二月は銀行との付き合い方をテーマにお話ししてきました。
前回は、相談のタイミングは資金が減ってからではなく、基準
を下回りそうな段階が動きやすいという話をしました。
今回は、銀行に何を伝えると話が進みやすいかを整理します。

銀行との会話で大切なのは、上手に話すことではありません。
銀行が判断しやすい形に、情報が整理されていることです。
整理の中心になるのは、事実と見通しの二つです。

最初に伝えるべきは事実です。
・直近の売上と利益の状況。
・預金残高の水準。
・借入金の残高と毎月の返済額。
この三点が揃うと、銀行側は会社の現在地を把握できます。

次に、見通しを伝えます。
・資金繰り表に基づき、今後どの月で資金が薄くなるのか。
・その理由は何か。
・理由が売掛金の増加なのか、在庫の増加なのか、投資なのか、
季節要因なのか。
ここが曖昧だと、銀行側は状況を読めず慎重になります。

一月にお伝えしたキャッシュポジションの基準も、会話の軸に
なります。
最低でも月商一か月分以上のキャッシュを維持する。
・この基準に対して、現状がどうか。
・今後の見通しで基準を下回りそうな月があるか。
この二点が言語化できると、相談の理由が明確になります。

例えば、次のような整理です。
・現状の預金残高は月商一か月分以上を確保できている。
・三か月後に納税と賞与が重なり、月商一か月分を下回る見込
みがある。
・対策として支出時期の分散を検討しているが、追加で運転資
金も確保したい。
この整理は、銀行側の理解が早くなります。

銀行が特に気にするのは、資金の減少が一時的か構造的かとい
う点です。
・一時的であれば、短期の運転資金で対応できる可能性があり
ます。
・構造的であれば、収益改善や資本の見直しも含めた話になり
ます。
経営側がどちらの見立てで動いているかが、説明の印象を左右
します。

加えて、経営側の考え方も伝わると評価されます。
・資金繰りの基準を持っている。
・基準を下回る前に相談している。
・数字のつながりを理解したうえで原因を整理している。
この姿勢は、銀行が求める管理体制そのものです。

資料は多ければ良いわけではありません。
最低限、資金繰り表、直近試算表、借入金一覧があれば会話は
成立します。
あとは、数字の事実と見通しが一枚のメモにまとまっていれば
十分です。

銀行対応は、気合いや交渉術ではなく、準備で決まります。
事実と見通しを整理し、月商一か月分のキャッシュ基準に照ら
して説明する。
この型ができると、融資の相談は格段に進めやすくなります。

強力な自民党、そして高市早苗政権の誕生は、日本の経済運営
における明確な「意思表示」です。緊縮から積極財政へ、調整
から成長へ、そして曖昧な全方位外交から国益重視へと国の進
む方向はこれまで以上に分かりやすくなります。中小企業経営
者は、この変化を単なる政治ニュースとして眺めるのではなく、
自社の経営戦略に直結する前提条件として受け止める必要があ
ります。

まず最大のポイントは、国が再び産業政策を前面に出してくる
という点です。安全保障、エネルギー、食料、半導体、防衛、
インフラ、デジタルといった分野では、国策としての投資と規
制の方向性が明確化していくでしょう。ここで重要なのは、
「自社は直接関係ない」と切り捨てないことです。中小企業の
多くは、これら成長分野の一次請けではなく、二次・三次のサ
プライチェーンを支える存在です。自社の技術、ノウハウ、地
域性が、どの国策分野と接続し得るのか。この問いに答えを出
せる企業だけが、次の成長機会を掴みます。

次に、価格と賃金に対する経営者の姿勢が、これまで以上に問
われます。高市政権下では、物価上昇と賃上げを前提とした経
済運営が進む可能性が高く、「安さ」だけに依存したビジネス
モデルは確実に行き詰まります。価格転嫁ができない理由を外
部環境に求めるのではなく、自社が「選ばれる理由」を持って
いるかどうかを直視すべきです。付加価値を言語化できない商
品・サービスは、いずれ市場から退場を迫られます。

三つ目は、調達・生産・連携の在り方の見直しです。地政学リ
スクの高まりを背景に、過度な海外依存は経営リスクとして顕
在化します。国内回帰、近接調達、複線化されたサプライチェ
ーンが評価される時代において、中小企業同士の連携や協業は
極めて有効な戦略となります。単独で戦う発想から、束ねて競
争力を高める発想へ経営の前提そのものを切り替える時期に来
ています。

四つ目は、人材戦略の再構築です。国が産業競争力を重視する
以上、人材はコストではなく戦略資源です。年功や属人的な処
遇を見直し、専門性と成果に基づいた評価・報酬体系へ移行で
きるかどうかが、企業の将来を左右します。中小企業であって
も、成長ストーリーと経営者の覚悟が明確であれば、人は集ま
ります。

最後に強調したいのは、経営者自身の意思決定の速度と覚悟で
す。強い政権の誕生は、変化を先送りしてきた企業には逆風と
なります。しかし、意思決定が早く、環境変化を自社の戦略に
落とし込める中小企業にとっては、これ以上ない追い風です。

高市政権下の日本は、「守る経営」よりも「攻める経営」が評
価される時代に入ります。国の進む方向が明確になった今こそ、
中小企業経営者は自社の立ち位置を再定義し、戦略的に次の一
手を打たねばなりません。その差が、5年後、10年後の企業
価値を決定づけるはずです。

銀行対応で差が出るのは、話し方よりも相談のタイミングです。
今回は、銀行に相談するタイミングをどう考えるかを整理しま
す。

銀行に相談する場面は、大きく二つあります。
・資金が必要になったとき。
・資金が必要になりそうなとき。
経営に効いてくるのは後者です。

資金が足りなくなってからの相談は、選択肢が少なくなります。
融資の審査時間を確保しづらくなり、資料準備も慌ただしくな
ります。
銀行側も、状況が切迫しているほど慎重になります。
結果として、条件面でも不利になりやすくなります。

相談のタイミングを判断する基準として、キャッシュポジショ
ンを使う方法があります。
最低でも月商一か月分以上のキャッシュを維持する。
この基準を下回りそうな段階で、銀行に状況を共有する。
この動き方ができると、余裕を持って選択肢を整理できます。

例えば、今は月商一か月分以上のキャッシュがあるとしても、
数か月後に賞与や納税、設備投資が重なり、残高が基準を下回
る見込みがある。
この段階で相談しておけば、借入の要否、借入額、実行時期を
落ち着いて検討できます。

銀行にとっても、余裕がある段階の相談は好まれます。
資金繰りを管理している会社として受け止められます。
先に共有があると、銀行側も社内調整を進めやすくなります。

一方で、資金が厳しくなってからの相談は、説明の焦点がずれ
やすくなります。
・なぜ今のタイミングになったのか。
・手元資金がどこまで減ったのか。
・今後の入金見通しはどうか。
こうした確認が中心になり、事業の将来よりも、目先の資金繰
りの話に偏りがちです。

相談のタイミングが早い会社は、会話の質も変わります。
資金繰り表を見ながら、次の三点を整理して伝えられます。
・基準を下回る見込みがいつ頃か。
・下回る原因は売掛金、在庫、投資、返済、季節要因のどれか。
・対策として何を検討しているか。

この整理ができていると、銀行側は判断しやすくなります。
融資の相談でありながら、経営の管理体制を評価してもらう場
にもなります。

銀行への相談は、困ったときの駆け込みではなく、経営判断の
一部として組み込む方が安定します。
月商一か月分というキャッシュの基準は、相談のタイミングを
決めるうえでも有効です。
基準を守るために早めに動く。
この姿勢が、銀行との関係を長期的に安定させます。

前回号で紹介した通り、協業戦略は中小企業が成長の限界を突
破するための有力な経営手段です。では、実際に協業によって
成果を上げている中小企業は、どのような取り組みを行ってい
るのでしょうか。ここでは、中小企業経営者が自社に応用しや
すい形で、協業の成功事例を五つ紹介します。

第一の事例は、販売協業による市場拡大です。
地方で専門性の高い製品を製造していたメーカーが、全国に顧
客基盤を持つ商社と協業しました。メーカーは商品力には自信
がありましたが、営業人材が限られ、販路拡大が進んでいませ
んでした。そこで商社の営業網を活用し、自社製品を既存顧客
に組み込んでもらう形で展開した結果、短期間で売上が大きく
伸長しました。自社で営業体制を構築していれば数年かかった
成長を、協業によって一気に実現した好例です。

第二の事例は、開発協業による新規事業創出です。
既存事業が成熟期に入っていたサービス業の企業が、ITに強
みを持つ企業と協業し、新サービスを立ち上げました。自社は
業界知見と顧客理解を提供し、パートナー企業はシステム開発
とデータ活用を担いました。単独では着想止まりだった構想が、
協業によって事業化され、新たな収益の柱へと成長しています。
強みの異なる企業同士が役割を明確に分担したことが成功要因
です。

第三の事例は、人材協業による経営力の強化です。
専門人材の採用に苦戦していた中小企業が、同業他社や専門会
社と協業し、プロジェクト単位で人材を共有しました。正社員
採用に比べ固定費を抑えつつ、高度な専門知識を経営に取り込
むことができ、業務の質とスピードが大きく向上しました。
「人を雇う」という発想から、「人と組む」という発想に転換
したことが、経営の柔軟性を高めました。

第四の事例は、DX協業による生産性向上です。
アナログ業務が中心だった企業が、DXに強みを持つパートナ
ー企業と協業し、業務プロセスの抜本的な見直しに着手しまし
た。
単なるシステム導入ではなく、業務フローそのものを再設計し
たことで、間接業務の工数削減とミスの減少を実現しました。
DXを「ITの問題」ではなく、「経営改革」と捉え、外部の
知見を積極的に活用した点が成功につながっています。

第五の事例は、協業から発展した長期的パートナーシップです。
当初は限定的な業務協業としてスタートしましたが、相互理解
が深まり、次第に事業計画や投資判断まで共有する関係へと発
展しました。結果として、資本提携やM&Aも視野に入る戦略
的関係へ進化しています。協業を単発で終わらせず、中長期の
企業価値向上につなげた点が特徴です。

これらの事例に共通しているのは、協業を「場当たり的な対応」
ではなく、「経営戦略」として設計している点です。自社の強
みを明確にし、何を提供し、何を得るのかを定義したうえで協
業に臨んでいます。

中小企業にとって、協業は特別な企業だけのものではありませ
ん。むしろ、経営資源に制約があるからこそ、協業の効果は大
きくなります。自社だけで抱え込む経営から脱却し、外部と組
むことで成長を加速させる。この発想転換が、次の成長ステー
ジへの扉を開くことになります。

前回は、銀行との関係は融資の場面だけで決まるものではなく、
日常の姿勢の積み重ねで評価されやすいという話をしました。
今回は、銀行が決算書で何を確認しているのかを、もう一段具
体的に整理します。

銀行は売上や利益の大きさだけで判断していません。
損益計算書の数字が、貸借対照表の動きとつながっているかど
うかも確認しています。
事業の実態と数字の動きが合っているかを見ています。

代表的な例は、利益が出ているのに現預金が減っているケース
です。
仮に営業利益が800万円出ていたとしても、同じ期間に売掛金
が1,200万円増え、在庫が600万円増え、買掛金が200万円減っ
ていた場合、運転資金として2,000万円が追加で必要になりま
す。
利益800万円に対して運転資金2,000万円が増えているため、
現預金は差し引きで1,200万円減る形になります。

ただ、この形は、必ずしも悪い話ではありません。
売上拡大に伴う運転資金の増加として説明がつく場合も多くあ
ります。
しかし、銀行は、売掛金の増加に回収遅れが混ざっていないか、
在庫の増加に滞留品が混ざっていないかを確認したくなります。
数字の動きが読めない状態は、融資判断ではリスクとして扱わ
れやすいからです。

同じ売掛金でも、伸び方が不自然な場合は注意が必要です。
売上は前年から10%増なのに、売掛金が前年から50%増といっ
た形になると、入金サイトの長期化や回収遅延を疑われやすく
なります。
経営側が、取引先別の増減や入金予定の見通しを把握している
場合、数字のズレが事業のストーリーとして説明できます。

在庫についても同様です。
売上が横ばいなのに在庫だけが増え続ける場合、販売が追いつ
いていない可能性が出てきます。
将来の値下げや廃棄による損失が発生するリスクも想定されま
す。
銀行は在庫の中身や滞留状況を確認し、資金がどこに滞留して
いるかを把握しようとします。

こうした確認は、銀行が意地悪をしているわけではありません。
返済が継続できるかどうかを判断するために、利益だけでなく
資金の動きまで見ているという話です。

一月にお伝えしたキャッシュポジションの基準ともつながりま
す。
最低でも月商一か月分以上のキャッシュを意識している会社は、
利益と運転資金の動きにも目が向きやすくなります。
その結果、銀行との会話でも数字の説明が具体的になり、信頼
につながります。

次回は、銀行に相談するタイミングをどう考えるかについてお
話しします。

事業を飛躍的に成長させるために、中小企業経営者が今こそ本
気で検討すべき経営戦略の一つが「協業戦略」です。協業とは、
単なる業務提携や外注ではありません。自社と他社の経営資源
を戦略的に組み合わせ、単独では決して到達できない成長スピ
ードと事業規模を実現するための、明確な経営判断です。

多くの中小企業は、人材・資金・時間という制約の中で経営を
行っています。新規事業の創出、販路拡大、付加価値向上、D
X対応など、経営者の頭の中には数多くの課題が並んでいるは
ずです。しかし、それらをすべて自社単独で解決しようとする
ほど、経営は重くなり、意思決定は遅れ、結果として成長機会
を逃してしまいます。自前主義を前提とした経営は、すでに限
界に近づいています。

まず最も取り組みやすく、効果が見えやすいのが販売における
協業です。自社が持たない顧客層や販売チャネルを持つ企業と
組むことで、市場開拓のスピードは劇的に向上します。新規営
業体制を一から構築するには相応の時間とコストが必要ですが、
既存の顧客基盤を相互に活用すれば、短期間で売上機会を創出
できます。販売協業は、成長を加速させるための最短ルートの
一つです。

次に重要なのが開発における協業です。商品やサービスの開発
には、技術力、専門知識、市場理解が不可欠ですが、これらを
すべて自社で揃えることは容易ではありません。技術を持つ企
業、業界知見を持つ企業と協業することで、開発リスクを分散
しながら、競争力の高い商品やサービスを生み出すことが可能
になります。成熟市場では、単独開発よりも、複数の強みを掛
け合わせた協業型開発の方が成功確率は高まります。

三つ目は人材に関する協業です。慢性的な人手不足の中で、
「採用すれば解決する」という発想はすでに現実的ではありま
せん。専門人材を持つ企業との共同プロジェクト、人材の相互
活用、外部パートナーとのチーム編成など、「雇う」以外の選
択肢を持つことで、経営の柔軟性は大きく高まります。人材協
業は、固定費を抑えながら経営力を引き上げる、極めて合理的
な手段です。

四つ目がDX領域での協業です。DXは単なるITツールの導
入ではなく、業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革す
る取り組みです。これを自社だけで完結させようとすれば、試
行錯誤に時間を費やし、成果が出る前に頓挫するケースも少な
くありません。DXに知見を持つ企業と協業することで、変革
のスピードを高め、実効性のあるDXを推進することが可能に
なります。DXは、協業を前提に設計すべき経営テーマです。

協業戦略を成功させるために、経営者が最も重視すべきは「目
的の明確化」です。何のために組むのか、自社は何を提供し、
何を得るのか。この点が曖昧な協業は、必ず形骸化します。収
益構造、役割分担、意思決定のルール、将来的な発展や解消の
可能性まで含めて設計することが経営者の責任です。

すべてを自前で抱え込む時代は、確実に終わりに近づいていま
す。中小企業だからこそ、外部と組むことで成長の限界を超え
ることができます。協業戦略とは、弱みを補うための妥協では
なく、強みを最大化するための攻めの経営判断です。今こそ、
自社の強みを再定義し、「誰と、どのような成長を実現するの
か」を本気で考える時ではないでしょうか。

二月からは、銀行との付き合い方をテーマにお話ししていきま
す。

銀行対応というと、
・融資を受けるときだけ関係するもの
・資金が苦しくなったときに考えるもの
という印象を持つ経営者も少なくありません。

実務の現場で感じるのは、銀行との関係は日常の積み重ねで決
まるという点です。
資金が足りなくなってから突然相談しても、選択肢は多く残り
ません。

銀行は、融資の可否だけで会社を見ているわけではありません。
・どのような姿勢で経営をしているか
・数字をどの程度把握しているか
・先を見た判断をしているか
こうした点を、普段のやり取りから確認しています。

一月にお伝えしたキャッシュポジションの基準は、銀行対応と
も密接につながっています。最低でも月商一か月分以上のキャ
ッシュを意識して管理している会社は、資金繰りに対する考え
方が整理されており、その考え方は、銀行との会話にも自然に
表れます。

例えば、「資金が減ってから相談するのではなく、基準を下回
りそうな段階で現状を共有する。」この姿勢だけでも、銀行側
の受け止め方は大きく変わります。

銀行は、困っている会社を切り捨てたいわけではありません。
一方で、状況が見えない会社に対しては慎重になります。
数字を把握し、基準を持ち、先を見て動いているかどうか。
ここが信頼の分かれ目です。

銀行対応で大切なのは、うまく話すことではありません。
・正確に経営状況を把握していること
・無理な経営をしていないこと
・判断に一貫性があること
この三点が伝わるだけで、関係は安定します。

今月は、
・銀行が何を見ているのか
・どのタイミングで相談するのが望ましいのか
・どのような説明が評価されやすいのか
を順番に整理していきます。

銀行を味方にできるかどうかは、特別な交渉力で決まるもので
はありません。
日々の財務管理と考え方の延長線上にあります。

成長を志向する中小企業にとって、現在の経営環境は決して甘
いものではありません。人手不足の常態化、原材料やエネルギ
ー価格の上昇、価格転嫁の難しさなど、経営判断を迫られる局
面は年々増えています。しかし、こうした厳しい環境の中でも、
着実に業績を伸ばす企業が存在する一方で、静かに体力を失っ
ていく企業があるのも事実です。その差は、経営者の努力や社
員の真面目さだけではありません。経営数字とどこまで真剣に
向き合っているかという点にも大きく影響されます。

多くの中小企業では、決算書は今なお「税務申告のための書類」
にとどまっています。売上高や営業利益といった結果の数字は
見ていても、「なぜその数字になったのか」「どこに経営上の
歪みが潜んでいるのか」まで踏み込めていないケースが少なく
ありません。成長を本気で望むのであれば、まずこの姿勢を改
めなければなりません。経営数字は、過去の成績表ではなく、
未来の選択肢を示す地図だからです。

まず経営者が押さえるべきは、「売上・利益」だけではありま
せん。重要なのは、その数字がどこから生まれ、どこで削られ
ているのかを理解することです。数字は結果ではなく、経営構
造を映し出す鏡です。

第一に確認すべきは、どの商品、どの顧客が本当に利益を生ん
でいるのかという点です。売上規模の大きさや取引年数の長さ
と、利益への貢献度は必ずしも一致しません。値引き、過剰な
サービス、属人的な対応が常態化し、気づかぬうちに利益を圧
迫しているケースは少なくありません。商品別・顧客別に粗利
益を分解することで、初めて「伸ばすべき事業」と「見直すべ
き取引」が明確になります。

第二に、固定費と変動費の構造を正しく把握する必要がありま
す。売上が減っても下がらないコストは何か、売上に連動して
増減するコストは何か。この構造を理解せずに価格戦略や事業
拡大を考えることは極めて危険です。特に固定費比率が高い企
業ほど、売上変動に対する耐性は弱く、数字に基づくコスト構
造の理解が経営の安定性を左右します。

第三に、人件費が生み出す付加価値を直視しなければなりませ
ん。人件費は単なるコストではなく、企業の競争力そのもので
す。一人当たりの粗利益や付加価値を把握せずに、「人が足り
ない」「人件費が重い」と語ることはできません。採用や賃上
げ、配置転換、外注化といった判断は、感情論ではなく数字に
基づいて行うべき経営判断です。

第四に見落とされがちなのが、在庫や売掛金に資金が滞留して
いないかという視点です。損益計算書上は黒字であっても、回
収されない売掛金や動かない在庫が増えれば、資金繰りは確実
に悪化します。これらは決算書の利益には表れにくいものの、
企業の体力を静かに、しかし確実に蝕みます。キャッシュの流
れを意識した数字管理なくして、持続的な成長は望めません。

成長とは、単に売上を伸ばすことではありません。利益とキャ
ッシュを伴い、再現性をもって拡大していくことです。そのた
めには、経営数字を結果として眺めるのではなく、構造として
分解し、因果関係を理解する必要があります。数字を分解して
初めて、「次に何を打つべきか」「何をやめるべきか」が見え
てきます。

経営数字の管理は、管理そのものが目的ではありません。真の
目的は、意思決定の質とスピードを高めることにあります。値
上げをするのか、事業を絞るのか、人を増やすのか外注化する
のか。数字に基づいた判断は、迷いを減らし、経営者に覚悟あ
る決断を促します。

中小企業が次の成長ステージへ進むために必要なのは、特別な
才能や派手な戦略ではありません。必要なのは、経営数字と正
面から向き合い、数字で判断する覚悟です。成長を本気で望む
のであれば、まずは経営数字の管理レベルを一段引き上げるこ
と。そこから、企業の未来は確実に変わり始めます。

一月は、資金繰りをテーマにお話ししてきました。
年初に資金の流れを整理し、資金繰り表を作り、確認すべきポ
イントを押さえる。
そのうえで、資金繰りが悪化しやすい考え方についても整理し
ました。

最後に確認しておきたいのは、社長自身がどの水準を下回った
ら動くのかという基準です。

資金繰りが不安定になる会社の多くは、明確な基準を持たない
まま経営判断をしています。
預金が減ってきたと感じた段階で不安になり、増えていれば問
題ないと判断する。
このような感覚的な判断が続くと、対応のタイミングはどうし
ても遅れます。

そこで意識したいのが、キャッシュポジションの基準です。
一つの目安として、最低でも月商一か月分以上のキャッシュを
確保しておく。
この水準を下回りそうになった段階で、対策を検討する。
こうした基準を数字で持っておくことが、判断を早めます。

月商一か月分という水準は、過度に保守的な数字ではありませ
ん。
売上の入金がずれ込むこともあれば、想定していなかった支出
が発生することもあります。
売上が一時的に落ちる局面も珍しくありません。
最低限の時間を確保するためのラインとして、現実的な水準で
す。

基準が明確になると、経営判断の質が変わります。
まだ余裕がある段階で、資金繰り表を見直すことができます。
借入の検討や銀行への相談も、落ち着いた状態で進められます。

反対に、基準を持たないまま経営を続けていると、
・もう少し様子を見る
・来月になったら考える
といった判断が積み重なります。
この積み重ねが、資金繰りを一気に苦しくします。

資金繰りの管理は、特別なテクニックではありません。
数字を確認し、決めておいた基準と照らし合わせ、必要な行動
を取る。
この繰り返しです。

年初のこの時期に、
・自社のキャッシュポジションは月商一か月分を下回っていな
いか。
・今後の動きで下回る可能性はないか。
一度、資金繰り表と預金残高を並べて確認してみてください。

2026年、日本政府は中小企業の自立的成長を後押しするため、
大規模かつ戦略的な支援施策を打ち出しています。今後の経営
環境は、価格転嫁の実現や人材不足、デジタル化の加速といっ
た複雑な課題に直面しますが、国の施策を上手く活用できれば、
それらを突破口に変えることができます。

ここでは、中小企業経営者が注目すべき7つの視点を整理し、
政策活用の具体的な戦略をご提案します。

◆【1】公正な取引ルールを味方に、適正な価格交渉を

2026年1月に「中小受託取引適正化法」が施行され、政府は価
格交渉の適正化を強力に支援します。取引Gメンによる監視強
化や支援体制の整備により、価格転嫁の実現可能性が大きく広
がっています。
経営者は、納入単価の見直しや見積根拠の明確化に取り組み、
公的支援を活用して取引条件をより有利に改善するべきです。

◆【2】「生産性革命補助金」で、成長を実現する投資を

政府は約3,400億円規模の「中小企業生産性革命推進事業」を
継続・強化しています。これにはAI導入、省力化設備、業務
デジタル化など、現場の課題解決に直結する支援が多く含まれ
ています。
企業は単なるコスト削減にとどまらず、「売上を生む生産性向
上」を目的とした設備投資を行い、国の補助制度と組み合わせ
て自社の成長戦略を加速させるべきです。

◆【3】「100億円企業」支援枠の活用で、中堅企業へジャン
プアップ

成長意欲の高い企業には、「大規模成長投資補助金」として約
1,000億円規模の支援が用意されています。これにより、地方
の中堅企業が一気にスケールアップを図ることが可能となりま
す。
設備投資、グローバル展開、研究開発のいずれも対象となって
おり、中長期的な成長ビジョンを描ける企業には最適なタイミ
ングです。

◆【4】人への投資が、企業の持続可能性を左右する

政府は2026年度、賃上げやリスキリング(再教育)を軸とした
人材支援策を拡充しています。業務改善や人事制度改革に取り
組む企業には、各種助成金が用意されています。
「人材不足=成長制約」とならないためには、給与水準の見直
しや柔軟な働き方の導入を含め、職場の魅力を高める施策が必
要不可欠です。

◆【5】事業承継・M&Aを「守り」ではなく「攻め」の選択
肢に

後継者難が進む中で、政府はM&Aや事業承継に関する補助金
・専門家支援を強化しています。廃業回避だけでなく、他社と
の連携や統合により成長スピードを加速させることも視野に入
れるべきです。
今後は、「事業を引き継ぐ・引き継がせる」ことが、重要な経
営戦略の一環となります。

◆【6】資金調達を「守り」から「攻め」のツールへ

低利融資や信用保証制度の整備により、資金繰りに悩む中小企
業への支援が強化されています。加えて、事業再構築や設備投
資といった「攻めの資金需要」に対応した制度も充実していま
す。
補助金と併用することで資金の効率的活用が可能となり、成長
へのレバレッジ効果が高まります。

◆【7】地域発・世界市場への挑戦を現実のものに

地域経済の活性化を目的とした地方創生関連施策も、引き続き
重点が置かれています。さらに、中小企業による海外展開支援
も強化されており、ASEAN諸国など成長市場へのアクセス
が容易になっています。
「地域で勝つ」「世界で勝つ」ことを同時に目指す戦略が、今
後の中小企業には求められています。

2026年は、中小企業にとって「変革を促す年」となるでしょう。
単なる経済対策ではなく、「未来への投資」と捉え、政策を自
社の戦略に組み込むことが何よりも重要です。制度を正しく理
解し、タイミングを逃さずに活用することで、貴社の持続的成
長と競争優位の確立が現実のものになるはずです。