…前回号のつづきです。
■『ルールメーカー』になることを経営目標においてください。

◆1:新しいルールを作り上げた企業は、『ルールメーカー』
として隆々と生きています。
◆2:誰かが作ったルールにいち早く適合した企業は、
『準ルールメーカー』としてうまく経営できています。
◆3:その他の企業は、昔から存在するルールに従う『ルール
の適合者』です。『ルールの適合者』は、そのマネージ
メントやマーケティングが相対的に優れている時にのみ、
一定の規模と利益を享受できます。

優良企業や、特に新規上場を果たすような企業群は、そのほと
んどが『ルールメーカー』又は『準ルールメーカー』です。
ルールの適応範囲の大小にかかわらず、新しいルールを構築で
きた企業群に対して、世間は高い評価を与えます。それが高い
利益率であり、高額な企業価値(時価総額)です。

※ここで言うルールとは、消費者に提供する新しい価値のこと
を指します。企業側から考えると、新しい事業立地を創造する
ことです。今まで世の中に存在しなかった製品やサービスのこ
とです。

■『ルールメーカー』とはだれか?

○機械式時計をクオーツに置き換えた日本の時計メーカーは典
型的な『ルールメーカー』です。精工で高価な時計を、廉価で
大量生産できる時計に置き換えたのです。この変化が起きた
1980年頃に、スイスの時計職人六万二千人のうち、五万人
が職を失ったと言われています。すさまじいスピードのルール
変更(パラダイムシフト)だったようです。

○ネット通販を浸透させたネット通販大手も典型的な『ルール
メーカー』です。ネット通販での売上の多くは、間違えなくリ
アル店舗から奪い取ったそれです。モノは店で買うというルー
ルから、モノはネットで買うというルールに変わったのです。

○数十年前、自動車の動力はガソリンエンジンでした。今後は、
電気、ハイブリッド…自動車の動力が変わりました。これもル
ール変更です。

すべてのルール変更には、勝者と敗者が存在します。変更前の
勝者が変更後も勝者になったケースはほとんどありません。勝
者は、現存するルールや過去の経験や知識に縛られてしまって
いるからです。

シュンペーターは、変革(ルール変更)を妨げる三つのハード
ルとして以下を挙げています。
1.経験よりも洞察を必要とするが、経験に頼りがちであること。
2.実証されていない新しいことを始める難しさ。
3.新しいことを始めることで受ける、社会からの抵抗と批判。
シュンペーターは、新結合(ルール変更)を狙う企業家は、
(当初は)潮の流れに逆らって泳ぐようなものだ、とも述べて
います。

■中小企業も『ルールメーカー』になれます。

○「卵を一切使わないのに、ちぎってそのまま食べられるほど
柔らかくて、ほんのり甘い。目指したのはそんな究極の食パン
でした。」〔乃が美さんのHPより引用〕、1斤400円(税別)
の食パンです。食パンの定義を見直し成功された『ルールメー
カー』です。
http://nogaminopan.com/goods_list/

○「金仏壇から現代仏壇へ」、住まいの洋風化、コンパクト化
に対応した新しい仏壇を創造した企業様があります。仏壇業界
で初めてのGOODデザイン賞を受賞されています。仏壇・仏
具に関する『ルールメーカー』として、業界のけん引役を担わ
れるはずです。
https://yagiken.co.jp/movie/

○僭越ですが、当事務所が提唱する『新・税理士』宣言も、皆
様に対して新しいルールを提唱しています。税務の専門家であ
る『税理士』業務に付加して、金融機関対応を含む財務業務を
プロとして担う『新・税理士』としての役割の提案です。当事
務所は『税理士』ではなく、『新・税理士』と宣誓しています。

◎自社が、その力相応に創造できる新しいルールは必ず存在し
ます。容易ではありませんが、この新しいルール、新しい事業
立地を求め続けてください。併せて、『ルールメーカー』が創
る新しいルールには敏感に対応してください。

数百万円の資金を元手に行うビジネスより、数千万円の資金を
元手に行うビジネスの方が、より大きなリターンを得ることが
できます。思い切った資金調達を行い、事業を拡大できた飲食
店様の事例を紹介します。下記A社は、「もっと大きな店舗を
経営したい。当社は最大どれぐらいの資金調達が可能なのか?」
というご相談で来所されました。

会社名:A社(仮称)
事業内容:飲食店3店舗経営
営業年数:9年
資本金:300万円
直近売上高:6,400万円
経常利益:14万円
長期借入金:1,600万円
純資産:339万円

年商1,000万円のBARを2店舗、年商4,400万円の
レストランを1店舗運営していましたが、経常利益は14万円
と低い利益状況に苦しんでいました。社長様は、1,000万
円規模の小規模店舗では利益が稼げないため、BAR2店舗を
閉めて、出来るだけ大きな店舗を新たに1店舗出店したいと考
えていました。

決算状況を分析した結果、返済原資となる簡易キャッシュフロ
ーは102万円と弱含み、また、売上高の25%の借り入れが
既にあり、新規で調達を行うためには、事業計画書を丁寧に作
りこむ必要がありました。

早速事業計画書の作成に取り掛かった結果、社長様がイメージ
している年商5,000万円の店舗を出店するためには、
2,000万円の借入が必須であると判明しました。目標調達
額は2,000万円です。

A社の利益状況、財務状況から判断すると、2,000万円と
いう目標額は簡単な金額ではありません。1つの金融機関に相
談しても、「金額が大きすぎる。」と断られる可能性がありま
したので、各金融機関の負担が軽くなる協調融資で調達するこ
とにしました。日本政策金融公庫と地域の信金に声をかけ、3
者で協議を行った結果、下記のとおり、満額の資金を獲得する
ことができました。

【資金調達内訳】
・日本政策金融公庫 1,000万円
・信金保証付融資 500万円
・信金プロパー融資 500万円

A社は、調達した資金で立地の良い場所に出店を行い、計画ど
おり事業を軌道に乗せることができました。翌期の決算では、
2店舗を閉めたにもかかわらず、売上高が1億円を超え、約
700万円の経常利益を計上しています。

借入を活用して、より大きなビジネスに挑戦したいとお考えの
経営者様は、是非当事務所にご相談ください。

『経済における革新は、新しい欲望がまず消費者の間に自発的
に現われ、その圧力によって生産機構の方向が変えられるとい
うふうに行われるのではなく…(略)…、むしろ新しい欲望が
生産の側から教え込まれ、したがってイニシアティブは生産の
側にあるというふうにおこなわれるのが常である』
〈経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気
の回転に関する一研究〈上〉
(岩波文庫)文庫、ヨーゼフ・ シュムペーター (著)〉

■成熟社会における商品やサービスの開発について、大きなヒ
ントを、シュンペーターは提供してくれています。

・過去の経験や知識を探るだけでは、なかなか良い商品やサー
ビスは生み出せません。
・もう一つ、大局的な創造力・提案力が必要です。

○日常的に高頻度で消費する食品や雑貨、様々なサービスを、
消費者の近隣に高密度で配置したコンビニチェーン、この業態
を消費者は自ら望んだでしょうか?これらを利用してその恩恵
を知り、結果としてなくてはならないそれになったはずです。

○街中のいたるところに出来上がったコインパーキング場、自
動車を足として利用する人たちにとってはなくてはならない存
在です。小規模な遊休地を活用して、時間単位で課金する仕組
みを開発できたからこれらが成立しています。

○スマートフォンを手元に置いているはずです。この様な機能
を備えたIT端末を消費者は自ら望んだでしょうか?こんなこ
とができるから、便利で楽しいから、…ぜひ使ってください、
といわれて使い始めたら手放せなくなったはずです。

■シュンペーターは、これらの新しい何かを生み出すために
『5つの新結合』を提唱しています。

1.新しい財貨(製品)
・消費者がまだ知らない製品、または品質など。
2.新しい生産方式
・新しい生産方式や取扱い方法など。フランチャイズ方式など
も含まれる。
3.新しい販路の開拓
・従来の販売先ではない先など。
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
・原料や半製品の新しい使い方など。
5.新しい組織の実現
・古い企業ではなく、新しい企業の出現など。

シュンペーターは、これらの新結合(イノベーション)を起こ
す経営者のことを企業家(起業家)と呼んでいます。また、企
業家であることと、事業を単に運営することとは別の行為であ
ると区別しています。

■シュンペーターは、変革を妨げる三つのハードルとして以下
を挙げています。

1.経験よりも洞察を必要とするが、経験に頼りがちであること。
2.実証されていない新しいことを始める難しさ。
3.新しいことを始めることで受ける、社会からの抵抗と批判。

シュンペーターは、新結合を狙う企業家は、(当初は)潮の流
れに逆らって泳ぐようなものだ、とも述べています。

■シュンペーターが提唱するイノベーションとは…

1.新たな欲望を生む魅力を消費者に提示する。
2.5つの新結合をヒントにする。
3.企業家であり続ける。

今から事業を立ち上げる経営者だけでなく、今隆々と経営を続
けている経営者にも、イノベーションは必要です。継続してイ
ノベーションを続けて行かなければ、いつかは衰退の憂き目に
甘んじるからです。

『社会の上層はいわばホテルのようなものであって、いつも人
々で一杯ではあるが、いつも違った人々で一杯なのである。こ
の人々というのは、われわれ多くのものが認めようとするより
もはるかに著しい程度で下から上がってきた人々である。』
〈経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気
の回転に関する一研究〈下〉
(岩波文庫)文庫、ヨーゼフ・ シュムペーター (著)〉

参考図書:
「古代から現代まで2時間で学ぶ戦略の教室」
(ダイヤモンド社、鈴木博毅氏著)

中小企業経営強化税制は、平成31年3月31日までが適用期限と
されていましたが、平成31年度の税制改正により、適用期限が
2年延長されることになりました。

この制度は、中小企業の設備投資を支援する税制措置で、中小
企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けた中小
企業が対象となります。しかし、中小企業庁によりますと、平
成31年3月31日現在の認定件数は84,666件となっており、認定
を受けておられる中小企業様は、まだまだ少ないのが現状です。

経営力向上計画の認定制度とは、経営力向上のための人材育成
や財務管理、設備投資などの取組を記載した「経営力向上計画」
を事業所管大臣に申請して認定を受ける制度です。特に、設備
投資を予定している企業様にとってはメリットがありますので、
認定取得に挑戦してみてはいかがでしょうか。

◆ 経営力向上計画の認定を受けるメリットは次のとおりです。

・計画に基づいて行った設備投資について全額を即時償却する
ことができる。

・もしくは、設備投資額の7%から10%の税額控除を受けるこ
とができる。

◆ 認定取得の具体的な流れは次のとおりです。

1.工業会等による証明書や、経済産業局による投資利益率に
関する確認書を取得する。

2.当該設備を利用し生産性を上げるための「経営力向上計画」
を策定し、各事業分野の担当省庁から認定を受ける。

2で策定する「経営力向上計画」が大変そうだと思われるかも
しれませんが、A4サイズの申請書を2枚記入するだけですの
で、それほど大変な作業ではありません。

例えば、中小企業経営強化税制を使って500万円の設備投資を
行ったとします。即時償却を使った場合は500万円全額を当期
の経費にすることができ、税額控除の場合は、50万円を法人
税から控除することができます。(税制措置の利用については
様々な要件がございますので、必ず顧問税理士にご確認くださ
い。)

まずは経営力向上計画の認定を受けることから始まります。関心
のある方はご相談ください。

…前回号からのつづきです。

■頑張りすぎる経営からの脱却!目指すべきは『ダム経営』
(松下幸之助先生)です。

◎以下は、『ダム経営』(松下幸之助先生)の要点です。

『ダム経営とは、経営に必要な人・モノ・金に余裕を持った経
営をする方法のことです。例えば、工場で機械が100%動い
ていなければ利益が出ないようでは、何かがあればすぐに利益
が出なくなります。そうではなく、80%稼働でも利益が出る
ようにしなければなりません。人に対しても同じです。社員の
80%が働けば利益が出るようにすることを指します。資金に
ついても、例えば、銀行から融資を受ける時にも、返済に余裕
があるようにすることです。…ダム経営とは、人・モノ・金に
余裕を持たせることです。』

◎以下、松下幸之助先生のダム経営の講演を聴いた経営者との
有名なやり取りです。

(某経営者)「うちの会社は人も金も汲々としている。松下さ
んのような大企業はダム経営ができるかもしれませんが、我々
のような小さな会社がダム経営をできるようにするにはどうす
ればいいのですか?」

(松下幸之助先生)「どうしたらダム経営ができるようになる
のか、方法論は私にもわからない。しかし、そうなりたいと強
く思うことが重要だ。」

■『ダム経営』(松下幸之助先生)を導入するためには…

◆正解は「そうなりたいと強く思うこと」(松下幸之助先生)
です。これが松下幸之助先生のよく考えられた末のご回答です。

ただし、具体論として敢えて付け加えるならば、
◆その1:余計なものを徹底的に削ぎ取る経営を行うこと、ズ
バリ経営の【単純化(絞り込み)=Simple化】です。な
ぜなら、少なくない中小企業は、過去において長期間『増収と
拡大』を第一義に経営してきました。その過程で、数多の余計
なモノと事に埋もれています。結果として、経営資源が分散さ
れ、社内のありとあらゆるものが複雑になり、動きが悪くなっ
ています。対応が遅くなり、ミスが多発し、全体にコスト高に
なっています。各商品やサービスの磨きこみも十分でなく、総
花的な品揃え、サービスを提供しており、これといった強みも
ない状況に陥っているからです。経営が散らかっているのです。

◆その2:利益を優先する経営を行うこと、ズバリ経営の【高
収益化=Profitable化】です。なぜなら、過去にお
ける長期間の『増収と拡大』一辺倒の経営は、時に利益をない
がしろにしても仕方ないとの考え方を広く社内に浸透させてし
まっているからです。『利益より売上、利益より規模の拡大』
とする無言のスローガンを社内に根付かせてしまっています。

『減収(売上減)と規模の縮小』を一定期間容認し、【単純化
(絞り込み)=Simple化】と【高収益化=Profitable化】
を具体的な施策として取り組むことで、『ダム経営』の実現を
目指すことを当面の課題とする経営に舵を切られることをお薦
めします。経営が、会社が大きく変わるはずです。

人口減少に起因する市場規模の縮小、市場の成熟化、さらには
働き方改革が叫ばれる令和の時代には、過去の我武者羅に頑張
る経営では到底生き延びて行けないように感じます。今こそ、
『余力のある経営』を目指すべきではないでしょうか。

※昭和の高度成長期において、『ダム経営』を提唱された松下
幸之助先生は、まさに『経営の神様』です。改めて敬意を表し
たいとの思いで一杯です。

銀行対応をスムーズに行うためには、銀行のルールを理解する
ことが大切です。本日は、「債務償還年数」について解説いた
します。

債務償還年数とは、融資先が借入過多に陥っていないかを判断
するための指標です。借入が大きい(債務償還年数が長い)
ほど、新たな融資は出しにくくなります。

債務償還年数を理解するためには、まず簡易キャッシュフロー
を知らなくてはなりません。簡易キャッシュフローとは、会社
が1年間で返済可能な額を表します。計算式は「純利益+減価
償却費」です。純利益とは、税金を払った後の会社が自由に使
えるお金です。減価償却費は、帳簿上経費ですが、実際にお金
が出て行った訳ではありませんので、同額の資金が手元に残っ
ていると考えます。

例えば、減価償却費が500万円あったうえで、純利益が
300万円出ている会社であれば、500万円+300万円の
計800万円が簡易キャッシュフローとなります。

次は借入についてです。債務償還年数を考える上においては、
実際の借入額をそのまま借入額とする訳ではありません。次の
算式で導きだした額を借入額とします。

・有利子負債残高-現預金-所要運転資金

有利子負債とは役員借入金等は除いた金融機関等からの借入を
指します。割引手形も含みます。

一方で、保有している預金を差し引かなければ純粋な借入残高
は出ませんので、現預金を有利子負債から差し引きます。

借入額の算出はこれで終わりではありません。さらに、経常的
に必要な運転資金は借入から差し引きます。

例えば、有利子負債が4,000万円、現預金が1,000万
円、所要運転資金が1,000万円の場合、4,000万円-
1,000万円-1,000万円=2,000万円が借入額と
なります。

債務償還年数とは、借入を何年で返済できるかという指標です
ので、今回のケースは、借入額が2,000万円で、年間の返
済可能額は800万円ですので2,000万円÷800万円=
2.5年となります。

一般的に債務償還年数が10年を超えると新たな借入はしにく
くなります。

…前回号からのつづきです。

■拡大発想からの脱皮!

○例えば、従業員数は多い方が良いのか?
力があれば、たくさんの従業員を抱え、その雇用と教育機能を
果たすことには大きな社会的意義があります。100人を雇用
する会社よりも、500人の従業員を抱える会社の方がこの意
味でははるかに立派です。ただし、力があれば、力相応の範囲
で、この条件が付帯します。
力相応を越えた部分の雇用には、会社側も、雇用される側の従
業員にも、様々は問題を内包することになります。

○例えば、店舗数は多い方が良いのか?
10店舗の高収益店舗と、5店舗の採算分岐点ギリギリの店舗
の合計15店舗を経営する飲食企業と、10店舗の高収益店舗
のみを経営する飲食企業、どちらが良い会社か?との意味です。
イメージとしては、前者は年商15億円、営業利益1億円、
後者は年商10億円、営業利益1億円になります。

少なくない中小企業経営者が、従業員が多い方、規模が大きい
方を我武者羅に目指しているように見えます。この考え方は、
時に規模拡大至上主義を招きます。

■縮小を容認する計画を!

貴社が、上記のような考え方を長期間続けていたならば、一度
発想を変えてみることをお薦めします。規模の縮小を容認する
考え方です。

○例えば、どんどん人を増やして売上を作りに行くよりも、仕
事を選別して増員を控える選択肢を用意することです。マネー
ジメントは、その規模が小さいほど容易になります。

○例えば、収益の見込めない分岐点ギリギリの店舗は手放して
しまう選択肢を用意することです。店舗数が減ると、マネージ
メントは容易になります。

規模の拡大には、力相応の拡大と力不相応の拡大があります。
言いかえると、自然に成長した拡大と、無理やり伸ばした拡大
があります。後者には大きなストレスが伴っているケースが多
いです。縮小を容認することで、会社に余力が生まれます。

■以下のような仮説が生まれます。

『日本の企業は規模の拡大にこだわり過ぎています。何が何で
も規模を拡大しようとすると、規模を拡大するために多くの犠
牲を払うことになります。経営上無意味な不採算事業や不採算
顧客を過度に温存することになります。規模拡大至上主義は、
分散症候群や安売り症候群を招く原因のひとつです。脱・規模
拡大至上主義、縮小を容認する経営に移行してください。』

言うまでもなく規模は重要です。規模の縮小を容認する経営を
長期間続けることは困難です。数年に一度、または、数年間に
限定して、敢えて規模の縮小を容認する経営を導入してくださ
い。
今まで取り組んでいなかった会社様は、向こう数年間に限定し
て、敢えて縮小を容認する事業計画を立案して執行してくださ
い。経営が、会社が大きく変わります。

ある関与先様の事例ですが、銀行に融資を申し込んだところ、
売上が急激に伸びていることを懸念され、融資を断られそうに
なりました。通常、売上が伸びることは良いことですので、意
外に思われるかもしれませんが、金融機関は急成長企業を敬遠
することもしばしばあります。

「急成長企業が突然倒産した。」といったニュースを耳にされ
たことがあるかもしれませんが、急激な売上の増加は、場合に
よっては倒産確率も高めます。倒産確率が高まる要因は、急な
成長に、「人がついていけない。」「商品サービスのクオリテ
ィが維持できない。」など様々ありますが、結果として、資金
が回らなくなることが直接的な要因です。

■ 急成長企業が陥りやすいパターン
1.売上を伸ばすためには、設備投資、仕入や人員の増加等が
必須です。急成長を目論む企業は、銀行から最大限の資金
調達を行って、他の企業よりも多くの資金を事業に投資し
ます。
2.投資に比例して売上や利益が伸びると、銀行がさらに融資
をしてきます。その融資金を事業に投資して、さらに売上
と利益を伸ばします。売上や利益が伸びると、銀行がさら
に融資をしてきます・・・繰り返します。
3.やがて投資をしても売上や利益に反映されない踊り場が訪
れます。しかし、銀行から融資を止められないようにする
ため、踊り場でも無理をします。無理な経営が何らかのト
ラブルを招き、利益が大きく損なわれます。
4.赤字に転落することで融資が止まり、たちまち資金が回ら
なくなってしまいます。

弊所は、「資金は借りられる時に借りられるだけ借りましょう。」
というメッセージを平素から発信していますが、その目的は、
いざという時のために手元資金にゆとりを持ちましょうという
ことであり、限界まで事業に投資をすることを推奨している訳
ではありません。手元資金をしっかりと確保して倒産リスクを
回避しながら、自社に合った無理のないスピードで成長を目指
すことを指針としています。

早く会社を大きくしたいという思いは経営者として当然のこと
と思いますが、踊り場に来たと感じたら、一休みしてはいかが
でしょうか。一旦成長を止めることで、増加運転資金が不要に
なりキャッシュフローが改善されます。踊り場で少し体力をつ
けてから再度成長を目指すのが、無理のない財務戦略だと考え
ます。

冒頭の関与先様ですが、創業から現在までの4年間の資金繰り
実績表を銀行に提示し、やみくもに成長を目指してきた訳では
なく、安全性を確保できる範囲で資金を事業に投資してきたこ
とを理解してもらいました。結果、無事に満額の融資を受ける
ことができています。

■増収(売上増)発想からの脱却!

事業計画を作る時には、売上は当然伸びるとする会社様が大半
です。
例えば、今後5年間毎年売上を伸ばし、その中で原価と費用を
賄いながらも営業利益を少しは増やす、このような計画が大半
です。増収を前提にした計画です。計画書作成後は、売上の達
成状況を第一義に確認しながら経営を行います。売上目標の達
成のためには、原価や販管費の上昇も仕方ないと考えてしまう
ようです。この考え方は、時に売上至上主義を招きます。

■減収(売上減)を容認する計画を!

貴社が、上記のような考え方を長期間続けていたならば、一度
発想を変えてみることをお薦めします。減収(売上減)を容認
する考え方です。
例えば、次年度の計画を作る時に、売上は2%減じても良いと
する一方、粗利益率は2%向上する目標を立てます。この時、
ほとんどの会社様は減収&増益になります。減益にはなりませ
ん。売上を何としても死守する発想を捨てることができれば、
筋の悪い売上を捨てることができます。経営が、会社が大きく
変わります。

売上には筋の良い売上と筋の悪いそれがあります。言いかえる
と、無理なく立てた売上と、無理して立てたそれです。後者は
概ね薄利(赤字)であり、時に大きなトラブルを招きます。
減収を容認することで、後者の売上を捨てることができます。

■以下のような仮説が生まれます。

『日本の企業は売上高確保、増収(売上増)にこだわり過ぎて
います。何が何でも売上高を確保しようとすると、売上高を確
保するために多くの犠牲を払うことになります。利益を犠牲に
した安易な値引きや安い値決めを招きます。利益に見合わない
過大な広告コストを支払う羽目になります。採算を度外視した
幅広い品ぞろえや長時間営業を行うようになります。顧客の過
度な要求を受け入れてしまいます。売上至上主義は、分散症候
群や安売り症候群を招く原因のひとつです。脱・売上至上主義、
減収(売上減)を容認する経営に移行してください。』

■繁盛貧乏からの脱却を!

会社は、忙しければ相応に利益が出るはずです。【繁盛高収益
状態】です。逆に、利益が出ていなければ暇なはずです。【閑
散貧乏状態】です。ところが、少なくない中小企業は忙しいの
に利益も出ていない状況に陥っています。【繁盛貧乏状態】で
す。ここに大きな疑問を持ってください。
筋の良い売上に付加して、筋の悪い売上を無理やり取りに行っ
ていることが原因のひとつです。この不要な売上を排除するた
めに、減収(売上減)を容認する経営を一時的に行うことは有
効です。

言うまでもなく売上は重要です。2%の減収でも5年続けば
10%売上が減じます。減収を容認する経営を長期間続けるこ
とは困難です。数年に一度、または、数年間に限定して、敢え
て減収を容認する経営を導入してください。
今まで取り組んでいなかった会社様は、向こう数年間に限定し
て、敢えて減収を容認する事業計画を立案して執行してくださ
い。経営が、会社が大きく変わります。

新規資金調達と既存借入の借り換えにより、リスケジュールを
回避した事例をご紹介します。下記A社は、「資金繰りが厳し
いので借入のリスケジュールを検討している。どのように進め
ればよいか?」というご相談で来所されました。

会社名:A社(仮称)
事業内容:広告デザイン業
営業年数:22年
資本金:2,000万円
直近売上高:約1億円
直近純利益:約▲300万円
有利子負債総額:約3,400万円
自己資本:約200万円

まず直近の決算書を拝見したところ、売上高が急激に落ち込ん
でおり、純利益は2期連続で赤字という状況でした。しかし、
足元の試算表を確認すると、9カ月経過時点で424万円の経
常利益が出ています。人員を減らすなど、固定費削減努力の効
果のようです。

当初はリスケジュールのご相談でしたが、リスケジュールはデ
メリットもあるため、出来れば避けたい手段です。足元の利益
が継続できれば、新たな資金調達と既存借入の返済期間を長期
化することで資金繰りが改善できると考えました。

早速説明資料を作成し、ある信用金庫の担当者に借り換えの相
談をしました。財務状況にいくつか問題点はあるものの、毎月
70万円を返済してきた実績を評価していただき、前向きに取
り組んでいただくことになりました。

結果は次の通りです。

【既存借入の状況】
・K銀行保証付融資残高 27,674千円(返済額374千円)
・日本政策金融公庫残高 6,300千円(返済額300千円)
・合計借入残高 33,974千円(合計返済額674千円)

【借り換え後】
・H信金保証付融資 11,202千円(返済額133千円)
・H信金プロパー融資 16,472千円(返済額196千円)
・日本政策金融公庫 10,000千円(返済額142千円)
・合計借入残高 37,674千円(合計返済額471千円)

新規の資金調達が3,700千円できた上で、毎月の返済額を203
千円引き下げることができました。

H信金の担当者によると、「直近の決算が赤字の場合、新規で
取り上げるのは通常難しいが、返済が可能であることを資料で
丁寧に説明いただいたことが良かった。」と仰っておられまし
た。リスケジュールをする前に、借り換えという選択肢も検討
してみてください。