事業拡大の局面では、経営者と金融機関の間に大きな認識の隔
たりが生じます。特に中小企業や飲食店の多店舗展開では、そ
の傾向が顕著です。たとえば、ある飲食店経営者が銀行融資で
2号店を開業し、半年後に好条件の物件を見つけて3号店の融
資を相談したところ、「出店ペースが早すぎる」として断られ
るケースが実際にあります。

経営者にとっては、魅力的な物件との出会いは一期一会であり、
スピード感を持って意思決定することが競争優位の源泉です。
しかし、金融機関は「まずは2号店の安定化を優先すべき」と
慎重な姿勢を崩しません。これは、金融機関が過去の失敗事例
から、着実な成長を重視する傾向を強めているためです。回収
リスクを避けたい金融機関と、成長機会を逃したくない経営者、
両者の間には、事業を進める速度に対する考え方の根本的な違
いがあります。

■ 急成長のリスクと金融機関の論理
急速な事業拡大は、資金繰りの悪化や経営管理の複雑化といっ
たリスクを伴います。金融機関は、安定した実績やキャッシュ
フローを重視し、無理な拡大には融資を渋る傾向があります。
これは、貸し倒れリスクを最小化するための合理的な判断です。

一方で、経営者の多くは「2年に1店舗のペースでは、10店舗
展開するのに20年もかかってしまう」と、成長スピードの遅さ
に焦りを感じるものです。しかし実際には、最初の数年で着実
に実績を積み上げることで金融機関からの信頼が高まり、その
後は融資が受けやすくなります。その結果、出店のペースを後
半で大きく加速できるケースが多く見受けられます。例えば、
設立から10年で10店舗を展開したある経営者の場合、最初の
5年間で3店舗を出店し、次の5年間で一気に7店舗を増やし
ています。このように、序盤でしっかりと信用を築くことで、
後半の成長スピードを上げることが可能になるのです。

では、スピード感を持って成長したい経営者はどうすればよい
のでしょうか。ひとつは、銀行以外の資金調達手段、たとえば
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家など、リスクマネー
を供給する機関を活用することです。ただし、株式上場を目指
すようなビジネスモデルでなければ、こうした選択肢は限られ
ます。

よって、多くの中小企業にとって現実的なのは、金融機関の論
理に合わせた事業計画を立てることです。事業拡大の際は、ま
ずは既存店舗の安定化と実績作りに注力し、金融機関の信頼を
積み上げていくことが重要です。加えて、セーフティネット保
証や自治体の制度融資など、別枠の資金調達のタイミングを活
用し、成長のチャンスを逃さない工夫が求められます。
事業拡大には、経営者の情熱とスピード感が不可欠ですが、金
融機関の論理を無視した計画は実現可能性が低くなります。持
続的な成長を目指すなら、金融機関の視点を理解し、堅実な実
績づくりと計画的な資金調達を組み合わせることが、最終的に
は最短距離での成長につながります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

イノベーションとは技術革新の意味ではありません。
イノベーションとは新・結合(=新しい組み合わせ)を意味し
ます。

経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションとは
「新結合(New Combination)」によって社会に新たな価値
をもたらす行為だと定義しました。これは大企業だけの話では
ありません。むしろ、制約の多い中小企業だからこそ、機動力
を活かした“結合の再構築”が競争優位の鍵になります。

以下では、「5つの新結合」を中小企業の具体事例とともに紹
介し、経営者が自社の成長戦略にどう活かせるかのヒントを紹
介します。

■1.新しい財貨(製品)の導入

事例:株式会社ユーグレナ(ミドリムシ関連製品)

同社は、健康食品や燃料の原料として注目される「ユーグレナ
(和名:ミドリムシ)」の大量培養技術を確立し、食品・化粧
品市場に参入しました。当初、消費者には馴染みのない素材で
したが、「体に良い微細藻類」という価値訴求により、徐々に
市場を創出しました。これはまさに「消費者が知らなかった新
しい財貨の導入」によるイノベーションです。

◎自社にとって「当たり前」の技術や知見が、世の中ではまだ
知られていない価値かもしれません。マニアックな知識や独自
素材こそ、新市場を開拓する鍵です。

■2.新しい生産方式の導入

事例:町工場による3Dプリンタ活用(都内・板金加工業者)

ある金属加工中小企業は、従来の切削中心の加工工程に加え、
3Dプリンタによる試作品製造を導入しました。開発リードタ
イムを大幅に短縮し、デザイン事務所やベンチャー企業からの
受注が急増しました。これにより、従来のBtoB製造業からプ
ロトタイピング支援企業へとポジションを転換しました。

◎「この業界ではこうするもの」という前提を疑いましょう。
設備投資やIT技術の導入は、中小企業こそ柔軟に取り入れら
れます。生産方式の革新は、新たなビジネスモデルへの扉を開
きます。

■3.新しい販路の開拓

事例:地方の和菓子店が越境ECを活用(新潟県・創業100年
の菓子舗)

地方にある老舗和菓子店が、海外向けの越境ECに参入しまし
た。(コロナ禍の)インバウンド需要の消失後も、SNSと連
動した発信で台湾・香港・北米の固定ファンを獲得しました。
国内だけでは維持が難しかったブランドを世界に広げました。

◎販路は「地域」や「業界」の常識に縛られる必要はありませ
ん。オンラインを活用すれば、ニッチな商品にも世界中にファ
ンが生まれます。自社の強みを誰に届けるか、視野を広げるだ
けで売上構造が変わります。

■4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

事例:廃棄野菜を使ったクラフトビール開発(兵庫県の醸造所)

農家が廃棄予定だった規格外野菜を副材料に使用し、ユニーク
なクラフトビールを開発しました。サステナブル志向の若年層
や観光施設に受け入れられ、話題性と環境貢献性の両立を実現
しました。

◎既存の仕入先や材料を見直し、「捨てられていたもの」や
「使われていなかったもの」に着目してください。今ある資源
を別の視点で捉えることで、競合がいない“ブルーオーシャン”
に踏み出せます。

■5.新しい組織の実現

事例:シェアリング人材で形成された経営チーム(福岡県・
ITベンチャー)

正社員雇用にこだわらず、業務委託や副業プロ人材を活用して、
マーケティングや開発部門を構築しています。固定費を抑えつ
つ、高度なスキルを持つ人材で組織を形成しました。フルリモ
ート前提の組織体制は、コロナ禍以降の変化に柔軟に対応して
います。

◎「社員がいないと会社じゃない」という思い込みを捨てまし
ょう。今は“人を雇う”ではなく“人と組む”時代です。経営資源
を外部に求め、柔軟な組織構造を設計することで、規模の壁を
超える力が得られます。

■まとめ:経営者こそ「新結合の担い手」であれ

シュンペーターが語った「企業家」とは、まさに“常識の再結
合”に挑む存在です。中小企業であっても、あるいは中小企業
だからこそ、固定観念を打ち破る柔軟性と実行力が求められま
す。

現状維持はリスクであり、変化こそが成長の源泉です。今日か
ら、あなたの会社の中にある“結合可能な資源”を探し、何かを
組み直すことから始めてみてください。イノベーションは、あ
なたの手の中にすでに眠っているかもしれません。

中小企業の経営者にとって、資金繰りの安定は事業継続の生命
線です。当事務所では一貫して「借りられる時に借りられるだ
け借りておく」ことをファイナンス戦略の基本と推奨していま
す。その理由を、実際の支援事例をもとに改めてご紹介します。

■ A社のケース
A社様とのご縁は、会社設立のサポートから始まりました。設
立後は税務顧問として、さらに財務部長代行として資金管理も
お手伝いしてきました。A社様は、手形割引を活用しながらも、
毎月2,000万円ほどの預金残高を維持。資金繰りに窮すること
なく経営されていましたが、売上の多くをスポット取引に依存
していたため、社長様は常に将来の売上減少に対する不安を抱
えていました。

■ 「今は困っていない」時こそ備えるべき理由
設立間もない企業が急な資金ショートに直面した場合、銀行が
すぐに融資をしてくれるとは限りません。A社様も「今すぐ必
要ではないが、将来のリスクに備えたい」との思いから、既存
の銀行以外にも2行と新たに合計1,500万円の融資取引を開始
しました。

その後、業績は順調に推移し、2期目には売上高4億円を達成。
これを受けて、主要取引銀行から7,000万円の大型融資提案が
ありました。資金使途に明確な予定はなかったものの、金利は
1%未満。年間コストは約50万円(月4万円)という条件でし
た。

「今は必要ない資金」を借りるかどうか、社長様と慎重に検討
した結果、「借りられる時に借りておく」という原則に従い、
融資を受ける決断をしました。

■ 危機は突然やってくる
融資実行から半年後、不良品を出してしまったことが原因で最
大の取引先から突然の取引停止を受け、月2,000万円、3か月
で計6,000万円の売上を失いました。もし手元資金が2,000万
円だけだったら、資金繰りは即座に行き詰まっていたでしょう。
しかし、1億円のキャッシュポジションがあったことで、冷静
に状況を分析し、再開交渉や新規開拓などの対策に十分な時間
を確保できました。結果、3か月後には取引が再開し、事業は
無事に継続できました。

社長様も「余裕資金があったからこそ、慌てずに対応できた」
と振り返っておられます。

■ 借金推奨ではなく自己防衛策
「借りられる時に借りる」というのは、単なる借金の奨励では
ありません。中小企業は資金調達力が弱く、いざという時に銀
行が融資をしてくれるとは限りません。だからこそ、平時にこ
そキャッシュポジションを高めておくことが、経営の安心と事
業継続の保険になります。

高いキャッシュポジションを維持するためには、銀行対応や資
金管理に精通した財務責任者の存在が不可欠です。当事務所で
は、こうした財務戦略の立案・実行を一貫してサポートしてい
ます。資金調達やキャッシュマネジメントに不安を感じている
経営者の皆様、ぜひ一度ご相談ください。

近年、事業環境は急激に変化し、中小企業を取り巻く競争は一
層激しさを増しています。限られた経営資源の中で利益を確保
し、持続的に成長していくためには、自社のビジネス環境を構
造的に分析し、競争優位を築く戦略的視点が不可欠です。

マイケル・ポーターの「5の競争要因(Five Forces)」は、
その判断基準として極めて有効です。以下に、このフレームワ
ークを活用して導き出される中小企業向けの具体的な施策を列
記します。

■1.業界内の競争が激しい場合、差別化と顧客密着で勝つ

中小企業が直面しがちな課題は、同業他社との価格競争です。
たとえば、都市部に乱立する美容院やラーメン店では、価格や
サービスの小さな違いで顧客が流動し、利益率が低下します。
こうした環境下では、「価格競争に巻き込まれない差別化」が
鍵です。

対策は、自社の強みを活かしたブランディングを行い、独自性
を明確にすることが重要です。たとえば、「地域密着型の子ど
も歓迎美容室」「無添加・地元野菜使用のランチ専門店」とい
った明確なコンセプトは、価格以外の価値を提供し、顧客のロ
イヤルティを高めます。また、LINEやアプリでの来店ポイ
ント、誕生日クーポンなどの仕組みを活用し、リピーターの獲
得を強化することで、利益の安定性を高めることができます。

■2.新規参入の脅威が高い場合、参入障壁を構築する

IT・サービス分野では、特に新たなプレイヤーが低コストで
市場に参入しやすく、競争が激化しています。たとえば、クラ
ウド会計ソフト市場ではfreeeやマネーフォワードといっ
たスタートアップが次々と参入し、老舗ソフト会社に大きな影
響を与えました。

このような環境では、「顧客との関係性を資産にする」ことが
有効です。中小企業であれば、導入後の手厚いフォロー、定期
的な相談サービスなどを提供することで、顧客の乗り換えコス
ト(スイッチングコスト)を高め、長期的な関係性を築くこと
ができます。また、自社でしか提供できないノウハウやプロセ
スを体系化し、知的財産や業務マニュアルとして蓄積すること
も、模倣困難性の高いビジネスモデルの構築に繋がります。

■3.代替品の脅威がある場合、体験価値の提供と技術導入

異業種や新技術による代替も大きな脅威です。たとえば、タク
シー業界にとってはUberなどのライドシェア、飲食業では
出前アプリやゴーストレストランが既存のビジネスモデルを揺
さぶっています。

このような場合、中小企業に求められるのは、「機能の提供」
から「体験の提供」への転換です。たとえば、老舗和菓子店が
単に商品を売るのではなく、「季節の和菓子作り体験」や「贈
り物文化を伝える講座」などを提供すれば、ECや大量生産品
では代替できない価値が生まれます。

同時に、新技術を取り入れて自社の競争力を高めることも重要
です。飲食業でのモバイルオーダー導入、小売店でのネット通
販併設などは、代替される前に自ら変化する「自己破壊型イノ
ベーション」として有効です。

■4.買い手(顧客)の交渉力が強い場合、提案力と客層の見
直し

顧客が強い立場にあるBtoB取引では、価格や納期の交渉に
苦慮しがちです。特に大手企業との取引では、値下げや無償対
応を迫られがちです。

このような状況では、「価格で勝負せず、課題解決力で勝負す
る」ことが必要です。たとえば、中小製造業が「納品スピード
の短縮」「現場での直接フィードバック」などを売りにすれば、
大手にない柔軟性が武器になります。また、価格競争を避ける
ために、客層自体を見直すことも有効です。こだわりを重視す
る中小事業者や個人客へのサービス提供にシフトすることで、
利益率の高い経営が可能となります。

■5.売り手(仕入先)の交渉力が強い場合、調達の多様化と
共創

原材料の高騰や供給制約は、中小企業のコスト構造を直撃しま
す。2020年代に顕著だった半導体不足は、家電や自動車業界の
生産にも大きな影響を与えました。

対策としては、「仕入先を複数持つ」「サプライヤーとの関係
性を強化する」ことが有効です。たとえば、飲食店が一社から
の仕入れに依存せず、地元農家や市場との直接取引を組み合わ
せれば、価格交渉力を持ちやすくなります。また、仕入れ先と
共同で商品開発や改善活動を行う「共創関係」を築くことで、
単なるコスト負担先ではなく、パートナーとしての連携が可能
になります。

■まとめ

中小企業が持続的に利益を生み出すためには、目の前の売上だ
けでなく、業界構造そのものを理解し、それに応じたポジショ
ニングを確立することが重要です。マイケル・ポーターの5つ
の競争要因は、そのための強力な分析ツールであり、経営戦略
の出発点です。

今、自社に最も影響を与えている競争要因は何か。それに対し
て、どのような独自の打ち手を講じるか。ぜひこのフレームワ
ークを活用し、競争優位の構築に取り組んでいただきたいと思
います。

以前のコラムでは、「100億宣言」の概要とその背景、そし
て中小企業が目指すべき方向性について解説しました。多くの
方から反響をいただき、制度の具体的な内容や意義に関心が高
まっていることを実感しています。

今回は、その後に明らかになった最新の情報を踏まえ、
「100億宣言」の全貌と、これからの具体的なアクションに
ついて詳しくお伝えします。

■ 「100億宣言」の全貌と最新動向
2024年2月に正式に発表された「100億宣言」は、売上高10
億円以上100億円未満の中小企業が、自ら高い目標を掲げて挑
戦することを促す制度です。申請受付は2025年5月から開始予
定で、申請には以下の内容が求められます。

・企業概要(現状の売上高や従業員数)
・100億円達成の具体的な目標と課題
・その実現に向けた具体的な取組
(設備投資、海外展開、M&Aなど)
・事業計画と経営者のコミットメント

また、申請企業には、「成長加速化補助金」や税制優遇、経営
者ネットワークへの参加、公式ロゴの使用権など、多彩な支援
策が用意されています。

■ 成長加速化補助金の詳細と最新情報
特に注目すべきは、「中小企業成長加速化補助金」です。これ
は、売上高100億円超を目指す企業の大胆な投資を支援するも
ので、最大5億円の補助金が交付されます。

【概要】
・対象企業:売上高10億円以上100億円未満で、
かつ「100億宣言」を行った企業
・補助率:1/2
・補助金額:最大5億円
・投資対象:生産設備の増強、自動化、海外展開、M&Aなど
・申請期間:2025年5月8日から6月9日まで

この補助金を活用すれば、大規模な設備投資や事業拡大に必要
な資金を確保しやすくなります。特に、賃上げや地域経済への
波及効果も重視されており、持続可能な成長を実現するための
重要なツールです。

■ 今後のアクションとポイント
「100億宣言」を成功させるためには、早めの準備と具体的
な計画策定が不可欠です。

・宣言書の作成:A4一枚の宣言書に、目標と取組内容を明確
に記載しましょう。申請要領やひな型を参考に、具体的な数
値目標や取組内容を盛り込みます。
・事業計画の策定:投資計画や人材育成計画を具体化し、賃上
げや生産性向上の見通しを立てることが重要です。
・制度の積極活用:補助金や税制優遇を最大限に活用し、資金
面の不安を解消しながら大胆な投資を進めましょう。
・ネットワーク参加:経営者同士の交流や情報共有を促進し、
成功事例やノウハウを取り入れることも効果的です。

■ まとめ
「100億宣言」は、単なる目標設定ではなく、自社の未来を
切り拓く絶好のチャンスです。最新の補助金制度や支援策を最
大限に活用し、積極的に挑戦していくことが、今後の成長を加
速させる鍵となります。地域や社会に大きなインパクトを与え
る「100億企業」への成長を目指す経営者様は、本制度を活
用してみてはいかがでしょうか。

参考サイト:100億宣言を開始します(METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250221002/20250221002.html

トランプ大統領が関税強化を打ち出し、日本からの輸入品にも
高率な関税を課す方針が現実化しました。自動車や精密機械、
金属部品、電子機器といった主要輸出品目に対して最大24%
の関税が課される見通しで、日本経済への打撃は避けられませ
ん。
(※4月10日時点では90日間は猶予とされています。)

最大の影響は、日本企業の輸出収益の減少による国内所得の縮
小です。日本は長年、輸出企業が成長を牽引してきました。ト
ヨタや日立といった大手メーカーはもちろん、その下請けや協
力企業として関わる中小企業が多く、地域経済を支えています。
これら輸出企業の業績悪化は、賞与・雇用・設備投資の抑制を
もたらし、間接的に家計所得の減少=国内消費の冷え込みにつ
ながります。

加えて、関税措置が円安を誘発し、輸入価格の上昇→物価の押
し上げにつながれば、実質可処分所得はさらに減少します。つ
まり、所得が減り、物価は上がるという悪循環により、日本の
消費者は支出を控える傾向を強め、特に耐久財や外食、小売な
どの消費支出が減速することが予測されます。

■ 消費低迷が中小企業に与えるダメージ

中小企業の多くは内需依存型であり、消費低迷は直撃弾になり
ます。特に打撃を受けるのは以下の業種です。

●飲食・小売業:外食やレジャーへの支出が抑制され、来店客
数や客単価の減少に直結します。
●サービス業:理美容、教育、旅行などの支出は「真っ先に削
られる」傾向があり、契約キャンセルや利用頻度の減少に悩ま
されます。
●製造業(BtoB):大手企業からの発注減少や価格引き下げ
圧力により、利益率が悪化し、資金繰りにも支障をきたします。

中小企業は人材・資本・情報面で制約が多く、急な外部環境の
変化に脆弱です。売上減少が一定期間続くだけでも、倒産リス
クが高まります。

■ 中小企業経営者が打つべき施策

このような状況下で中小企業経営者がとるべき施策は、短期的
な収益防衛と、中長期的な構造変化への備えを両立することで
す。以下に具体策を示します。

◆1.コスト構造の見直しとキャッシュ重視経営
・固定費(特に人件費・家賃・光熱費)の見直しと可変化。
・在庫管理の徹底と仕入れロスの削減。
・補助金等の活用。

◆2.消費志向に合わせた商品・サービスの再設計
・高価格帯から低価格帯への商品ライン拡充や小分け・サブス
クモデルへの転換。
・家庭向け(BtoC)への事業転換や「おうち需要」への対応。
・節約志向の消費者向けに「高コスパ」「長持ち」「健康志向」
などの訴求軸を打ち出す。

◆3.売上チャネルの分散化と販路開拓
・ECサイトやモール(Amazon、楽天など)での販路強
化。
・地方自治体・地域企業と連携した「地域経済圏内取引」の活
性化。
・海外(アジア圏)への輸出支援策を活用した新規開拓。

◆4.顧客との関係性の強化
・来店客数の減少を補うため、リピーターづくりやファンマー
ケティング(SNS・LINE活用)の推進。
・顧客満足度の向上→口コミ・紹介による集客への流れを強化。

◆5.人材戦略の見直し
・正社員にこだわらず、副業人材・パート・フリーランスとの
柔軟な連携体制を整備。
・DXや業務効率化ツールの導入で、省力化と労務費削減の両
立を目指す。

トランプ関税は一国の政治判断に端を発する外的ショックです
が、これを“他責”としてとどまるのではなく、自社のビジネス
モデルを見直す契機と捉えることが重要です。これからの時代、
外部環境の変動は常態化します。だからこそ、リスク分散、構
造転換、収益の多様化、そして変化に柔軟に対応できる経営体
制の構築が、中小企業の生存と発展の鍵となります。

厳しい環境の中でも、環境の変化を捉えて行動を起こす企業こ
そが、次の成長の波をつかむことができます。今こそ、危機を
チャンスに変える“変化対応型経営”への転換が求められていま
す。

■ 事例の概要
決算書の信ぴょう性に疑義があることを理由に、銀行から融資
を受けられなかった事例です。

■ M社の状況
年商:約4,500万円
利益:若干の利益
借入状況:日本政策金融公庫から3百万円のみ(3年前に借入)

社長は借入が嫌いなため、自己資金で対応してきた結果、資金
繰りが常に厳しい状況が続いた様子です。

■ 問題点
以下の不自然な点が決算書から浮かび上がり、銀行側に疑念を
抱かせました。

1.利益額の不自然な一致
過去3期ともに、利益額が数万円の黒字または赤字で推移して
います。毎期売上高の0.5%内に収まる利益は偶然としては不
自然です。

2.粗利率の大幅な変動
35%から65%まで粗利率が変動しています。同じ事業で特段
の理由なく30%もの変動は通常考えられません。

■ 原因と社長の回答
社長に本当のところをお聞きすると、「税金を払いたくない」
という理由で売上を操作していたことを認めました。資金繰り
が厳しく税金を納める余裕がないため、やむを得ず粉飾決算を
行ったとのことです。

■ 問題点の影響
1.法令違反
粉飾決算は明確な法令違反であり、刑事責任や信用失墜につな
がります。

2.経営上の損失
正しい決算書であれば融資を受けられた可能性が高いです。
資金調達の道を自ら閉ざし、経営の幅を狭めています。

3.税務リスク
当然ながら、税務調査による追徴課税や罰則のリスクがありま
す。

■ 解決策と教訓
M社の社長様は、法令違反を犯していることはもちろん、経営
上も大きな間違いを犯しています。利益が出ているがキャッシュ
がないという状態であれば、融資を受けてでも税金を納めた方
が、その後の経営の幅が拡がります。

社長様は、「そうした方が良いと分かってはいたが、銀行に頭
を下げたり、資料を提出したりするのが苦手で、ついつい・・
・」とおっしゃっていました。

確かに銀行対応が苦手で資金調達が後手に回っている経営者様
も少なくないように感じます。M社様についても、1年前にお
会いできていれば何とかできたと思います。深刻な事態に陥る
前にご相談ください。

2025年の日本経済は、引き続き物価上昇(インフレ)の影
響を強く受けております。エネルギー価格や原材料費の高騰、
物流コストの上昇、さらに円安による輸入品価格の増加などが
重なり、全体的な物価上昇圧力は収まる気配がありません。こ
のような状況は、特に中小企業の経営に深刻な影響を及ぼしま
す。

まず、物価上昇が中小企業に与える最大の影響は「コストの増
加」です。原材料、部品、燃料、電力といった調達コストが上
昇する一方で、中小企業は大企業ほど価格転嫁が容易ではあり
ません。その結果、利益率が圧迫され、経営体力が徐々に削ら
れていく危険性があります。さらに、人件費や物流費の高騰も
重なり、固定費の負担が増すことも見逃せません。

また、物価の上昇は消費者の購買意欲にも影響を与えます。生
活コストの上昇によって家計の引き締めが進み、消費が抑制さ
れる傾向にあります。特に、嗜好品やサービス業など、価格に
敏感な分野では売上が減少するリスクが高くなります。つまり、
中小企業は「売上減少」と「コスト増加」という二重の圧力に
さらされる公算が高くなります。

こうした厳しい環境において、中小企業経営者の皆様には、以
下の6つの視点から戦略的に対応していただくことを強く提言
いたします。

■1.コスト構造の見直しと業務の効率化

まずは社内のコスト構造を徹底的に見直し、無駄の排除と業務
の効率化を進めてください。省エネ対策、在庫の適正管理、IT
ツールの導入などを通じて、固定費の削減を図ることが重要で
す。少ない資源で高い成果を出す「スリム経営」を目指すこと
が求められます。

■2.価格転嫁の工夫と適正な交渉

価格転嫁は避けて通れない課題です。自社製品・サービスの価
値をしっかりと伝え、納得感のある価格設定を行うことが大切
です。また、仕入れ先との交渉も積極的に行い、仕入れ価格の
見直しや支払い条件の改善を検討してみてください。

■3.付加価値の創出と差別化戦略

価格競争に巻き込まれないためには、商品やサービスに独自の
付加価値を加える必要があります。地域性、品質、環境への配
慮、顧客体験の向上といった差別化要素を積極的に取り入れる
ことで、他社との差を明確にし、価格以上の価値を提供するこ
とが必要です。

■4.新市場・新販路の開拓

国内需要の低迷が予測される中、新たな市場への進出も視野に
入れていただきたいと思います。特に、円安を背景に海外への
販路拡大や、オンライン販売、越境ECの活用などは有効な手
段です。デジタル技術を活用することで、比較的低コストで新
規顧客の獲得が期待できます。

■5.公的支援制度の活用

中小企業庁や地方自治体は、経営支援や資金繰り支援のための
多くの制度を設けています。補助金、助成金、専門家派遣など、
積極的に情報を収集し、経営改善に活用することをおすすめい
たします。これらの制度は、今のような経営環境下では特に重
要な経営資源になります。

■6.柔軟で強い組織づくり

変化に対応できる組織づくりも、経営者の重要な役割です。社
員の多能工化、リモートワークやフレックスタイム制度の導入、
外部人材や業務委託の活用など、柔軟で持続可能な人材戦略を
構築していくことが求められます。

2025年の物価上昇は、確かに中小企業にとって厳しい外的
要因でありますが、同時に自社を見直し、進化させる好機でも
あります。短期的なコスト対策にとどまらず、将来を見据えた
構造改革や事業の再構築に取り組むことで、変化に強い企業体
質を築いていくことが可能です。今こそ、経営者の皆様には
「守り」と「攻め」のバランスを取りながら、持続可能な経営
への一歩を踏み出していただきたいと存じます。

中小企業にとって、金融機関との適切な関係構築は資金調達や
経営安定の鍵となります。その中でも「バンクフォーメーショ
ン」という概念は、経営者が意識すべき重要な財務戦略です。
本コラムでは、規模に応じた金融機関の選び方と、担保や保証
の扱い方について解説します。

■ 規模に応じた金融機関の選定
企業の規模によって適切な金融機関を選ぶことが重要です。例
えば、売上規模が3億円以下の企業であれば信用金庫や信用組
合との取引が適しています。これらの金融機関は地域密着型で
あり、小規模事業者へのきめ細やかな対応が期待できます。

一方、売上が3億円を超えると地方銀行との取引を検討するべ
きです。地方銀行は中小企業に対しても積極的な融資を行いま
す。さらに、売上10億円以上となるとメガバンクとの取引も視
野に入りますが、メガバンクは大企業向けのサービスが中心で
あるため、中小企業にはハードルが高い場合があります。

規模に合わない金融機関と付き合うと、十分な対応を得られず、
必要な融資を受けられない可能性があります。そのため、自社
の売上規模やニーズに応じた金融機関を選ぶことが不可欠です。

■ 担保と信用保証協会の慎重な活用
担保や信用保証協会の保証は、中小企業にとって重要な資金調
達手段ですが、その活用には注意が必要です。特に、メインバ
ンクに担保や保証付き融資を集中させすぎると問題が生じる可
能性があります。メインバンクがリスクを取らない姿勢を見せ
ると、他の金融機関が「なぜサブバンク以下の立場で無担保融
資をしなければならないのか」と考え、結果的に融資が滞るこ
とがあります。

■ 複数銀行との取引でリスク分散
1つの金融機関だけに依存することはリスクが伴います。メイ
ンバンクから希望額の融資を断られた場合、他行との取引実績
がないと代替策が難しくなります。よって、複数の金融機関と
取引し競争環境を作ることで、有利な条件で融資交渉ができる
可能性が高まります。

特にサブバンクとの関係も維持することで、有事の際にメイン
バンクだけでは補えない資金調達力を確保できます。このよう
な戦略的な銀行取引は、中小企業経営者にとって不可欠です。

中小企業経営者は、自社の規模に応じた金融機関を選びつつ、
担保や保証制度を慎重に活用しながら複数銀行との取引を構築
するべきです。これにより、有事の際にも安定した資金調達力
を確保できる可能性が高まります。「バンクフォーメーション」
を意識した戦略的な銀行取引を行ってはいかがでしょうか。

副業解禁が叫ばれて久しい今、働き方の多様化は不可逆な流れ
となりつつあります。政府も企業も副業・兼業を容認しはじめ、
大企業では制度化が進み、中小企業でも無視できない課題とな
っています。しかしながら、「人材流出」「勤怠管理の複雑化」
などの懸念から、副業解禁を敬遠する中小企業経営者も少なく
ありません。だが実際には、副業をうまく取り入れれば、自社
の競争力強化やイノベーション創出に資する可能性を大いに秘
めています。
以下では、中小企業が副業をどのようにとらえ、どう活用すべ
きか、業種別の具体例を交えながら考察いたします。

■1.副業解禁の恩恵を最大化する視点

副業経験は、社員の視野を広げ、スキルアップを促進します。
他業界や異なる職種に触れることで得られる知識や人脈は、本
人の成長だけでなく、本業への波及効果も期待できます。副業
を認めることで従業員のキャリア自律性を支援し、モチベーシ
ョン向上にもつながります。さらに、自社が副業人材を受け入
れる立場に立つことで、外部の知見や人材リソースを柔軟に取
り込むことも可能です。

■2.業種別導入例にみる副業の活かし方

【製造業】
工場現場における技能伝承が課題となる中、副業で技術講師や
専門学校の非常勤講師を務める社員が、教育手法やマニュアル
整備の知見を持ち帰り、社内研修に反映する事例があります。
逆に、副業人材としてCAD設計やIoT導入に詳しい技術者
を週数時間だけ雇い、製造現場の省人化を実現した中小企業も
存在します。

【サービス業(飲食・宿泊)】
副業として観光ガイドやフードコーディネーターを行う社員が、
接客スキルの向上や新たなメニュー開発に貢献する例がありま
す。ある地方の旅館では、都会でマーケティング職として副業
をしている社員がSNS集客を自社に応用し、予約件数が倍増
したという成果も出ています。

【IT・クリエイティブ業界】
ITやデザイン分野では、副業はすでに一般化しつつあります。
自社社員がスタートアップの副業プロジェクトに関わることで、
アジャイル開発や最新のデザイン手法を学び、本業の業務改善
に寄与しています。逆に、自社が副業エンジニアを迎え入れ、
新規サービス開発のスピードアップを図る事例も多数あります。

【建設・土木業】
専門的な資格や技能が求められる業界においても、副業の柔軟
な活用は可能です。たとえば、空いた時間に他社の現場監督を
行う副業を認めることで、地域をまたいだネットワークが形成
され、人材不足時の応援体制を構築できます。副業による横の
つながりが、地域連携の新たなかたちとして注目されています。

■3.導入にあたってのポイント

副業のメリットを享受するには、就業規則の整備と社内ルール
の明確化が不可欠です。副業の申告制や、競業禁止の明文化、
労働時間の管理といった基本的な枠組みは整える必要がありま
す。さらに、「何を良しとし、何を懸念するか」という企業と
しての考え方を社員と共有し、対話を通じた運用が成功の鍵を
握ります。

■4.副業を通じた企業文化の転換

副業を認めることは、単なる制度設計ではなく、「開かれた組
織」であることの表明でもあります。従業員の多様性を尊重し、
変化を受け入れる企業文化は、若い人材や意欲ある求職者にと
って魅力的に映ります。実際、「副業OK」を掲げることで応
募者の質が高まり、企業イメージの向上にもつながったという
報告も少なくありません。

■5.副業解禁は“攻め”の経営戦略である

副業解禁は、もはや一部の先進企業だけの取り組みではありま
せん。中小企業こそ、柔軟な発想と迅速な意思決定で、この潮
流を自社の成長に転換できる余地が大きいです。副業は単なる
“働き方”の選択肢ではなく、“人材育成”“外部知見の導入”
“地域連携”など、多方面にわたる経営資源として機能し始め
ています。
今こそ、中小企業経営者には「副業=敵」という発想から脱却
し、「副業=企業の未来を切り拓く鍵」として前向きに向き合
う姿勢が求められています。

副業を“敵”とせず“味方”に変える発想転換が必要な時期が到来
したようです。