銀行融資の営業はやや特殊です。融資をしなければ利益は上が
りませんが、融資を行えば、同時に貸倒れのリスクも発生する
ため、貸したいような貸したくないような複雑な心境で営業を
しています。
また、資金使途が適切でなければ融資が出来ない点も営業を難
しくしています。お客様から融資を受けたいという意思表明が
あり、かつ信用状況が良くても、実需に伴う資金使途が無くて
は融資をすることができません。
銀行は、事業に必要な資産を購入する場合の融資には前向きで
す。例えば、工場建設や事業拡大に伴う用地取得などが該当し
ます。一方で、将来の値上がりを期待して土地や株式を購入す
る投機的な目的での融資は行いません。
この方針の背景には、過去の苦い経験があります。かつて銀行
は、土地、株、ゴルフ会員権など、投機目的の購入資金に対し
て積極的に融資を行っていました。その結果、深刻な資産バブ
ルを引き起こし、経済に大きな混乱をもたらしたのです。
この反省から、現在の銀行は、実体経済に資する目的の融資に
注力し、投機的な資金需要には慎重な姿勢を取っています。つ
まり、明確な事業目的がある場合にのみ、融資の検討が可能に
なります。
実は、資産の購入を目的とした設備資金だけでなく、運転資金
にも同様の考え方があります。その企業にとって必要と考えら
れる運転資金の額を算出する算式があり、それを超える融資は、
たとえ企業業績が良くても難しくなります。事業資金であって
も、実需以上の融資は行わないというスタンスです。
当事務所では、不測の事態に備えて「借りられる時に借りられ
るだけ借りておく。」ことを提唱しておりますが、実は不測の
事態に備えるための「倒産回避資金」なる資金使途はありませ
ん。あくまでも「運転資金」として調達しなくてはなりません
が、先ほどの算式で得た額を超える運転資金を調達するにはコ
ツが必要になります。
運転資金を多めに借りることが出来るコツのひとつは銀行の決
算です。融資残高目標を達成するため、一般企業の決算セール
に該当するようなものが実際にあります。当事務所にも「3月
末までに○○億円を融資したいのでお客様のご紹介をお願いし
ます。」と金融機関の担当者が熱心にあいさつに来られます。
普段はお客様から融資を依頼される銀行ですが、この時期は銀
行の方からお客様に融資を依頼するケースが増えますので、実
需を超えた資金を融資してもらえるチャンスがあります。
借金が増えるのは嫌だからと銀行からの融資提案を断る社長様
もおられますが、借金があっても同等の預金があれば実質無借
金です。もし銀行から融資の提案があれば、将来の不測の事態
に備えて借りることをためらわず、キャッシュポジションを高
く取っておくと安心です。