中小企業が成長するためには「品質向上」「コスト削減」とい
った努力が不可欠です。しかし、どれだけ努力して「より良い
もの」を作っても、それが市場で埋もれてしまっては意味があ
りません。多くの企業が似たような取り組みをしている現在、
「より良い」ことはもはや差別化要因ではなく、スタートライ
ンに過ぎないのです。
このような状況で起きているのが、「同質化競争」です。例え
ば、美容室。どの店も「技術力」「丁寧な接客」「居心地の良
い空間」をアピールします。しかし、それだけでは消費者にと
って違いが見えにくく、「安い方に行く」「近い方に行く」と
いった価格や立地の比較に依存してしまいます。こうなると価
格競争が激化し、利益は減少します。
そんな中、大阪にある小さな美容室が打ち出したのが「マンガ
読み放題&完全個室」のサロンです。美容院での会話が苦手な
人、長時間の待ち時間が苦痛な人向けに、全席個室、マンガ
1,000冊常備というコンセプトに特化しました。これにより、
SNSや口コミで話題となり、予約の取れない人気店に成長し
ました。技術ではなく「体験の違い」で勝負した好例です。
製造業でも同様の発想が重要です。ある関東の町工場は、精密
機械部品の下請けとして業界内で地道に活動していましたが、
安価な海外製品との競争に直面していました。そこで同社が始
めたのが「工場の音を使った音楽制作」です。機械の動く音、
金属の削れる音を録音し、それをリズムやメロディにしてCD
として販売。さらに「音で伝えるものづくり企業」として、企
業PR用の動画やイベントに活用されるようになりました。商
品ではなく、自社の環境や雰囲気を「違う形」で価値に変えた
のです。
また、飲食店の例も挙げられます。名古屋のあるカフェは、
「メニューのすべてを昭和レトロ風にアレンジした」という独
自の方向性をとりました。メニュー表は昭和の給食表風、料理
は昭和の家庭料理を再現し、店内は駄菓子屋のような装飾。結
果、ノスタルジーを求める若者や年配客の支持を集め、「映え
る店」としてテレビやSNSで紹介されるまでになりました。
さらに、北海道のある家具職人は、「組み立て不要、部屋の真
ん中で目立つ家具」をコンセプトに、円形の畳ベッドや、壁に
立てかけると棚になるイスなど、機能性より“会話のきっかけに
なる家具”を発表。インテリア雑誌やデザインイベントで注目さ
れ、BtoCだけでなくホテルやカフェへの導入が進みました。
また、福岡の印刷会社は、競合が激化する中、「匂いがする印
刷物」というニッチを発見。香料をインクに混ぜて印刷できる
技術を活かし、アロマ付き名刺や香るパンフレットを開発。化
粧品会社や観光地のお土産パンフに採用され、感覚に訴える新
たな価値を提供しました。
これらの事例に共通しているのは、「他社と違う軸で勝負して
いる」という点です。「品質」や「価格」といった通常の評価
軸ではなく、「体験」「驚き」「記憶に残るコンセプト」など、
比較されにくい価値を提示しているのです。中小企業は資源が
限られているからこそ、このような差別化が極めて有効なので
す。
まとめると、「より良いもの」は他社も目指しているため、気
がつけば同じ土俵での争いになります。しかし「違うもの」は、
競争の土俵そのものを変える力があります。自社の強みや特徴
を活かしながら、「誰にも似ていない価値」を創り出すことが、
これからの中小企業経営には求められているのです。
同質化競争から脱却して、「違うもの」を作ることに挑戦しま
せんか。