中小企業の経営者にとって、決算書は「損益計算書と貸借対照
表を見れば十分」と思われがちです。しかし銀行の審査担当者
は、それだけでなく「注記(脚注部分)」にも必ず目を通して
います。形式的に付け足したように見える注記ですが、そこに
は会社のリスクや経営姿勢が明確に表れます。融資を有利に進
めるには、この部分を軽視しないことが重要です。

1.偶発債務の注記
保証債務や訴訟リスクといった、将来支出につながる可能性の
ある事象は、注記で開示するルールになっています。たとえ金
額がゼロであっても「偶発債務はありません」ときちんと記載
しているかどうかは、経営の透明性を示すシグナルです。逆に
書き方が曖昧だと「他に隠しているリスクがあるのでは」と疑
念を持たれることもあります。

2.関連当事者取引の注記
同族企業では、社長個人や親族会社との取引が少なからず存在
します。銀行は「会社の資金が社外に流出していないか」を注
記で確認します。経営者借入金や貸付金などがある場合でも、
その理由や条件を明確に開示すれば「説明責任を果たしている」
と評価されます。逆に曖昧な記載は、ガバナンス不備と見なさ
れかねません。

3.リースや長期契約の注記
設備リースや長期の賃貸契約は、貸借対照表に全額が載らない
ケースもあります。そのため、銀行は注記から「将来必ず発生
する固定的支出」を把握します。経営者自身にとっても、注記
を整備することは固定費の棚卸しになり、資金繰り予測や経営
判断に役立ちます。

4.注記から伝わる“経営姿勢”
銀行は数字の大小だけでなく、注記が整理されているか、誠実
に説明されているかを見ています。形式的にコピペしたような
注記では「開示姿勢が弱い」と判断されやすく、逆に正確で丁
寧な注記は「経営管理がしっかりしている」というプラス評価
につながります。

■ まとめ
・決算書の注記は「おまけ」ではなく、銀行が信頼性を測る重
要な情報源です。
・偶発債務はゼロでも「なし」と明記する
・関連当事者取引は理由や条件を丁寧に説明する
・リースや長期契約の支払予定を整理して開示する

これらを徹底するだけで、銀行との対話がスムーズになり、資
金調達力の向上にもつながります。次の決算書では、ぜひ「注
記の質」にも目を向けてみてください。

近年急速に進化している「生成AI(Generative AI)」は、
もはや一部の大企業や先進的なIT企業だけのものではなくな
っています。ChatGPTに代表される生成AIは、中小企業の現
場にこそ必要とされる実用的な力を持っており、業務効率化、
人手不足の緩和、顧客対応の質向上など、多くの場面で変革を
もたらしています。

2025年の今、日本経済は労働人口の減少や物価高、競争の激化
といった課題に直面しています。その中で、中小企業が持続的
に成長していくためには、限られた資源をいかに有効に使うか
が問われています。そしてこのとき、生成AIはまさに「経営
者の右腕」となりうる存在なのです。

■ 書類作成・事務作業の自動化で「時間」を生み出す

日々の業務で時間を取られがちな見積書や報告書の作成、議事
録のまとめ、メール文の下書きなどは、生成AIが得意とする
分野です。
実際、ある建設業の企業では補助金申請書類の作成をAIに補
助させたことで、40時間以上かかっていた業務が6時間に短縮
されました。これにより担当者は、書類作成ではなく「現場確
認」や「顧客対応」に時間を割けるようになったといいます。
また、製造業の現場では、Excelの関数作成やマクロの自動生成
をChatGPTで行い、経理部門の定型作業を効率化。複雑な処理
をAIが提案・補完してくれるため、担当者のストレスも大き
く軽減されました。

■ 情報発信のハードルを下げ、マーケティング強化へ

「SNSの更新が続かない」「ブログを毎月書くのが大変」そん
な声は中小企業経営者からよく聞かれます。実は、このような
“アイデアはあるが形にできない”課題こそ、AIの出番です。
北海道のある雑貨店では、ChatGPTを使ってInstagram投稿文
の草案を自動生成し、それをスタッフが調整して投稿する運用
に切り替えました。その結果、投稿数が月2件から週2件に増
加し、オンライン注文数が前年比120%を記録。情報発信がで
きるだけで、顧客との接点が増え、売上にも直結します。
このように、AIは「発信を加速するパートナー」として、小
さな企業の声を大きく届ける力を持っています。

■ 顧客対応もAIでスマートに

生成AIは、顧客対応の質とスピードも劇的に変えます。たと
えば、ある学習塾では、保護者との面談内容を録音し、それを
AIで文字起こし・要約。個別のフィードバックレポートを自
動作成することで、保護者からの信頼が向上し、口コミによる
新規入塾も増えたそうです。
一方、地方のスーパーでは、AIチャットボットを導入し、営
業時間外の問い合わせにも自動対応。お客様の不満が減り、対
応スタッフの業務負荷も軽減されたとの報告があります。

■ 「いきなり全社導入」は不要。成功の鍵は“スモールスタート”

AI活用の成否は、「小さく始めて、徐々に広げること」にあ
ります。
ある中堅製造業では、まず営業部門で「日報の要約」や「提案
書のひな型作成」にAIを導入。その効果を確認したのち、管
理部門や開発部門にも展開し、半年で社員の8割以上が日常的
にAIを使うようになりました。
重要なのは、現場が「これは便利」と感じる体験をすること。
無理に全社導入を目指すのではなく、業務に合ったところから
一歩踏み出すことが、成功への近道です。

■ 中小企業にこそチャンスがある時代

生成AIは「万能な魔法」ではありませんが、「日々のちょっ
とした手間」を着実に減らしてくれる道具です。そして、大企
業に比べてフットワークが軽い中小企業こそ、AIの力を柔軟
に取り入れることで、大きな飛躍を遂げる可能性を秘めていま
す。この変化の波を、傍観するのか、それとも先んじて活かす
のか。経営者の選択が、企業の未来を左右します。