経営の現場では、税理士、社労士、コンサルタントなど、さま
ざまな専門家の力を借りる機会があります。経営の課題は広く、
専門知識のサポートはとても心強いものです。
ただ、最近少し気になるのは、専門家に頼りすぎてしまう経営
者が増えていることです。専門家に意見を求めるのは良いこと
ですが、経営判断そのものまで任せてしまうと、思わぬリスク
を生むことがあります。

1.判断を委ねすぎると責任がぼやける
「専門家がそう言ったから」と判断の理由を外に置いてしまう
と、社長自身の責任感が薄れます。どんなアドバイスも、最終
的な判断と責任は社長にしか取れません。意見は“材料”であり、
“結論”ではない、という感覚を持つことが大切です。

2.専門家の視点は限定的
専門家はそれぞれの分野に詳しい一方で、視野がその分野に偏
ることもあります。たとえば税務の専門家は節税を、労務の専
門家は法令順守を優先します。しかし経営は全体のバランスで
成り立つものです。専門家の提案を「経営の全体設計」にどう
取り込むかは社長の役割です。

3.現場感覚を失わない
外部の専門家に任せきりになると、社内で数字や状況を把握す
る力が弱まります。会計や人事の判断を外注しているうちに、
経営者自身が現場の変化を感じ取れなくなることもあります。
専門家にお願いする部分と、自社で見るべき部分をしっかり線
引きしておきましょう。

4.依存にはコストもついてくる
専門家に頼るほど費用は増えます。相談のたびに時間もかかり
ます。アドバイスを求めること自体は良い投資ですが、“何を
決めるための相談か”を明確にして依頼することで、ムダを減ら
すことができます。

5.「使う力」を身につける
大切なのは、専門家をどう“使いこなすか”です。意見をもらっ
たら、自社の状況に照らして整理し、判断の軸を自分の中に持
つこと。専門家は社長の代わりに判断する人ではなく、考える
ための材料を提供してくれるパートナーです。

経営者に必要なのは、「専門家に頼らないこと」ではなく、
「専門家をうまく使う力」です。
専門家の助言を取り入れながらも、最終的な判断は自分の言葉
で行う。この距離感を保てる経営者こそが、ブレない経営を続
けられます。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

「値決めは経営である」は稲盛和夫氏の言葉です。
しかし、多くの中小企業では、依然として“原価に利益を乗せ
るだけ”の単純な値決めが行われています。コスト上昇、賃上
げ圧力、消費者の多様化。今の時代、値決めは「守り」ではな
く「攻め」の経営戦略です。ここでは、中小企業でも実践でき
る7つの値決め戦略を提言します。

●1.コスト・プラス方式 ― 経営の最低ラインを守る

もっとも基本的な手法は、原価に一定の利益率を加える「コス
ト・プラス方式」です。製造業であれば原材料費・人件費・間
接費を明確にし、最低限必要な粗利益を確保する。「利益を残
す仕組み」をつくる第一歩は、この下限価格の明確化から始ま
ります。ただし、これを最終価格にするのではなく、“赤字を
防ぐ防波堤”として位置づけることが重要です。

●2.競争ベース方式 ― 市場感覚を持つ

同業他社の価格を参考にしながら、自社の立ち位置を決める方
法です。価格競争が激しい市場では有効ですが、最安値争いに
巻き込まれる危険もあります。肝心なのは「5%高い理由」を
明確にすること。たとえば「納期が早い」「品質が安定してい
る」「担当者が変わらない」など、付加価値を言語化できれば、
価格差は納得に変わります。

●3.価値ベース方式 ― 顧客が感じる価値で決める

顧客が「何に価値を感じているか」を起点に価格を設定する考
え方です。時間短縮、信頼性、安心感、ブランドなど、目に見
えない価値を価格に反映します。たとえば、夜間対応の清掃業
者が通常より高い料金でも選ばれるのは、“安心”という価値
に顧客が対価を払っているからです。値決めとは「顧客の感じ
るベネフィットを数値化する作業」なのです。

●4.ダイナミックプライシング ― 柔軟に価格を運用する

需要・時間帯・在庫状況などによって価格を変える戦略です。
航空会社やホテルだけでなく、今や飲食店、美容室、レンタル
業などでも導入が進んでいます。
・平日昼は割引して空席を埋める
・週末や繁忙期はプレミア価格で利益を確保
AIやPOSデータを使わなくても、曜日・時間帯・天候別料
金といった手法から始められます。「固定価格の経営」から
「運用価格の経営」へ。中小企業にもチャンスがあります。

●5.サブスクリプション方式 ― 継続利用を収益化する

「月額制」「定額制」で安定収益を得る仕組みです。顧客はコ
ストを予測しやすく、企業はLTV(顧客生涯価値)を高めら
れます。
美容室の「通い放題プラン」、飲食店の「定額ランチパス」、
印刷会社の「月額販促セット」。ポイントは、“毎月支払う理
由”を設計すること。単なる値引きではなく、「安心・便利・
特典」を積み重ねることで継続率が上がります。

●6.バンドル価格 ― セット化で価値を高める

複数の商品・サービスをまとめて販売し、単品より割安に見せ
る手法です。たとえば、飲食店なら「ランチ+ドリンク+デザ
ートセット」、製造業なら「部品+メンテナンス契約」など。
セット化することで顧客単価を上げ、在庫処分や新商品の導入
にも活用できます。ただし、単なる値引きにならぬよう、「組
み合わせの意味」を明確にすることが鍵です。

●7.プレミアム・プライシング ― 高価格を戦略に変える

「高いから売れない」ではなく、「高いから選ばれる」を目指
す戦略。価格を上げる代わりに、品質・体験・ストーリーで差
別化します。星野リゾートやスターバックスはその典型で、価
格を“ブランド構築の手段”として使っています。中小企業で
も、「社長が直接対応」「完全予約制」「地域限定」など、特
別感を演出する工夫でプレミアム価格を実現できます。

「値決め力」は「生き残り力」です。物価高・人件費高・市場
縮小という環境の中で、価格を動かさない企業は衰退します。
「いくらで売るか」は、「誰に・何を・どう届けるか」と並ぶ
経営の根幹です。値決めを恐れず、価格を戦略的に設計できる
企業だけが、変化の時代を生き抜くことができます。

中小企業こそ、「値決め=経営」という原点に立ち返り、価格
を“数字”ではなく“戦略”として扱うべき時です。

資金調達のご相談を受けていると、「もっと早くご相談いただ
けていれば、状況は違っていたのに」と感じることが少なくあ
りません。資金繰りの問題は、ほとんどの場合“突発的な出来事”
ではなく、“備えの欠如”から始まります。今回は、財務を後回
しにしたことでチャンスを逃した企業の例をもとに、先手の財
務の重要性を考えてみます。

■ 「今は大丈夫」が一番危ない
業績が安定しているときほど、資金調達への関心が薄れがちで
す。ある企業では、過去に銀行から融資を勧められた際、「必
要ない」と断っていました。その後、取引先の不調で売上が急
減。急いで融資を申し込むも、銀行の回答は「今回は見送り」。
結果的に、手元資金が尽きるまでのわずかな期間で経営が傾き
ました。
中小企業にとっては、「借りられるときに借りておく」ことが
最大のリスクヘッジです。資金の余裕が経営の自由度を生みま
す。

■ 黒字なのに資金が回らないワナ
売上が伸びているのに資金繰りが厳しくなる。これは珍しい話
ではありません。仕入や人件費の支払いが先行し、入金が後に
なる構造が原因です。特に成長期の企業ほどキャッシュアウト
が増え、手元資金が追いつかなくなります。忙しいときほど
「資金繰り表の更新」を怠りがちですが、1か月先、3か月先
の資金残高を見通すだけでも経営判断は変わります。

■ 「返済は早ければ良い」ではない
借入金を早く返すことが美徳とされる傾向がありますが、返済
を急ぐあまり運転資金が枯渇してしまう例も少なくありません。
返済のスピードは経営体力に合わせて設計するものです。手元
資金を厚く保ち、いざという時の選択肢を確保することこそが、
健全な財務管理です。

■ 財務は“結果”ではなく“戦略”
財務とは、決算の数字をまとめる作業ではなく、経営そのもの
を支える戦略的活動です。資金調達・資金繰り・返済設計のど
れをとっても、後手に回れば回るほど選択肢は減っていきます。
問題が起きてからの財務対応は“守り”であり、事前の準備こそ
が“攻め”の経営につながります。

「財務は起きてから考えるものではなく、起きる前に仕組みを
つくるもの。」
この視点を経営に根付かせるだけで、企業の安定感は確実に高
まります。

財務体制を整えたい経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

■企業経営の王道は「選択と集中」にあります。限られた経営
資源を一点に集め、深く掘り下げて競争優位を築く。これは古
今東西を問わず成功企業に共通する原則です。しかし今の日本
では、この原則をそのまま信じて突き進むことが、かえって企
業を危うくする局面が増えています。

人口減少、人手不足、最低賃金の上昇、物価高騰、こうした構
造的変化が中小企業の体力をじわじわと削っています。需要そ
のものが減少し、かつての主力事業が「成長の足かせ」と化す
例も少なくありません。にもかかわらず、「昔からの得意分野
だから」「社員が慣れているから」といった理由で、斜陽事業
にしがみついてはいないでしょうか。

経営において大切なのは、「集中」と「執着」を混同しないこ
とです。守るべきは“強み”であって、“形”ではありません。
環境が変わったなら、強みを新しいフィールドで活かす勇気が
必要です。その具体的なヒントが、多角化で成功した中堅企業
の中にあります。

●M&Aを活用し成長速度を上げたイチネンホールディングス

自動車リース業からスタートしたイチネンHDは、M&Aを通
じて化学品・建設・工具販売などに事業を広げました。安定収
益と成長分野を組み合わせた結果、不況にも強い体質を確立し
ました。

◎教訓は、「ゼロからではなく、他社の強みを取り込んでスピ
ードを得る」ことです。時間を味方につけた多角化は、中小企
業にこそ有効です。

●外部資本を取り込み拡大した星野リゾート

軽井沢の一旅館だった星野リゾートは、外部投資家と組み、運
営に特化したホテル再生ビジネスへ転換。「界」「リゾナーレ」
「OMO」などブランドを細分化し、急成長を遂げました。

◎教訓は、「自前主義に固執せず、外部資源を柔軟に取り込む」
ことです。中小企業ほど連携を恐れてはなりません。

●ブランドの信頼を新分野に拡張した中村屋

和菓子店として創業した中村屋は、洋菓子やカリー、レストラ
ン事業に進出。「中村屋の品質」というブランドを守りながら、
新市場で信頼を獲得しました。

◎教訓は、「ブランドは新事業の共通言語」であるということ。
顧客の信頼は、新分野への最強の橋渡しです。

●シナジーを生かしバリューチェーンを広げたワイズホールデ
ィングス

自動車修理業を核とするワイズHDは、後継者不在の企業をM
&Aで統合し、部品流通やリサイクルにまで事業を拡張しまし
た。

◎教訓は、「多角化は遠くを見るより、近くを掘る」こと。既
存顧客の未充足ニーズにこそ、新事業の種があります。

■成功の共通点と、経営者への示唆

これらの事例に共通するのは、いずれも「逃げの多角化」では
なく「攻めの再構築」であるという点です。本業の強みを核に
据えながら、新市場や新モデルに挑む姿勢。これが現代の中小
企業に求められる“戦略的多角化”の本質です。

■経営者が今取るべき行動は、

・本業の将来性を冷静に見極める
・周辺分野への拡張やM&Aを検討する
・外部パートナーと連携してリソースを補完する
・ブランドの信頼を新事業にも活かす
・そして、撤退を恐れずポートフォリオを動的に運営すること

これらを実行できる企業こそ、環境変化を逆手に取り、次の10
年をリードできるでしょう。

「集中」とは、過去に固執することではなく、未来に焦点を合
わせることです。変化の時代において、最も危険なのは“何も
しないこと”。中小企業にこそ、守るための多角化、そして攻
めるための変革が求められています。

最近、経営の世界でよく耳にする「ファイナンス思考」。これ
は、今期の利益を少しでも大きく見せることにとらわれるので
はなく、企業が将来にわたってどれだけキャッシュを生み出し
続けられるかという中長期的な視点で経営を考える考え方です。

一方、日本の中小企業経営では「銀行に評価されるために黒字
を出さなければならない」「資金繰りを安定させなければなら
ない」というプレッシャーが大きく、どうしても短期の利益に
意識が偏りがちです。ここに、銀行の視点とファイナンス思考
とのギャップがあります。

銀行は「返済原資が安定して確保できるか」を見ています。し
たがって、人件費や広告費を削って目先の利益を増やす方が安
心されやすいのは事実です。しかし、それだけでは将来の成長
の芽を摘んでしまう危険性があります。

ではどうすればよいのでしょうか。答えは、両方の視点を上手
に使い分けることです。

銀行に説明する際には、短期的な利益や返済能力をしっかり示
す。

社内で意思決定する際には、将来のキャッシュフローを最大化
する観点を持ち込む。

この両立のためには、やはり財務の知識が欠かせません。投資
の効果を数値で説明できること、資金繰り表で返済能力を裏付
けられることが、銀行との信頼を築きつつファイナンス思考を
実行するカギになります。

短期利益だけに偏れば、企業は縮小均衡に陥ります。逆に、将
来投資だけに傾れば、資金繰りが回らなくなり会社が持ちませ
ん。財務の知識を武器に、この両者のバランスをどう取るか。
それが、中小企業経営者にとって最も実践的な「ファイナンス
思考」といえます。

ファイナンス思考を自社にどう取り入れるか迷われている経営
者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

中小企業が高収益を上げる背景には、偶然ではなく明確な共通
点があります。資本力や規模で大企業に及ばなくとも、戦略と
工夫次第で高い利益を出すことは可能です。ここではその「7
つの要諦」を実例とともに整理します。

■1.高付加価値型ビジネスモデルの構築

価格競争に巻き込まれず、他社に代替されない存在になること
が第一歩です。独自技術やブランド力を磨き、「選ばれる理由」
を確立する必要があります。

●事例:愛知県の精密部品メーカー
大手自動車メーカーと共同開発できるほどの独自加工技術を保
有。下請けではなくパートナーとして扱われ、利益率は業界平
均を大きく上回っています。

■2.一人当たり生産性の最大化

「社員数を増やして売上を伸ばす」発想では限界があります。
高収益企業はむしろ少数精鋭で、一人当たり粗利益1,000万円
を目安に経営を組み立てています。

●事例:東京都のIT人材派遣会社

安売りせず、特定分野に強い技術者だけを育成・派遣。一人当
たり粗利益は1,200万円を超え、給与水準の高さが採用力を強
化する好循環を生んでいます。

■3.適切な価格設定と値上げ力

物価・人件費の上昇が続く中で、利益を守る鍵は「納得感のあ
る値上げ」です。根拠を示し、顧客に理解を得る力が問われま
す。

●事例:福井県の繊維加工業者
エネルギー使用量を数値化し、環境負荷低減の成果を可視化。
その価値を示したうえで工賃を大幅に引き上げました。単なる
コスト転嫁ではなく、「社会貢献と一体化した値上げ」として
顧客に受け入れられました。

■4.運転資本・資金繰りの徹底管理

利益が出ていても資金繰りが破綻すれば会社は倒れます。高収
益企業は在庫回転・回収・支払いを細かく管理し、資金効率を
高めています。

●事例:大阪府の工具卸会社
回収サイトを90日から60日に短縮し、在庫管理システムで不
良在庫を削減。結果、営業利益率は5%から8%へ改善。資金
管理が直接的に収益力を押し上げた例です。

■5.成長性とリスクのバランスを取る

一点集中ではなく、複数の収益源を持ち、環境変化に備えるこ
とが必要です。市場が縮小しても別の柱があれば安定収益を維
持できます。

●事例:京都府の老舗菓子メーカー
観光客依存から脱却し、ECや海外輸出を強化。コロナ禍でイ
ンバウンドが途絶えても売上を維持しました。市場を分散させ
たことでリスクを吸収できた好例です。

■6.強い組織文化と人材活用

人が辞めない仕組みは、中小企業の競争力そのものです。成果
を可視化し、やりがいと報酬を結び付けることで社員は粘り強
く力を発揮します。

●事例:長野県の精密機械製造業
社員全員に「一人当たり粗利益」の目標を共有し、達成度が賞
与に直結。自分の努力が会社の成果につながると実感でき、定
着率が大幅に向上。技術が社内に蓄積し、競争力を高めていま
す。

■7.経営者の先見性と意思決定力

最後に欠かせないのは、経営者自身の「先を読む力」です。環
境変化を見越して早めに手を打つことで、収益機会を確保でき
ます。

●事例:広島県の自動車整備会社
最低賃金上昇を見越し、早期にDXを導入。予約や顧客管理を
アプリ化し、少人数で効率的に運営。さらにEV整備に対応で
きる人材を育成し、新しい収益源を確立しました。

◆中小企業が高収益を実現する共通項は、
◎独自の付加価値で「比較されない存在」になること
◎少数精鋭で一人当たり生産性を高めること
◎顧客を納得させる値上げ力を持つこと
◎資金効率を徹底的に管理すること
◎市場の変化に対応できる事業ポートフォリオを組むこと
◎人材を定着させ、組織力を収益源にすること
◎経営者が先見性を持ち、決断を恐れないこと
の7点に集約されます。

これらは「当たり前」に見えますが、愚直に実践し続けられる
企業は少数です。高収益企業は例外なく、この原則を徹底し、
自社の現場に落とし込んでいます。中小企業にとって、資本力
や規模の差を埋める唯一の道はここにありそうです。

ある飲食店で経常利益が年間300万円出ているとします。経営
者の多くは「もう1店舗出せば利益は600万円に倍増するので
は」と考えがちです。しかし現実はそう単純ではありません。

まず、新店舗を出すには多額の初期投資が必要です。保証金や
内装工事費、厨房機器の購入、スタッフ採用や教育など、数千
万円単位の資金がかかります。銀行からの借入で賄うにしても、
返済負担が利益を圧迫し、黒字化までには時間がかかるのが普
通です。さらに立地や競合状況によっては、思ったように売上
が立たず、赤字が膨らむリスクもあります。「1店舗で黒字だ
から2店舗でも黒字になる」という単純計算は極めて危険です。

一方で、既存店舗にはまだ改善余地が眠っていることが少なく
ありません。たとえば、

・客単価を上げるためのメニュー改良やセット提案
・回転率を高めるためのオペレーション改善
・食材ロスや人件費シフトの見直しによる原価率・経費削減
・常連客との関係強化やSNSを活用した新規集客

これらはすぐに取り組める施策であり、大きな投資を必要とし
ません。小さな改善を積み重ねるだけで、経常利益300万円を
400万、500万円へと高めることは十分可能です。

重要なのは「既存店舗の収益性を最大化する力」こそが、将来
の出店を成功に導くという点です。既存店舗で十分な利益を出
せない状態で新店舗を増やしても、経営の基盤が広がるどころ
か、リスクと負担だけが増えることになります。逆に、既存店
舗で利益率を改善し、手元にキャッシュを蓄えることができれ
ば、新規出店に踏み切るときも資金面・人材面の余裕を持って
取り組めます。

まとめると、経営者にとって「拡大」への意欲は大切ですが、
その前にやるべきは足元の磨き込みです。既存店舗での最大限
の努力を尽くし、その成果が十分に出てからこそ、次の店舗展
開が「利益を倍にする現実的な道」になります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

2025年現在、日本全国の中小企業が直面している最大の経営課
題のひとつが「人手不足」と「人材確保」です。労働人口の減
少、都市部への人材集中、就労観の変化など複合的な要因が背
景にあり、特に地方や製造業、サービス業では深刻な状況が続
いています。

しかしながら、こうした困難な環境の中でも、独自の工夫と実
践を通じて人材確保・定着に成功している中小企業も少なくあ
りません。以下では、全国の成功事例を5つ紹介し、貴社が今
後取り組むべき実践的なヒントを整理します。

■成功事例に学ぶ5つの戦略

【1】外国人材の積極採用と育成制度の整備
製造業を中心とした複数企業では、外国人労働者の採用と、彼
らを支える教育体制の強化により人材不足を補っています。た
とえば三位一体の社内教育制度(上司・先輩・教育係が連携)
を導入することで、言語や文化の壁を乗り越え、定着率の向上
に成功しています。

【2】IT活用と業務改善による「働きやすさ」の実現
岡山県の製造業企業などでは、事務・現場業務のIT化を推進
し、残業削減・有給取得促進など、働き方の改革を実現。従業
員満足度が向上し、離職率低下と採用力の強化につながってい
ます。

【3】採用広報と企業ブランディングの見直し
金沢市の小規模設計会社では、自社採用サイトのリニューアル
に注力。職場のリアルな雰囲気や社員インタビューを掲載する
ことで、採用後わずか3週間で目標人材の獲得に成功。求人票
やWebコンテンツの「魅せ方」の工夫が効果を発揮しています。

【4】シニア人材・女性の活用と多様な勤務形態の導入
高齢者や子育て世代を積極的に受け入れる体制を構築した企業
もあります。例えば「番頭制度」など、ベテラン技術者の知見
を若手に継承させる仕組みや、短時間勤務の導入で幅広い層か
ら人材を確保しています。

【5】地域密着型採用と職場環境の見える化
滋賀県・福井県など近畿圏では、地域の企業が連携し「採用と
定着成功事例集」を活用。求人活動の分析、リーダー育成研修、
職場環境の改善といった取り組みを通じて、地域ぐるみで人材
の流出防止と定着支援を実現しています。

■人材確保の本質は「選ばれる企業づくり」

以上の事例から明らかなのは、人材確保に成功する企業は「人
を大切にする姿勢」「働く環境の整備」「情報発信の工夫」に
注力しているという点です。

求人広告だけに頼るのではなく、
・社内文化の見直し
・教育制度の充実
・柔軟な働き方の導入
・自社の魅力を適切に伝える力

こうした取り組みが、「人に選ばれる企業」としての競争力を
高めているようです。
「うちは小さい会社だから…」「人事に手をかける余裕がない」
といった声も聞かれますが、小さな工夫でも確かな成果を生む
ことができます。上記等を参考にして、自社の人材戦略を見直
し、持続可能な成長を実現していただければ幸いです。

先日、あるオールドビジネスを主業とする関与先様から「将来
的に上場したいのだが可能だろうか」と相談を受けました。長
年にわたり堅実に業績を積み重ねてきた企業で、売上も安定し
ています。しかし、新規性のあるビジネスではないため、株式
市場でどのように評価されるかを知りたいとのことでした。

「上場」と聞くと、急成長するITベンチャーやスタートアップ
を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、オールドビ
ジネスであっても、安定実績を武器に上場を果たす会社は少な
くありません。むしろ投資家からは「基盤のしっかりした企業」
として安心感を持たれるケースもあります。

とはいえ課題となるのは「成長性」と「新規性」です。成熟市
場に属していると投資家から「伸びしろがないのではないか」
と疑問を持たれやすく、株価がつきにくいのも事実です。ここ
をどう乗り越えるかがポイントになります。

第一のヒントは、成長ストーリーを描くことです。たとえば既
存事業を基盤にした海外展開、サステナブル素材への対応、
DXを活用した付加価値強化、あるいはM&Aによる新市場進
出等です。実績に裏打ちされた安定感に、次の一手を重ねるこ
とで「未来の伸びしろ」を提示できます。

第二に、非財務情報の発信です。環境対応や地域社会との連携、
従業員への取り組みなど、財務諸表には表れにくい価値が市場
で注目されています。オールドビジネスだからこそ持つ「長年
の取引基盤」や「地域との結びつき」も、立派な投資判断材料
になります。

第三に、内部統制とガバナンスの整備です。監査法人対応や社
外取締役の登用、子会社管理の透明化など、上場企業として不
可欠な仕組みづくりは避けて通れない工程です。一定の成果を
出すには時間がかかるため、早めの着手が必要です。

まとめると、オールドビジネスが上場を目指すときには、

1.安定した実績を土台に成長ストーリーを描くこと
2.非財務情報を積極的に発信すること
3.内部統制・ガバナンスを整備すること

この3つが重要なヒントになると思います。

安定した黒字や取引基盤は、すでに「信頼」という大きな資産
です。それを未来への成長物語へと昇華させることができれば、
オールドビジネスであっても上場は十分に現実的な選択肢とな
ります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

日本の中小企業は、最低賃金の上昇やエネルギー・原材料価格
の高騰に直面しながらも、価格転嫁が進まずに苦しんでいます。
「値上げ=顧客離れ」という固定観念に縛られてしまい、結果
的に利益を圧迫してしまうケースは少なくありません。そこで
注目すべきが、需要や時間帯、在庫状況に応じて価格を柔軟に
変える「ダイナミックプライシング」です。大企業だけの手法
と思われがちですが、工夫次第で中小企業にも活用可能な強力
な戦略となります。

■1.大手企業が証明する収益改善の効果
ダイナミックプライシングはすでに多くの業界で成果を上げて
います。

●航空・ホテル業界
・繁忙期は高価格で収益を確保し、閑散期は割安に提供して稼
働率を最大化。
●外食チェーン
・ピークタイムは価格を上げ、アイドルタイムは値下げするこ
とで混雑緩和と集客を両立。
●テーマパークやコンサートチケット
・需要予測に基づいて価格を変動させ、売上を伸ばすだけでな
く、顧客分散を実現。

こうした事例は、価格を固定するよりも「変動させる」方が、
収益性・顧客体験の双方を改善できることを示しています。

■2.中小企業でもできる実践シナリオ
中小企業の現場にも応用可能な場面は多岐にわたります。

●飲食店
・金曜夜は通常価格を維持し、平日昼はセットメニューを割安
にして空席を埋める。
・天候連動型キャンペーンとして「雨の日割引」を導入し、集
客を安定化。
●美容室・整体院
・直前キャンセル枠を値下げして即時予約を促進。
・繁忙期の年末や土日にはプレミア価格を設定し、利益を上積
み。
●小売業
・在庫が多い商品は値下げで回転を早め、人気商品は需要期に
値引きを抑制。
●レンタル業
・季節商材(スキー用品や祭事用備品など)は繁忙期料金を設
定し、オフシーズンは割安に提供。

これらはPOSSデータや予約アプリを活用すれば十分に実現
可能です。難解なAIシステムを導入しなくても、まずは「曜
日」「時間帯」「在庫量」というシンプルな切り口から始めら
れます。

■3.利点は「利益最大化」と「顧客満足度向上」
ダイナミックプライシングの本質は、単純な値上げではなく
「売れ残りや混雑による機会損失をなくすこと」にあります。

●利益の最大化
・需要が高い時期に価格を調整することで利益を確保し、閑散
期には値下げで稼働率を高める。
●顧客分散効果
・混雑時を避けたい顧客にはオフピーク価格を提供し、快適な
サービス体験を実現。
●従業員の負荷軽減
・ピーク時の集中を抑制できるため、人手不足が深刻な中小企
業にとっても労務管理がしやすくなる。

つまり「顧客の満足度を下げずに、収益と働きやすさを両立で
きる仕組み」です。

■4.導入の壁を乗り越える方法
「顧客に不公平感を与えないか」という懸念はもっともですが、
工夫次第で解決できます。

●納得感のある説明
・「早割」「直前割」「平日限定」など、顧客が理解しやすい
形で設定する。
●透明性の確保
・店頭や予約サイトで価格ルールを明示し、誤解を避ける。
●小さな実験から開始
・まずは曜日別・時間帯別などシンプルな仕組みから導入し、
顧客反応を見ながら調整。

近年は、中小企業向けのクラウド型ダイナミックプライシング
サービスも登場しており、AIが需要を予測して価格の目安を
示してくれるため、専門知識がなくても導入が容易になってい
ます。

■5.「価格を守る」から「価格を活かす」へ

固定価格が当たり前だった時代は終わり、価格を柔軟に動かす
ことが競争力を生む時代に入っています。物価高・賃上げ・人
手不足という逆風に対して、価格を固定して守るだけでは企業
の体力は削られてしまいます。中小企業がとるべきは「価格を
活かす」戦略です。需要の波に合わせて価格を変え、収益機会
を最大化する。これこそが持続的な経営を実現する新しい発想
です。

大きな投資をせずとも、まずは自社の予約や販売データを振り
返り、「混む時間」「空いている曜日」「在庫の山」を見つけ
ることから始められます。そこに小さな価格実験を仕掛けるこ
とが、未来の利益構造を変える第一歩になるでしょう。