黒字が出はじめた経営者の中には、「そろそろ自分へのご褒美
を」と考える方もいるでしょう。頑張ってきた証として、高級
スポーツカーを購入する気持ちはよくわかります。しかし、銀
行の目線では、それは明確なマイナス評価になります。

銀行は融資の審査において、数字だけでなく経営者の行動を重
視します。とくに創業期や黒字転換直後の企業では、「利益を
どう使うか」が経営者の成熟度を映す指標になります。この段
階で高級車を購入すると、「慎重さに欠ける」「返済より消費
を優先する」と受け取られ、信用評価を下げる方向に働きます。

「事業上のブランディングになる」「広告費の一環だ」と説明
する経営者もいます。しかし銀行にとって、その効果は測定不
能であり、再現性のない支出です。費用対効果を定量的に示せ
ない以上、合理的な投資とは評価されません。また、「モチベ
ーション維持のため」といった説明も、経営者の自制心の欠如
と見なされる可能性があります。

要するに、経営者がどう主張しようと、銀行がその行為を好ま
ないことは事実です。そして、貸し手が借り手の価値観に合わ
せる必要はありません。銀行は「理解」よりも「安全」を優先
します。その世界で融資を受けたいのであれば、銀行の論理を
理解し、そのルールの上で振る舞うしかないのが現実です。

経営者にはお金の使い方の自由があります。しかし、融資の世
界には融資の論理があります。その自由が銀行にどう見えるか、
それを踏まえて判断することが、資金調達力を高める経営の第
一歩です。

高市早苗総理による新政権の経済政策は、「積極的な財政出動
による経済の底上げ」「企業収益と賃金の同時成長」「設備投
資と雇用の拡大による景気の自律的回復」といった、従来の緊
縮政策から大きく舵を切った内容になっています。中小企業に
とっても、この政策転換を経営の追い風とするか否かが、今後
の発展に直結します。

以下に、経営者として今取り組むべき戦略的行動を7項目に整
理しました。

■経営者が取るべき7つの行動指針

●1.成長に向けた「設備・技術投資」を即時検討する

・老朽化設備の更新や生産ラインの自動化、省力化技術の導入
を加速する。
・IT化(業務システム、会計、勤怠、在庫管理)の再整備で
業務効率と可視化を実現。
・これら投資は中小企業向け補助金・税制支援と連動しやすい
ため、積極的に制度を活用する。

●2.「高付加価値型ビジネス」へ移行する発想を持つ

・価格競争から脱却し、独自性・品質・地域性・ブランド価値
で差別化を図る。
・既存事業の「プレミアム化」や「サブスクリプションモデル」
導入なども選択肢。
・市場ニーズを起点とした商品・サービス企画にシフトする。

●3.「賃上げと人材戦略」をセットで再設計する

・継続的な賃金上昇を支えるには、収益性の高い事業構造への
転換が不可欠。
・賃上げだけでなく、社員教育・キャリア支援・福利厚生の見
直しも同時進行で。
・副業・兼業人材、時短・高齢人材の活用など多様な働き方を
受け入れる柔軟性も持つ。

●4.「中長期の成長ビジョン」を社内に明示する

・今後3~5年間の経営目標、投資計画、人材確保戦略を数値
で明示。
・金融機関・取引先・従業員への説明資料として活用できる
「経営計画書」の作成を推奨。
・変化対応力を高めるため、複数のシナリオで戦略を用意して
おく。

●5.「公的支援制度」を最大限活かす体制を整える

・国・自治体・商工会議所の補助金・助成金・低利融資制度の
情報を定期的に収集。
・申請業務は顧問税理士や中小企業診断士など専門家の協力を
得て確実・効率的に進める。
・単年度で終わらせず、継続的に制度活用を組み込む「資金調
達戦略」として機能させる。

●6.「サプライチェーンと資金繰り」の見直しを進める

・海外依存度の高い仕入れ構造はリスクを伴うため、代替調達・
国内調達の体制強化を検討。
・資材高騰・物流遅延に備えた在庫管理・契約見直し・価格交
渉の余地を確認。
・財務面では「投資・借入・返済」のバランスを明確にした中
期資金繰り計画を立てる。

●7.「地域・社会との共創」に経営資源を活かす

・地元自治体や近隣中小企業との連携プロジェクト(共同開発、
地域共販等)を模索。
・ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsへの対応姿勢
も、採用力・顧客満足に直結。
・若手・女性・高齢者・外国人材の活躍の場をつくり、持続可
能な経営へとつなげる。

高市総理の政策は、需要を喚起し、企業の投資と賃金上昇を後
押しする「持続的な景気の押し上げ」を狙ったものです。中小
企業がこの流れをいち早く読み取り、自社に取り込むことで、
成長のチャンスを掴むことができます。

自社の強みを再確認し、未来に向けた投資と変革を始める第一
歩を、ぜひ今日から踏み出してください。

ここ最近、金融機関の姿勢が目に見えて変わってきました。
つい昨年までは「預金は不要」「融資に集中したい」と言って
いた銀行が、金利上昇を背景に「預金をおいてほしい」と口に
するようになっています。
マイナス金利が解除され、銀行にとって預金が「コスト」から
「収益源」に戻ったためです。

これまで預金を集めても運用先がなく、むしろ利ざやを圧迫し
ていた時代から一転、今は預金残高が金利収入に直結する環境
に変わりました。
銀行にとって「預金は積極的に集めたいもの」へと再び立ち位
置が変わっています。

■ 銀行の“預金をお願いしたい”という本音
銀行の営業担当者にとって、預金は融資と同じく評価対象です。
特に法人預金は安定した資金調達源として重視されます。
預金残高が増えれば、運用益で収益が上がる構造になったため、
現在は「預金も融資も」という営業方針が主流になっています。

一方で、金融庁の監督下では「歩積み両建て(融資と預金をセ
ットで強制する行為)」が問題視されています。
したがって、銀行としても、“預金してほしいが強制できない”
というジレンマを抱えています。
結果として、経営者に対して「お願いベース」での預金協力を
求めるケースが増えています。

■ 経営者はどう対応すべきか
銀行が預金を求める背景と表立って預金を強制できない事情を
理解したうえで、関係性の深さと実益のバランスで判断するこ
とがポイントです。

1.メインバンクへの協力は「信頼投資」として割り切る。
融資取引が大きく、今後も付き合いが続く銀行には、預金残高
をある程度確保しておくのも一つの戦略です。「貸してくれる
銀行を支える」という姿勢は、次の融資や条件交渉でプラスに
働きます。

2.サブバンクには合理性で判断する。
預金残高を複数行に分散させると、資金管理が煩雑になります。
融資比率や将来の取引可能性を見て、預金配分を整理しましょ
う。

3.資金繰りに支障をきたす協力は避ける。
預金を置くことで手元資金が減り、実質的に自由に使えるキャ
ッシュが減るのは本末転倒です。流動性を確保したうえで、余
剰資金を置く程度にとどめるのが現実的です。

■ まとめ
金利上昇局面では、銀行の「お金の論理」も変わります。
預金を求める姿勢が強まるのは自然な流れですが、経営者とし
ては

・銀行の立場を理解し、
・自社の資金繰りに無理のない範囲で、
・戦略的に協力する、

この三点を意識することが大切です。

銀行との関係は“力関係”ではなく“信頼関係”で築かれます。
預金を通じた関係強化も、その一つの手段にすぎません。
「協力はしても、依存はしない」この距離感が、金利上昇時代
の賢い銀行対応と考えます。

人手不足、グローバル化、多言語対応…これらの課題に直面し
ている多くの中小企業にとって、「外国人留学生の採用・活用」
は、もはや選択肢のひとつではなく重要な経営戦略です。しか
し、留学生アルバイトの違法就労問題や、就労ビザ切り替え時
のトラブルが報道される中、「どうすれば“正しく”活用できる
のか?」という問いが増えています。

以下、外国人留学生を適法かつ戦略的に活用して、実際に成果
をあげている中小企業の事例を5つ紹介します。

■【事例①】大和合金株式会社(埼玉県/製造業)

非鉄金属の製造を手がける同社は、JETプログラム出身者や
理系外国人留学生を継続的に採用。インターンシップ制度や教
育体制を整備し、現在は社員の約10%が外国籍という多様性あ
る組織を築いています。

提言①:外国人材は「グローバル展開のパートナー」として戦
略的に位置づけましょう。

採用の目的を「人手不足対策」だけに限定せず、語学力や異文
化理解力を活かして海外販路の開拓・海外取引の拡大へと結び
つける発想が重要です。

■【事例②】木村工業(宮城県/建設業)

建設業界の人手不足に対応する中で、専門学校卒の外国人留学
生を積極採用。日本語教育や寮の整備、評価制度の明文化を通
じて、安定した定着とキャリアアップを実現しています。

提言②:キャリアパスを明示し、定着を促す育成設計を構築し
よう。

「補助的な労働力」として扱うのではなく、日本人社員と同じ
ように評価・昇格の道筋を提示することで、外国人社員のモチ
ベーションと忠誠心が高まります。

■【事例③】リゾート観光業(青森県/宿泊業)

インバウンド対応を目的に、大学院生のマレーシア人留学生を
3ヶ月のインターンで受け入れ。翻訳、企画、英語対応などを
任せ、後に正社員登用。

提言③:「インターン→採用」ルートを設けて、適応リスクを
下げる。

インターン制度を活用すれば、企業も学生もお互いに相性を確
認でき、ビザ申請や業務理解の齟齬を最小化できます。

■【事例④】プランレグナテック株式会社(九州/製造業)

英語・中国語が堪能な留学生を採用し、既存海外取引の強化、
新規販路の開拓に貢献。採用活動もオンライン面接を導入する
など、柔軟に対応。

提言④:言語・文化の多様性を経営資源として活かそう。

留学生は「通訳」以上の存在。日本では気づかない市場ニーズ
や文化的ギャップを教えてくれる存在として重宝できます。

■【事例⑤】中小製造業(関西/事務系外国人活用)

事務・経理・営業サポート業務においても外国人留学生を登用。
日本語教育、定期面談、評価制度を導入し、社内の戦力として
活躍中です。

提言⑤:「現場作業」以外でも活躍できる場を広げよう。

製造や接客だけでなく、バックオフィス業務にも優秀な外国人
留学生は多く存在します。職域の固定観念を打破することが、
優秀な人材確保に繋がります。

■中小企業だからこそ、柔軟に取り組める

大手企業に比べて組織がフラットで、意思決定も早い中小企業
こそ、外国人留学生の力を柔軟に活かせる土壌があります。
「違法にならないようにする」ことは当然の前提。その上で、
彼らの能力・視点を“会社の未来を変える原動力”として活用し
ていくことが、これからの中小企業経営者に求められる視点で
す。

※法令遵守は「信頼構築」の第一歩です。外国人留学生を採用
する際には、法令・制度への理解と対応が不可欠です。

資金調達の現場で、銀行との交渉に強い姿勢で臨む経営者様を
しばしば見かけます。「もっと貸してほしい」「金利を下げて
ほしい」「手続きが面倒だ」と、時に圧力をかけるような口調
で交渉を進めようとするケースです。
しかし、残念ながら、そのような態度で望む結果を得られるこ
とはほとんどありません。

銀行と企業の関係は、一見「対等な取引」に見えても、実際に
は貸し手と借り手という非対称な関係にあります。銀行は預金
者の資金を扱う立場であり、リスク管理を最優先に意思決定し
ます。
したがって、経営者がどれほど強い言葉で要望しても、銀行は
社内の稟議基準やリスク許容度を超える判断を下すことはでき
ません。つまり、交渉の勝敗を決めるのは“声の大きさ”ではな
く、銀行の論理をどれだけ理解できるかです。

■ 銀行の論理を理解する
銀行は「どのような条件なら融資できるか」を常に内部で判断
しています。
その評価軸は、業績や担保だけでなく、「情報開示の誠実さ」
「数字の一貫性」「社長の説明力」にも及びます。
特に中小企業の場合、定量的な財務データだけでは判断しきれ
ない部分が多いため、経営者の姿勢そのものが重要な評価ポイ
ントになります。

高圧的な交渉は、この「誠実さ」と「信頼性」を損ねる最も大
きな要因です。一度でも「話しづらい相手」と思われると、銀
行は情報提供を控え、結果的にチャンスを逃すことになります。

■ 銀行交渉は“交渉”ではなく“対話”
銀行交渉は、条件を引き出す場ではなく、相互理解を深める場
だと考えた方がうまくいきます。
たとえば、「なぜ今資金が必要なのか」「どのように返済して
いくのか」を明確に伝えることで、銀行はリスクを具体的に把
握できます。
経営者が銀行の立場を理解し、銀行が経営者の意図を理解する。
この関係が築けたとき、融資はスムーズに進みます。

■ まとめ
・銀行との関係は、交渉力ではなく信用力の積み重ねで決まり
ます。
・日頃から丁寧な情報共有を心がけ、経営の変化を早めに伝え
ましょう。
・銀行の論理を理解し、その枠内で最善の結果を導く努力をし
ましょう。枠外の要望をいくら声高に叫んでも、良い結果は得
られません。
以上が、本当の意味での“銀行交渉の力”と考えます。

銀行は敵ではありません。むしろ、信頼を積み上げるほどに、
最も心強い味方になります。
強気の言葉より、誠実な説明。これこそが、銀行交渉における
最大の武器です。

人手不足、賃上げ、物価上昇、中小企業を取り巻く環境は急速
に変化しています。こうした中、「人を増やす経営」には限界
があります。いまこそ、外注化・アウトソーシングを“守りの
コスト削減策”から“攻めの経営戦略”へと位置づけ直す時です。
自社のリソースを最適に配分し、限られた人材で最大の成果を
上げるための再設計、それこそが現代の外注戦略の本質です。

●1.外注の目的は「削減」ではなく「集中」です

外注化を単なる経費削減と捉えると、本質を見誤ります。真の
目的は、「やるべき仕事に集中するため」です。
たとえば製造業であれば、試作や部品加工を外部に委託し、自
社は設計・営業・品質管理に専念します。小売・飲食業であれ
ば、EC運営やSNS広告を専門家に任せ、顧客体験の磨き込
みに注力します。
重要なのは、“何を外に出すか”よりも、“何を自社に残すか”の
見極めです。コア領域を守り、ノンコアを外部化する、この線
引きが経営の競争力を左右します。

●2.専門性とスピードを「借りる」という発想を持ちましょ

現代の外注化は、専門知識・技術・スピードを“借りる”戦略で
もあります。社内で人材を育てるには時間がかかりますが、外
部の専門家を活用すれば、即戦力をすぐに得ることができます。
デザイン、IT、マーケティング、法務・会計、採用支援など
は、内製よりも外注のほうが速く正確な成果を出せるケースが
多いです。
「自社でできるか」ではなく、「自社でやるべきか」という発
想に切り替えることで、限られた人材を最大限に活かせます。

●3.外注先は「業者」ではなく「経営パートナー」として選
びましょう

価格だけで外注先を選ぶと失敗することが多いです。
成果を上げるためには、「自社の目的を理解し、共に成長を目
指せるパートナー」として選定する姿勢が不可欠です。単なる
作業委託ではなく、理念・目標・KPIを共有できる関係を築
くことで、成果の質も継続性も高まります。
“安い”ではなく、“提案できる”“改善できる”外注先を選ぶこと。
これは、短期的なコストではなく、中長期的な成果を重視する
経営者の判断基準です。

●4.外注化の成否は「仕組み」と「見える化」で決まります

外注を成功させるには、業務の標準化と可視化が不可欠です。
依頼内容、納期、成果基準、責任範囲を明確にしなければ、期
待と実際にズレが生じます。GoogleスプレッドシートやAsana、
Notionなどのクラウドツールで進捗を共有し、コスト・成果を
数値で管理することが望ましいです。
さらに、秘密保持契約(NDA)や業務委託契約を整備し、知
的財産や成果物の帰属を明確にしておくことで、トラブルを未
然に防ぐことができます。

●5.「社員+外部人材」のハイブリッド型組織を目指しまし
ょう

理想は、社員と外注スタッフが連携する“ハイブリッド型組織”
です。営業は自社、クリエイティブは外部、経理はクラウド、
マーケティングは専門チームというように、機能ごとに最適配
置を行います。これにより固定費を変動費化でき、景気変動に
も柔軟に対応できる体制を築けます。また、外注先から得た知
見を吸収し、将来的に内製化することで、自社の組織力そのも
のを強化する好循環を生み出せます。

●6.経営者に問われるのは「任せ方の技術」です

外注化の失敗の多くは、丸投げにあります。
目的、成果、判断基準、報告ルールを明示せずに任せてしまう
と、双方に不満が残ります。経営者に求められるのは、「任せ
る技術」です。外注先に裁量を与えながらも、責任と目的を共
有する、この姿勢が、外注活用を成功に導く最大のポイントで
す。指示が曖昧であれば、外注も迷います。経営者の説明力こ
そが、外注化時代の新たな経営能力といえるでしょう。

外注化は「柔軟な経営」への進化です。
外注化はコスト削減策ではなく、構造改革の一手です。
「自前主義」から「共創主義」へ、すべてを自社で抱え込む時
代は終わりました。外部の力を積極的に取り込み、社内の創造
力を最大化する企業こそ、次の10年を生き抜きます。外注化・
アウトソーシングは、弱者の戦略ではありません。変化の時代
をしなやかに勝ち抜くための、“攻めの経営進化策”なのです。

経営の現場では、税理士、社労士、コンサルタントなど、さま
ざまな専門家の力を借りる機会があります。経営の課題は広く、
専門知識のサポートはとても心強いものです。
ただ、最近少し気になるのは、専門家に頼りすぎてしまう経営
者が増えていることです。専門家に意見を求めるのは良いこと
ですが、経営判断そのものまで任せてしまうと、思わぬリスク
を生むことがあります。

1.判断を委ねすぎると責任がぼやける
「専門家がそう言ったから」と判断の理由を外に置いてしまう
と、社長自身の責任感が薄れます。どんなアドバイスも、最終
的な判断と責任は社長にしか取れません。意見は“材料”であり、
“結論”ではない、という感覚を持つことが大切です。

2.専門家の視点は限定的
専門家はそれぞれの分野に詳しい一方で、視野がその分野に偏
ることもあります。たとえば税務の専門家は節税を、労務の専
門家は法令順守を優先します。しかし経営は全体のバランスで
成り立つものです。専門家の提案を「経営の全体設計」にどう
取り込むかは社長の役割です。

3.現場感覚を失わない
外部の専門家に任せきりになると、社内で数字や状況を把握す
る力が弱まります。会計や人事の判断を外注しているうちに、
経営者自身が現場の変化を感じ取れなくなることもあります。
専門家にお願いする部分と、自社で見るべき部分をしっかり線
引きしておきましょう。

4.依存にはコストもついてくる
専門家に頼るほど費用は増えます。相談のたびに時間もかかり
ます。アドバイスを求めること自体は良い投資ですが、“何を
決めるための相談か”を明確にして依頼することで、ムダを減ら
すことができます。

5.「使う力」を身につける
大切なのは、専門家をどう“使いこなすか”です。意見をもらっ
たら、自社の状況に照らして整理し、判断の軸を自分の中に持
つこと。専門家は社長の代わりに判断する人ではなく、考える
ための材料を提供してくれるパートナーです。

経営者に必要なのは、「専門家に頼らないこと」ではなく、
「専門家をうまく使う力」です。
専門家の助言を取り入れながらも、最終的な判断は自分の言葉
で行う。この距離感を保てる経営者こそが、ブレない経営を続
けられます。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

「値決めは経営である」は稲盛和夫氏の言葉です。
しかし、多くの中小企業では、依然として“原価に利益を乗せ
るだけ”の単純な値決めが行われています。コスト上昇、賃上
げ圧力、消費者の多様化。今の時代、値決めは「守り」ではな
く「攻め」の経営戦略です。ここでは、中小企業でも実践でき
る7つの値決め戦略を提言します。

●1.コスト・プラス方式 ― 経営の最低ラインを守る

もっとも基本的な手法は、原価に一定の利益率を加える「コス
ト・プラス方式」です。製造業であれば原材料費・人件費・間
接費を明確にし、最低限必要な粗利益を確保する。「利益を残
す仕組み」をつくる第一歩は、この下限価格の明確化から始ま
ります。ただし、これを最終価格にするのではなく、“赤字を
防ぐ防波堤”として位置づけることが重要です。

●2.競争ベース方式 ― 市場感覚を持つ

同業他社の価格を参考にしながら、自社の立ち位置を決める方
法です。価格競争が激しい市場では有効ですが、最安値争いに
巻き込まれる危険もあります。肝心なのは「5%高い理由」を
明確にすること。たとえば「納期が早い」「品質が安定してい
る」「担当者が変わらない」など、付加価値を言語化できれば、
価格差は納得に変わります。

●3.価値ベース方式 ― 顧客が感じる価値で決める

顧客が「何に価値を感じているか」を起点に価格を設定する考
え方です。時間短縮、信頼性、安心感、ブランドなど、目に見
えない価値を価格に反映します。たとえば、夜間対応の清掃業
者が通常より高い料金でも選ばれるのは、“安心”という価値
に顧客が対価を払っているからです。値決めとは「顧客の感じ
るベネフィットを数値化する作業」なのです。

●4.ダイナミックプライシング ― 柔軟に価格を運用する

需要・時間帯・在庫状況などによって価格を変える戦略です。
航空会社やホテルだけでなく、今や飲食店、美容室、レンタル
業などでも導入が進んでいます。
・平日昼は割引して空席を埋める
・週末や繁忙期はプレミア価格で利益を確保
AIやPOSデータを使わなくても、曜日・時間帯・天候別料
金といった手法から始められます。「固定価格の経営」から
「運用価格の経営」へ。中小企業にもチャンスがあります。

●5.サブスクリプション方式 ― 継続利用を収益化する

「月額制」「定額制」で安定収益を得る仕組みです。顧客はコ
ストを予測しやすく、企業はLTV(顧客生涯価値)を高めら
れます。
美容室の「通い放題プラン」、飲食店の「定額ランチパス」、
印刷会社の「月額販促セット」。ポイントは、“毎月支払う理
由”を設計すること。単なる値引きではなく、「安心・便利・
特典」を積み重ねることで継続率が上がります。

●6.バンドル価格 ― セット化で価値を高める

複数の商品・サービスをまとめて販売し、単品より割安に見せ
る手法です。たとえば、飲食店なら「ランチ+ドリンク+デザ
ートセット」、製造業なら「部品+メンテナンス契約」など。
セット化することで顧客単価を上げ、在庫処分や新商品の導入
にも活用できます。ただし、単なる値引きにならぬよう、「組
み合わせの意味」を明確にすることが鍵です。

●7.プレミアム・プライシング ― 高価格を戦略に変える

「高いから売れない」ではなく、「高いから選ばれる」を目指
す戦略。価格を上げる代わりに、品質・体験・ストーリーで差
別化します。星野リゾートやスターバックスはその典型で、価
格を“ブランド構築の手段”として使っています。中小企業で
も、「社長が直接対応」「完全予約制」「地域限定」など、特
別感を演出する工夫でプレミアム価格を実現できます。

「値決め力」は「生き残り力」です。物価高・人件費高・市場
縮小という環境の中で、価格を動かさない企業は衰退します。
「いくらで売るか」は、「誰に・何を・どう届けるか」と並ぶ
経営の根幹です。値決めを恐れず、価格を戦略的に設計できる
企業だけが、変化の時代を生き抜くことができます。

中小企業こそ、「値決め=経営」という原点に立ち返り、価格
を“数字”ではなく“戦略”として扱うべき時です。

資金調達のご相談を受けていると、「もっと早くご相談いただ
けていれば、状況は違っていたのに」と感じることが少なくあ
りません。資金繰りの問題は、ほとんどの場合“突発的な出来事”
ではなく、“備えの欠如”から始まります。今回は、財務を後回
しにしたことでチャンスを逃した企業の例をもとに、先手の財
務の重要性を考えてみます。

■ 「今は大丈夫」が一番危ない
業績が安定しているときほど、資金調達への関心が薄れがちで
す。ある企業では、過去に銀行から融資を勧められた際、「必
要ない」と断っていました。その後、取引先の不調で売上が急
減。急いで融資を申し込むも、銀行の回答は「今回は見送り」。
結果的に、手元資金が尽きるまでのわずかな期間で経営が傾き
ました。
中小企業にとっては、「借りられるときに借りておく」ことが
最大のリスクヘッジです。資金の余裕が経営の自由度を生みま
す。

■ 黒字なのに資金が回らないワナ
売上が伸びているのに資金繰りが厳しくなる。これは珍しい話
ではありません。仕入や人件費の支払いが先行し、入金が後に
なる構造が原因です。特に成長期の企業ほどキャッシュアウト
が増え、手元資金が追いつかなくなります。忙しいときほど
「資金繰り表の更新」を怠りがちですが、1か月先、3か月先
の資金残高を見通すだけでも経営判断は変わります。

■ 「返済は早ければ良い」ではない
借入金を早く返すことが美徳とされる傾向がありますが、返済
を急ぐあまり運転資金が枯渇してしまう例も少なくありません。
返済のスピードは経営体力に合わせて設計するものです。手元
資金を厚く保ち、いざという時の選択肢を確保することこそが、
健全な財務管理です。

■ 財務は“結果”ではなく“戦略”
財務とは、決算の数字をまとめる作業ではなく、経営そのもの
を支える戦略的活動です。資金調達・資金繰り・返済設計のど
れをとっても、後手に回れば回るほど選択肢は減っていきます。
問題が起きてからの財務対応は“守り”であり、事前の準備こそ
が“攻め”の経営につながります。

「財務は起きてから考えるものではなく、起きる前に仕組みを
つくるもの。」
この視点を経営に根付かせるだけで、企業の安定感は確実に高
まります。

財務体制を整えたい経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

■企業経営の王道は「選択と集中」にあります。限られた経営
資源を一点に集め、深く掘り下げて競争優位を築く。これは古
今東西を問わず成功企業に共通する原則です。しかし今の日本
では、この原則をそのまま信じて突き進むことが、かえって企
業を危うくする局面が増えています。

人口減少、人手不足、最低賃金の上昇、物価高騰、こうした構
造的変化が中小企業の体力をじわじわと削っています。需要そ
のものが減少し、かつての主力事業が「成長の足かせ」と化す
例も少なくありません。にもかかわらず、「昔からの得意分野
だから」「社員が慣れているから」といった理由で、斜陽事業
にしがみついてはいないでしょうか。

経営において大切なのは、「集中」と「執着」を混同しないこ
とです。守るべきは“強み”であって、“形”ではありません。
環境が変わったなら、強みを新しいフィールドで活かす勇気が
必要です。その具体的なヒントが、多角化で成功した中堅企業
の中にあります。

●M&Aを活用し成長速度を上げたイチネンホールディングス

自動車リース業からスタートしたイチネンHDは、M&Aを通
じて化学品・建設・工具販売などに事業を広げました。安定収
益と成長分野を組み合わせた結果、不況にも強い体質を確立し
ました。

◎教訓は、「ゼロからではなく、他社の強みを取り込んでスピ
ードを得る」ことです。時間を味方につけた多角化は、中小企
業にこそ有効です。

●外部資本を取り込み拡大した星野リゾート

軽井沢の一旅館だった星野リゾートは、外部投資家と組み、運
営に特化したホテル再生ビジネスへ転換。「界」「リゾナーレ」
「OMO」などブランドを細分化し、急成長を遂げました。

◎教訓は、「自前主義に固執せず、外部資源を柔軟に取り込む」
ことです。中小企業ほど連携を恐れてはなりません。

●ブランドの信頼を新分野に拡張した中村屋

和菓子店として創業した中村屋は、洋菓子やカリー、レストラ
ン事業に進出。「中村屋の品質」というブランドを守りながら、
新市場で信頼を獲得しました。

◎教訓は、「ブランドは新事業の共通言語」であるということ。
顧客の信頼は、新分野への最強の橋渡しです。

●シナジーを生かしバリューチェーンを広げたワイズホールデ
ィングス

自動車修理業を核とするワイズHDは、後継者不在の企業をM
&Aで統合し、部品流通やリサイクルにまで事業を拡張しまし
た。

◎教訓は、「多角化は遠くを見るより、近くを掘る」こと。既
存顧客の未充足ニーズにこそ、新事業の種があります。

■成功の共通点と、経営者への示唆

これらの事例に共通するのは、いずれも「逃げの多角化」では
なく「攻めの再構築」であるという点です。本業の強みを核に
据えながら、新市場や新モデルに挑む姿勢。これが現代の中小
企業に求められる“戦略的多角化”の本質です。

■経営者が今取るべき行動は、

・本業の将来性を冷静に見極める
・周辺分野への拡張やM&Aを検討する
・外部パートナーと連携してリソースを補完する
・ブランドの信頼を新事業にも活かす
・そして、撤退を恐れずポートフォリオを動的に運営すること

これらを実行できる企業こそ、環境変化を逆手に取り、次の10
年をリードできるでしょう。

「集中」とは、過去に固執することではなく、未来に焦点を合
わせることです。変化の時代において、最も危険なのは“何も
しないこと”。中小企業にこそ、守るための多角化、そして攻
めるための変革が求められています。