最低賃金の連続引き上げ、求人難に伴う初任給アップ、社会保
険料率の上昇等、ここ数年で人件費は確実に膨らんでいます。
利益率が薄い中小企業ほど「給与を上げたいが資金繰りがもた
ない」という声が強まっています。今回は財務目線で人件費高
騰に備える3つの視点をお伝えします。

1.「粗利×人件費率」を月次で追う
月次試算表の販管費明細から、総従業員人件費を売上総利益で
割り人件費率を算出します。粗利が横ばいで人件費率だけ上が
ると、営業CFが確実に減少します。まずは毎月の推移をグラ
フにし、5%を超えて上昇傾向なら即対策を検討します。

2.固定給、変動給を調整する
単純な定額昇給は将来の固定費を押し上げます。基本給は競合
と比較して最低限を確保しつつ、売上歩合・利益連動賞与など
変動比率を高める設計に切り替えると、好調時には従業員に還
元し、不調時にはキャッシュアウトを抑制できます。金融機関
が融資審査で見るのは「固定費負担の重さ」なので、変動給が
多い給与体系はリスク軽減要素として評価されやすい点も見逃
せません。

3.人件費を「投資」化する
賃上げをコストではなく投資と捉え、必ず回収プランをセット
にします。例として、平均月2万円の賃上げを行うなら、1人
当たり売上を月4万円伸ばすKPIを設定し、ITツール導入
や業務フロー見直しで生産性を底上げします。「人材確保等支
援助成金」や「業務改善助成金」を併用すれば、キャッシュア
ウトを最大で半分程度に抑えることも可能です。

■ まとめ
・粗利と人件費率を月次で可視化し、早期に上昇トレンドを捉
える
・固定+変動の給与設計で、利益と連動した支払構造を作る
・賃上げは投資と位置づけ、生産性向上と助成金で回収プラン
を描く

人件費の高騰は避けられませんが、数字で管理し、変動化と投
資化でコントロールすれば、財務悪化を防ぎながら従業員満足
度も高めることができます。今月の試算表から人件費率をチェ
ックし、3つの視点で自社の打ち手を検討してみてはいかがで
しょうか。

中小企業が持続的に成長し、財務基盤を強化するためには、
「売上至上主義」ではなく「利益重視経営」への転換が不可欠
です。特に営業利益率(営業利益÷売上高)を向上させること
は、企業体質の抜本的な強化を意味し、企業価値の向上につな
がります。現実的な目標値として営業利益率の5%向上を目指
してみませんか。

以下に、営業利益率を高めるための具体的な取り組みを、「売
上向上策」「コスト構造の見直し」「業務効率化」「ビジネス
モデル再設計」の4つの観点から整理します。

■1.高収益型の売上構成への転換

単に売上を増やすのではなく、「粗利率の高い商品・サービス」
の比率を上げることが利益率向上の近道です。

●収益性分析の徹底
商品・サービス別、顧客別、チャネル別に粗利率を分析し、不
採算分野の見直しを行います。
●高付加価値サービスの提供
例として、飲食店であれば「コース料理の導入」、製造業であ
れば「保守・メンテナンス付きの販売」、IT業であれば「サブ
スク型サポート」など、単価が高く利益率の良いメニューを開
発します。
●客層の見直しと取引先の絞り込み
値引き交渉の多い顧客を見直し、「価格ではなく価値で選ぶ顧
客」にリソースを集中します。

■2.固定費・変動費の戦略的見直し

営業利益率を高めるには、コスト構造の最適化が欠かせません。
単なる削減ではなく「戦略的コストコントロール」が重要です。

●変動費の最適化
原材料費の見直しや、仕入先の再交渉、共同仕入れなどで単価
を抑えます。
●固定費の柔軟化
オフィス賃料の見直し、非稼働スペースの削減、アウトソーシ
ングの活用で、固定費を変動費化する工夫を行います。
●人件費の最適配置
単に削減ではなく、「一人当たりの粗利益額」を見直し、高生
産性人材への再配置や多能工化、パート・業務委託の活用を検
討します。

■3.デジタル化と業務効率化による生産性向上

営業利益率は、「同じ売上でも少ない工数で回す」ことで劇的
に改善できます。以下は即効性のある施策です。

●業務の標準化・マニュアル化
業務属人化を防ぎ、品質とスピードを平準化します。
●クラウドサービス活用
会計、給与、請求、勤怠など、定型業務はクラウドツールに移
行し、人件費とミスの削減を図ります。
●営業活動の効率化
顧客管理(CRM)や見積・受注管理のツール導入により、案
件獲得~クロージングの工数を削減し、営業1人あたりの受注
額を高めます。

■4.ビジネスモデルの再設計と利益構造の革新

既存の事業の延長ではなく、「利益の出る仕組み」そのものを
見直すことも、利益率向上の本質的な打ち手です。

●BtoBからBtoC展開へ
中間マージンを省いた直販モデルに転換し、利益率を上げる
(例:工場直販、ECの活用)。
●サブスクリプションモデルへの移行
単発売上から、毎月安定した収益を生む継続課金型へシフトす
ることで、利益構造を安定化。
●規模の追求から利益の追求へ
あえて「規模を追わずに、利益を重視する選択」を取ることで、
資源を効率的に配分します。

■「利益=企業の筋力」である

営業利益率の改善は、単なる財務数値の問題ではなく、企業の
競争力・成長性・継続性のバロメーターです。多くの中小企業
では、「売上さえ上がればなんとかなる」という考えが根強い
ですが、実際は「売上が上がっても利益が残らない」構造に陥
りやすいのが実情です。だからこそ、営業利益率5%の向上を
経営の最重要課題として掲げ、売上構成、コスト構造、業務オ
ペレーション、ビジネスモデルのすべてを見直すべきです。

その第一歩は、現状の数字を正しく把握し、利益の出ていない
部門・商品・取引を見つめ直す「経営の見える化」です。「利
益を残す経営」こそが、賃上げ、設備投資、資金繰り、事業承
継といった中小企業の経営課題すべての土台になるはずです。

「PLとBSはチェックしているのに、CF計算書はあまり意
識していない」という社長は意外に多いです。しかし、資金シ
ョートは利益ではなくキャッシュの不足で起こります。黒字決
算でも倒産する会社があるのはそのためです。今回は、3ステ
ップでキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を経営判断に
生かす方法を、事例を交えながら解説します。

■ ステップ1“3行”でざっくり読む

まず、CF計算書を開いたら営業CF・投資CF・財務CFの
3行だけを確認します。

1.営業キャッシュフロー(営業CF)
本業で現金がどれだけ増減したかを示します。健全な会社はこ
こが常にプラスです。

2.投資キャッシュフロー(投資CF)
設備投資・株式投資・M&Aなど将来のために資金を使った額
です。通常はマイナスでも問題ありませんが、金額が大きいと
きは調達源を確認する必要があります。

3.財務キャッシュフロー(財務CF)
借入・増資で入ってきた資金や、返済・配当で出ていった資金
を表します。理想は「営業CFで足りない分を補う範囲」にと
どめることです。

この3行を合計したものが「現預金の増減額」になります。数
字がどう組み合わさって現金残高を動かしているのかを、まず
は俯瞰しましょう。

■ ステップ2 営業CF黒字化のボトルネックを探す
営業CFが赤字であっても、損益計算書上は黒字というケース
は珍しくありません。ここで注目すべき増減項目は2つ、売上
債権(売掛金)と棚卸資産(在庫)です。

・売掛金が増える=回収が遅れている
・在庫が増える=仕入に現金が寝ている

この2項目がマイナスなら、帳簿利益がキャッシュに変わって
いない証拠です。改善策としては、

1.与信限度を明確にし、回収サイト短縮を取引先と交渉
2.在庫日数を部門別等に可視化し、安全在庫の上限を再設定
3.週次で「回収遅延リスト」を共有し、販売・経理・現場が
連携

これだけでも営業CFはプラス方向へ動きやすくなります。

■ ステップ3 投資と財務のバランスを点検する
次に見るのは投資CFと財務CFの大小関係です。例えば新工
場建設で投資CFが▲1億円なら、財務CFで同レベルのプラ
スを調達できているかがポイントです。調達不足だと営業CF
で補填する必要があり、資金繰りは急激に逼迫します。逆に投
資が少ない時期なのに財務CFが大幅プラス(過度の借入)な
ら、返済スケジュールの見直し余地があります。

資金繰りの安全余裕(手元資金)を「固定費3か月分」と決め、
その範囲で投資・借入・返済を組み替えると、景気変動や急な
設備更新でも慌てずに済みます。

■ 事例:小売業B社の改善プロセス
B社は売上 10 億円・経常利益 1,000 万円の黒字企業でしたが、
営業CFは▲1,200万円。売掛金60日サイトと季節在庫の積み
増しが原因です。

・回収サイトを 60 → 45 日に短縮、在庫日数を 90 → 65 日に
削減
・半年で営業CF+2,000 万円へ転換
・投資CF(新店舗開設 1,500 万円)を財務CF(長期借入)
で全額賄い、手元資金は3か月分を維持

結果、運転資金の借入負担が減りました。

■ まとめ

1.営業・投資・財務の3行をまず把握し、現金の増減をつか

2.営業CF改善の鍵は売掛金回収と在庫の管理
3.投資額と借入額のバランスを取り、手元資金を固定費3か
月分確保

CF計算書は専門家だけの資料ではありません。3行と2項目
を月次で追うだけで資金ショートを未然に防ぎ、銀行との対話
材料も格段に増えます。今月の試算表から簡易CFを作り、ぜ
ひ3ステップで現金の流れを点検してみてください。

…前回号の続きです。

近年、従業員のモチベーション低下や「静かな退職」といった
現象が注目されています。背景には、業務の曖昧さや不明瞭な
評価基準があり、社員が「頑張っても報われない」「何を期待
されているかわからない」と感じる構造が根本にあります。

中小企業にとって、社員一人あたりのパフォーマンスが経営に
直結する以上、職務を明確に定義し、範囲と責任を言語化して
共有することは、単なる人事管理の話ではなく、経営戦略その
ものです。

■ なぜ「職務の明確化」が必要なのか?

1人が複数業務を担うことの多い中小企業では、業務が属人的・
暗黙的になりがちです。結果として以下のような問題が生まれ
ます。
・やっている人とやっていない人の差が曖昧で、不公平感が生
まれる
・引き継ぎができず、人が辞めるたびに混乱する
・助け合いのつもりが、特定の人に業務が偏り「静かな退職」
状態に陥る

こうした状況を打破するには、「誰が、何を、どこまで、いつ
までに、どのレベルでやるか」を明文化する「職務記述書(ジ
ョブディスクリプション)」の作成が有効です。

■ 職務記述書に含めるべき要素(基本構成例)

以下が、1職種・1ポジションあたりに設定すべき基本項目で
す。

・職務名…営業担当(新規開拓)/経理スタッフ/店舗マネー
ジャーなど
・主な業務内容…顧客訪問・見積作成・売上管理・受注進捗の
確認など
・担当範囲・対象…○○地域内の中小企業/○○製品の販売業
務など
・成果指標(KPI)…月間訪問件数20件、受注率15%、請
求ミスゼロなど
・権限と責任…値引き権限10%まで、最終承認は上長など
・上司・関係部署…営業部部長/受発注管理課と連携など
・評価基準…達成度/チーム貢献度/報告・連絡・相談の適正
など

■ 実例:職務記述書の簡易フォーマット(営業職例)

・職種名…法人営業担当
・業務内容
自社製品の新規顧客開拓(訪問・ヒアリング・提案)
契約交渉・クロージング、初回納品後のフォローアップ
週次での営業日報作成と上長への報告
・担当エリア/対象…関東エリアの中堅製造業(50社程度)
・KPI(数値目標)
月間アプローチ件数:50件
面談実施件数:15件
契約件数:3件
・評価指標(定性+定量)
契約件数と売上高の目標達成度
チーム活動(同行営業、提案資料共有など)への貢献度
顧客からのフィードバック・満足度
・権限・責任
単価10%以内は調整可能。範囲外は上長決裁
・報告ライン…営業部課長に週1回の報告、月1回の面談

■ 実務で導入する際の進め方

中小企業では、「紙に書くより、まず動け」という現場気質も
根強くあります。しかし、以下のステップで無理なく進められ
ます。
1.まずはモデル職種から始める(例:営業/総務/店舗責任
者)
2.社員本人に「自分の仕事を棚卸し」してもらう(1週間分
の業務記録を取らせる)
3.経営者や管理職が「どこまでを期待しているか」をすり合
わせる
4.簡易的でもよいのでフォーマットに落とし込み、共有する
5.半年に1回は見直す(仕事は変わっていくため)

■ 職務の明文化がもたらす5つの効果

1.社員が「やるべきこと・やらなくてよいこと」が明確にな
り、過剰な負荷を防げる
2.評価の透明性が増し、納得感のあるマネジメントが可能に
3.属人業務が減り、誰が抜けても引き継げる体制ができる
4.無理なく、静かな退職のリスクを減らせる
5.人材育成がしやすくなり、外部人材や若手の受け入れもス
ムーズに

■ 中小企業だからこそ、“見える化”が武器になる

職務の明確化というと、「うちの会社には難しい」「そこまで
整備する余裕はない」と考える方も多いかもしれません。しか
し、規模が小さいからこそ、1人の役割が明確になることで全
体の動きがスムーズになるのです。やるべきことと、やらなく
てよいことを明確にする。これは、社員を楽にするだけでなく、
経営者が安心して任せるための“仕組み化”でもあります。
まずは一職種、一枚の紙から。御社の人材力が、より生産的で
持続可能な力に変わる第一歩になります。

「為替と金利は予測不能」が大前提です。足元ではドル円が
150 円前後、長期金利が1%台ですが、これがさらに進むのか、
反転するのかは誰にも言い切れません。そこで、「もし円安・
金利上昇が続いたら得をし、戻っても大きな損をしない」とい
う保険的な視点で、為替予約と借換えの使い方を整理します。

1.為替予約は層でリスク分散
為替予約は未来の方向性を当てる手段ではなく、レート変動を
平準化する道具と割り切りましょう。半年分を一括予約すると
当たり外れが大きくなるため、月次・四半期・半期の三層に分
け、必要量の 50~70%を上限にヘッジする方法が無難です。
将来円高に戻った場合でも、予約していない部分が恩恵を受け
るため、全体の損益はならされます。

2.請求通貨を変えるヘッジしない選択肢
輸出企業でドル建て売上が多い場合、円安はプラスに映ります
が、部材や物流が同じドル建てなら利益は相殺されがちです。
ユーロや円建てへの請求変更は交渉コストがかかるものの、為
替変動の影響自体を減らすという根本的な対策になります。交
渉が難しければ、最低でも契約更新のタイミングで検討する価
値はあります。

3.変動→固定へ借換える目安
金利上昇が続く可能性もあれば、早期に打ち止めになるシナリ
オもあります。判断に迷うときは、「残存期間3年以上・借入
残高が大きい・今後金利が 0.5%以上上がると試算される」こ
の3条件がそろったら固定化を検討するのが一つの目安です。
借入全体の 50~70%程度を固定にする折衷策なら、上昇局面
でも変動のメリットを一部残せます。

4.銀行交渉はシミュレーション表を作成
「円がさらに5円安く、金利が 0.3%上がったらどうなるか」
というシミュレーション表を銀行に示すと、対策の必要性が客
観的に伝わります。逆に円高・金利低下のケースも併記し、ど
ちらに振れても資金繰りが耐えられる設計であることを示しま
しょう。リスクが数字で見える企業は、格付けの非財務評価で
もプラスに働きやすくなります。

【まとめ】
・先行きを当てるのではなく、振れ幅を抑える保険を掛ける発

・為替予約は層を重ねて平均化し、上限を需要の 50~70%に
抑える
・借換えは「残高・期間・想定上昇幅」の3条件で固定比率を
決定
・どちらの策も、円高・金利低下時に致命的な損を出さない設
計が鍵

どうなるか分からない局面だからこそ、当てるより守るアプロ
ーチで資金繰りの安定を図りましょう。

近年、若手社員を中心に「静かな退職(Quiet Quitting)」が
注目を集めています。これは仕事を放棄する退職ではなく、必
要最低限の業務はこなすが、それ以上の負荷や熱意は求めない
働き方です。海老原嗣生氏の著書『静かな退職という働き方』
では、この現象が単なる個人の怠慢ではなく、むしろ時代の要
請であり、世界の労働観の変化に対応した合理的な選択である
ことが明らかにされています。

とりわけ注目すべきは、本書第2章「欧米の標準」で紹介され
ている、海外における労働とマネジメントの在り方です。そこ
から私たち中小企業経営者が学ぶべきことは多く、いまや“熱
意による管理”の限界を認め、“成果と環境の両立”を軸にした
マネジメントへと転換することが急務です。

■ 欧米の働き方、「静かな退職」はむしろ標準

欧米では「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が明
確に定められており、労働者はその範囲内で成果を上げること
が求められます。上司が部下に業務外の雑務を頼むことはタブ
ー視され、残業も原則ありません。著者は、アメリカの事例と
して「定時退社後、携帯を切って家族と過ごすマネージャー」
の姿を紹介しています。そこにあるのは、「生活があってこそ
の仕事」という合理的な価値観です。

一方、日本では「気を利かせて動く」「言われなくてもやる」
といった“心のサービス”が美徳とされてきました。結果として、
労働者は曖昧な期待と過重労働に晒され、心理的離職(静かな
退職)を選ぶ人が増えています。

■ 中小企業こそ「静かな退職」をマネジメントの転換点に

この「静かな退職」は、大企業に限らず、中小企業にとっても
見過ごせない問題です。従業員数が少ない分、ひとりひとりの
モチベーションや稼働率が経営に直結するからです。

しかし、ここで考えたいのは、「静かな退職」を否定するので
はなく、それが“過剰期待に対する防衛反応”であることを受け
止めることです。欧米のように、業務の線引きと評価基準を明
確にし、社員が「何をどこまでやればいいか」を安心して理解
できる環境を整えることで、静かな退職は未然に防げます。

■ 今後のマネジメントに対する提言

以下に、海老原氏の示唆をもとにした中小企業向けの具体的な
対応策を示します。

【1】職務範囲の明文化と共有
業務の属人化や曖昧な役割分担は、無意識の負荷増加を招きま
す。各職種・ポジションごとに「やるべきこと/やらなくてよ
いこと」を可視化し、本人とすり合わせる仕組みを構築しまし
ょう。

【2】「熱意」より「成果」評価へ
従来の「頑張っている姿勢」や「遅くまで残っている人」を評
価する風土は、静かな退職を誘発します。時間や態度よりも成
果や改善提案、数字などの定量評価に軸足を移すことが重要で
す。

【3】定時退社を前提とした業務設計
「忙しいこと=良いこと」という価値観は見直すべきです。定
時で終われる設計を前提に業務量や会議時間を再構築し、生産
性向上を意識した働き方を促しましょう。

【4】「期待の押しつけ」から「選択の提案」へ
例えば「もっと学んで欲しい」「リーダーをやって欲しい」と
いった期待は、裏目に出ることもあります。キャリアの選択肢
を提示し、本人の意思に委ねる姿勢が信頼を築きます。

【5】1on1ミーティングの制度化
定期的な対話によって、「何にモヤモヤしているか」「過剰に
抱え込んでいないか」を確認できます。上司からの一方的な指
導ではなく、双方向の確認と共感がポイントです。

■組織の“静かな成長”を目指して

「静かな退職」は怠けのサインではありません。むしろ、時代
と働き手の価値観が変化していることを知らせる警鐘です。欧
米ではすでに標準化しているこの「働きすぎない」文化は、む
しろ人材を長期的に活かす合理的な方法とも言えます。

日本の中小企業がこれからも持続的に成長していくためには、
「熱意や根性頼み」のマネジメントから、「役割の明確化と成
果重視の信頼型」マネジメントへと移行することが不可欠です。
社員が静かに“心を退職”してしまう前に、静かにマネジメン
トの舵を切ること、それが今、経営者に求められている変化で
す。