新工場建設等、複数行から大型の資金調達を行う際に、銀行側
から「シンジケートローン(SL)でまとめましょう」と提案
されることがあります。確かに契約一本化や期中管理の簡素化
は魅力です。しかし中小企業にとっては、アレンジャーフィー
と厳格なコベナンツ(財務制限条項)が大きなハードルになり
ます。個人的には、総合的に見て、同じ複数行スキームでも
「協調融資(コンソーシアム融資)」を推奨します。以下では、
その理由と協調融資を円滑に進めるコツを整理します。

1.アレンジャーフィーは「見えない利息」
シンジケートローンを組成すると、調達額の1~3%程度のア
レンジャーフィーと、年次エージェントフィーが発生します。
仮に10億円を調達すれば数千万円の一時コスト、加えて毎年
数百万円の維持費が必要です。協調融資であれば払わなくても
済むコストをわざわざ負担するかどうかが最初の分岐点です。

2.コベナンツは経営の「足かせ」になりやすい
SLでは参加行平等を担保するため、パリパス条項や財務コベ
ナンツが細かく定められます。典型的には「自己資本比率○%
以上」「債務償還年数○年以内」「主要役員の変更は事前承認」
など。違反すると全行が一斉に期限の利益を喪失させる権利を
持ち、資金繰りが良好でも契約変更を迫られるリスクがありま
す。事業環境が読みにくい中小企業にとって、経営の自由度を
引き下げる制約は避けたいところです。

3.協調融資の「煩雑さ」は工夫で緩和できる
協調融資は行ごとに契約を結ぶため、担保設定や返済スケジュ
ールが複線化しやすいのは事実です。しかし、以下の3点を押
さえれば管理負荷は大幅に下げられます。

1)リードバンク方式
メイン行を窓口とし、他行条件も基本的に追随形式で揃える。

2)共通条項表の作成
返済条件・担保順位・財務指標を一覧化し、全行と共有。修正
はこの表だけに反映させる。

3)年1回の共同面談
決算後にメイン行主催で参加行を招き、事業報告と次年度計画
を一括説明。バラバラの面談を減らす。

これにより「契約は行数分ですが、運営は実質一本化」という
体制が実現します。手数料ゼロの協調融資と、費用の伴うSL
の差額が毎年のキャッシュを守ることを考えると、手間をかけ
る価値は十分あります。

4.判断フロー(簡易チェックリスト)

・調達額が5億円を下回るか?
→ はい:協調融資で十分対応可能。

・参加行は3行以内に収まるか?
→ はい:協調融資の管理負荷は限定的。

・社内外に財務人員が確保できるか?
→ はい:SLの管理簡素化メリットは限定的。

・事業計画に「柔軟な増額」より「手数料節約」を優先したいか?
→ はい:協調融資向き。

3つ以上「はい」があれば、協調融資を選んだほうが総コスト
は低く抑えられる可能性が高いと言えます。

■まとめ
・アレンジャーフィーとエージェントフィーは「隠れ金利」で
す。規模が大きくない中小企業には無視できない負担になる可
能性があります。

・シンジケートローンのコベナンツは経営の自由度を縛ります。
環境変化の激しい中小企業ではリスクが高いと考えます。

・協調融資でもリードバンク方式と共通条項表で管理は簡素化
可能です。

費用を抑えつつ、制約を減らし、必要な資金を確保する。この
3点を優先するなら、中小企業には協調融資が現実的な選択肢
となります。まずはメイン行に協調スキームの枠組みを提示し、
手数料を掛けずに複数行をまとめる段取りを検討してみてくだ
さい。

■1.避けられない外部環境の圧力

2025年度、日本の最低賃金は全国平均で1,100円超えが確実視
されています。ここ数年の物価上昇、人材確保競争、そして政
府の「賃上げ促進」政策の流れを踏まえると、この潮流は後戻
りすることはありません。中小企業経営者にとって最低賃金の
上昇は単なる「人件費増」ではなく、経営の在り方そのものを
問い直される契機となります。

■2.直撃するコスト増の現実

仮に最低賃金が1,050円から1,100円に上がった場合、時給50
円の上昇となります。従業員30名が平均月160時間働くと、年
間で約288万円の追加コストとなり、営業利益率が数%しかな
い企業では即赤字に転落しかねません。

特に影響が大きいのは次の業種です。
飲食・小売:人件費比率が30%を超え、直接的な利益圧迫
介護・福祉:公定価格に縛られ、転嫁が難しい
製造下請け:取引価格が固定化され、値上げ交渉が難航
これらは企業の努力では吸収しきれない規模の「構造的負担」
です。

■3.経営環境の激変

最低賃金上昇はコスト以外にも多層的な影響を及ぼします。
・価格競争の淘汰:大手はブランド力で値上げを浸透させやす
いのに対し、中小は価格据え置きを強いられ、利益圧迫に直結。
・人材獲得の難化:働きやすさや福利厚生で見劣りする中小に
は人材流出のリスクが拡大。
・取引条件の圧迫:親企業や発注元がコスト転嫁を拒むケース
が増えれば、下請けは板挟みに。
つまり、賃上げは「労務コストの増加」にとどまらず、競争環
境・人材市場・取引構造の三方面から経営を揺さぶるのです。

■4.生き残るための5つの戦略

【1】値上げを「顧客への提案」に変える
単なる価格転嫁では顧客の理解を得られません。商品力・サー
ビス力を磨き、「なぜ値上げするのか」を物語として伝える必
要があります。
例:飲食店で「地元産食材を使い品質を高めるための値上げ」
と打ち出すことで、むしろ支持が拡大した事例もあります。

【2】生産性の劇的向上
・業務フローを徹底的に標準化
・ITツールやAIによる自動化
・人材配置の最適化
例えば、受発注や勤怠管理をクラウド化するだけでも事務工数
を30%削減できるケースがあります。人件費上昇は「業務効率
化の遅れを放置できない圧力」と捉えるべきです。

【3】柔軟な雇用設計
正社員一本足からの脱却が必須です。副業人材、シニア、女性
の短時間勤務、業務委託などを組み合わせ、多様な人材ポート
フォリオを築くことが、中小企業の競争力を高めます。

【4】取引交渉力の強化
「価格交渉促進法」の後押しもあり、下請け企業がコスト上昇
を一方的に押し付けられる時代ではなくなりつつあります。取
引先に依存するのではなく、複数顧客の確保や直販モデルを導
入し、交渉余地を広げることが必要です。

【5】事業構造転換
最低賃金上昇は「低付加価値ビジネスからの撤退」を迫るサイ
ンです。
・小売 → EC展開や高単価ニッチ市場へ
・製造 → 下請け脱却、自社ブランド化
・サービス → DX活用による省人化
つまり、労働集約から知識集約・付加価値志向へ移行できるか
どうかが分岐点となります。

■5.経営者の覚悟

2025年の最低賃金引き上げは「危機」であると同時に、「変革
のチャンス」です。
・値上げの決断
・生産性革命への投資
・雇用の柔軟化
・取引条件の見直し
・新規事業へのシフト
これらを同時並行で進めることが求められます。もはや「従来
の延長線上」では生き残れません。最低賃金上昇の波を単なる
脅威ではなく、経営体質を強化し、次世代へ進化するための圧
力と受け止めること。これが2025年を迎える中小企業経営者に
必要な視点です。

最低賃金の引き上げは避けられません。しかし、それを克服す
る過程でこそ企業は強くなります。中小企業にとって最も危険
なのは「変化を先送りすること」であり、最も大きな成長機会
は「いま決断すること」にあります。賃上げ時代を勝ち抜くの
は、コストに怯える企業ではなく、進化に挑む企業ではないで
しょうか。

借入余力のない中小企業は「借りられるときに借りる」が鉄則
です。しかし長期金利が1%台半ばへ上昇する最近は、潤沢な
手許資金が高い利息で目減りするリスクも無視できません。今
回は、銀行格付けでも採用される2つの指標を使い、自社の
「金利許容量」を数値で設定する方法を解説します。

1.利息/営業CF比率―15%を超えたら要警戒

まず年間利息総額を営業CFで割り、「利息比率」を算出しま
す。

・10%未満:安定ゾーン(利上げや利益減でも余裕)
・15%前後:警戒ライン(改善策を検討する目安)
・20%超:危険ゾーン(銀行が金利上乗せや担保追加を検討)

この15%という数字は、後述するDSCR(返済余力指標)で
安全域を保つための経験則です。たとえば営業CFが4,000万
円、利息が600万円なら比率は15%。ここを超えると、元金返
済を含めたキャッシュアウトが営業CFの70%近くまで食い込
む可能性が高まり、手元資金が急減しやすくなります。

2.DSCR1.2倍―銀行が見る最低ライン

次にDSCR(Debt Service Coverage Ratio)=営業CF÷
元利支払額を計算しましょう。金融庁マニュアルでは1.2倍以
上が健全とされます。

・1.5倍以上:安全
・1.2~1.5倍:注意
・1.2倍未満:改善要請

利息比率を15%以下に保てば、多くのケースでDSCRは1.6
~2.0倍を維持できます。逆に利息比率が20%に達すると、元
金返済を含めた支払総額が営業CFの6割超となり、ちょっと
した利上げや売上減で1.2倍を割り込むリスクが高まります。

3.自社ラインの設定とシミュレーション
(1)営業CFの現状値と3年平均を算出
(2)利息総額を0.25%刻みで引き上げた場合の比率とDSCR
を試算
(3)15%・20%をまたぐポイントで「返済計画の見直し」
「金利交渉」「高金利繰上返済」のトリガーを設定

たとえば0.5%の金利上昇で利息が900万円へ増えると試算され
るなら、上昇分を相殺する粗利改善(売上1億円×粗利率3%
アップ=300万円)か、短期借入1億円の半分を返済して残高を
圧縮する、という対策を事前に決めておきます。

4.実務で使える3つのアクション
・月次で利息比率を確認し、15%を超えた月にアラートを出す
・設備更新など大口投資の前にDSCR試算表を銀行と共有し、
借入総量と金利を協議
・高金利短期枠を低利長期へ借換えし、比率を下げつつ手元資
金3か月分は死守

■ まとめ
・利息比率15%を黄色信号、20%を赤信号として社内ルール
化する
・DSCR1.2倍を割らないよう、利息・元金・営業CFをセ
ットで管理
・試算表に金利シミュレーション列を加え、銀行と改善策を早
めに協議

金利の先行きは読めなくても、許容コストのラインは自社で決
められます。この2指標を月次で追い、借り過ぎと利息の払い
過ぎを防ぎながら、必要なときに十分借りられる体制を維持し
ましょう。

2025年、物価上昇と人件費高騰という“構造的変化”が日本企
業を包み込んでいます。最低賃金は全国平均で1,100円超を視
野に入れ、原材料費・エネルギー費・物流コストも高止まりし
たままです。とりわけ中小企業は、価格転嫁の難しさゆえに、
利益を削り、体力を消耗している現実があります。

しかし、「我慢して価格を据え置く」ことは、もはや顧客満足
ではありません。持続可能なサービスや雇用の維持こそが、企
業の社会的責任であり、そのためには避けて通れないのが“値
上げ”という選択です。

その象徴的な事例が、カレーハウスCoCo壱番屋(ここ壱)の
一連の動きです。

■2度の値上げを断行した「ここ壱番屋」の判断

CoCo壱番屋は、2023年10月に続き、2024年8月にも主要メ
ニューの再値上げを実施しました。具体的には「ポークカレー」
が40円程度引き上げられ、各種トッピング商品も含め、全体的
に平均3~5%の価格改定となりました。
理由は明確です。企業努力では吸収しきれない原材料費の高騰、
最低賃金引き上げに伴う人件費負担、さらにはフードロス対策
や物流人員の確保など、継続的なコスト構造の変化に対応する
ための不可避な措置でした。
ここ壱番屋は、公式発表や各種メディアを通じて「引き続き品
質とサービスを維持するためにご理解をお願いしたい」と誠実
に訴えました。

■一部の批判と客数減、それでも「増収」

2024年8月の値上げ後、一部の報道では「また値上げか」「も
う手頃感がない」といった消費者の声が取り上げられました。
実際、ここ壱番屋の客数は前年比で約5%減少しています。
しかし、ここで重要なのはその“結果”です。値上げによって
客単価が上昇し、最終的に売上は前年を上回る「増収」となっ
たのです。
つまり、値上げによる離脱客をある程度見込んだ上で、それを
上回る価値を提供し、顧客単価を改善することで収益構造を維
持・強化したのです。
これはまさに、「企業の持続可能性を守るための戦略的な値上
げ」であり、単なる価格の引き上げではありません。

■中小企業経営者への示唆「それでも、やらねばならない」

ここ壱番屋は全国チェーンであり、ブランド力や集客力で中小
企業とは立場が違うという意見もあるでしょう。しかし本質は
そこではありません。
この事例が伝えているのは、「批判があっても、客数が一時的
に減っても、やらねばならない時はある」という、経営者の覚
悟の問題です。
価格据え置きで利益が出なければ、従業員の待遇も設備も守れ
ず、顧客へのサービスも劣化します。逆に、価格を見直し、そ
の分の価値を磨き、納得を得る努力を続ければ、収益性は維持
できます。

■価格据え置きは「顧客第一」ではない

多くの経営者が「値上げは裏切り」「顧客に申し訳ない」と考
えがちです。しかし、安価にこだわるあまり、品質が低下し、
スタッフが疲弊し、事業が先細っていくようでは、本末転倒で
す。

今必要なのは、「価格=信頼の対価」という意識です。「うち
は値上げしません」と言うのではなく、「品質と人を守るため
に価格を見直します。その価値は必ず提供します」という姿勢
こそが、経営者の責任です。

■“痛み”を乗り越えるのは、「覚悟」と「説明力」

値上げには一時的な客数減や批判のリスクが伴います。しかし、
それでも向き合わなければならない時があります。それが今で
す。

ここ壱番屋は、繰り返し値上げを実施しながらも、増収を実現
しました。これは、「経営の持続性を守るために、逃げずに選
択を下した」結果です。

中小企業にとっても、それは同じです。値上げは“最後の手段”
ではなく、長期的な競争力と信頼性を守る“戦略”です。今こ
そ、値上げの恐怖から解放され、「伝える力」と「信頼づくり」
で乗り越える経営へ、シフトしていくことを強く提言いたしま
す。

最低賃金の連続引き上げ、求人難に伴う初任給アップ、社会保
険料率の上昇等、ここ数年で人件費は確実に膨らんでいます。
利益率が薄い中小企業ほど「給与を上げたいが資金繰りがもた
ない」という声が強まっています。今回は財務目線で人件費高
騰に備える3つの視点をお伝えします。

1.「粗利×人件費率」を月次で追う
月次試算表の販管費明細から、総従業員人件費を売上総利益で
割り人件費率を算出します。粗利が横ばいで人件費率だけ上が
ると、営業CFが確実に減少します。まずは毎月の推移をグラ
フにし、5%を超えて上昇傾向なら即対策を検討します。

2.固定給、変動給を調整する
単純な定額昇給は将来の固定費を押し上げます。基本給は競合
と比較して最低限を確保しつつ、売上歩合・利益連動賞与など
変動比率を高める設計に切り替えると、好調時には従業員に還
元し、不調時にはキャッシュアウトを抑制できます。金融機関
が融資審査で見るのは「固定費負担の重さ」なので、変動給が
多い給与体系はリスク軽減要素として評価されやすい点も見逃
せません。

3.人件費を「投資」化する
賃上げをコストではなく投資と捉え、必ず回収プランをセット
にします。例として、平均月2万円の賃上げを行うなら、1人
当たり売上を月4万円伸ばすKPIを設定し、ITツール導入
や業務フロー見直しで生産性を底上げします。「人材確保等支
援助成金」や「業務改善助成金」を併用すれば、キャッシュア
ウトを最大で半分程度に抑えることも可能です。

■ まとめ
・粗利と人件費率を月次で可視化し、早期に上昇トレンドを捉
える
・固定+変動の給与設計で、利益と連動した支払構造を作る
・賃上げは投資と位置づけ、生産性向上と助成金で回収プラン
を描く

人件費の高騰は避けられませんが、数字で管理し、変動化と投
資化でコントロールすれば、財務悪化を防ぎながら従業員満足
度も高めることができます。今月の試算表から人件費率をチェ
ックし、3つの視点で自社の打ち手を検討してみてはいかがで
しょうか。

中小企業が持続的に成長し、財務基盤を強化するためには、
「売上至上主義」ではなく「利益重視経営」への転換が不可欠
です。特に営業利益率(営業利益÷売上高)を向上させること
は、企業体質の抜本的な強化を意味し、企業価値の向上につな
がります。現実的な目標値として営業利益率の5%向上を目指
してみませんか。

以下に、営業利益率を高めるための具体的な取り組みを、「売
上向上策」「コスト構造の見直し」「業務効率化」「ビジネス
モデル再設計」の4つの観点から整理します。

■1.高収益型の売上構成への転換

単に売上を増やすのではなく、「粗利率の高い商品・サービス」
の比率を上げることが利益率向上の近道です。

●収益性分析の徹底
商品・サービス別、顧客別、チャネル別に粗利率を分析し、不
採算分野の見直しを行います。
●高付加価値サービスの提供
例として、飲食店であれば「コース料理の導入」、製造業であ
れば「保守・メンテナンス付きの販売」、IT業であれば「サブ
スク型サポート」など、単価が高く利益率の良いメニューを開
発します。
●客層の見直しと取引先の絞り込み
値引き交渉の多い顧客を見直し、「価格ではなく価値で選ぶ顧
客」にリソースを集中します。

■2.固定費・変動費の戦略的見直し

営業利益率を高めるには、コスト構造の最適化が欠かせません。
単なる削減ではなく「戦略的コストコントロール」が重要です。

●変動費の最適化
原材料費の見直しや、仕入先の再交渉、共同仕入れなどで単価
を抑えます。
●固定費の柔軟化
オフィス賃料の見直し、非稼働スペースの削減、アウトソーシ
ングの活用で、固定費を変動費化する工夫を行います。
●人件費の最適配置
単に削減ではなく、「一人当たりの粗利益額」を見直し、高生
産性人材への再配置や多能工化、パート・業務委託の活用を検
討します。

■3.デジタル化と業務効率化による生産性向上

営業利益率は、「同じ売上でも少ない工数で回す」ことで劇的
に改善できます。以下は即効性のある施策です。

●業務の標準化・マニュアル化
業務属人化を防ぎ、品質とスピードを平準化します。
●クラウドサービス活用
会計、給与、請求、勤怠など、定型業務はクラウドツールに移
行し、人件費とミスの削減を図ります。
●営業活動の効率化
顧客管理(CRM)や見積・受注管理のツール導入により、案
件獲得~クロージングの工数を削減し、営業1人あたりの受注
額を高めます。

■4.ビジネスモデルの再設計と利益構造の革新

既存の事業の延長ではなく、「利益の出る仕組み」そのものを
見直すことも、利益率向上の本質的な打ち手です。

●BtoBからBtoC展開へ
中間マージンを省いた直販モデルに転換し、利益率を上げる
(例:工場直販、ECの活用)。
●サブスクリプションモデルへの移行
単発売上から、毎月安定した収益を生む継続課金型へシフトす
ることで、利益構造を安定化。
●規模の追求から利益の追求へ
あえて「規模を追わずに、利益を重視する選択」を取ることで、
資源を効率的に配分します。

■「利益=企業の筋力」である

営業利益率の改善は、単なる財務数値の問題ではなく、企業の
競争力・成長性・継続性のバロメーターです。多くの中小企業
では、「売上さえ上がればなんとかなる」という考えが根強い
ですが、実際は「売上が上がっても利益が残らない」構造に陥
りやすいのが実情です。だからこそ、営業利益率5%の向上を
経営の最重要課題として掲げ、売上構成、コスト構造、業務オ
ペレーション、ビジネスモデルのすべてを見直すべきです。

その第一歩は、現状の数字を正しく把握し、利益の出ていない
部門・商品・取引を見つめ直す「経営の見える化」です。「利
益を残す経営」こそが、賃上げ、設備投資、資金繰り、事業承
継といった中小企業の経営課題すべての土台になるはずです。

「PLとBSはチェックしているのに、CF計算書はあまり意
識していない」という社長は意外に多いです。しかし、資金シ
ョートは利益ではなくキャッシュの不足で起こります。黒字決
算でも倒産する会社があるのはそのためです。今回は、3ステ
ップでキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)を経営判断に
生かす方法を、事例を交えながら解説します。

■ ステップ1“3行”でざっくり読む

まず、CF計算書を開いたら営業CF・投資CF・財務CFの
3行だけを確認します。

1.営業キャッシュフロー(営業CF)
本業で現金がどれだけ増減したかを示します。健全な会社はこ
こが常にプラスです。

2.投資キャッシュフロー(投資CF)
設備投資・株式投資・M&Aなど将来のために資金を使った額
です。通常はマイナスでも問題ありませんが、金額が大きいと
きは調達源を確認する必要があります。

3.財務キャッシュフロー(財務CF)
借入・増資で入ってきた資金や、返済・配当で出ていった資金
を表します。理想は「営業CFで足りない分を補う範囲」にと
どめることです。

この3行を合計したものが「現預金の増減額」になります。数
字がどう組み合わさって現金残高を動かしているのかを、まず
は俯瞰しましょう。

■ ステップ2 営業CF黒字化のボトルネックを探す
営業CFが赤字であっても、損益計算書上は黒字というケース
は珍しくありません。ここで注目すべき増減項目は2つ、売上
債権(売掛金)と棚卸資産(在庫)です。

・売掛金が増える=回収が遅れている
・在庫が増える=仕入に現金が寝ている

この2項目がマイナスなら、帳簿利益がキャッシュに変わって
いない証拠です。改善策としては、

1.与信限度を明確にし、回収サイト短縮を取引先と交渉
2.在庫日数を部門別等に可視化し、安全在庫の上限を再設定
3.週次で「回収遅延リスト」を共有し、販売・経理・現場が
連携

これだけでも営業CFはプラス方向へ動きやすくなります。

■ ステップ3 投資と財務のバランスを点検する
次に見るのは投資CFと財務CFの大小関係です。例えば新工
場建設で投資CFが▲1億円なら、財務CFで同レベルのプラ
スを調達できているかがポイントです。調達不足だと営業CF
で補填する必要があり、資金繰りは急激に逼迫します。逆に投
資が少ない時期なのに財務CFが大幅プラス(過度の借入)な
ら、返済スケジュールの見直し余地があります。

資金繰りの安全余裕(手元資金)を「固定費3か月分」と決め、
その範囲で投資・借入・返済を組み替えると、景気変動や急な
設備更新でも慌てずに済みます。

■ 事例:小売業B社の改善プロセス
B社は売上 10 億円・経常利益 1,000 万円の黒字企業でしたが、
営業CFは▲1,200万円。売掛金60日サイトと季節在庫の積み
増しが原因です。

・回収サイトを 60 → 45 日に短縮、在庫日数を 90 → 65 日に
削減
・半年で営業CF+2,000 万円へ転換
・投資CF(新店舗開設 1,500 万円)を財務CF(長期借入)
で全額賄い、手元資金は3か月分を維持

結果、運転資金の借入負担が減りました。

■ まとめ

1.営業・投資・財務の3行をまず把握し、現金の増減をつか

2.営業CF改善の鍵は売掛金回収と在庫の管理
3.投資額と借入額のバランスを取り、手元資金を固定費3か
月分確保

CF計算書は専門家だけの資料ではありません。3行と2項目
を月次で追うだけで資金ショートを未然に防ぎ、銀行との対話
材料も格段に増えます。今月の試算表から簡易CFを作り、ぜ
ひ3ステップで現金の流れを点検してみてください。

…前回号の続きです。

近年、従業員のモチベーション低下や「静かな退職」といった
現象が注目されています。背景には、業務の曖昧さや不明瞭な
評価基準があり、社員が「頑張っても報われない」「何を期待
されているかわからない」と感じる構造が根本にあります。

中小企業にとって、社員一人あたりのパフォーマンスが経営に
直結する以上、職務を明確に定義し、範囲と責任を言語化して
共有することは、単なる人事管理の話ではなく、経営戦略その
ものです。

■ なぜ「職務の明確化」が必要なのか?

1人が複数業務を担うことの多い中小企業では、業務が属人的・
暗黙的になりがちです。結果として以下のような問題が生まれ
ます。
・やっている人とやっていない人の差が曖昧で、不公平感が生
まれる
・引き継ぎができず、人が辞めるたびに混乱する
・助け合いのつもりが、特定の人に業務が偏り「静かな退職」
状態に陥る

こうした状況を打破するには、「誰が、何を、どこまで、いつ
までに、どのレベルでやるか」を明文化する「職務記述書(ジ
ョブディスクリプション)」の作成が有効です。

■ 職務記述書に含めるべき要素(基本構成例)

以下が、1職種・1ポジションあたりに設定すべき基本項目で
す。

・職務名…営業担当(新規開拓)/経理スタッフ/店舗マネー
ジャーなど
・主な業務内容…顧客訪問・見積作成・売上管理・受注進捗の
確認など
・担当範囲・対象…○○地域内の中小企業/○○製品の販売業
務など
・成果指標(KPI)…月間訪問件数20件、受注率15%、請
求ミスゼロなど
・権限と責任…値引き権限10%まで、最終承認は上長など
・上司・関係部署…営業部部長/受発注管理課と連携など
・評価基準…達成度/チーム貢献度/報告・連絡・相談の適正
など

■ 実例:職務記述書の簡易フォーマット(営業職例)

・職種名…法人営業担当
・業務内容
自社製品の新規顧客開拓(訪問・ヒアリング・提案)
契約交渉・クロージング、初回納品後のフォローアップ
週次での営業日報作成と上長への報告
・担当エリア/対象…関東エリアの中堅製造業(50社程度)
・KPI(数値目標)
月間アプローチ件数:50件
面談実施件数:15件
契約件数:3件
・評価指標(定性+定量)
契約件数と売上高の目標達成度
チーム活動(同行営業、提案資料共有など)への貢献度
顧客からのフィードバック・満足度
・権限・責任
単価10%以内は調整可能。範囲外は上長決裁
・報告ライン…営業部課長に週1回の報告、月1回の面談

■ 実務で導入する際の進め方

中小企業では、「紙に書くより、まず動け」という現場気質も
根強くあります。しかし、以下のステップで無理なく進められ
ます。
1.まずはモデル職種から始める(例:営業/総務/店舗責任
者)
2.社員本人に「自分の仕事を棚卸し」してもらう(1週間分
の業務記録を取らせる)
3.経営者や管理職が「どこまでを期待しているか」をすり合
わせる
4.簡易的でもよいのでフォーマットに落とし込み、共有する
5.半年に1回は見直す(仕事は変わっていくため)

■ 職務の明文化がもたらす5つの効果

1.社員が「やるべきこと・やらなくてよいこと」が明確にな
り、過剰な負荷を防げる
2.評価の透明性が増し、納得感のあるマネジメントが可能に
3.属人業務が減り、誰が抜けても引き継げる体制ができる
4.無理なく、静かな退職のリスクを減らせる
5.人材育成がしやすくなり、外部人材や若手の受け入れもス
ムーズに

■ 中小企業だからこそ、“見える化”が武器になる

職務の明確化というと、「うちの会社には難しい」「そこまで
整備する余裕はない」と考える方も多いかもしれません。しか
し、規模が小さいからこそ、1人の役割が明確になることで全
体の動きがスムーズになるのです。やるべきことと、やらなく
てよいことを明確にする。これは、社員を楽にするだけでなく、
経営者が安心して任せるための“仕組み化”でもあります。
まずは一職種、一枚の紙から。御社の人材力が、より生産的で
持続可能な力に変わる第一歩になります。

「為替と金利は予測不能」が大前提です。足元ではドル円が
150 円前後、長期金利が1%台ですが、これがさらに進むのか、
反転するのかは誰にも言い切れません。そこで、「もし円安・
金利上昇が続いたら得をし、戻っても大きな損をしない」とい
う保険的な視点で、為替予約と借換えの使い方を整理します。

1.為替予約は層でリスク分散
為替予約は未来の方向性を当てる手段ではなく、レート変動を
平準化する道具と割り切りましょう。半年分を一括予約すると
当たり外れが大きくなるため、月次・四半期・半期の三層に分
け、必要量の 50~70%を上限にヘッジする方法が無難です。
将来円高に戻った場合でも、予約していない部分が恩恵を受け
るため、全体の損益はならされます。

2.請求通貨を変えるヘッジしない選択肢
輸出企業でドル建て売上が多い場合、円安はプラスに映ります
が、部材や物流が同じドル建てなら利益は相殺されがちです。
ユーロや円建てへの請求変更は交渉コストがかかるものの、為
替変動の影響自体を減らすという根本的な対策になります。交
渉が難しければ、最低でも契約更新のタイミングで検討する価
値はあります。

3.変動→固定へ借換える目安
金利上昇が続く可能性もあれば、早期に打ち止めになるシナリ
オもあります。判断に迷うときは、「残存期間3年以上・借入
残高が大きい・今後金利が 0.5%以上上がると試算される」こ
の3条件がそろったら固定化を検討するのが一つの目安です。
借入全体の 50~70%程度を固定にする折衷策なら、上昇局面
でも変動のメリットを一部残せます。

4.銀行交渉はシミュレーション表を作成
「円がさらに5円安く、金利が 0.3%上がったらどうなるか」
というシミュレーション表を銀行に示すと、対策の必要性が客
観的に伝わります。逆に円高・金利低下のケースも併記し、ど
ちらに振れても資金繰りが耐えられる設計であることを示しま
しょう。リスクが数字で見える企業は、格付けの非財務評価で
もプラスに働きやすくなります。

【まとめ】
・先行きを当てるのではなく、振れ幅を抑える保険を掛ける発

・為替予約は層を重ねて平均化し、上限を需要の 50~70%に
抑える
・借換えは「残高・期間・想定上昇幅」の3条件で固定比率を
決定
・どちらの策も、円高・金利低下時に致命的な損を出さない設
計が鍵

どうなるか分からない局面だからこそ、当てるより守るアプロ
ーチで資金繰りの安定を図りましょう。

近年、若手社員を中心に「静かな退職(Quiet Quitting)」が
注目を集めています。これは仕事を放棄する退職ではなく、必
要最低限の業務はこなすが、それ以上の負荷や熱意は求めない
働き方です。海老原嗣生氏の著書『静かな退職という働き方』
では、この現象が単なる個人の怠慢ではなく、むしろ時代の要
請であり、世界の労働観の変化に対応した合理的な選択である
ことが明らかにされています。

とりわけ注目すべきは、本書第2章「欧米の標準」で紹介され
ている、海外における労働とマネジメントの在り方です。そこ
から私たち中小企業経営者が学ぶべきことは多く、いまや“熱
意による管理”の限界を認め、“成果と環境の両立”を軸にした
マネジメントへと転換することが急務です。

■ 欧米の働き方、「静かな退職」はむしろ標準

欧米では「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が明
確に定められており、労働者はその範囲内で成果を上げること
が求められます。上司が部下に業務外の雑務を頼むことはタブ
ー視され、残業も原則ありません。著者は、アメリカの事例と
して「定時退社後、携帯を切って家族と過ごすマネージャー」
の姿を紹介しています。そこにあるのは、「生活があってこそ
の仕事」という合理的な価値観です。

一方、日本では「気を利かせて動く」「言われなくてもやる」
といった“心のサービス”が美徳とされてきました。結果として、
労働者は曖昧な期待と過重労働に晒され、心理的離職(静かな
退職)を選ぶ人が増えています。

■ 中小企業こそ「静かな退職」をマネジメントの転換点に

この「静かな退職」は、大企業に限らず、中小企業にとっても
見過ごせない問題です。従業員数が少ない分、ひとりひとりの
モチベーションや稼働率が経営に直結するからです。

しかし、ここで考えたいのは、「静かな退職」を否定するので
はなく、それが“過剰期待に対する防衛反応”であることを受け
止めることです。欧米のように、業務の線引きと評価基準を明
確にし、社員が「何をどこまでやればいいか」を安心して理解
できる環境を整えることで、静かな退職は未然に防げます。

■ 今後のマネジメントに対する提言

以下に、海老原氏の示唆をもとにした中小企業向けの具体的な
対応策を示します。

【1】職務範囲の明文化と共有
業務の属人化や曖昧な役割分担は、無意識の負荷増加を招きま
す。各職種・ポジションごとに「やるべきこと/やらなくてよ
いこと」を可視化し、本人とすり合わせる仕組みを構築しまし
ょう。

【2】「熱意」より「成果」評価へ
従来の「頑張っている姿勢」や「遅くまで残っている人」を評
価する風土は、静かな退職を誘発します。時間や態度よりも成
果や改善提案、数字などの定量評価に軸足を移すことが重要で
す。

【3】定時退社を前提とした業務設計
「忙しいこと=良いこと」という価値観は見直すべきです。定
時で終われる設計を前提に業務量や会議時間を再構築し、生産
性向上を意識した働き方を促しましょう。

【4】「期待の押しつけ」から「選択の提案」へ
例えば「もっと学んで欲しい」「リーダーをやって欲しい」と
いった期待は、裏目に出ることもあります。キャリアの選択肢
を提示し、本人の意思に委ねる姿勢が信頼を築きます。

【5】1on1ミーティングの制度化
定期的な対話によって、「何にモヤモヤしているか」「過剰に
抱え込んでいないか」を確認できます。上司からの一方的な指
導ではなく、双方向の確認と共感がポイントです。

■組織の“静かな成長”を目指して

「静かな退職」は怠けのサインではありません。むしろ、時代
と働き手の価値観が変化していることを知らせる警鐘です。欧
米ではすでに標準化しているこの「働きすぎない」文化は、む
しろ人材を長期的に活かす合理的な方法とも言えます。

日本の中小企業がこれからも持続的に成長していくためには、
「熱意や根性頼み」のマネジメントから、「役割の明確化と成
果重視の信頼型」マネジメントへと移行することが不可欠です。
社員が静かに“心を退職”してしまう前に、静かにマネジメン
トの舵を切ること、それが今、経営者に求められている変化で
す。