■ 背景にあるのは「本業好調期の油断」
飲食店を道楽的に始める経営者の多くは、本業が好調な時期に
判断しています。
資金に余裕がある、気持ちにも余裕があるため、「少しくらい
遊びでやっても大丈夫だろう」と感じてしまうのです。

しかし、事業の黄金期こそ、
・内部留保を積む
・組織を強くする
・本業の改善に投資する
べきタイミングです。

余剰資源を本業と無関係な事業に流すことは、会社の成長可能
性を自ら削ってしまう行為です。

飲食店を始めたいという気持ち自体は否定しません。しかし、
経営の基本は資源を最も効果的に使うことにあります。もし、
飲食店という選択肢が本気の事業計画ではなく気分や感覚に近
いのであれば、もう一度立ち止まって考えてみる方が賢明です。

2026年を目途に政府が進める労働基準法の抜本的見直しは、
単なる制度改正を超えたインパクトを私たち中小企業経営者に
与えるものとなるでしょう。連続勤務の上限規制、勤務間イン
ターバルの義務化、有休取得時の賃金算定の統一、副業・兼業
との向き合い方の見直し、さらには「つながらない権利」の制
度化まで、これらの改正は、まさに“人”を中心に据えた経営”
への転換を私たちに促しています。

以下では、迫りくる制度改正を単なる義務としてではなく、
「競争力の源泉」として捉えるための視座を提示します。

1.「時間」より「成果」で評価する文化へ

これまで多くの企業では、「長く働く」ことが熱意や忠誠心の
証とされてきました。しかし、勤務間に11時間以上の休息を義
務づけるインターバル制度や、14日以上の連続勤務の禁止とい
った改正の方向性は、明確に「働く時間」よりも「働く質」を
重視する未来を示しています。

中小企業こそ、限られたリソースの中で最大の成果を上げる工
夫が求められます。属人化された業務の棚卸し、業務プロセス
の見える化、ITツールの活用による生産性向上は、もはや選
択肢ではなく必須課題です。時間に依存しないマネジメントへ
と舵を切ることが、労務リスクの回避と利益の最大化を同時に
実現します。

2.「健康経営」は人材確保の切り札に

働き方の見直しは、法令順守だけでなく、「選ばれる企業」に
なるための必須条件でもあります。近年、求職者が企業に求め
るものは報酬や安定性だけでなく、「安心して働ける環境」に
重きが置かれています。

休日を明確に定めることや、勤務時間外の連絡を制限する「つ
ながらない権利」の尊重は、従業員の心身の健康だけでなく、
企業への信頼感とエンゲージメントの向上に直結します。法改
正に先んじて、健康管理を経営課題として捉えた取り組みは、
採用市場でも他社との差別化につながるでしょう。

3.副業・兼業・フリーランスとの関係性を再定義する

働き方の多様化に伴い、「業務委託」や「フリーランス」とい
った非正規的な関係性が増加しています。しかし、改正案では、
「名ばかり業務委託」や「偽装請負」への警鐘が鳴らされてお
り、契約上は業務委託であっても、実態が“労働者”に該当すれ
ば労基法の適用対象となる可能性がある点に注意が必要です。

さらに、副業・兼業者の労働時間通算や割増賃金の扱いに関し
ても、企業間での責任分担や管理体制が問われることになりま
す。契約書の整備はもちろん、業務の指示範囲、勤務実態の記
録などを含めて、法令と整合性の取れた運用体制の構築が急務
です。

4.中小企業だからこそ、変化への“即応力”を武器に

大企業に比べ、組織規模が小さい中小企業は、意思決定のスピ
ードと柔軟性において優れています。つまり、制度改正に対し
て「いち早く対応すること」自体が、競争力の源泉となり得ま
す。

例えば、今のうちから就業規則を見直し、インターバル時間の
設定や休日の明確化、有休の取得ルールなどを整備しておくこ
とで、制度施行時に慌てることなく対応できます。さらに、従
業員との対話を通じて制度設計を行えば、社内の信頼関係を深
める好機にもなります。

2026年の法改正は、ただの「義務」ではありません。それは、
私たちが目指すべき「持続可能な企業経営」と「働く人を大切
にする企業文化」への扉を開くものであり、そのチャンスをど
う活かすかが、これからの経営者の力量です。

目の前の制度改正を超え、次世代に選ばれる企業へ。今こそ、
働き方の再設計に取り組む絶好のタイミングです。

人を雇う、広告を出す、値引き販売をする。
経営にはさまざまな意思決定がありますが、最も気がかりなの
は採算が取れるかどうかという点ではないでしょうか。
最終的には実際にやってみなければ分からない部分もあります。
しかし、その前に机上で採算が合うかどうかを検証することは、
非常に重要なプロセスです。

投資判断において鍵になるのが、採算ラインとなる売上高です。
専門的には損益分岐点売上高と呼びます。
損益分岐点売上高は固定費を変動費率で割ることで求められま
すが、変動費率を正確に算定するのは手間がかかるため、まず
は粗利益率で代用して大まかな採算ラインを把握する方法が実
務上便利です。
固定費を粗利益率で割った金額が、投資が採算に乗る最低限の
売上高となります。

ここからは、よくある3つのケースで考えてみましょう。

■ 営業人員を採用する場合

粗利益率が30%の商品を扱う会社が、新たに営業社員を雇うケ
ースを考えます。
例えば、この営業社員にかかる固定費が総額で45万円(月収30
万円、福利厚生費5万円、営業経費10万円)だとします。

固定費45万円を粗利益率30%で割ると、損益分岐点売上高は
150万円となります。
つまり、この営業社員が毎月150万円の販売を達成できなけれ
ば赤字要員となり、採用が企業収益に貢献しません。
さらに会社として利益を上げたい場合は、この150万円に期待
利益を上乗せした金額が、採用時の最低ラインになります。

■ 広告費の採算を考える場合

粗利益率30%の商品について、広告費として100万円を投じる
ケースを考えます。

固定費となる広告費100万円を粗利益率30%で割ると、損益分
岐点売上高は333万円となります。
つまり、100万円の広告投資を行う場合、その広告によって333
万円以上の売上が見込めなければ採算が取れないということに
なります。

■ 値引き販売の採算を考える場合

粗利益率30%の商品を5%値引きして販売する場合、粗利益率
は約26.3%に低下します。

固定費が50万円だとすると、通常販売時の損益分岐点売上高は、
50万円を30%で割って約166万円。
値引き販売後は、50万円を26.3%で割って約190万円。

つまり、値引きによって必要な売上高は24万円ほど増えること
になり、ここを超えて初めて値引き販売の効果が出てくるとい
う計算になります。

投資判断を誤る会社の多くは、明確な損益分岐点の把握をせず
に意思決定を行っています。無謀な値引きや過大な広告投資、
人員採用の失敗などがその典型です。

投資に踏み切る前に、固定費と粗利益率から損益分岐点売上高
を算出し、そのラインが現実的に達成できるかどうかを必ず確
認していただきたいと思います。

中小企業が長期的に発展するためには、収益の柱を複数持つこ
とが重要です。しかし、限られた人材や資金の中でゼロから新
規事業を立ち上げるのは、容易ではありません。新しい市場や
技術に対応しきれず、試行錯誤の末に撤退を余儀なくされるケ
ースも珍しくないのが現実です。

こうした中で注目されているのが、「M&A(企業・事業の買
収)」を起点とした新規事業創出のアプローチです。既存の経
営資源だけでは届かなかった分野やスピードを、M&Aによっ
て一気に補完し、成長の軌道に乗せることが可能になります。

■M&Aはなぜ新規事業の有効な手段となるのか?

まず第一に、M&Aは「すでに顧客や収益を持つ事業」を取り
込む手段です。自前で一から市場開拓や商品開発をするよりも、
はるかにリスクと時間を抑えることができます。

第二に、M&Aは技術・ノウハウ・人材といった「見えない資
産」を獲得する機会でもあります。たとえば、自社が不得意と
するデジタル領域やマーケティング分野を強みとする企業を買
収すれば、短期間で競争力のある新サービスの展開が可能です。

第三に、現在の日本では後継者不足に悩む中小企業が多く、良
質な事業を比較的安価に取得できる環境が整っています。これ
は中小企業にとって大きなチャンスであり、将来の成長エンジ
ンを外部から取り込む好機といえるでしょう。

■中小企業がM&Aを活用して新規事業を成功させるためのス
テップ

●目的の明確化と戦略立案

まず、自社の経営課題や成長ビジョンを整理し、「なぜ新規事
業が必要か」「どの分野に進出すべきか」を明確にします。将
来のポートフォリオをどう描くかが、すべての判断軸になりま
す。

●M&Aの狙いを具体化する

単なる事業規模の拡大ではなく、「どのような相乗効果を得た
いか」を明確に定義します。既存顧客へのクロスセル、新しい
サービスの開発、または人材の獲得など、目的を明確にして初
めて、適切な対象企業が選定できます。

●専門家と連携し、適切なマッチングを行う

M&Aは専門的な知見が求められる領域です。中小企業の立場
に立って支援してくれるM&A支援事業者、税理士、金融機関
などと連携し、実行可能性の高い候補を見極めることが重要で
す。中小企業庁や商工会議所など公的支援の活用も有効です。

●買収後の統合(PMI)を重視する

M&Aは「買ったら終わり」ではなく、「買ってからが始まり」
です。文化や業務の違いを乗り越え、一体感ある組織を築くた
めの統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)を丁寧に
設計し、段階的に実行する必要があります。

●新しい価値を創出する事業モデルの再構築

単なる延長線上ではなく、自社のリソースと買収先の強みを掛
け合わせることで、「これまでにない価値」を創出することが
最終目標です。製造業×IT、小売×地域サービス、既存事業×
海外市場など、多様な組み合わせの可能性を探りましょう。

かつては「守りの経営」が重視されてきた中小企業経営ですが、
いまや「攻めの一手」が未来を切り拓く鍵となります。M&A
は中小企業にとって未知の領域に思えるかもしれませんが、適
切に戦略を練り、信頼できるパートナーと共に進めれば、十分
に実現可能な成長戦略です。

リスクを恐れるより、未来への布石をどう打つか。自社の強み
を活かしながら、外部資源を取り込むことで、これまでにない
新しい事業展開の途が開かれるかもしれません。

本日は基本に立ち返って、中小企業が銀行と向き合う際に陥り
がちな誤りについて整理したいと思います。
銀行対応の重要性は多くの経営者が理解されていますが、あら
ためて振り返ってみると、日常のちょっとした行動が信用を左
右していることに気づく場面が少なくありません。

資金繰りや調達が厳しくなる時期ほど、銀行との距離感が経営
に大きな影響を与えます。今日はあらためて、その基本を押さ
えておきましょう。

1.調子の良いときほど距離を置いてしまう
業績が順調なときは、銀行への説明を後回しにしてしまいがち
です。しかし銀行が評価しているのは、困ったときに何をした
かよりも、順調なときにどれだけ情報を出していたかという点
です。決算書や月次試算表をきちんと共有し、定期的に現状を
伝えておくことで、銀行との関係は安定していきます。

2.自社の要望ばかりを語る
融資を増やしたい、金利を下げたい、手続きを簡単にしてほし
い。こうした要望を伝えること自体は悪くありませんが、その
前に必要なのは背景の説明です。なぜ資金が必要なのか、返済
はどのように計画しているのか、事業が今どの位置にあるのか。
貸す側が安心できる材料を提示することが、結果として希望に
近い条件を引き出す道です。

銀行の判断は感情ではなく制度と論理で動きます。
強い言葉を使っても状況は変わらず、評価を落とす原因にもな
ります。

3.数字を隠す、報告を遅らせる
決算が悪いと報告を先延ばしにする会社があります。しかし銀
行は業績の良し悪しよりも、経営者が数字とどう向き合ってい
るかを見ています。悪い数字を隠しても信頼は得られません。
早めに状況を伝え、改善の方向性や今後の計画を説明する姿勢
こそが、強い信用につながります。

■ まとめ
銀行対応で大切なのは、うまく話すことではなく、正しく伝え
ることです。

普段から
・良いときこそ情報を共有する
・要望の前に背景を説明する
・数字を隠さず早めに開示する

この3つを続けるだけで、銀行の見方は大きく変わります。銀
行は企業の味方にもなれば、距離が生まれると融資に慎重にな
ります。日々の対応が、将来の資金調達力そのものをつくって
いくということを、あらためて意識してみてください。

中小企業において、社員の離職が相次ぐ会社には共通した特徴
があります。その要因は必ずしも待遇の悪さや業務の厳しさに
限らず、「経営者の姿勢」や「社員との心理的距離感」に起因
しているケースが少なくありません。
とりわけ、会社に強い思い入れを持つオーナー経営者ほど、社
員にも同じ温度感での忠誠心や情熱を求めがちです。しかし、
それが逆に社員の心を離れさせる結果につながることも多いの
です。

まず理解すべきは、社員と経営者の立場の違いです。
・経営者にとって会社は「人生の集大成」や「夢の結晶」
・社員にとっては「生活の手段」「収入源」であり、「家族を
守るための場」

この前提を無視して、「もっと主体的に動いてほしい」「会社
の理念に共感してほしい」と期待してしまうと、その思いは社
員には“過剰な要求”として伝わってしまいます。

社員が離れていく会社では、こうした“期待の押し付け”が日常
的に見られます。
・「なんで自分で考えないんだ?」
・「もっと熱意を持って働いてほしい」
・「会社のために働くのは当然だ」

こうした発言が頻繁に飛び交う職場では、社員は常にプレッシ
ャーを感じ、やがて心が疲弊してしまいます。自分の役割を超
える働き方を求められる環境では、安心して働き続けることは
困難です。

また、離職率の高い会社には、次のような共通点もあります。
・努力や成果が正当に評価されない
・感情的なマネジメントが横行している
・評価基準やルールが曖昧で不透明
・人間関係に安心感がなく、心理的に不安定な職場環境

逆に、社員が定着しやすい会社では、経営者のスタンスが次の
ように整理されています。
・「社員に過度な期待をしない」
・「生活背景や価値観に配慮する」
・「まずは業務をきちんとこなしてもらうことを基本とする」
・「自主性は前提ではなく、育まれるものと捉える」

また、やりがいを感じられる職場とは、以下のような条件が整
っています。
・明確なキャリアの見通しがある
・努力がきちんと評価される制度がある
・心理的に安心できる職場環境がある

社員の離職を防ぐ第一歩は、「社員の人生の中に会社がある」
という現実を受け入れることです。社員は会社にすべてを賭け
ているわけではありません。だからこそ、「働きやすさ」「評
価の納得感」「将来の見通し」のある環境を提供することが、
経営者に求められるのです。

社員を“経営者の分身”として扱おうとするのではなく、一人ひ
とりの価値観や生活に寄り添いながら、その人が持つ力を引き
出す環境を整えること。それが、離職の少ない、強く安定した
組織をつくる基本となります。

黒字が出はじめた経営者の中には、「そろそろ自分へのご褒美
を」と考える方もいるでしょう。頑張ってきた証として、高級
スポーツカーを購入する気持ちはよくわかります。しかし、銀
行の目線では、それは明確なマイナス評価になります。

銀行は融資の審査において、数字だけでなく経営者の行動を重
視します。とくに創業期や黒字転換直後の企業では、「利益を
どう使うか」が経営者の成熟度を映す指標になります。この段
階で高級車を購入すると、「慎重さに欠ける」「返済より消費
を優先する」と受け取られ、信用評価を下げる方向に働きます。

「事業上のブランディングになる」「広告費の一環だ」と説明
する経営者もいます。しかし銀行にとって、その効果は測定不
能であり、再現性のない支出です。費用対効果を定量的に示せ
ない以上、合理的な投資とは評価されません。また、「モチベ
ーション維持のため」といった説明も、経営者の自制心の欠如
と見なされる可能性があります。

要するに、経営者がどう主張しようと、銀行がその行為を好ま
ないことは事実です。そして、貸し手が借り手の価値観に合わ
せる必要はありません。銀行は「理解」よりも「安全」を優先
します。その世界で融資を受けたいのであれば、銀行の論理を
理解し、そのルールの上で振る舞うしかないのが現実です。

経営者にはお金の使い方の自由があります。しかし、融資の世
界には融資の論理があります。その自由が銀行にどう見えるか、
それを踏まえて判断することが、資金調達力を高める経営の第
一歩です。

高市早苗総理による新政権の経済政策は、「積極的な財政出動
による経済の底上げ」「企業収益と賃金の同時成長」「設備投
資と雇用の拡大による景気の自律的回復」といった、従来の緊
縮政策から大きく舵を切った内容になっています。中小企業に
とっても、この政策転換を経営の追い風とするか否かが、今後
の発展に直結します。

以下に、経営者として今取り組むべき戦略的行動を7項目に整
理しました。

■経営者が取るべき7つの行動指針

●1.成長に向けた「設備・技術投資」を即時検討する

・老朽化設備の更新や生産ラインの自動化、省力化技術の導入
を加速する。
・IT化(業務システム、会計、勤怠、在庫管理)の再整備で
業務効率と可視化を実現。
・これら投資は中小企業向け補助金・税制支援と連動しやすい
ため、積極的に制度を活用する。

●2.「高付加価値型ビジネス」へ移行する発想を持つ

・価格競争から脱却し、独自性・品質・地域性・ブランド価値
で差別化を図る。
・既存事業の「プレミアム化」や「サブスクリプションモデル」
導入なども選択肢。
・市場ニーズを起点とした商品・サービス企画にシフトする。

●3.「賃上げと人材戦略」をセットで再設計する

・継続的な賃金上昇を支えるには、収益性の高い事業構造への
転換が不可欠。
・賃上げだけでなく、社員教育・キャリア支援・福利厚生の見
直しも同時進行で。
・副業・兼業人材、時短・高齢人材の活用など多様な働き方を
受け入れる柔軟性も持つ。

●4.「中長期の成長ビジョン」を社内に明示する

・今後3~5年間の経営目標、投資計画、人材確保戦略を数値
で明示。
・金融機関・取引先・従業員への説明資料として活用できる
「経営計画書」の作成を推奨。
・変化対応力を高めるため、複数のシナリオで戦略を用意して
おく。

●5.「公的支援制度」を最大限活かす体制を整える

・国・自治体・商工会議所の補助金・助成金・低利融資制度の
情報を定期的に収集。
・申請業務は顧問税理士や中小企業診断士など専門家の協力を
得て確実・効率的に進める。
・単年度で終わらせず、継続的に制度活用を組み込む「資金調
達戦略」として機能させる。

●6.「サプライチェーンと資金繰り」の見直しを進める

・海外依存度の高い仕入れ構造はリスクを伴うため、代替調達・
国内調達の体制強化を検討。
・資材高騰・物流遅延に備えた在庫管理・契約見直し・価格交
渉の余地を確認。
・財務面では「投資・借入・返済」のバランスを明確にした中
期資金繰り計画を立てる。

●7.「地域・社会との共創」に経営資源を活かす

・地元自治体や近隣中小企業との連携プロジェクト(共同開発、
地域共販等)を模索。
・ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsへの対応姿勢
も、採用力・顧客満足に直結。
・若手・女性・高齢者・外国人材の活躍の場をつくり、持続可
能な経営へとつなげる。

高市総理の政策は、需要を喚起し、企業の投資と賃金上昇を後
押しする「持続的な景気の押し上げ」を狙ったものです。中小
企業がこの流れをいち早く読み取り、自社に取り込むことで、
成長のチャンスを掴むことができます。

自社の強みを再確認し、未来に向けた投資と変革を始める第一
歩を、ぜひ今日から踏み出してください。

ここ最近、金融機関の姿勢が目に見えて変わってきました。
つい昨年までは「預金は不要」「融資に集中したい」と言って
いた銀行が、金利上昇を背景に「預金をおいてほしい」と口に
するようになっています。
マイナス金利が解除され、銀行にとって預金が「コスト」から
「収益源」に戻ったためです。

これまで預金を集めても運用先がなく、むしろ利ざやを圧迫し
ていた時代から一転、今は預金残高が金利収入に直結する環境
に変わりました。
銀行にとって「預金は積極的に集めたいもの」へと再び立ち位
置が変わっています。

■ 銀行の“預金をお願いしたい”という本音
銀行の営業担当者にとって、預金は融資と同じく評価対象です。
特に法人預金は安定した資金調達源として重視されます。
預金残高が増えれば、運用益で収益が上がる構造になったため、
現在は「預金も融資も」という営業方針が主流になっています。

一方で、金融庁の監督下では「歩積み両建て(融資と預金をセ
ットで強制する行為)」が問題視されています。
したがって、銀行としても、“預金してほしいが強制できない”
というジレンマを抱えています。
結果として、経営者に対して「お願いベース」での預金協力を
求めるケースが増えています。

■ 経営者はどう対応すべきか
銀行が預金を求める背景と表立って預金を強制できない事情を
理解したうえで、関係性の深さと実益のバランスで判断するこ
とがポイントです。

1.メインバンクへの協力は「信頼投資」として割り切る。
融資取引が大きく、今後も付き合いが続く銀行には、預金残高
をある程度確保しておくのも一つの戦略です。「貸してくれる
銀行を支える」という姿勢は、次の融資や条件交渉でプラスに
働きます。

2.サブバンクには合理性で判断する。
預金残高を複数行に分散させると、資金管理が煩雑になります。
融資比率や将来の取引可能性を見て、預金配分を整理しましょ
う。

3.資金繰りに支障をきたす協力は避ける。
預金を置くことで手元資金が減り、実質的に自由に使えるキャ
ッシュが減るのは本末転倒です。流動性を確保したうえで、余
剰資金を置く程度にとどめるのが現実的です。

■ まとめ
金利上昇局面では、銀行の「お金の論理」も変わります。
預金を求める姿勢が強まるのは自然な流れですが、経営者とし
ては

・銀行の立場を理解し、
・自社の資金繰りに無理のない範囲で、
・戦略的に協力する、

この三点を意識することが大切です。

銀行との関係は“力関係”ではなく“信頼関係”で築かれます。
預金を通じた関係強化も、その一つの手段にすぎません。
「協力はしても、依存はしない」この距離感が、金利上昇時代
の賢い銀行対応と考えます。

人手不足、グローバル化、多言語対応…これらの課題に直面し
ている多くの中小企業にとって、「外国人留学生の採用・活用」
は、もはや選択肢のひとつではなく重要な経営戦略です。しか
し、留学生アルバイトの違法就労問題や、就労ビザ切り替え時
のトラブルが報道される中、「どうすれば“正しく”活用できる
のか?」という問いが増えています。

以下、外国人留学生を適法かつ戦略的に活用して、実際に成果
をあげている中小企業の事例を5つ紹介します。

■【事例①】大和合金株式会社(埼玉県/製造業)

非鉄金属の製造を手がける同社は、JETプログラム出身者や
理系外国人留学生を継続的に採用。インターンシップ制度や教
育体制を整備し、現在は社員の約10%が外国籍という多様性あ
る組織を築いています。

提言①:外国人材は「グローバル展開のパートナー」として戦
略的に位置づけましょう。

採用の目的を「人手不足対策」だけに限定せず、語学力や異文
化理解力を活かして海外販路の開拓・海外取引の拡大へと結び
つける発想が重要です。

■【事例②】木村工業(宮城県/建設業)

建設業界の人手不足に対応する中で、専門学校卒の外国人留学
生を積極採用。日本語教育や寮の整備、評価制度の明文化を通
じて、安定した定着とキャリアアップを実現しています。

提言②:キャリアパスを明示し、定着を促す育成設計を構築し
よう。

「補助的な労働力」として扱うのではなく、日本人社員と同じ
ように評価・昇格の道筋を提示することで、外国人社員のモチ
ベーションと忠誠心が高まります。

■【事例③】リゾート観光業(青森県/宿泊業)

インバウンド対応を目的に、大学院生のマレーシア人留学生を
3ヶ月のインターンで受け入れ。翻訳、企画、英語対応などを
任せ、後に正社員登用。

提言③:「インターン→採用」ルートを設けて、適応リスクを
下げる。

インターン制度を活用すれば、企業も学生もお互いに相性を確
認でき、ビザ申請や業務理解の齟齬を最小化できます。

■【事例④】プランレグナテック株式会社(九州/製造業)

英語・中国語が堪能な留学生を採用し、既存海外取引の強化、
新規販路の開拓に貢献。採用活動もオンライン面接を導入する
など、柔軟に対応。

提言④:言語・文化の多様性を経営資源として活かそう。

留学生は「通訳」以上の存在。日本では気づかない市場ニーズ
や文化的ギャップを教えてくれる存在として重宝できます。

■【事例⑤】中小製造業(関西/事務系外国人活用)

事務・経理・営業サポート業務においても外国人留学生を登用。
日本語教育、定期面談、評価制度を導入し、社内の戦力として
活躍中です。

提言⑤:「現場作業」以外でも活躍できる場を広げよう。

製造や接客だけでなく、バックオフィス業務にも優秀な外国人
留学生は多く存在します。職域の固定観念を打破することが、
優秀な人材確保に繋がります。

■中小企業だからこそ、柔軟に取り組める

大手企業に比べて組織がフラットで、意思決定も早い中小企業
こそ、外国人留学生の力を柔軟に活かせる土壌があります。
「違法にならないようにする」ことは当然の前提。その上で、
彼らの能力・視点を“会社の未来を変える原動力”として活用し
ていくことが、これからの中小企業経営者に求められる視点で
す。

※法令遵守は「信頼構築」の第一歩です。外国人留学生を採用
する際には、法令・制度への理解と対応が不可欠です。