多くの企業、特に新興企業や中小企業にとって、財務管理は常
に重要な課題です。この課題に対処するため、企業の成長を2
つのステージに分けて考えてみましょう。

■ 第1ステージ:安全性の確保

最初に取り組むべきは、企業の存続を確実にすることです。
これは「守りの姿勢」と呼べます。具体的には、

・十分な現金(キャッシュ)を確保する
・不測の事態に備える
・倒産リスクを最小限に抑える

この段階では、手元資金を増やすことに重点を置きます。まだ
利益は十分に出ていないでしょうから、日本政策金融公庫や保
証付き融資を積極的に活用し、手元資金を潤沢に保ちます。

■ 第2ステージ:積極的な成長戦略

ある程度の安全性が確保できたら、次は「攻めの姿勢」に転じ
る必要があります。なぜなら、

・現金を単に保有しているだけでは、わずかな利子収入しか得
られない
・企業の真の成長には、積極的な投資が欠かせない

ここで重要なのは、新たな資金需要を自ら創出することです。
これは必ずしも大規模な新規事業だけを意味しません。現状を
少しずつ改善する小さな投資も、立派な成長戦略となります。

■ 具体的な投資アイデア
・人材強化:営業部門を拡充し、売上増加を狙う
・IT投資:業務効率を向上させ、生産性を高める
・専門家の招聘:例えば、経験豊富な工場長を雇い、製造プロ
セスを改善する
・M&A:相乗効果が期待できる企業との合併や買収を検討する

■ 経営者の真の役割
限られた資金をどこに投資すれば最も効果的に事業が成長する
か、その見極めが経営者の重要な役割です。実際、投資先の選
択肢は多すぎるほどあります。だからこそ、優先順位の決定が
重要になります。

■ まとめ
1.まずは十分な安全性を確保する
2.次に、積極的な投資姿勢に転換する
3.小さな投資機会も見逃さない
4.限られた資金の最適な配分を常に考える

企業の持続的な成長には、「守り」から「攻め」への転換が不
可欠です。安全性を確保した後は、成長のための資金獲得と効
果的な投資に積極的に取り組みましょう。そのためには、銀行
からの借入が不可欠です。

守りの資金、攻めの資金、それぞれ調達のポイントが異なりま
すので、資金調達を検討しておられる経営者様は是非ご相談く
ださい。

近年、日本では物価上昇が続いており、それに伴い大企業を中
心に賃上げの動きが加速しています。特に2024年の春闘で
は、大企業が5%を超える賃上げを実施し、新卒の初任給も相
次いで引き上げられました。この流れの中で、中小企業も賃上
げを行わなければ、人材の確保がますます難しくなることが予
想されます。以下では、物価上昇の影響、大企業の賃上げと新
卒初任給アップの現状、中小企業が賃上げを行うべき理由につ
いて解説します。

■1.物価上昇が続く中、実質賃金の確保が課題に

近年の日本経済では、物価の上昇が大きな問題となっています。
総務省が発表する消費者物価指数(CPI)は、2023年に
前年比+3.2%、2024年も+3%前後の上昇が見込まれ
ています。特に、食料品やエネルギー価格の高騰が家計を圧迫
しており、労働者の実質賃金(名目賃金から物価上昇を引いた
もの)は減少傾向にあります。

こうした状況では、従業員が現在の給与のままでは生活水準を
維持することが難しくなります。特に、もともと賃金水準が低
めの中小企業に勤める労働者は、「より給与の高い企業への転
職を検討する」可能性が高まります。そのため、企業が人材を
確保し続けるためには、物価上昇に見合った賃上げが不可欠と
なります。

■2.大企業の賃上げと新卒初任給アップの影響

2024年の春闘では、大企業を中心に大幅な賃上げが行われ
ました。例えば、トヨタ自動車は5%以上の賃上げを実施し、
日立製作所やパナソニックなどの大手企業も同様の動きを見せ
ています。

さらに、多くの企業が新卒初任給の引き上げを決定しました。
例えば、
・三菱UFJ銀行:初任給を25万円に引き上げ
・資生堂:初任給を30万円に大幅アップ
・ソニーグループ:初任給を30万円に引き上げ

このように、大企業が賃上げを進めることで、労働市場全体の
給与水準が引き上げられています。これは中小企業にとって大
きな課題となります。なぜなら、新卒・中途を問わず、人材が
より給与の高い大企業へ流れてしまうリスクがあるからです。

また、従来は「安定志向」で大企業に就職する傾向が強かった
若年層の価値観も変化し、給与を重視して転職を決断する動き
が強まっています。特に、IT・エンジニア職などでは、スキ
ルのある人材が給与の高い企業へ流れる傾向が顕著になってい
ます。

■3.中小企業も賃上げをしなければ人材確保が困難に

こうした状況の中で、中小企業が賃上げを行わなければ、優秀
な人材の確保はますます難しくなります。その理由を以下の3
点に分けて説明します。

●1.人材不足が深刻化している

中小企業ではすでに慢性的な人材不足が続いています。少子高
齢化が進み、特に若手労働力の確保が困難になっています。日
本商工会議所の調査(2024年)によると、中小企業の約60
%が「人材不足」を経営上の大きな課題として挙げています。
こうした中、賃金の低い中小企業は「給与の高い企業へ転職し
たい」と考える従業員を引き留めることが難しくなります。結
果として、人材が流出し、さらに業務が回らなくなる悪循環に
陥る可能性があります。

●2.「給与の低い会社には入りたくない」という意識の変化

近年の新卒採用市場では、「給与の高さ」が企業選びの重要な
ポイントになりつつあります。就職活動をする学生の間では、
「給与の低い企業には将来性がない」という認識が広がってお
り、中小企業が優秀な学生を確保することがますます難しくな
っています。
例えば、2023年のマイナビの調査では、「企業を選ぶ際に
最も重視するポイント」として「給与・待遇の良さ」を挙げた
学生が過去最高となりました。つまり、中小企業が賃金を引き
上げない限り、優秀な新卒が集まらず、将来的な企業の競争力
低下につながる可能性が高いのです。

●3.物価上昇により「今の給与では生活が厳しい」と感じる
人が増えている

物価上昇が続く中で、「現在の給与では生活が厳しい」と感じ
る労働者が増えています。特に、家賃や生活費の高騰が続く都
市部では、給与の低い企業で働くことのリスクを強く感じる人
が多くなっています。こうした状況では、企業が賃上げを行わ
なければ、従業員が転職を検討しやすくなります。特に、中小
企業では「給与が上がらないなら辞めてしまおう」と考えるケ
ースが増えるでしょう。

■中小企業にとって賃上げはコスト負担ではありますが、今後
の経営を考える上で避けて通れない課題です。政府の支援策や
生産性向上を活用しながら、競争力を維持するための対策を講
じることが求められています。厳しいですがこれが現実です。

創業・起業時の資金調達手段として最もポピュラーなのは、日
本政策金融公庫の創業融資や信用保証協会の創業保証です。一
定の要件を満たせば誰でも利用できる制度であり、創業・起業
時の資金調達環境は比較的整っていると感じます。

しかし、創業融資を受けて無事に開業できても、事業を継続し
成長させていくのは容易ではありません。廃業してしまう事業
者と長期的に存続できる事業者の違いはどこにあるのでしょう
か。長年の経験から、事業の存続と成長の鍵は、創業融資の次、
2回目の融資を受けられるかどうかだと感じます。

2回目の融資を受けられる時期は、1期目ないし2期目の決算
が終わった辺りですが、2回目からの融資は、創業融資のよう
に要件の充足ではなく、業績(実績)が重視されます。

2回目の融資で最も重視される業績は売上です。創業して1年
ないし2年が経っても一定の売上が立たない場合は、経営者の
実力が不足している、もしくは提供している商品やサービスが
市場から必要とされていないと考えられます。よって、2回目
の融資を受けるためには売上が必須です。売上が立てば、一般
的には月商の2カ月程度の融資を受けられる可能性が出てきま
す。

売上が立ったけれど赤字の場合はどうでしょうか。赤字の額に
もよりますが、赤字だからといって絶対に融資を受けられない
訳ではありません。損益分岐点に届かなかったため赤字だが、
融資金によって損益分岐点を超える売上を獲得できると判断で
きれば融資をしてもらえるはずです。

創業時にありがちなミステイクの一つは、本当は利益が出てい
るのに納税を嫌って意図的に業績の悪い決算にすることです。
決算内容を悪くすることで、2回目の融資を断られたり、融資
額が少額に留まってしまうと、攻める経営ができない⇒低成長
⇒さらに融資も出なくなる、という悪循環に陥り、事業の拡大
どころか段々と資金が細り遂には廃業ということになりかねま
せん。

一方、納税を受け入れて利益をしっかり出した企業は、2回目
のファイナンスにより事業を成長させることができ、その成長
が更に大きな融資を呼び込みます。1期目もしくは2期目の決
算処理を誤ることで、その後の姿が大きく変わるので気をつけ
てください。

創業・起業された方は、最初の目標を「2回目の融資を受ける
事」に設定することで生き残れる可能性がぐんと高まります。
2回目の融資を受けるために必要なことをひとつひとつ学んで
いきましょう。

このアプローチは、単に事業を存続させるだけでなく、持続的
な成長を実現するための重要な戦略となります。2回目の融資
獲得に向けて計画的に事業を運営することが、財務基盤の強化、
経営スキルの向上、そして市場での競争力強化につながります。
これらの要素が相まって、長期的な事業の成功確率を高めるこ
とができます。

外注化(アウトソーシング)は、多くの中小企業にとって業務
の効率化、コスト削減、そして新たな価値創造の手段となって
います。ここでは、外注化を積極的に活用し、成果を上げた10
社の成功事例の概要を紹介します。

■1.製造業:部品加工の外注化で生産性向上

企業名:A社(精密機械メーカー)
A社は自社で行っていた部品加工を専門の外注企業に委託。
これにより、生産スピードが30%向上し、開発リソースを新
商品の研究に集中できた。

■2.小売業:ECサイト運営を外注し売上拡大

企業名:B社(アパレルブランド)
ECサイトの管理や広告運用を専門の外部企業に委託。
売上が前年比150%増加し、社内は商品開発やブランディン
グに注力できた。

■3.IT企業:カスタマーサポートを外注し業務効率化

企業名:C社(SaaS企業)
カスタマーサポート業務を専門のBPO(ビジネス・プロセス・
アウトソーシング)企業に委託。
対応品質が向上し、顧客満足度が15%改善した。

■4.飲食業:SNSマーケティングを外注し集客アップ

企業名:D社(レストランチェーン)
SNS運用を外注し、プロの手による効果的な広告とインフル
エンサーマーケティングを実施。
フォロワー数が5倍になり、売上も大幅に向上。

■5.建設業:設計業務を外注しプロジェクトの回転率向上

企業名:E社(住宅設計事務所)
設計業務の一部を外部の設計会社に依頼。
納期が短縮され、より多くの案件を受注できるようになった。

■6.人材サービス業:バックオフィス業務を外注しコア業務
に集中

企業名F社(人材派遣会社)
経理や給与計算をアウトソーシングし、社内リソースを営業活
動に集中。
新規取引先が前年比200%増加。

■7.物流業:配送管理を外注しコスト削減

企業名:G社(EC物流企業)
倉庫管理や配送業務を外部の専門業者に委託。
物流コストが20%削減され、配送品質も向上。

■8.医療機関:予約システムを外注し業務効率化

企業名:H社(クリニック)
予約受付を外部のコールセンターとオンライン予約システムに
委託。
待ち時間が短縮され、顧客満足度が向上。

■9.教育業:オンライン講座の制作を外注し事業拡大

企業名:I社(オンライン教育企業)
講座制作を外注し、短期間で多くの講座を提供可能に。
受講者数が3倍に増加。

■10.デザイン業:営業活動を外注し新規顧客獲得

企業名:J社(グラフィックデザイン会社)
営業代行を活用し、新規案件獲得を強化。
売上が前年比130%増加。

外注化は、業務の効率化やコスト削減だけでなく、新たな価値
創造にもつながります。
中小企業の人手不足、スキル不足を補うための最適解です。
ノンコア業務を外注化するとの発想を超えて、場合によっては
コア業務を外注化することも一手です。
領域を設けずに外注化を検討してください。受け皿は整ってい
ます。

先日、スクールビジネスを始めて1年の社長様から相談を受け
ました。「日本政策金融公庫に融資を申し込んだが断られた。
このままでは資金が枯渇してしまう」というものです。
詳しく伺うと、創業時は自己資金だけで十分と考え、創業融資
を受けていませんでした。しかし、1年経った今も単月黒字化
できておらず、役員報酬もほとんど取れていない状況でした。

■ 創業時こそ融資のチャンス
残念ながら赤字で資金繰りが苦しい状況ほど、資金調達は難し
くなります。創業時であれば、将来の「計画」だけで融資を受
けられる可能性が高いのですが、1年経過し上手くいかなかっ
た「結果」が出ている場合、日本政策金融公庫からも保証協会
付き融資も受けることは困難になります。

■ 十分な資金準備の重要性
中小企業庁の統計データに基づくと、法人の場合、起業から3
年後の生存率は約62.8%となります。つまり、約37.2%の企業
が3年以内に廃業していることになります。これは決して低い
数字ではありませんが、適切な資金準備と経営計画があれば、
さらに生存率を高められる可能性があります。

■ 創業後の資金管理
創業後のお金の使い方も重要です。前述の社長様の場合、人件
費、福利厚生費、広告費、接待交際費が売上規模とアンバラン
スでした。従業員のモチベーションアップや広告宣伝の重要性
は理解できますが、資金が枯渇すれば事業継続が不可能になり
ます。
固定費を抑え、できるだけお金を減らさない工夫が必要です。
損益分岐点を下げる努力が、経営の安定化につながります。

■ 日本政策金融公庫の活用
日本政策金融公庫は、新設企業向けに低金利で融資を提供して
います。特に「新規開業資金」は、創業時に利用しやすく、他
の金融機関からの信用向上にもつながります。申請時には、綿
密な創業計画書と資金繰り表を準備し、面談で事業への熱意を
伝えることが重要です。

■ まとめ
創業予定の方、創業後間もない方で、まだ創業融資を受けてい
ない方は、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。
十分な資金準備と適切な資金管理が、事業成功の鍵となります。
自己資金だけでなく、創業融資もしっかり受けて、十分な資金
を持って独立することが、成功への近道です。

少なくない日本の大手企業では、昭和時代の経営スタイルが今
だに根強く残っています。特に、長期間にわたって指揮を執る
経営陣の高齢化や、硬直的な組織運営が問題となっています。
その典型例として挙げられるのが、フジ・メディア・ホールデ
ィングス(以下、フジメディアHD)です。同社の現状は、昭
和型経営が抱えるさまざまな課題を浮き彫りにしています。

■1. 経営陣の高齢化と革新性の欠如

フジメディアHDの取締役陣を見ると、その多くが60代から
80代という高齢者で占められています。例えば、日枝久取締
役相談役は87歳、茂木友三郎取締役(監査等委員)は89歳
と、業界でも最高齢に近い経営陣が要職に就いています。この
ような高齢化した経営陣が多いことは以下のようなデメリット
を生み出しています。

●市場変化への対応の遅れ
メディア業界は、ネット配信やAI技術など、急速に変化して
います。しかし、高齢化した経営陣では新技術や新しい視点を
積極的に取り入れる柔軟性が不足しており、競争力の低下を招
いています。

●組織の硬直化
長期間にわたり同じ体制で運営されることで、社内文化が保守
的になり、新しいアイデアや人材が育ちにくい環境が生まれま
す。

■2. 業績指標の低迷

昭和型経営の弊害は、経営成績にも表れています。以下は、フ
ジメディアHDにおける具体的な課題です。

●PBR、株価純資産倍率の低迷
フジメディアHD のPBRは0.5を割り込んでいます。広告収
益や視聴率の低下、さらには事業構造の効率性の欠如を反映し
ています。これは、従来型のテレビ放送に依存し、デジタル事
業への投資や転換が遅れていることが原因と考えられます。

●ROE、自己資本利益率の低迷
フジメディアHDのROEは6%弱、投資資本が十分に収益を
生んでいないことを示しており、経営資源の効率的な活用が求
められます。

■3. ガバナンスの問題と株主からの不信

昭和型経営の特徴として、経営陣の入れ替えが少なく、ガバナ
ンスの欠如が挙げられます。フジメディアHDでは、アメリカ
の投資ファンド、ダルトン・インベストメンツがガバナンス体
制に対して強い批判を行っています。特に、以下のような問題
が指摘されています。

●経営陣刷新の遅れ
投資家からの意見や提言を軽視する体質が、経営の硬直化をさ
らに助長しています。これにより、投資家からの信頼が低下し、
株主価値の向上が阻害されています。

●スポンサー離れ
経営判断の遅れや対応力の欠如により、主要スポンサーがCM
を取りやめるケースも見られ、広告収益の減少を招いています。

■4. 昭和型経営からの脱却に向けて

フジメディアHDの例は、昭和型経営が日本企業における競争
力をいかに低下させるかを示す象徴的な事例です。これらの問
題を解決し、持続可能な経営を実現するためには、以下の施策
が求められます。

●経営陣の若返り
新しいアイデアを取り入れるために、経営陣の年齢構成を見直
し、若手や外部の多様な人材を登用する必要があります。

●デジタル化とイノベーションの推進
テレビ放送に依存したビジネスモデルから脱却し、ストリーミ
ングやデジタルコンテンツ事業への本格的な転換が急務です。

●株主との対話の強化
株主の意見を取り入れることで、ガバナンスを強化し、企業価
値の向上を目指す必要があります。

フジメディアHDにおける昭和型経営の弊害は、日本の多くの
企業が直面する課題と共通しています。経営陣の高齢化、業績
悪化、株主の信頼低下といった問題は、現代の急速に変化する
ビジネス環境に適応するための障害となっています。こうした
状況を打破するには、経営陣の若返り、多様性の確保、そして
柔軟かつ革新的な経営手法の導入が不可欠です。

フジメディアHDの事例は、日本企業が競争力を維持し、グロ
ーバルな舞台で生き残るための教訓となるでしょう。これから
の時代に適応するためには、昭和型経営からの脱却が急務です。

中小企業にとって、銀行との良好な関係構築は経営の要となり
ます。その中で、適切な情報開示は重要な役割を果たします。
しかし、どの程度の情報をどのように開示すべきか、多くの経
営者が悩むところでしょう。

■ 情報開示の重要性
銀行への情報開示は、単なる義務ではありません。それは、自
社の経営状況を客観的に把握し、銀行との信頼関係を築くため
の重要なツールです。適切な情報開示により、以下のメリット
が期待できます。

1.融資や金融支援を受けやすくなる
2.経営の透明性が評価され、有利な条件での取引が可能になる
3.銀行からの経営アドバイスを得やすくなる

■ 開示すべき情報
一般的に開示が求められる情報には、財務諸表(貸借対照表、
損益計算書、キャッシュ・フロー計算書)、試算表、資金繰り
表などがあります。加えて、事業計画や業績見通し、経営上の
課題とその対策なども重要です。

■ バランスの取れた開示
しかし、すべての情報を無条件に開示することは賢明ではあり
ません。競合他社への情報漏洩リスクや、銀行からの過度の介
入を招く可能性があるためです。そのため、開示する情報の選
別と、開示のタイミングには十分な注意が必要です。

■ 戦略的アプローチ
情報開示には、以下のような戦略的アプローチが効果的です。

1.定期的な報告:四半期ごとなど、定期的な報告スケジュー
ルを設定する
2.自発的な開示:重要な変更や課題が生じた際は、自発的に
報告する
3.説明能力の向上:開示した情報を正確に説明できる能力を
磨く
4.信頼関係の構築:銀行担当者との良好なコミュニケーショ
ンを心がける

■ リスク管理
情報開示にはリスクも伴います。機密情報の管理や、誤解を招
く可能性のある情報の取り扱いには細心の注意が必要です。必
要に応じて、専門家に相談することも検討してください。

■ まとめ
銀行への情報開示は、透明性と慎重さのバランスが鍵となりま
す。適切な情報開示は、銀行との信頼関係を深め、企業の成長
と安定に寄与します。一方で、過度の開示はリスクを伴う可能
性があります。

自社の状況を冷静に分析し、開示する情報の範囲とタイミング
を慎重に検討することが重要です。また、情報開示を単なる義
務としてではなく、自社の経営改善や成長戦略の一環として捉
えることで、より効果的な活用が可能になります。

銀行との良好な関係構築は、中小企業の持続的成長に不可欠で
す。適切な情報開示戦略を通じて、銀行を単なる資金提供者で
はなく、ビジネスパートナーとして位置づけることができれば、
大きな強みとなるはずです。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

日本の成熟した市場環境において、中小企業が競争優位を築く
ためには、独自の差別化戦略が不可欠です。以下に、具体的な
企業の事例を5つ挙げ、それぞれの戦略を簡潔に解説します。

■1.地域性を活かしたローカル特化型ビジネス

●株式会社一平ホールディングス様(愛媛県)

愛媛県松山市に本社を置く一平ホールディングスは、地元の食
材を活用した飲食店を展開しています。特に、愛媛県産の新鮮
な魚介類や柑橘類を使用したメニューを提供し、地域の魅力を
発信しています。また、地元の伝統的な調理法や郷土料理を取
り入れることで、観光客だけでなく地元住民からも高い支持を
得ています。このように、地域資源を最大限に活用することで、
他地域の競合店との差別化を図っています。

■2.顧客体験を重視したサービス提供

●株式会社スノーピーク様(新潟県)

新潟県三条市に本社を構えるスノーピークは、アウトドア用品
の製造・販売を手掛ける企業です。同社は製品の販売だけでな
く、顧客が実際に製品を試用できるキャンプ場「スノーピーク
ヘッドクォーターズキャンプフィールド」を運営しています。
ここでは、製品の使い方を学べるワークショップや、スタッフ
との交流を通じて、顧客に特別な体験を提供しています。この
ような顧客参加型のサービスにより、ブランドへの愛着とリピ
ーターの獲得に成功しています。

■3.サステナビリティを意識した事業展開

●中川政七商店様(奈良県)

奈良県奈良市に本社を置く中川政七商店は、1716年創業の老
舗企業で、伝統工芸品や生活雑貨を取り扱っています。同社は、
日本各地の伝統工芸の技術を現代の生活に取り入れた商品を展
開し、職人との協業を通じて地域産業の活性化と持続可能なも
のづくりを推進しています。また、環境に配慮した素材選びや
製造工程の見直しを行い、エコフレンドリーな商品開発にも注
力しています。これにより、環境意識の高い消費者からの支持
を集めています。

■4.ニッチ市場への特化

●株式会社バンブークリエイト様(京都府)

京都府京都市に拠点を置くバンブークリエイトは、竹を素材と
した製品の企画・製造・販売を行っています。同社は、竹の持
つ抗菌性や軽量性、美しい質感に着目し、竹製の食器や家具、
生活雑貨などを展開しています。特に、飲食店向けの竹製カト
ラリーや、エコ志向の消費者向けの竹製ストローなど、特定の
ニーズに応える商品開発で成功を収めています。このように、
竹という素材に特化することで、競合他社との差別化を実現し
ています。

■5.デジタル技術を活用した新しい価値提供

●株式会社チームラボ様(東京都)

東京都千代田区に本社を構えるチームラボは、アートとデジタ
ル技術を融合させたインスタレーションを手掛ける企業です。
同社は、最新のデジタル技術を駆使した没入型のアート空間を
提供し、国内外で高い評価を得ています。例えば、東京・お台
場にある「チームラボボーダレス」では、プロジェクションマ
ッピングやセンサー技術を活用したインタラクティブなアート
作品を展示し、訪れる人々に新しい体験価値を提供しています。
このように、デジタル技術を活用することで、従来の美術館や
展示施設とは一線を画す差別化を実現しています。

これらの事例は、それぞれの企業が独自の強みや地域資源、最
新技術を活用して差別化を図り、競争優位を築いていることを
示しています。中小企業が持続的な成長を遂げるためには、自
社の特性や市場のニーズを的確に捉えた差別化戦略が重要であ
ることがわかります。

安売りの対局は差別化です。価値を求めるためには、脱・同質
化、差別化がどうしても必要です。

銀行融資の営業はやや特殊です。融資をしなければ利益は上が
りませんが、融資を行えば、同時に貸倒れのリスクも発生する
ため、貸したいような貸したくないような複雑な心境で営業を
しています。

また、資金使途が適切でなければ融資が出来ない点も営業を難
しくしています。お客様から融資を受けたいという意思表明が
あり、かつ信用状況が良くても、実需に伴う資金使途が無くて
は融資をすることができません。

銀行は、事業に必要な資産を購入する場合の融資には前向きで
す。例えば、工場建設や事業拡大に伴う用地取得などが該当し
ます。一方で、将来の値上がりを期待して土地や株式を購入す
る投機的な目的での融資は行いません。

この方針の背景には、過去の苦い経験があります。かつて銀行
は、土地、株、ゴルフ会員権など、投機目的の購入資金に対し
て積極的に融資を行っていました。その結果、深刻な資産バブ
ルを引き起こし、経済に大きな混乱をもたらしたのです。

この反省から、現在の銀行は、実体経済に資する目的の融資に
注力し、投機的な資金需要には慎重な姿勢を取っています。つ
まり、明確な事業目的がある場合にのみ、融資の検討が可能に
なります。

実は、資産の購入を目的とした設備資金だけでなく、運転資金
にも同様の考え方があります。その企業にとって必要と考えら
れる運転資金の額を算出する算式があり、それを超える融資は、
たとえ企業業績が良くても難しくなります。事業資金であって
も、実需以上の融資は行わないというスタンスです。

当事務所では、不測の事態に備えて「借りられる時に借りられ
るだけ借りておく。」ことを提唱しておりますが、実は不測の
事態に備えるための「倒産回避資金」なる資金使途はありませ
ん。あくまでも「運転資金」として調達しなくてはなりません
が、先ほどの算式で得た額を超える運転資金を調達するにはコ
ツが必要になります。

運転資金を多めに借りることが出来るコツのひとつは銀行の決
算です。融資残高目標を達成するため、一般企業の決算セール
に該当するようなものが実際にあります。当事務所にも「3月
末までに○○億円を融資したいのでお客様のご紹介をお願いし
ます。」と金融機関の担当者が熱心にあいさつに来られます。
普段はお客様から融資を依頼される銀行ですが、この時期は銀
行の方からお客様に融資を依頼するケースが増えますので、実
需を超えた資金を融資してもらえるチャンスがあります。

借金が増えるのは嫌だからと銀行からの融資提案を断る社長様
もおられますが、借金があっても同等の預金があれば実質無借
金です。もし銀行から融資の提案があれば、将来の不測の事態
に備えて借りることをためらわず、キャッシュポジションを高
く取っておくと安心です。

帝国データバンクの「食品主要195社」価格改定動向調査によ
ると、主要な食品メーカー195社における2025年の飲食料品
値上げは3,933品目(値上げ率平均17%)に達し、2025年を
通じて値上げは継続的に見込まれるとしています。

値上げは中小企業にとって難しい経営判断ですが、成功するた
めには戦略的なアプローチが重要です。以下に、値上げを上手
に実施しながら成功を収めた中小企業の事例を4つ紹介します。

■1.「品質向上」をアピールした地元パン屋

ある地域の老舗パン屋は、原材料費の高騰により価格を維持す
るのが困難になりましたが、「品質向上」を前面に打ち出すこ
とで値上げを成功させました。
・高品質な地元産小麦や天然酵母を使用することで、商品の差
別化を実現。
・店舗内やSNSで「より良い材料を使用するための価格改定」
であることを丁寧に説明。
・試食イベントを開催し、新商品の魅力を顧客に直接伝えるこ
とで納得感を創出。

結果として、顧客からの理解を得て、値上げ後も売上を維持。
高品質を求める新規顧客の獲得にも成功しました。

■2.サブスクリプション型サービスの機能追加による値上げ

あるIT企業は、クラウド型の業務管理サービスを提供してお
り、長年同じ価格でサービスを提供していました。値上げ時に
は以下のような戦略を採用しました。
・新機能(データ分析ツールやモバイルアプリ対応)の追加を
先行リリース。
・既存顧客には「アップグレード特典」として、一定期間値上
げ前の価格で利用できるオプションを提供。
・値上げの理由をメールやセミナーで明確に説明し、顧客から
のフィードバックを反映。

この結果、値上げ後も解約率は低下し、むしろサービス価値を
高く評価する顧客が増えました。

■3.パーソナライズド体験で価値を訴求した美容院

ある美容院は、原材料やスタッフの賃金上昇に対応するため、
カットやカラーリングの料金を10%値上げしましたが、以下
の工夫で顧客の満足度を高めました。
・顧客ごとに個別のカウンセリング時間を増やし、よりパーソ
ナライズドな提案を実施。
・値上げ前後でサービス内容の変化を明示し、「さらに贅沢な
体験」を提供することを強調。
・常連客には値上げ記念の無料トリートメントや割引クーポン
を配布し、顧客ロイヤルティを向上。

これにより、値上げに対する不満を最小限に抑えつつ、サービ
スのアップグレードを顧客に実感させることができました。

■4.「希少性」と「限定性」を強調した和菓子店

ある和菓子店では、地域の伝統的な素材を使用した季節限定の
商品を販売しており、値上げ時には以下の工夫をしました。
・使用する材料の希少性や伝統的な製法のストーリーを積極的
に発信。
・限定商品を値上げ前に先行販売し、顧客の反応をテスト。
・値上げに伴い「数量限定」とすることで、付加価値を高めた。

この結果、値上げによる一部顧客の離脱を補って余りある新規
顧客を獲得。売上全体も増加しました。

●値上げ成功のポイント

これらの事例に共通する成功のポイントは次の通りです。

1.顧客に納得感を与える理由付け
品質向上や新機能追加、エコ志向など、価格改定が妥当である
ことを明確に伝える。

2.顧客体験の向上
サービスや製品に対する満足度を高める工夫を値上げとセット
で提供する。

3.コミュニケーションの強化
事前の告知や顧客への説明を十分に行い、信頼を損なわない。

4.テストマーケティング
限定販売や試験的な価格変更で顧客の反応を確認し、本格的な
値上げに備える。

これらを実践することで、中小企業でも顧客との信頼関係を維
持しながら収益向上を実現することが可能です。好む好まざる
に関らず、値上げ対応を迫られるご時世です。値上げを経営の
最重要課題の一つと捉えて、しっかり対応していきましょう。
今年も物価の上昇は続くはずです。