前回は、資金繰り表は年初に作るから意味がある、という話を
しました。
今回は、資金繰り表を作成したあと、社長がどこを確認すれば
よいのかを整理します。

資金繰り表を見る際に、細かい数字をすべて追いかける必要は
ありません。
社長が押さえるべきポイントは多くなく、視点を絞ることで判
断がしやすくなります。

最初に確認したいのは、預金残高が最も少なくなる月です。
一年分を並べたときに、資金が一番薄くなるタイミングはいつ
なのか。
その金額を見て、精神的に余裕を持てる状態かどうかを確認し
ます。

・利益が出ている
・売上が伸びている
こうした状況でも、預金残高の底を見ると不安を感じるケース
は珍しくありません。
資金繰り表は、数字と感覚のズレを早い段階で掴むことができ
ます。

次に確認したいのは、売上が計画より下振れした場合の資金の
動きです。
一年が当初の想定どおりに進むことはほとんどありません。
売上を少し保守的に置き直すだけでも、資金の余裕度は大きく
変わります。

ここで重要なのは、悲観的な結論を出すことではありません。
売上が落ちた場合でも、対策を検討できる時間が確保されてい
るか。
資金繰り表は、その余地を確認するための資料です。

三つ目は、大きな支出が集中する時期です。
設備投資、賞与、借入金の返済などは、それぞれ単体では問題
がなく見えても、重なることで資金繰りを一気に圧迫します。

月ごとに並べて確認することで、資金が一時的に詰まるタイミ
ングが明確になります。事前に把握できていれば、手を打つ選
択肢も広がります。

この三点を確認するだけで、資金繰り表は十分に経営判断に使
えます。
必要なのは、数字を完璧に理解することではありません。
最も厳しい状況において、会社がどのような状態にあるかを把
握することです。

資金繰り表は安心するための資料ではなく、考えるための資料
です。
判断を先送りしないための時間を生み出す道具でもあります。

本稿が、新年の計画策定における一つの指針となれば幸いです。

◆1:新たに事業計画を立案する際は、まず現在の事業立地を
検証することに十分な時間を割いてください。

事業計画作成の核心は、事業立地の見直しにあります。斜陽分
野にとどまるのではなく、成長分野への転換を真剣に検討すべ
きです。

○以下、高収益企業研究の第一人者である三品和広教授の言葉
を引用します。

『…事業の根底には立地(誰に何を売るか)があり、その上に
構え(出荷するモノをいかに入手し顧客に届けるか)、製品
(いかに個別製品を魅力的に仕立てるか)、管理(いかに品質・
原価・納期を守るか)が重層的に積み上がっている。…中期経
営計画などで立地や構えに手を付けず、製品刷新や管理強化だ
けを掲げる企業は多いが、この次元の取り組みだけで高収益化
を実現した例はほとんどない。…』

◎事業計画を策定するとは、事業立地を検証し、必要に応じて
見直すことに他なりません。過去の流れを無批判に踏襲するこ
とを事業計画と呼び、それを繰り返していては、事業革新は生
まれません。何十年も同じ立地に固執し、徐々に衰退していく
企業は、この典型です。
過去の延長線にある見栄えの良い数値計画を、事業計画と呼ぶ
のはやめましょう。

◆2:事業計画は、過去踏襲型の保守的な内容でない限り、正
確な予測が極めて困難であり、多くは計画通りに進みません。

創造的な計画の成功事例の多くは、事後的に理論化され、説明
が加えられています。いわば後付けです。保守的な計画でない
限り、事業を正確に予測できないという前提に立ち、計画を執
行してください。クリエイティブな計画をそのまま信じ込むこ
とは、非常に危険です。

『現実には、ある程度先を見据えつつ、状況に応じて対応して
いくことになる。実現された戦略は、当初から明確に意図され
たものではなく、個々の行動が積み重なり、その都度学習する
中で、一貫性やパターンが形成されていく。』
※マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院で学位を取得
した、異色の経営学者ヘンリー・ミンツバーク博士の言葉です。

◆3:事業計画作成時の留意点

・斬新で優れたアイデアほど、将来予測は難しい。
・重要なのは、起点の正確な認識と終点のイメージ化。プロセ
スは進行しながら調整する。
・作成した事業計画を鵜呑みにしないこと。前のめりは禁物。

◆4:事業計画作成の要諦

・事業立地の確認・選定……どの事業を行うのか
・収益モデルの創造(ビジネスの型の確立)……どのように
稼ぐのか
・起点(現状)の認識……自社の実力を知る
・(仮)のゴール設定……目指す到達点はどこか
・起点からゴールまでの道筋を仮置きする

そのうえで、
・全体として整合性の取れた数値計画の策定
・数値計画と資金計画の整合確認
・マネジメント体制の整備
・日々修正しながら現実的に対応する姿勢

◆5:事業計画執行時の注意事項(追記)

・コントロール可能なことは、確実にコントロールする。
・努力次第でコントロールできることは、可能な限り管理する。
・コントロール不能なことには、柔軟に適応する。

コントロールできることを放置するのは、放漫経営です。
努力すれば管理できることを怠るのは、怠慢経営です。
そして、コントロール不能なことまで支配しようとするのは、
独りよがりの経営です。

自社の明るい未来のために、真に意味のある事業計画を作成し
ましょう。過去の延長にある体裁の良い数値計画を、事業計画
と呼ぶのはやめましょう。それは事業計画ではなく、単なる進
捗管理計画に過ぎません。

…次回号に続く

前回は、年初にまず考えるべきはいくら儲けるかではなく、い
くら耐えられるかというお話をしました。

では、その耐える力をどのように把握するか。
それは資金繰り表になります。

資金繰り表というと、銀行に出すための資料、資金が苦しくな
った会社が作るものというイメージを持たれがちです。

しかし、実務の現場では、資金繰り表は会社が元気なときほど
役に立つ資料だと感じています。

理由はシンプルです。
資金繰り表は、未来の話だからです。

決算書は過去の成績表です。
どれだけ細かく見ても、もう起きてしまったことは変えられま
せん。

一方で資金繰り表は、このまま進むとどうなるか、売上が落ち
たらどうなるか、投資をした場合に資金は足りるのか、そうし
たことを事前に考えるための道具です。

特に年初は、まだ一年が始まったばかりです。
売上も、支出も、投資も、まだ調整が効きます。この時点で資
金の流れを一度整理しておくだけで、無理な判断を避けられる
確率は大きく上がります。

よくある誤解についても触れておきます。
「資金繰り表は完璧でなければ意味がない」という考え方です。

実際には、数字が多少ずれていても構いません。予測が外れる
のは当たり前です。
大切なのは、何もしなければこうなるという見通しを持つこと
です。

年初に一度作っておくと、売上が想定より伸びた、経費が増え
た、投資をしたくなった、そうした場面で判断の基準が生まれ
ます。

逆に、資金繰り表がないまま一年を走ると、判断はすべて感覚
になります。
今月はなんとなく大丈夫そう、まだ預金がある気がする、この
感覚的な経営が後から効いてきます。

資金繰りは、苦しくなってから考えるものではありません。
苦しくならないために、先に予測を立てましょう。

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正会員事務所である当事務所にて承っております。
お気軽にご相談ください。

令和8年の幕開けにあたり、日本の中小企業はかつてない構造
的な変化に直面しています。原材料費やエネルギーコストの高
騰による物価上昇、少子高齢化がもたらす人手不足、そして市
場環境の急速な変化に対応するための事業再構築。これらの課
題は一企業の努力だけでは解決が難しく、同時に“変化にどう
適応するか”が企業存続のカギとなります。

以下では、これら三大課題に対する具体的な視点と行動指針を
示します。今こそ、守りから攻めへの意識転換が求められてい
ます。

■【1】物価上昇:価格転嫁は「説得」から「納得」へ

物価上昇は経営体力を確実に削ります。原価高騰を吸収するだ
けの余力がない中小企業にとって、価格転嫁の技術が問われる
年になるでしょう。

単なる「値上げ」では顧客の理解は得られません。大切なのは、
“なぜその価格が必要なのか”を丁寧に伝えること。製品・サー
ビスの背景、品質、持続可能性への取り組みなど、価格に見合
った価値を伝えるストーリーテリングが不可欠です。

あわせて、業務効率化によるコスト構造の見直しも重要です。
クラウドツールやAIの導入で人件費や間接費を削減し、価格転
嫁の必要性そのものを低減させる取り組みが求められます。

■【2】人手不足:採るより育て、繋ぎ、活かす

中小企業の多くが「人が足りない」と嘆く一方、雇ってもすぐ
辞めてしまう現実も深刻です。もはや採用に頼るだけでは立ち
行かず、「定着」と「戦力化」こそが競争力の源泉となります。

具体的には、柔軟な勤務体系の整備(時短勤務、在宅ワーク、
副業容認など)や、成長を実感できるキャリア設計が効果的で
す。働きやすさと働きがいの両立を意識した職場環境が、人材
の流出を防ぎます。

また、シニアや外国人、育児・介護と両立する層など、多様な
人材の受け入れ体制の構築が必要です。業務マニュアルや研修
体制を整え、誰もが早期に活躍できる仕組みを作りましょう。
AIを活用した教育やサポートツールの導入も視野に入れるべき
です。

■【3】事業再構築:「縮小均衡」から「成長戦略」へ

停滞からの脱却には、今こそ大胆な事業見直しと再構築が必要
です。顧客ニーズは変化しており、従来の延長線上では成長は
望めません。

ここで大切なのは、“自社が本当に提供すべき価値は何か”を見
極め、限られた経営資源を集中させることです。小規模でも新
規事業や新市場へのチャレンジを始める企業は増えています。
既存顧客との関係を活かしたサービスの横展開や、ニッチ市場
への特化は有効な戦略です。

補助金制度や支援機関の活用も積極的に行いましょう。また、
AIやデジタルツールを活用したマーケティングや業務改善は、
再構築のスピードと確度を高める武器になります。

変化に強い組織こそ、未来を拓きます。
令和8年は、「変化に順応する企業」が「選ばれる企業」とな
る年です。先の読めない時代においても、正しい情報をもとに
迅速に意思決定し、小さく試し、大きく育てる。その柔軟性と
スピードこそが、これからの中小企業に求められる資質です。

経営者の皆様には、今年を“守り”ではなく“変革の始まり”と捉
えていただき、社内外に新たな価値を生み出す礎としていただ
きたいと願います。

あけましておめでとうございます。
本年も中小企業経営に役立つ財務の話をお届けしていきます。

年始に多くの経営者の方と話をすると、
・今年は売上を伸ばしたい
・今年こそ利益を残したい
そんな言葉をよく聞きます。

一方で、
財務の視点から見ると、年初にまず考えていただきたいのは
今年いくらお金が増えるかではなく、いくらお金が減る可能性
があるかという点です。

会社は利益が出ても倒れます。
逆に言えば、利益が少なくても資金が回っていれば生き残れま
す。
この違いを分けるのが資金繰りです。

資金繰りというと、苦しくなったときに考えるもの、銀行に求
められて作るもの、そのような印象を持たれがちですが、本来
は逆です。

余裕があるときにこそ、資金繰りを考える。
何も起きていない年初こそ、資金の流れを整理する。
これをしておけば多少の環境変化があっても大きく崩れません。

年初におすすめしたいのは、難しい資料を作ることではありま
せん。
・今ある預金はいくらか。
・毎月必ず出ていくお金はいくらか。
・売上が少し落ちたら何か月耐えられるか。

この三つを把握するだけでも、経営の見え方は大きく変わりま
す。

一年は長いようで、資金繰りの視点ではあっという間です。
売上が伸びているときほど、お金は静かに減っていきます。
その変化は、決算書が出来上がる頃には手遅れになっているこ
とも少なくありません。

ですので、今年一年をどう戦うかを考える前に、今年一年をど
うやって生き残るかを考える。それが財務の出発点です。

今年も一緒に、数字で会社を守る一年にしていきましょう。

来年は令和8年です。もちろん、昭和101年ではありません。
誰もが分かっているはずのこの事実ですが、今なお昭和の経営
観に基づいた判断や行動が、現場のあちこちに根強く残ってい
ます。

時代は変わりました。変化に気づいていながらも、経営スタイ
ルを見直すことなく、昭和の延長線上に立ち続けているとした
ら、この年の瀬にこそ、令和の時代にふさわしい「経営のあり
方」について、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

■1.昭和と令和は、前提がまったく違います

昭和の時代は、「危険・不便・不快」といった社会課題が明確
でした。たとえば、1964年の東京オリンピック当時、冷蔵庫の
普及率はわずか10%。人々の暮らしはまだまだ不便で、解決す
べきテーマが山積していたのです。
企業は、こうした大きなニーズに応えるために商品開発を進め、
大量生産と均質化を武器に経済成長を支えました。「Japan as
No.1」と称された時代、同質性とスピードが成果を生んだので
す。

ところが、令和の日本はすでに「安全・便利・快適」が当たり
前となりました。大きな課題が見つかりにくい時代においては、
皆が同じ小さなテーマに群がる結果、差別化が難しくなり、激
しい価格競争へと突入。多くの企業が低成長・低収益のスパイ
ラルに悩まされています。

■2.昭和の「正解」が、今もあなたを縛っていませんか?

私たちの思考や判断は、無意識のうちに昭和の影響を受けてい
ます。先輩経営者や業界の常識、書籍、コンサルタントの提言、
その多くが、昭和の成功体験をベースに語られています。だか
らこそ、今こそ疑ってみるべきです。「本当にそのやり方は、
今の時代に合っているのか?」

◆ 新たな経営原則へのシフトが必要です

・【PL(損益計算書)】売上よりも利益。量より質へ。
・【BS(貸借対照表)】「持つ経営」から「持たない経営」へ。
・【MG(マネジメント)】ボトムアップからトップダウンへ。
雇用から業務委託へ。

■3.昭和の「型」から抜け出せていますか?

業界の枠組みや収益モデルも、昭和時代に定義されたものをそ
のまま使い続けていませんか?「この業界はこういうもの」
「このビジネスモデルが定番」、そんな固定観念こそ、変化の
足かせです。

◆ 新たなビジネスの「型」へ

・サブスクリプション1.0 ⇒ 2.0(継続価値の再設計)
・ソリューション提供企業への転換
・D2C(Direct to Consumer)、クラウドファンディング
・DX(デジタル変革)の推進
・業界の垣根を超える展開
・ニューミドルマン(購買代理)⇒ プラットフォーマーへ

■4.これからの変化は「破壊的」に進みます

今後のビジネス環境は、変化ではなく「激変」が常態となりま
す。真にオンラインを武器とする企業が、リアルな世界を飲み
込む「OMO(Online Merges with Offline)」の時代が加速
しています。たとえば、銀行業界の縮小はその一例に過ぎませ
ん。同様の構造変化は、あらゆる分野で起こるでしょう。
・AI(例:ChatGPT)による知的労働の代替
・カーボンニュートラルによる産業構造の変革(特に自動車業
界)
こうした環境変化の波に、旧来型の組織では対応しきれません。

■5.ルールが変わるとき、中小企業には最大のチャンスが訪
れます

競技のルールが変われば、強者が変わります。100mを最速で
走れなくても、「100mを20秒ジャストで走る」競技が新たに
生まれれば、あなたにも金メダルの可能性がある。今はまさに、
その「ルールが書き換わる時代」です。しがらみに縛られない
中小企業や起業家こそが、新たな主役となり得るタイミングで
す。

■6.令和時代を生き抜く企業体へ

同質化・価格競争に巻き込まれず、独自のポジショニングを確
立し、新たな市場や仕組みを自ら生み出していく、そのような
企業こそが、これからの時代に求められます。

「与えられたルールで戦う」から「自らルールを創る」企業へ。
あなたの会社も、令和のリーダー企業となれるかもしれません。

※お世話になりました。来年もよい年でありますように。
感謝・合掌

先日、在庫型ビジネスの経営者の方から、利益が出ているのに
資金繰りが苦しいという相談を受けました。実はこの悩みは多
くの企業に共通しており、理由を一言でまとめると、利益がそ
のまま在庫に置き換わってしまうという構造にあります。

企業が本当に儲かったと判断できるのは、最終的にキャッシュ
が残ったときです。損益計算書で利益が出ていても、売掛金や
在庫が増えると資金は手元に戻りません。特に在庫ビジネスで
は、売上が伸びるほど在庫の量も比例して増えていくため、利
益が在庫の購入に吸収される流れが続きます。

在庫型ビジネスの特徴は、売れる量が増えるほど必要な在庫も
増える点にあります。仕入や製造のために先にお金が出ていき、
商品が売れてようやく回収できます。しかし、成長を続ける企
業ほど仕入も増え続けるため、利益が増えた分だけ在庫が膨ら
み、手元資金は一向に増えません。

極端に言えば、会社が右肩上がりで成長し続ける限り、在庫に
囚われたキャッシュは返ってこないという状態になります。本
当にキャッシュを回収できるのは、売上が横ばいになったとき
か、在庫が減ったとき、または在庫回転率が改善したときです。
つまり、成長ではなく効率化や停滞の局面で初めてお金が戻っ
てきます。

この構造は在庫ビジネスに特有のもので、黒字倒産が多い理由
もここにあります。売上が増えれば利益も増えるため経営が順
調に見えますが、実際には同時に在庫が増え続け、キャッシュ
不足が慢性化します。銀行から見ると、在庫が過大な企業は資
金繰りリスクが高いと判断されがちです。

ではどうすればよいのか。最も効果が大きいのは在庫回転率の
改善です。同じ売上でも、在庫が少なければ少ないほどキャッ
シュは早く戻ります。また、粗利益率を高めることで、在庫に
吸収される資金の圧力を緩和することも有効です。さらに、売
上拡大のスピードと在庫増加のバランスを管理することも重要です。

在庫ビジネスでは、利益よりも資金繰りの管理が重視されます。
売れれば売れるほど資金が減るという逆説的な構造を理解し、
自社の在庫の持ち方を見直すことが、健全な経営の第一歩です。
黒字だけを見て安心するのではなく、キャッシュがどの段階で
手元に戻るのかを意識した経営判断が求められます。

深刻な人手不足と採用難が続く日本において、中小企業にとっ
て「優秀な人材の離職」は事業の根幹を揺るがす重大リスクで
す。特に優秀人材は、利益・改善・顧客関係・組織活性の中心
に位置しており、その離脱は売上や生産性だけでなく、企業文
化にも長期的な損失をもたらします。離職が起きてから手を打
つ企業は常に後追いになります。今求められるのは、「離職が
起こらない組織」を意図して設計する経営姿勢です。

1.優秀人材を“横並び”の中に埋没させないこと

中小企業では公平性を重視するあまり、全員を同じ基準で扱う
傾向が根強くあります。しかし、企業の成長を牽引しているの
は少数の高い成果を上げる人材です。優秀人材が離職を考える
最大要因は、「努力と成果が正しく評価されない環境」にあり
ます。

経営者は、
・権限の付与
・経営情報へのアクセス
・処遇・昇進のスピード
・重要プロジェクトへの参画
といった点で明確に差をつけ、「成果の高い人材にこそ多くの
機会が開かれる」という組織文化を築く必要があります。これ
は不公平ではなく、企業を存続・成長させるための戦略的配慮
です。

2.経営の意思決定に関与できる環境を整える

優秀人材が会社に残る理由は、給与よりも、「この会社の未来
づくりに携われている」という手応えにあります。

そのため、
・経営計画づくりへの参加
・新規事業リーダーとしての抜擢
・横断プロジェクトへのアサイン
・経営会議への出席
など、会社の方向性を決める場に関わるチャンスを積極的に提
供することが重要です。優秀人材ほど裁量の少ない業務に強い
ストレスを感じ、「成長が止まった」と思った瞬間に外部へ視
線を向けます。「あなたの力が必要です」というメッセージを
制度として示すことが離職防止の大きな鍵になります。

3.成長機会を設計し、“成長し続ける実感”を提供する

優秀人材の共通点は「成長意欲が高い」ことです。現状維持を
求める社員は残りますが、優秀人材は成長実感が消えた瞬間に
辞める準備を始めます。そのため、成長機会は偶然に任せるの
ではなく、経営者が明確に設計し、継続的に提示する必要があ
ります。

・外部研修・資格取得支援
・新サービス開発への参加
・部門間ローテーション
・若手リーダー育成制度
・社内講師・メンター制度
など、成長の階段が連続している企業は離職率が低く、優秀人
材が根付きやすくなります。「この会社にいれば、3年後の自
分が今より確実に成長している」という感覚を与えることが最
も重要です。

4.評価・給与の透明性が“離職の芽”を摘み取る

優秀人材の離職理由の大半は、評価額そのものより「なぜこの
評価なのかがわからない」という納得感の欠如にあります。

経営者は、
・数値基準(売上、KPIなど)
・行動基準(改善提案、挑戦姿勢、チーム貢献など)
・ランク・役割定義
・昇給・昇格条件
を明文化し、評価プロセスを透明化する必要があります。曖昧
な評価は不信感を生み、優秀人材から順に離職していきます。
経営者は「優秀人材への処遇はコストではなく投資である」と
いう視点を持ち、他社に奪われない環境づくりを進めるべきで
す。

5.離職を防ぐ最大の要因は、経営者自身の姿勢です

多くの中小企業では、制度以上に経営者の振る舞いが離職を引
き起こしています。

・朝令暮改
・感情的な指示
・不公平な評価
・情報共有の欠如
・経営者自身が学ばない
優秀人材ほど、こうした組織の“不健全さ”を敏感に察知しま
す。逆に、経営者が学び、変わり、未来を語り、組織に誠実に
向き合う姿勢を示す会社には、人材は定着し、強い結束が生ま
れます。優秀人材は「経営者の成長スピード」をよく見ていま
す。

離職は“防ぐ”のではなく“発生しない構造に変える”

優秀人材の離職は個人の問題ではなく、経営設計の問題です。
採用市場が厳しくなる今、優秀人材1名の定着は、新規採用10
名に匹敵する価値を生みます。

中小企業は、
・能力に応じた機会提供
・意思決定プロセスへの参画
・成長機会の体系化
・評価・処遇の透明性
・経営者自身の変化
を経営の最優先テーマとして掲げるべきです。

優秀人材が集まり、根付き、成長し続ける企業こそ、これから
の厳しい経営環境を勝ち抜く力を持つはずです。

先日、ある経営者の方から「接待費が多いので、自分の店を作
ったほうが安上がりではないか」と相談を受けました。じつは
この手の相談は珍しくありません。
本業が好調になり資金に余裕が出ると、接待の場として飲食店
を持ちたい、税金を払うくらいなら店でも作っておこうという
気持ちが湧いてくる経営者は多いものです。

しかし、このような理由で飲食店経営に踏み出すのは、経営判
断として非常にリスクの高い選択です。本気で新規事業として
取り組む場合とは前提が全く異なり、想像以上に悪影響が大き
くなります。

■ 接待費の節約目的では、飲食店の赤字は埋まらない
飲食店を持てば、外で飲むより安く済むだろう。こうした発想
はもっともらしく見えますが、現実には成立しません。

飲食店は看板を上げた瞬間から固定費が発生し続けます。
家賃、人件費、光熱費、仕入れ、消耗品など、接待費の削減で
賄えるレベルではありません。
たとえ接待費が月に数十万円かかっていたとしても、飲食店の
赤字はその金額を軽く超えることがほとんどです。

結果として、節約するどころか本業の利益で飲食店の赤字を穴
埋めする構造になりがちです。

■ 税金を払うくらいなら飲食店でも…という発想も危険
「税金を払うくらいなら店を作ったほうが良い」という考え方
もよく聞きますが、これは典型的な誤解です。

税金は利益の一部ですが、飲食店の赤字は利益を確実に減らし
ます。
税金を減らすために飲食店を始める行為は、節税どころか、本
業まで巻き込んで会社全体の財務体質を弱める可能性が高くな
ります。

■ 金融機関の評価は確実に下がる
金融機関は、飲食店を道楽的に始めたかどうかを非常に敏感に
見ています。
理由は以下の三つです。

1.本業の集中力が落ちると判断される
2.利益を生まない投資に走り、財務規律が緩んでいると見え

3.「赤字体質の事業を作った」ことで、返済能力の評価が下
がる

特に3つ目は深刻で、赤字の飲食店を持っているだけで、会社
全体の格付が下がり、資金調達力が落ちることがあります。

金融機関は何を始めたかよりも、なぜ始めたかを重視します。
そこに経営的な合理性がない場合、評価がマイナスに振れるの
は避けられません。

■ 背景にあるのは「本業好調期の油断」
飲食店を道楽的に始める経営者の多くは、本業が好調な時期に
判断しています。
資金に余裕がある、気持ちにも余裕があるため、「少しくらい
遊びでやっても大丈夫だろう」と感じてしまうのです。

しかし、事業の黄金期こそ、
・内部留保を積む
・組織を強くする
・本業の改善に投資する
べきタイミングです。

余剰資源を本業と無関係な事業に流すことは、会社の成長可能
性を自ら削ってしまう行為です。

飲食店を始めたいという気持ち自体は否定しません。しかし、
経営の基本は資源を最も効果的に使うことにあります。もし、
飲食店という選択肢が本気の事業計画ではなく気分や感覚に近
いのであれば、もう一度立ち止まって考えてみる方が賢明です。

2026年を目途に政府が進める労働基準法の抜本的見直しは、
単なる制度改正を超えたインパクトを私たち中小企業経営者に
与えるものとなるでしょう。連続勤務の上限規制、勤務間イン
ターバルの義務化、有休取得時の賃金算定の統一、副業・兼業
との向き合い方の見直し、さらには「つながらない権利」の制
度化まで、これらの改正は、まさに“人”を中心に据えた経営”
への転換を私たちに促しています。

以下では、迫りくる制度改正を単なる義務としてではなく、
「競争力の源泉」として捉えるための視座を提示します。

1.「時間」より「成果」で評価する文化へ

これまで多くの企業では、「長く働く」ことが熱意や忠誠心の
証とされてきました。しかし、勤務間に11時間以上の休息を義
務づけるインターバル制度や、14日以上の連続勤務の禁止とい
った改正の方向性は、明確に「働く時間」よりも「働く質」を
重視する未来を示しています。

中小企業こそ、限られたリソースの中で最大の成果を上げる工
夫が求められます。属人化された業務の棚卸し、業務プロセス
の見える化、ITツールの活用による生産性向上は、もはや選
択肢ではなく必須課題です。時間に依存しないマネジメントへ
と舵を切ることが、労務リスクの回避と利益の最大化を同時に
実現します。

2.「健康経営」は人材確保の切り札に

働き方の見直しは、法令順守だけでなく、「選ばれる企業」に
なるための必須条件でもあります。近年、求職者が企業に求め
るものは報酬や安定性だけでなく、「安心して働ける環境」に
重きが置かれています。

休日を明確に定めることや、勤務時間外の連絡を制限する「つ
ながらない権利」の尊重は、従業員の心身の健康だけでなく、
企業への信頼感とエンゲージメントの向上に直結します。法改
正に先んじて、健康管理を経営課題として捉えた取り組みは、
採用市場でも他社との差別化につながるでしょう。

3.副業・兼業・フリーランスとの関係性を再定義する

働き方の多様化に伴い、「業務委託」や「フリーランス」とい
った非正規的な関係性が増加しています。しかし、改正案では、
「名ばかり業務委託」や「偽装請負」への警鐘が鳴らされてお
り、契約上は業務委託であっても、実態が“労働者”に該当すれ
ば労基法の適用対象となる可能性がある点に注意が必要です。

さらに、副業・兼業者の労働時間通算や割増賃金の扱いに関し
ても、企業間での責任分担や管理体制が問われることになりま
す。契約書の整備はもちろん、業務の指示範囲、勤務実態の記
録などを含めて、法令と整合性の取れた運用体制の構築が急務
です。

4.中小企業だからこそ、変化への“即応力”を武器に

大企業に比べ、組織規模が小さい中小企業は、意思決定のスピ
ードと柔軟性において優れています。つまり、制度改正に対し
て「いち早く対応すること」自体が、競争力の源泉となり得ま
す。

例えば、今のうちから就業規則を見直し、インターバル時間の
設定や休日の明確化、有休の取得ルールなどを整備しておくこ
とで、制度施行時に慌てることなく対応できます。さらに、従
業員との対話を通じて制度設計を行えば、社内の信頼関係を深
める好機にもなります。

2026年の法改正は、ただの「義務」ではありません。それは、
私たちが目指すべき「持続可能な企業経営」と「働く人を大切
にする企業文化」への扉を開くものであり、そのチャンスをど
う活かすかが、これからの経営者の力量です。

目の前の制度改正を超え、次世代に選ばれる企業へ。今こそ、
働き方の再設計に取り組む絶好のタイミングです。