最低賃金の連続引き上げ、求人難に伴う初任給アップ、社会保
険料率の上昇等、ここ数年で人件費は確実に膨らんでいます。
利益率が薄い中小企業ほど「給与を上げたいが資金繰りがもた
ない」という声が強まっています。今回は財務目線で人件費高
騰に備える3つの視点をお伝えします。

1.「粗利×人件費率」を月次で追う
月次試算表の販管費明細から、総従業員人件費を売上総利益で
割り人件費率を算出します。粗利が横ばいで人件費率だけ上が
ると、営業CFが確実に減少します。まずは毎月の推移をグラ
フにし、5%を超えて上昇傾向なら即対策を検討します。

2.固定給、変動給を調整する
単純な定額昇給は将来の固定費を押し上げます。基本給は競合
と比較して最低限を確保しつつ、売上歩合・利益連動賞与など
変動比率を高める設計に切り替えると、好調時には従業員に還
元し、不調時にはキャッシュアウトを抑制できます。金融機関
が融資審査で見るのは「固定費負担の重さ」なので、変動給が
多い給与体系はリスク軽減要素として評価されやすい点も見逃
せません。

3.人件費を「投資」化する
賃上げをコストではなく投資と捉え、必ず回収プランをセット
にします。例として、平均月2万円の賃上げを行うなら、1人
当たり売上を月4万円伸ばすKPIを設定し、ITツール導入
や業務フロー見直しで生産性を底上げします。「人材確保等支
援助成金」や「業務改善助成金」を併用すれば、キャッシュア
ウトを最大で半分程度に抑えることも可能です。

■ まとめ
・粗利と人件費率を月次で可視化し、早期に上昇トレンドを捉
える
・固定+変動の給与設計で、利益と連動した支払構造を作る
・賃上げは投資と位置づけ、生産性向上と助成金で回収プラン
を描く

人件費の高騰は避けられませんが、数字で管理し、変動化と投
資化でコントロールすれば、財務悪化を防ぎながら従業員満足
度も高めることができます。今月の試算表から人件費率をチェ
ックし、3つの視点で自社の打ち手を検討してみてはいかがで
しょうか。

中小企業が持続的に成長し、財務基盤を強化するためには、
「売上至上主義」ではなく「利益重視経営」への転換が不可欠
です。特に営業利益率(営業利益÷売上高)を向上させること
は、企業体質の抜本的な強化を意味し、企業価値の向上につな
がります。現実的な目標値として営業利益率の5%向上を目指
してみませんか。

以下に、営業利益率を高めるための具体的な取り組みを、「売
上向上策」「コスト構造の見直し」「業務効率化」「ビジネス
モデル再設計」の4つの観点から整理します。

■1.高収益型の売上構成への転換

単に売上を増やすのではなく、「粗利率の高い商品・サービス」
の比率を上げることが利益率向上の近道です。

●収益性分析の徹底
商品・サービス別、顧客別、チャネル別に粗利率を分析し、不
採算分野の見直しを行います。
●高付加価値サービスの提供
例として、飲食店であれば「コース料理の導入」、製造業であ
れば「保守・メンテナンス付きの販売」、IT業であれば「サブ
スク型サポート」など、単価が高く利益率の良いメニューを開
発します。
●客層の見直しと取引先の絞り込み
値引き交渉の多い顧客を見直し、「価格ではなく価値で選ぶ顧
客」にリソースを集中します。

■2.固定費・変動費の戦略的見直し

営業利益率を高めるには、コスト構造の最適化が欠かせません。
単なる削減ではなく「戦略的コストコントロール」が重要です。

●変動費の最適化
原材料費の見直しや、仕入先の再交渉、共同仕入れなどで単価
を抑えます。
●固定費の柔軟化
オフィス賃料の見直し、非稼働スペースの削減、アウトソーシ
ングの活用で、固定費を変動費化する工夫を行います。
●人件費の最適配置
単に削減ではなく、「一人当たりの粗利益額」を見直し、高生
産性人材への再配置や多能工化、パート・業務委託の活用を検
討します。

■3.デジタル化と業務効率化による生産性向上

営業利益率は、「同じ売上でも少ない工数で回す」ことで劇的
に改善できます。以下は即効性のある施策です。

●業務の標準化・マニュアル化
業務属人化を防ぎ、品質とスピードを平準化します。
●クラウドサービス活用
会計、給与、請求、勤怠など、定型業務はクラウドツールに移
行し、人件費とミスの削減を図ります。
●営業活動の効率化
顧客管理(CRM)や見積・受注管理のツール導入により、案
件獲得~クロージングの工数を削減し、営業1人あたりの受注
額を高めます。

■4.ビジネスモデルの再設計と利益構造の革新

既存の事業の延長ではなく、「利益の出る仕組み」そのものを
見直すことも、利益率向上の本質的な打ち手です。

●BtoBからBtoC展開へ
中間マージンを省いた直販モデルに転換し、利益率を上げる
(例:工場直販、ECの活用)。
●サブスクリプションモデルへの移行
単発売上から、毎月安定した収益を生む継続課金型へシフトす
ることで、利益構造を安定化。
●規模の追求から利益の追求へ
あえて「規模を追わずに、利益を重視する選択」を取ることで、
資源を効率的に配分します。

■「利益=企業の筋力」である

営業利益率の改善は、単なる財務数値の問題ではなく、企業の
競争力・成長性・継続性のバロメーターです。多くの中小企業
では、「売上さえ上がればなんとかなる」という考えが根強い
ですが、実際は「売上が上がっても利益が残らない」構造に陥
りやすいのが実情です。だからこそ、営業利益率5%の向上を
経営の最重要課題として掲げ、売上構成、コスト構造、業務オ
ペレーション、ビジネスモデルのすべてを見直すべきです。

その第一歩は、現状の数字を正しく把握し、利益の出ていない
部門・商品・取引を見つめ直す「経営の見える化」です。「利
益を残す経営」こそが、賃上げ、設備投資、資金繰り、事業承
継といった中小企業の経営課題すべての土台になるはずです。

「PLとBSはチェックしているのに、CF計算書はあまり意
識していない」という社長は意外に多いです。しかし、資金シ
ョートは利益ではなくキャッシュの不足で起こります。黒字決
算でも倒産する会社があるのはそのためです。今回は、3ステ
ップでキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を経営判断に
生かす方法を、事例を交えながら解説します。

■ ステップ1“3行”でざっくり読む

まず、CF計算書を開いたら営業CF・投資CF・財務CFの
3行だけを確認します。

1.営業キャッシュフロー(営業CF)
本業で現金がどれだけ増減したかを示します。健全な会社はこ
こが常にプラスです。

2.投資キャッシュフロー(投資CF)
設備投資・株式投資・M&Aなど将来のために資金を使った額
です。通常はマイナスでも問題ありませんが、金額が大きいと
きは調達源を確認する必要があります。

3.財務キャッシュフロー(財務CF)
借入・増資で入ってきた資金や、返済・配当で出ていった資金
を表します。理想は「営業CFで足りない分を補う範囲」にと
どめることです。

この3行を合計したものが「現預金の増減額」になります。数
字がどう組み合わさって現金残高を動かしているのかを、まず
は俯瞰しましょう。

■ ステップ2 営業CF黒字化のボトルネックを探す
営業CFが赤字であっても、損益計算書上は黒字というケース
は珍しくありません。ここで注目すべき増減項目は2つ、売上
債権(売掛金)と棚卸資産(在庫)です。

・売掛金が増える=回収が遅れている
・在庫が増える=仕入に現金が寝ている

この2項目がマイナスなら、帳簿利益がキャッシュに変わって
いない証拠です。改善策としては、

1.与信限度を明確にし、回収サイト短縮を取引先と交渉
2.在庫日数を部門別等に可視化し、安全在庫の上限を再設定
3.週次で「回収遅延リスト」を共有し、販売・経理・現場が
連携

これだけでも営業CFはプラス方向へ動きやすくなります。

■ ステップ3 投資と財務のバランスを点検する
次に見るのは投資CFと財務CFの大小関係です。例えば新工
場建設で投資CFが▲1億円なら、財務CFで同レベルのプラ
スを調達できているかがポイントです。調達不足だと営業CF
で補填する必要があり、資金繰りは急激に逼迫します。逆に投
資が少ない時期なのに財務CFが大幅プラス(過度の借入)な
ら、返済スケジュールの見直し余地があります。

資金繰りの安全余裕(手元資金)を「固定費3か月分」と決め、
その範囲で投資・借入・返済を組み替えると、景気変動や急な
設備更新でも慌てずに済みます。

■ 事例:小売業B社の改善プロセス
B社は売上 10 億円・経常利益 1,000 万円の黒字企業でしたが、
営業CFは▲1,200万円。売掛金60日サイトと季節在庫の積み
増しが原因です。

・回収サイトを 60 → 45 日に短縮、在庫日数を 90 → 65 日に
削減
・半年で営業CF+2,000 万円へ転換
・投資CF(新店舗開設 1,500 万円)を財務CF(長期借入)
で全額賄い、手元資金は3か月分を維持

結果、運転資金の借入負担が減りました。

■ まとめ

1.営業・投資・財務の3行をまず把握し、現金の増減をつか

2.営業CF改善の鍵は売掛金回収と在庫の管理
3.投資額と借入額のバランスを取り、手元資金を固定費3か
月分確保

CF計算書は専門家だけの資料ではありません。3行と2項目
を月次で追うだけで資金ショートを未然に防ぎ、銀行との対話
材料も格段に増えます。今月の試算表から簡易CFを作り、ぜ
ひ3ステップで現金の流れを点検してみてください。

…前回号の続きです。

近年、従業員のモチベーション低下や「静かな退職」といった
現象が注目されています。背景には、業務の曖昧さや不明瞭な
評価基準があり、社員が「頑張っても報われない」「何を期待
されているかわからない」と感じる構造が根本にあります。

中小企業にとって、社員一人あたりのパフォーマンスが経営に
直結する以上、職務を明確に定義し、範囲と責任を言語化して
共有することは、単なる人事管理の話ではなく、経営戦略その
ものです。

■ なぜ「職務の明確化」が必要なのか?

1人が複数業務を担うことの多い中小企業では、業務が属人的・
暗黙的になりがちです。結果として以下のような問題が生まれ
ます。
・やっている人とやっていない人の差が曖昧で、不公平感が生
まれる
・引き継ぎができず、人が辞めるたびに混乱する
・助け合いのつもりが、特定の人に業務が偏り「静かな退職」
状態に陥る

こうした状況を打破するには、「誰が、何を、どこまで、いつ
までに、どのレベルでやるか」を明文化する「職務記述書(ジ
ョブディスクリプション)」の作成が有効です。

■ 職務記述書に含めるべき要素(基本構成例)

以下が、1職種・1ポジションあたりに設定すべき基本項目で
す。

・職務名…営業担当(新規開拓)/経理スタッフ/店舗マネー
ジャーなど
・主な業務内容…顧客訪問・見積作成・売上管理・受注進捗の
確認など
・担当範囲・対象…○○地域内の中小企業/○○製品の販売業
務など
・成果指標(KPI)…月間訪問件数20件、受注率15%、請
求ミスゼロなど
・権限と責任…値引き権限10%まで、最終承認は上長など
・上司・関係部署…営業部部長/受発注管理課と連携など
・評価基準…達成度/チーム貢献度/報告・連絡・相談の適正
など

■ 実例:職務記述書の簡易フォーマット(営業職例)

・職種名…法人営業担当
・業務内容
自社製品の新規顧客開拓(訪問・ヒアリング・提案)
契約交渉・クロージング、初回納品後のフォローアップ
週次での営業日報作成と上長への報告
・担当エリア/対象…関東エリアの中堅製造業(50社程度)
・KPI(数値目標)
月間アプローチ件数:50件
面談実施件数:15件
契約件数:3件
・評価指標(定性+定量)
契約件数と売上高の目標達成度
チーム活動(同行営業、提案資料共有など)への貢献度
顧客からのフィードバック・満足度
・権限・責任
単価10%以内は調整可能。範囲外は上長決裁
・報告ライン…営業部課長に週1回の報告、月1回の面談

■ 実務で導入する際の進め方

中小企業では、「紙に書くより、まず動け」という現場気質も
根強くあります。しかし、以下のステップで無理なく進められ
ます。
1.まずはモデル職種から始める(例:営業/総務/店舗責任
者)
2.社員本人に「自分の仕事を棚卸し」してもらう(1週間分
の業務記録を取らせる)
3.経営者や管理職が「どこまでを期待しているか」をすり合
わせる
4.簡易的でもよいのでフォーマットに落とし込み、共有する
5.半年に1回は見直す(仕事は変わっていくため)

■ 職務の明文化がもたらす5つの効果

1.社員が「やるべきこと・やらなくてよいこと」が明確にな
り、過剰な負荷を防げる
2.評価の透明性が増し、納得感のあるマネジメントが可能に
3.属人業務が減り、誰が抜けても引き継げる体制ができる
4.無理なく、静かな退職のリスクを減らせる
5.人材育成がしやすくなり、外部人材や若手の受け入れもス
ムーズに

■ 中小企業だからこそ、“見える化”が武器になる

職務の明確化というと、「うちの会社には難しい」「そこまで
整備する余裕はない」と考える方も多いかもしれません。しか
し、規模が小さいからこそ、1人の役割が明確になることで全
体の動きがスムーズになるのです。やるべきことと、やらなく
てよいことを明確にする。これは、社員を楽にするだけでなく、
経営者が安心して任せるための“仕組み化”でもあります。
まずは一職種、一枚の紙から。御社の人材力が、より生産的で
持続可能な力に変わる第一歩になります。

「為替と金利は予測不能」が大前提です。足元ではドル円が
150 円前後、長期金利が1%台ですが、これがさらに進むのか、
反転するのかは誰にも言い切れません。そこで、「もし円安・
金利上昇が続いたら得をし、戻っても大きな損をしない」とい
う保険的な視点で、為替予約と借換えの使い方を整理します。

1.為替予約は層でリスク分散
為替予約は未来の方向性を当てる手段ではなく、レート変動を
平準化する道具と割り切りましょう。半年分を一括予約すると
当たり外れが大きくなるため、月次・四半期・半期の三層に分
け、必要量の 50~70%を上限にヘッジする方法が無難です。
将来円高に戻った場合でも、予約していない部分が恩恵を受け
るため、全体の損益はならされます。

2.請求通貨を変えるヘッジしない選択肢
輸出企業でドル建て売上が多い場合、円安はプラスに映ります
が、部材や物流が同じドル建てなら利益は相殺されがちです。
ユーロや円建てへの請求変更は交渉コストがかかるものの、為
替変動の影響自体を減らすという根本的な対策になります。交
渉が難しければ、最低でも契約更新のタイミングで検討する価
値はあります。

3.変動→固定へ借換える目安
金利上昇が続く可能性もあれば、早期に打ち止めになるシナリ
オもあります。判断に迷うときは、「残存期間3年以上・借入
残高が大きい・今後金利が 0.5%以上上がると試算される」こ
の3条件がそろったら固定化を検討するのが一つの目安です。
借入全体の 50~70%程度を固定にする折衷策なら、上昇局面
でも変動のメリットを一部残せます。

4.銀行交渉はシミュレーション表を作成
「円がさらに5円安く、金利が 0.3%上がったらどうなるか」
というシミュレーション表を銀行に示すと、対策の必要性が客
観的に伝わります。逆に円高・金利低下のケースも併記し、ど
ちらに振れても資金繰りが耐えられる設計であることを示しま
しょう。リスクが数字で見える企業は、格付けの非財務評価で
もプラスに働きやすくなります。

【まとめ】
・先行きを当てるのではなく、振れ幅を抑える保険を掛ける発

・為替予約は層を重ねて平均化し、上限を需要の 50~70%に
抑える
・借換えは「残高・期間・想定上昇幅」の3条件で固定比率を
決定
・どちらの策も、円高・金利低下時に致命的な損を出さない設
計が鍵

どうなるか分からない局面だからこそ、当てるより守るアプロ
ーチで資金繰りの安定を図りましょう。

近年、若手社員を中心に「静かな退職(Quiet Quitting)」が
注目を集めています。これは仕事を放棄する退職ではなく、必
要最低限の業務はこなすが、それ以上の負荷や熱意は求めない
働き方です。海老原嗣生氏の著書『静かな退職という働き方』
では、この現象が単なる個人の怠慢ではなく、むしろ時代の要
請であり、世界の労働観の変化に対応した合理的な選択である
ことが明らかにされています。

とりわけ注目すべきは、本書第2章「欧米の標準」で紹介され
ている、海外における労働とマネジメントの在り方です。そこ
から私たち中小企業経営者が学ぶべきことは多く、いまや“熱
意による管理”の限界を認め、“成果と環境の両立”を軸にした
マネジメントへと転換することが急務です。

■ 欧米の働き方、「静かな退職」はむしろ標準

欧米では「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が明
確に定められており、労働者はその範囲内で成果を上げること
が求められます。上司が部下に業務外の雑務を頼むことはタブ
ー視され、残業も原則ありません。著者は、アメリカの事例と
して「定時退社後、携帯を切って家族と過ごすマネージャー」
の姿を紹介しています。そこにあるのは、「生活があってこそ
の仕事」という合理的な価値観です。

一方、日本では「気を利かせて動く」「言われなくてもやる」
といった“心のサービス”が美徳とされてきました。結果として、
労働者は曖昧な期待と過重労働に晒され、心理的離職(静かな
退職)を選ぶ人が増えています。

■ 中小企業こそ「静かな退職」をマネジメントの転換点に

この「静かな退職」は、大企業に限らず、中小企業にとっても
見過ごせない問題です。従業員数が少ない分、ひとりひとりの
モチベーションや稼働率が経営に直結するからです。

しかし、ここで考えたいのは、「静かな退職」を否定するので
はなく、それが“過剰期待に対する防衛反応”であることを受け
止めることです。欧米のように、業務の線引きと評価基準を明
確にし、社員が「何をどこまでやればいいか」を安心して理解
できる環境を整えることで、静かな退職は未然に防げます。

■ 今後のマネジメントに対する提言

以下に、海老原氏の示唆をもとにした中小企業向けの具体的な
対応策を示します。

【1】職務範囲の明文化と共有
業務の属人化や曖昧な役割分担は、無意識の負荷増加を招きま
す。各職種・ポジションごとに「やるべきこと/やらなくてよ
いこと」を可視化し、本人とすり合わせる仕組みを構築しまし
ょう。

【2】「熱意」より「成果」評価へ
従来の「頑張っている姿勢」や「遅くまで残っている人」を評
価する風土は、静かな退職を誘発します。時間や態度よりも成
果や改善提案、数字などの定量評価に軸足を移すことが重要で
す。

【3】定時退社を前提とした業務設計
「忙しいこと=良いこと」という価値観は見直すべきです。定
時で終われる設計を前提に業務量や会議時間を再構築し、生産
性向上を意識した働き方を促しましょう。

【4】「期待の押しつけ」から「選択の提案」へ
例えば「もっと学んで欲しい」「リーダーをやって欲しい」と
いった期待は、裏目に出ることもあります。キャリアの選択肢
を提示し、本人の意思に委ねる姿勢が信頼を築きます。

【5】1on1ミーティングの制度化
定期的な対話によって、「何にモヤモヤしているか」「過剰に
抱え込んでいないか」を確認できます。上司からの一方的な指
導ではなく、双方向の確認と共感がポイントです。

■組織の“静かな成長”を目指して

「静かな退職」は怠けのサインではありません。むしろ、時代
と働き手の価値観が変化していることを知らせる警鐘です。欧
米ではすでに標準化しているこの「働きすぎない」文化は、む
しろ人材を長期的に活かす合理的な方法とも言えます。

日本の中小企業がこれからも持続的に成長していくためには、
「熱意や根性頼み」のマネジメントから、「役割の明確化と成
果重視の信頼型」マネジメントへと移行することが不可欠です。
社員が静かに“心を退職”してしまう前に、静かにマネジメン
トの舵を切ること、それが今、経営者に求められている変化で
す。

「資本効率を示す指標はROE」だと思われがちですが、ここ数
年、機関投資家や銀行のヒアリングで頻繁に出てくるのはROIC
(投下資本利益率)です。ROE が「自己資本(純資産)でどれ
だけ利益を生んだか」を測るのに対し、ROIC は「株主資本+
有利子負債=事業に投じた総資本」で稼いだリターンを示しま
す。つまりレバレッジ(借入)で水増しされない真の稼ぐ力が
分かる指標です。

たとえば自己資本1億円、借入4億円、当期純利益1,000万円の
会社は ROE10%でも、ROICは2%しかありません。借入に依
存した薄利体質では投資家の評価は厳しく、銀行も金利を上乗
せする傾向があります。逆にROICを5%→7%へ改善できれば、
「追加投資しても十分に回収できる会社」とみなされ、金利引
き下げや株主の支援を呼び込みやすくなります。

では中小企業がROICをどう高めるかについて解説します。ポイ
ントは[1]利益率を上げる、[2]投下資本を適正化するの二軸で
す。利益率向上は価格改定や高付加価値商品の投入など攻めの
改善が中心です。一方、投下資本の適正化は在庫日数短縮や遊
休資産の売却、不要な借入の返済など、守りの改善が即効性を
発揮します。とくに売掛金と在庫は気づかないうちに増える資
本食い虫です。月次で回転率をチェックし、不要な資金滞留を
防ぐだけでもROICは着実に向上します。

銀行が融資審査で重視する自己資本比率や債務償還年数は、数
式に置き換えるとROICの変形です。つまり、ROICの改善策は
銀行格付けの改善策と重なる ということです。投資家向けIRを
意識した取り組みが、そのまま金利低減や借入枠拡大につなが
る好循環が期待できます。

まずは自社のROICを算出し、主要取引銀行へ共有してみましょ
う。[1]〔営業利益÷(自己資本+有利子負債)〕で計算し、業
界平均と比較するだけでも課題が見えてきます。その上で「次
年度に ROIC を○%へ引き上げる」という目標を掲げ、利益率
と回転率の改善施策を月次レポートで報告すれば、銀行・投資
家双方からの信頼度は確実に高まります。

ROEは決算書で簡単に見える指標ですが、レバレッジの影響を
排除した ROIC こそが、投資家・銀行の本音の評価軸です。利
益率の向上と投下資本のスリム化、この2点を月次でチェック
し、ROIC を継続的に高める体質づくりに取り組みましょう。
それが結果として、資金調達コストの低減と企業価値の向上を
同時に叶える最短ルートになります。

2025年の日本は、少子高齢化・人口減少・デジタル化の進行、
そして価値観の多様化といった大きな変化の中にあります。こ
うした時代には、「社会の課題をビジネスで解決する」ことこ
そが、事業成功の鍵となります。これから新規事業を始めるな
ら、次の4つの分野が成長性・実現性ともに高く、特に中小企
業や個人事業者にも適しています。

■1.高齢化社会対応型サービス

高齢化が進む日本において、介護や医療だけでなく、その“周
辺サービス”にビジネスチャンスがあります。中でも、現場に
寄り添った小規模サービスは参入障壁が低く、地域密着で展開
できます。

●事例:シニア向け「おでかけ支援サービス」

神奈川県で創業した個人事業主が始めた「まごころ送迎サービ
ス」は、高齢者を病院・スーパー・趣味の教室などに送迎する
有償サービスです。介護タクシーではないため資格不要で始め
られ、口コミで顧客が広がりました。今では月に200件超の利
用があります。

その他にも、配食サービス、買い物代行、訪問美容・ネイルな
ど、日常支援系サービスが高齢者層に広がっています。

■2.地域密着型DX支援(中小企業デジタル化)

中小企業や個人商店の多くは、「デジタル化したいけど、やり
方がわからない」と感じています。特に地方では、IT企業と
の接点が少ないため、身近な支援者が求められています。

●事例:飲食店向け予約管理ツールの導入支援

広島県の30代創業者が立ち上げた「ミセデジ」は、個人飲食
店にLINE予約システムや無料POSレジを導入し、集客と業務
効率化をサポートしています。導入費用を補助金で賄うことで、
顧客負担を抑えながら自社の利益も確保しています。

このように、「難しいITを、わかりやすく手伝う」姿勢が重
宝され、継続的な支援契約にもつながっています。

■3.生成AIを活用した業務支援

ChatGPTなどの生成AI技術は、日常業務やマーケティングの
現場で急速に普及しつつありますが、実際の活用は一部に留ま
っています。この“活用の壁”を超えるサポートが、今後大きな
市場になります。

●事例:中小企業向け「AI活用コンサルティング」

大阪のベンチャー企業「ライトAI」は、製造業の現場向けに、
ChatGPTを活用した「クレーム対応メール」「マニュアル作成」
「営業トーク例」などを自動化する仕組みを提供しています。
定額サブスク型で月額3万円から導入可能にしたところ、IT
に疎い企業からの引き合いが急増しました。

小規模事業者向けにAIの“使い方”と“効果の見える化”を支援
することが、今後の収益源となります。

■4.教育・リスキリング(大人の学び直し)

人生100年時代、働き方が多様化する中で、「学び直し」や
「スキル転換」を支援するビジネスが伸びています。かつての
塾や資格スクールとは異なり、短期・実務直結型の学びが求め
られています。

●事例:40代向けのIT再教育スクール

東京・中野で始まった「リスキルラボ」は、40代、50代の
未経験者を対象に、週1回・3ヶ月間でWeb制作や動画編集を
学ぶ少人数制の教室です。講師は現役フリーランスで、実案件
を題材にした授業が特徴です。転職希望者だけでなく、副業を
目指す会社員も参加し、口コミで拡大中です。

中高年層の不安を解消し、「自分で稼ぐ力を身につけたい」と
いうニーズに応える教育事業は今後も広がるでしょう。

時代の変化は、不安と同時に“ビジネスの種”をもたらします。
高齢化、デジタル化、AI活用、学び直し、これらはすべて
「社会課題」であり、だからこそ「強いニーズ」が生まれます。
これから新規事業を立ち上げるなら、巨大市場や一過性のブー
ムよりも、“小さな困りごと”に焦点を当てたサービスが、持続
的な成長の鍵を握ります。自分自身の経験や地域資源と結びつ
けながら、社会の隙間を埋める事業をぜひ検討してください。

「金利や融資枠は銀行が決めるものだから動かせない」と思っ
ていませんでしょうか。確かに正式な内部格付(リスクランク)
は、年1回、決算書をもとに更新されるのが原則です。しかし
実務の現場では、月次の数字と対話次第で“暫定的な先行修正”
が行われるケースも少なくありません。今回はその仕組みと、
銀行ごとの違いに注意しながら活用するポイントをまとめます。

1.銀行が月次で見る5つの指標
・自己資本比率
・営業キャッシュフロー
・売上総利益率
・有利子負債/EBITDA
・借入金依存度
これらを月次試算表で示し、改善の軌跡を共有することで「債
務者ランク改善の兆しあり」と営業店が本部に報告しやすくな
ります。

2.資金繰り表に載せる3つの「日数」
・売掛金回収サイト
・買掛金支払サイト
・在庫回転日数
資金の安定度を日数で可視化すると、非財務評価でプラス材料
になります。

3.事例(地方銀行で確認した複数ケースをモデル化)
製造業A社は、毎月月次レポートを提出。3か月連続で営業
CFが黒字化し、有利子負債/EBITDAが5.2→4.8倍へ改善し
たタイミングで、営業店裁量により金利が年0.3%先行引き下
げ。決算確定後、本部審査で正式に1ランクアップし、条件が
恒久化されました。
※内部格付の階級・先行修正の裁量は金融機関ごとに異なりま
す。本事例は一例であり、具体的な金利や改善幅は取引銀行で
ご確認ください。

4.金融機関別の大まかな傾向
・地方銀行:営業店判断で動く例があり、先行金利修正は
年▲0.2~0.4%程度。
・信用金庫・信用組合:店舗裁量が大きく、先行金利修正は
年▲0.1~0.3%程度。
・メガバンク:本部集中管理でハードルが高く、先行金利修正
は年▲0.05~0.2%程度。

5.提出サイクル&対話術チェックリスト
・月次締めは翌月10日以内
・レポートは「ワンシート+注記」
・改善策の実行状況を3行程度で記載
・四半期ごとに担当者と面談し、数字の裏付けを説明

正式格付は年1回でも、月次レポートは「期中の暫定評価」の
材料になります。数カ月続く改善を数字と言葉で示せば、金利
や枠が前倒しで緩和される可能性があります。ただし運用ルー
ルは銀行ごとに異なるため、必ず取引銀行に確認をしてくださ
い。

前回号の続きです。

経営を変えたい、会社を成長させたい、多くの経営者がそう願
います。しかし、そのためにまず取り組むべきは「戦略の見直
し」でも「人材の刷新」でもありません。最も効果的で、すぐ
に始められる変革の第一歩、それは「時間配分の見直し」です。

経済評論家・大前研一氏は次のように語っています。
「人間が変わる方法は3つしかない。ひとつ目は時間配分を変
えること。ふたつ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合
う人を変えること。」
ここでは「時間配分を変えること」について言及します。

この言葉は、経営者の自己革新において極めて本質的です。な
ぜなら、時間は唯一、誰にとっても平等に与えられた資源であ
り、その使い方次第で成果が大きく変わるからです。

【1】今の「時間の使い方」は、未来の成果を決定している

経営者の1日は忙しく、会議、現場対応、経理、営業、トラブ
ル処理と、やることは山積みです。しかし、その多くは「緊急
だが重要ではない」仕事に追われていることが少なくありませ
ん。未来を変える仕事、戦略立案、人材育成、新規事業の構想、
資金調達の検討、こうした「重要だが緊急ではない」仕事に、
どれだけ時間を使えているかが経営者の成長を左右します。

【2】時間配分の見直しがもたらす変化

経営者が1日のうちたった1時間でも、「考える時間」「学ぶ
時間」「戦略を練る時間」にあてれば、半年後、1年後の企業
の方向性は大きく変わります。

・毎朝30分、思考を整理するノートを書く
・週に1時間、専門書を読む
・月に1日、オフィスを離れて未来を考える時間を確保する
こうした小さな時間の投資が、長期的なリターンを生むのです。

【3】「経営者でなければできない仕事」に集中せよ

時間を再配分する際、まず見直すべきは「自分でやらなくても
いい仕事」にどれだけ時間を使っているかです。

・経理処理を細かくチェックしていないか
・現場の細部に口を出しすぎていないか
・社員ができる仕事を、自分が抱え込んでいないか
こうした業務を手放し、「経営者にしかできない仕事」未来を
描き、方向を決め、資源を配分する仕事に時間を集中すべきで
す。

【4】時間の再配分は「行動の習慣化」から始まる

人は、自分が習慣化していないことには時間を割きません。だ
からこそ、まずは「変えたい時間の使い方」を習慣に落とし込
む工夫が必要です。

・朝イチに「今日の重要タスク」を決める
・毎週○曜日は「学びの時間に充てる」と決めておく
・月初の1日は「戦略レビューの日」とスケジューリングする
このように、あらかじめ時間をブロックし、“意図的に確保す
る”ことで、時間の質が変わり、経営者自身の視座も高まって
いきます。

【5】「忙しい=成果が出ている」と錯覚しない

多くの経営者が「忙しさ」に充実感を見出してしまいます。し
かし、忙しさは「思考停止」の温床にもなります。忙しい状態
こそ、時間配分を根本的に見直すサインだと捉えるべきです。

・自分がいなくても回る業務は手放す
・判断が遅れる業務は、最初から人に任せる
・アポイントは「緊急性」ではなく「戦略性」で優先順位をつ
ける
こうした意識改革により、本当に集中すべき仕事に時間が戻っ
てくるのです。

【結言】時間配分を変えることが、経営の未来を変える

中小企業の経営環境は、日に日に複雑さを増しています。判断
の質、スピード、視野の広さ、これらすべては、経営者自身の
「時間の使い方」の中から生まれます。

会社を変えたければ、まずは自分を変える。自分を変えるには、
何よりも先に「時間の再設計」を行うべきです。その第一歩は、
カレンダーの見直しからでも構いません。あなたの時間の流れ
を変えることが、社員の時間の流れを変え、最終的には会社全
体の成長サイクルを変えていくのです。