あるスタートアップ経営者から資金調達の相談を受けました。
エクイティで〇億円の調達を行ったが、次回はより高い株価で
エクイティファイナンスを実施したいため、まずはデッドファ
イナンスを活用して業績を向上させたいと考えている。しかし、
デッドファイナンスの経験がなく、自身で金融機関をあたった
が、反応は良くないというものでした。

エクイティを提供する投資家と、デッドを提供する金融機関で
は、考え方が全く異なります。それぞれのポイントをおさえた
事業計画書を、2つ用意する重要性について解説します。

■ エクイティファイナンスとは?
エクイティファイナンスは、企業が株式を発行して投資家から
資金を調達する方法です。投資家は企業の成長性や市場での拡
大可能性を重視します。このため、エクイティ用の事業計画書
では、以下の要素を強調することが求められます。

・成長戦略:市場規模や成長予測、競合優位性を明確にし、ど
のようにして市場シェアを拡大するかを示します。

・革新性:製品やサービスの独自性や革新性をアピールし、な
ぜそれが市場で成功するのかを説明します。

・チームの強み:経営陣やチームの経験や実績を強調し、プロ
ジェクトを成功に導く能力を示します。

数値計画は、大きな売上、大きな利益を描かないと投資家から
は魅力を感じてもらえません。

■デッドファイナンスとは?
デッドファイナンスは、銀行や金融機関からお金を借りる方法
です。金融機関は、企業が安定して利益を上げ、確実に返済で
きるかどうかを重視します。デッド用の事業計画書では、次の
要素が重要です。

・収益性:具体的な収益予測や利益率を示し、安定したキャッ
シュフローを確保できることを証明します。

・リスク管理:リスク要因を特定し、それに対する対策を明示
することで、金融機関に安心感を与えます。

・返済計画:具体的な返済スケジュールや資金繰り計画を提示
し、確実に返済可能であることを示します。

大きな売上、大きな利益ではなく、返済可能な安定した収益と
利益を確保できるかを重視します。

■ まとめ
スタートアップが資金調達を行う際には、エクイティとデッド
の違いを理解し、それぞれに適した事業計画書を用意すること
が重要です。これにより、資金調達の成功率を高め、企業の成
長を加速させることが可能となります。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

本年5月に公開された上記の白書の概要について、抜粋して引
用いたします。詳細は以下を確認してください。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/2024gaiyou.pdf

『事業者が直面している課題として、売上高が感染症による落
ち込みから回復し、企業の人手不足が深刻化していることが挙
げられる。今後の展望として、就業者数の増加が見込めない中
で、日本の国際競争力を維持するためには、省力化投資や単価
の引上げを通じて、中小企業の生産性を向上させていくことが
期待される。』

(中小企業白書)
成長する中小企業の行動を分析すると、企業の成長には、人へ
の投資、設備投資、M&A、研究開発投資といった投資行動が
有効である。また、成長投資に伴う資金調達手段の検討も必要
である。

(小規模企業白書)
小規模事業者は、中小企業と比べ厳しい経営環境にある中で、
コストを把握した適正な価格の設定や、顧客ターゲットの明確
化に取り組むことで、売上高の増加につながることが期待でき
るほか、支援機関の活用も効果的である。また、新たな担い手
の参入も生産性向上の効果が期待できる。

◆人手不足
・売上高が感染症の落ち込みから回復する中で、人手不足が深
刻化。
・これまでは、生産年齢人口の減少を補う形で女性・高齢者の
就業が進んできたが、足下は就業者数の増加が頭打ちとなり、
人材の供給制約に直面。

◆雇用者一人当たり労働時間の減少と人手確保のための取組
・時間外労働の上限規制に伴い、雇用者一人当たり労働時間の
減少が労働投入量を下押ししている。
・人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・
制度の整備が進んでいる。

◆人材確保・育成
・人材の確保に向けては、経営戦略と一体化した人材戦略を策
定した上で、職場環境の整備に取り組むことが重要。
・人材育成は、人材の定着や労働生産性の向上にもつながるこ
とが期待される。

◆賃上げ
・物価に見合った賃金の引上げを通じて、需要の拡大につなげ
る好循環を実現することが重要。
・春闘の賃上げ率・最低賃金の改定率は過去最高水準。一方で、
人材確保の必要性や物価動向を背景に、賃上げの原資となる業
績の改善が見られない中で、賃上げを行う企業が増加。

◆省力化投資
・人手不足への対応策として、採用等の人材確保に加えて省力
化に向けた設備投資も必要であるが、規模の小さな企業ほど省
力化投資が進んでおらず、省力化の取組余地が大きい。
・また、省力化投資は人手不足緩和だけでなく売上高増加にも
つながることが期待される。

◆生産性
・日本の経済成長は海外と比べ見劣りする中で、今後は就業者
数の減少が本格化する。
・国際的に見ても日本の生産性は低く、日本の国際競争力を維
持するためには中小企業の生産性の引上げが必要。

◆生産性の分子・付加価値の向上に向けて
・生産性向上に向けて、日本企業は低コスト化・数量確保の取
組を続けてきた。この結果、売上高や利益率は大企業が増加す
る一方、中小企業は発注側の売上減価低減の動きの中で低迷。
・今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引上げによる生
産性の向上も追及する必要がある。

◆価格転嫁
・賃上げ原資の確保に向けては、価格転嫁の促進が重要。価格
交渉が可能な取引環境が醸成されつつあるが、コスト増加分を
十分に転嫁できておらず、転嫁率向上のための取組強化が課題。
・十分な価格転嫁のためには、適切な価格交渉が重要。 転嫁に
関する協議の実施とともに、商品・製品の原価構成を把握して
交渉を進めることが有効。

◆パートナーシップ構築宣言と取引の実態
・パートナーシップ構築宣言企業は非宣言企業と比べて、より
多くの発注先と価格協議を行っており、価格転嫁にもより高い
水準で応じている傾向にある。
・ただし、 協議に十分に応じていない企業も一定数存在するた
め、宣言の実効性向上のための取組も重要。

◆事業承継
・足下では経営者年齢の分布が平準化しつつあるものの、半数
近くの中小企業で後継者が不在。
・一方、後継者が決まっている中小企業においても、承継の課
題を抱えている企業が見られる。

◆経営改善・再生支援
・感染症の感染拡大以降、経営改善・再生支援のニーズが高ま
っている。
・金融機関の経営支援により、財務内容の改善等の効果が期待
できる。経営改善・再生支援の効果を高めるためには、関係機
関が一丸となって経営改善・再生支援に取り組むことが求めら
れる。

詳細は以下を確認してください。
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/PDF/2024gaiyou.pdf

経営者の皆様は、日々「売上を上げなければ」「利益を出さな
ければ」と考えているのではないでしょうか。これは「PL脳」
と呼ばれる思考パターンです。PLとは損益計算書のことで、
売上や利益を示す大切な財務諸表です。しかし、PLだけにと
らわれすぎると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。

■ PL脳の問題点
PL脳の最大の問題は、短期的な視点に陥りやすいことです。

1.売上至上主義:無理な値引きで売上を伸ばそうとし、利益
率が下がる

2.コスト削減偏重:将来への投資(研究開発や人材育成)を
削り、長期的な競争力が低下する

3.借入を避ける:「無借金経営」にこだわり、成長のチャン
スを逃す

これらは一時的にPLを良く見せますが、長期的には企業価値
を損なう可能性があります。

■ PL脳からの脱却
では、どうすればPL脳から抜け出せるでしょうか?

1.長期的視点を持つ:5年後、10年後の自社の姿を描き、
そこに向かって計画を立てましょう。

2.キャッシュフローを重視する:利益は会計上の数字ですが、
キャッシュは実際のお金の動きです。キャッシュフロー計算書
を定期的にチェックしましょう。

3.投資を恐れない:新しい設備や技術、人材への投資は短期
的にはコストになりますが、長期的な成長には不可欠です。

4.バランスシート(BS)も見る:PLだけでなく、BSも
確認しましょう。資産や負債の状況を把握することで、より総
合的な経営判断ができます。

5.非財務指標も重視する:顧客満足度や従業員のモチベーシ
ョンなど、数字に表れない要素も企業の価値を左右します。

■ 金融機関の理解を得るために
PL脳から脱却しようとすると、一時的にPLが悪化する可能
性があります。そのとき、金融機関の理解を得るのが難しいと
感じるかもしれません。しかし、多くの金融機関も企業の長期
的な成長を支援したいと考えていますので、以下のポイントを
押さえて、金融機関とコミュニケーションを取りましょう。

1.事業計画を明確に:なぜその投資が必要か、どのような成
果を期待しているかを具体的に説明しましょう。

2.定期的な報告:計画の進捗状況を定期的に報告し、信頼関
係を築きましょう。

3.キャッシュフロー重視:PLだけでなく、キャッシュフロ
ーの見通しも示しましょう。

4.業界動向の共有:自社の取り組みが業界トレンドに沿って
いることを説明しましょう。

PL脳から脱却し、長期的な視点で経営することは、決して難
しいことではありません。日々の小さな意識の変化から始めて
はいかがでしょうか。そうすることで、自社の真の価値を高め、
持続的な成長への道を切り開くことができると思います。

 

2018年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイド
ライン」を作成し「モデル就業規則」上で、それまで記載して
いた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規
定を削除しました。そして、新たに「第67条に労働者は、勤務
時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」
という、副業を認める条文を追記しました。上記から6年が経
過しましたが、副業が緩やかに浸透してきたように感じます。

副業を認めることには、雇用者側にとって多くのメリットとい
くつかのリスクが存在します。長短を勘案して副業について検
討してください。

以下にメリットとリスクについてそれぞれの要点をまとめます。

■1.雇用者側のメリット

1.スキルの向上
従業員が副業を通じて新たなスキルや経験を身につけることが
でき、その知識を本業にも活用できます。

2.従業員の満足度向上
副業を通じてキャリアの選択肢と収入を増やすことができるた
め、従業員の満足度が向上し、結果的に離職率が低下します。

3.新しいアイデアの導入
異なる業界や環境での経験を持つ従業員から新しいアイデアや
視点がもたらされ、組織内の革新を促進します。

4.競争力の強化
副業を認めることで、企業は柔軟性を持って働ける魅力的な職
場と見なされ、優秀な人材の獲得や維持が容易になります。

5.組織のリスク分散
従業員が副業によって収入源を分散している場合、組織全体と
しての経済的リスクが軽減されることがあります。

■2.雇用者側のリスク

1.業務への集中力低下
従業員が副業に時間を割くことで、本業の生産性や集中力が低
下する可能性があります。

2.機密情報の漏えい
副業先が競合企業である場合、重要な情報が漏れるリスクがあ
ります。

3.法的・規制の問題
労働時間規制の違反や労働者の健康問題が起こる可能性があり、
企業が法的責任を問われることがあります。

4.内部の不公平感
副業をしていない従業員との間で不公平感が生じることがあり、
職場の士気やチームワークに影響を与える可能性があります。

5.タレントの流出
従業員が副業でより良い機会を見つけた場合、企業を離れる可
能性があります。

副業を認める際には、これらのメリットを最大化し、リスクを
最小限に抑えるために、明確なガイドラインと適切な管理体制
が必要です。副業に関するポリシーを設定し、従業員に対する
教育とサポートを行うことで、副業がもたらす利点を活かし、
潜在的な問題を予防することが必要です。

近い将来、副業を容認するように立法化されるのではないでし
ょうか。そうならなくても、副業禁止の就業規則が、採用にお
ける大きなデメリットになる時代が近く訪れます。この機会に
副業について考えてみてください。

節税の目的はキャッシュアウトを減らして資金を増加させるこ
とです。しかし、本来の目的を忘れ、節税自体が目的となって
しまっている経営者様が多くおられます。

ある社長様のお話です。その社長様はウェブサイトの制作事業
で起業しましたが、大手企業をクライアントに持っていたため、
設立当初からまとまった売上が立っていました。しかし、支払
う税金を少しでも減らすことが経営者の技量だと考え、極端に
言うと1億円の売上が出来れば、9,990万円の費用を使うよう
にしていたそうです。

税金とどう向き合っていくかというのは、経営の大きなテーマ
のひとつです。納税が資金繰りを圧迫することもありますし、
税金に対する過度な意識が、会社の成長を妨げることもありま
す。同社は後者のケースです。

キャッシュフローを最大化することが本来の目的であるはずな
のに、節税に意識が行き過ぎると、税金を出来るだけ払わない
ことが目的になってしまいます。利益を出さないように費用を
増やせば、税金を少なくするという目的は達成できますが、手
元にキャッシュは残りません。財務内容も悪くなり、借入もま
まならないため、資金繰りは当然厳しくなります。

同社の社長様も、設立から5年ほど経ってようやくそのことに
気づいたそうで、「節税を止めた途端に資金繰りが楽になりま
した。銀行が積極的に融資をしてくれるようになり、1,000万
円近くの税金を支払っても、億単位の資金を調達できるので資
金に余裕ができました。」とおっしゃっておられました。

税金は最大でも利益の35%程度です。利益以上に税金を払うこ
とは決してありませんので、税金が原因で倒産することは理論
上ありません。ただ、利益を資産の購入に充てたり、利益の受
取よりも税金の支払いが先に来たりする場合は納税が苦しくな
ります。この場合の問題は税金ではなくファイナンスです。税
金を払わないことに一生懸命になるより、ファイナンスを適切
に行い、税金を無理なく支払えるようにすることの方が重要です。

節税をしているのに資金繰りが苦しいと感じておられる社長様
はファイナンスを上手く活用できていないかもしれません。
当事務所は税務だけでなく、ファイナンスに関するアドバイス
も行っております。是非ご相談ください。

「今年度の最低賃金について議論していた厚生労働省の審議会
は24日夜に決着し、物価の上昇が続いていることなどを踏まえ、
過去最大となる時給で50円引き上げる目安でまとまりました。
全国平均の時給は1054円となり、これまでで最も高くなります。
最低賃金は企業が労働者に最低限支払わなければならない賃金
で、現在の時給は全国平均で1004円です。24日夜、労使双方
が参加した審議会が決着し、時給で50円、率にして5%引き上
げるとする目安でまとまりました。引き上げ額は去年の43円を
超えて過去最大です。」(2024年7月25日 厚生労働省ニュース
より引用〕

最低賃金の上昇率は、すべての報酬の昇給率にも影響します。
賃上げ5%が必要であるとの意味です。賃上げ5%以上の予算
化が必要です。

賃金が上がることは、労働者にとっては収入の増加や生活水準
の向上を意味しますが、企業にとってはさまざまな対応を迫ら
れる重要な課題です。対策にウルトラCはありません。貴社に
とって必要な項目を確認し、丁寧に対応していくしかありませ
ん。企業が賃金の引き上げにどのように対応するかについて、
以下に解説いたします。

■1.コスト管理の見直し

最低賃金の引き上げは、企業の人件費の増加を直接引き起こし
ます。特に、労働集約型の業界や中小企業では、この影響が大
きくなります。企業はまず、コスト構造全体を見直す必要があ
ります。無駄な経費の削減や業務効率化、固定費の変動費化な
ど、総コストを削減するための取り組みが求められます。

■2.労働生産性の向上

コストを削減する一方で、労働生産性を向上させることも重要
です。これには、従業員のスキルアップや教育訓練の強化、業
務プロセスの改善、そして自動化技術の導入などが含まれます。
例えば、最新のIT技術やロボット等を活用して業務を効率化
することにより、同じ労働時間でより多くの成果を上げられる
ようにすることが必要です。

■3.商品・サービスの価格設定

最低賃金の上昇は、最終的には商品の価格に転嫁されることが
一般的です。ただし、価格を上げることで顧客離れが起こるリ
スクもあります。企業は市場動向や競合他社の動きを注視し、
適切な価格設定を行う必要があります。また、価格を上げる際
には、付加価値の向上やサービスの改善を同時に行うことで、
顧客に納得してもらう工夫も必要です。

■4.雇用形態の多様化

人件費の増加に対しては、雇用形態の見直しも一つの対策にな
ります。正社員を減らし、パートタイムやアルバイト、契約社
員を増やすことで、柔軟な人員配置を行うことができます。ま
た、リモートワークの導入やフレックスタイム制の導入など、
働き方の多様化を進めることも有効です。これにより、効率的
な運営を行うことが重要です。

■5.財務戦略の再検討

最低賃金の引き上げによるコスト増加を乗り切るために、企業
の財務戦略も再検討が必要です。借入金の見直しや資金調達方
法の多様化、投資計画の修正など、企業の財務基盤を強化する
取り組みが求められます。また、政府や地方自治体の助成金や
補助金を活用することにより、最低賃金の引き上げに伴う財務
的な負担を軽減することも必要です。

■6.社内コミュニケーションの強化

最低賃金の引き上げに対する企業の対応策を従業員に理解して
もらうことも重要です。透明性のあるコミュニケーションを通
じて、企業の方針や取り組みを従業員に伝え、協力を求めるこ
とが必要です。また、従業員の意見やアイデアを積極的に取り
入れることで、現場のニーズに合った対応策を策定することに
も心がけましょう。

■7.顧客対応の強化

最低賃金の引き上げにより、コスト増加分を価格に転嫁する場
合、顧客対応も重要な課題となります。顧客に対して価格改定
の理由を丁寧に説明し、理解を得る努力が必要です。また、価
格改定に伴い、顧客サービスの向上や付加価値の提供を通じて、
顧客満足度を維持・向上させることが求められます。

最低賃金の引き上げは、企業にとってさまざまな課題を引き起
こしますが、それに対する適切な対応策を講じることで、企業
の持続可能な成長を実現することが可能です。コスト管理の見
直し、労働生産性の向上、価格設定の工夫、雇用形態の多様化、
財務戦略の再検討、社内外のコミュニケーションの強化など、
総合的な対策を講じることが重要です。企業は、変化する経済
環境に柔軟に対応し、持続的な競争力を維持するための努力を
続ける必要があります。

厳しいと感じる方も多いでしょうが、避けて通れない現実です。
受け入れて対策を打つしかありません。

小売業において、適切な財務管理は事業の成功と持続可能性の
鍵となります。その中でも、在庫管理は特に重要な要素です。
在庫は小売業の主要な資産であり、適切に管理することで収益
性を高め、キャッシュフローを改善することができます。

■ 在庫管理の重要性
1)資金効率の向上
過剰在庫は資金を固定化し、運転資金を圧迫します。適切な在
庫水準を維持することで、資金効率を高め、他の事業活動に資
金を振り向けることができます。

2)利益率の改善
在庫回転率を上げることで、商品の鮮度を保ち、値下げロスを
減らすことができます。これは直接的に利益率の向上につなが
ります。

3)機会損失の回避
適切な在庫管理は品切れを防ぎ、潜在的な売上機会を逃さない
ようにします。これは顧客満足度の向上にも寄与します。

4)キャッシュフローの改善
在庫を適正水準に保つことで、仕入れにかかる支出を抑え、キ
ャッシュフローを改善することができます。

■ 在庫管理の改善策
1)在庫管理システムの導入
デジタル技術を活用した在庫管理システムを導入することで、
リアルタイムの在庫状況把握や自動発注が可能になります。こ
れにより、人為的ミスを減らし、効率的な在庫管理が実現でき
ます。

2)ABC分析の実施
商品をA(高価値)、B(中価値)、C(低価値)にランク分
けし、それぞれに適した管理方法を適用します。これにより、
限られたリソースを効果的に配分できます。

3)需要予測の精度向上
過去の販売データ、季節変動、市場トレンドなどを分析し、よ
り正確な需要予測を行います。最近では、AIを活用した予測
システム等も開発されています。

4)ジャストインタイム(JIT)方式の導入
必要な商品を、必要な時に、必要な量だけ仕入れるJIT方式
を導入することで、在庫水準を最小限に抑えることができます。

5)サプライチェーンの最適化
サプライヤーとの関係強化や、物流の効率化を図ることで、リ
ードタイムを短縮し、より柔軟な在庫管理が可能になります。

6)定期的な棚卸と分析
実際の在庫数と記録上の在庫数を定期的に照合し、差異があれ
ば原因を究明します。また、滞留在庫や季節商品の分析を行い、
適切な対策を講じます。

7)KPIの設定と監視
在庫回転率、商品回転期間、在庫比率などのKPIを設定し、
定期的にモニタリングします。これにより、在庫管理の効果を
測定し、継続的な改善につなげることができます。

8)クロスドッキングの活用
一部の商品に関しては、在庫を持たずに直接顧客に配送するク
ロスドッキング方式を採用することで、在庫リスクを軽減でき
ます。

適切な在庫管理は、単に在庫水準を下げることではなく、売上
と利益を最大化しつつ、キャッシュフローを改善することを目
指すものです。上記の改善策を参考に、自社の状況に合わせた
最適な在庫管理の仕組みを構築し、定期的な見直しと改善を重
ねることで、財務面での健全性を高め、競争力のある店舗運営
が実現できます。

○金融機関対応に関するご相談は、銀行融資プランナー協会
正会員事務所にて承っております。お気軽にご相談ください。

…前回号の続きです。

冒頭に申し上げますが、今は値上げが容認されやすい環境にあ
ります。この潮流に乗ってください。この前提で以下をご確認
ください。

■勝ち組と負け組の価格戦略は真逆です。

市場が飽和した日本のマーケットにおいては、モノやサービス
を安く買おうとするエネルギーが蔓延しています。モノやサー
ビスを提供する企業サイドも、その趨勢に迎合することで、自
社の売上を確保しようと考える傾向が強いようです。
一方、十分な利益を確保できる価格設定を行ったうえで、隆々
と経営を続ける企業もたくさんあります。当然、たくさんの顧
客に支えられているはずです。

前者と後者、雑駁に分類するなら負け組と勝ち組です。
前者(負け組)が4割、後者(勝ち組)が2割、中間が4割、
このような分類になりそうです。

◆前者(負け組)企業の価格戦略は…

「価格(安売り)を売るための道具」だと思っています。
「価格は安い方が売れる」と思っています。
「価格は、できるだけ安めに設定するべき」と思っています。
「価格が高すぎて売れない」ことを過度に嫌います。
「売れないより、薄利でも売れた方がよい」と考えています。
※うまく行ってたくさん売れても「繁盛貧乏」に陥ります。儲
からないのに忙しい状態でバランスしてしまいます。後は頑張
って・頑張り続けて…現状維持が関の山です。

◆後者(勝ち組)企業の価格戦略は…

「価格を売るための道具には使わない」との信念を持っていま
す。
「価格が安くても売れるわけではない」と思っています。
「価格は、できるだけ高く設定すべき」と思っています。
「(仮に)高すぎて売れないことが有っても仕方ない」と思っ
ています。
「薄利で売るよりも、売れない方がよい」と考えています。
※うまくいけば、たくさん売れて儲かる「繁盛高収益」の状態
になれます。利益で次の投資ができ、さらなる成長を目指せま
す。うまくいかなければ、「閑散貧乏」の状態です。やり直せ
ます。

■価格に対する二つの潮流…

モノやサービスを安く買おうとする潮流に巻き込まれることは
得策ではありません。もう一つの潮流、「良いモノ・必要なモノ
が欲しい。対価は払う」に乗せましょう。気を付けてください。
前者の潮流の方が目立っています。後者は静かに流れています。
値上げは粛々と実施されます。

■もう一度「価格戦略=値決め」を再考してください。

「値決め」は経営の要諦です。であるにも関わらず、値決めに
掛ける手間暇が少なすぎると思っています。総じて安く付けす
ぎているとも思っています。間違えた「値決め」が経営に与え
るダメージを過小評価してはいけません。

事業は付加価値を求めつづけることでのみ継続できます。値決
めは重要な経営判断です。安売りは悪です。利益を計り、利益
を求めてください。また、コストは自然に膨らみます。意識し
て抑え込んでください。高収益(Profitable)な企業体作りを
強く意識してください。

◎「価格戦略=値決め」は、経営成績に甚大な影響を与えてい
ます。勇気をもって「価格戦略=値決め」をご再考ください。

◎今は値上げが容認されやすい環境にあります。この潮流に乗
ってください。少なくとも、コストの上昇分は必ず値上げして
ください。

多くの飲食店経営者の皆様は、事業拡大と利益増加を目指して
日々奮闘されていることと思います。年間300万円の利益を出
す店舗1店舗経営されている場合、その利益を倍増させるには
どうすればよいでしょうか?多くの方が真っ先に考えるのは、
2号店の出店ではないかと思います。しかし、今回は別の視点
から、より安全で効果的な利益倍増の方法をご提案します。

■ 新規出店のリスクを考える
新規出店は確かに魅力があります。店舗数を増やすことで、ブ
ランドの認知度向上や規模の経済による仕入れコストの削減な
ど、様々なメリットが期待できます。しかし、同時に大きなリ
スクも伴います。

新規出店には多額の初期投資が必要です。家賃、内装費、設備
投資、人材採用・育成など、想像以上の出費が待っています。
さらに、新店舗が軌道に乗るまでには時間がかかり、その間は
赤字覚悟の運営を強いられる可能性が高いです。

■ 既存店舗改善のメリット
では、既存店舗の改善に注力するとどうでしょうか?利益率の
向上と固定費の削減に焦点を当てることで、新たな大きな投資
なしに利益を増やすことができます。このアプローチには、以
下のようなメリットがあります。

1)リスクが低い:新規出店に比べ、既存店舗の改善は比較的
リスクが低く、確実性が高いです。

2)即効性がある:改善の効果が直接利益に反映されるため、
成果が見えやすいです。

3)経営ノウハウの蓄積:1店舗の運営に集中することで、経
営スキルを磨くことができます。

4)ブランド力の向上:1店舗の評判を高めることで、将来の
多店舗展開の基盤を作れます。

5)キャッシュフローの安定:新規出店に伴う資金繰りのリス
クを避けられます。

■ 具体的な改善策
では、具体的にどのような改善を行えばよいでしょうか?以下
に、利益率の改善と固定費の削減のためのアイデアをいくつか
挙げてみます。

1)利益率の改善:
・F/Lコスト(食材費と人件費)の最適化:適切な原価管理と
メニュー設計、効率的な人員配置を行います。

・高付加価値メニューの開発:利益率の高い商品を提供し、客
単価を上げます。

・販売促進の強化:リピーター獲得や新規顧客の開拓に注力し
ます。

2)固定費の削減:
・水道光熱費の節約:省エネ設備の導入や従業員の意識改革を
行います。

・家賃の見直し:可能であれば、家主との交渉や立地の再検討
を行います。

・業務効率化:ITツールの導入やプロセスの見直しで人件費
を抑制します。

■ 長期的な視点も忘れずに
既存店舗の改善に注力することは、短期的には非常に効果的な
戦略です。しかし、長期的な成長を考えると、将来的な多店舗
展開も視野に入れるべきです。既存店舗の改善で得たノウハウ
と安定した収益基盤を元に、慎重に計画を立てて展開していく
ことが、持続可能な成長につながります。

■ まとめ
飲食店経営において、利益倍増は決して夢物語ではありません。
しかし、その道筋は必ずしも新規出店だけではないのです。既
存店舗の改善に注力することで、より安全かつ効果的に利益を
増やすことができます。自店の強みを見極め、地道な改善を積
み重ねることが、長期的な成功への近道となります。

企業経営の成否と、その企業が設定している価格帯や価格戦略
の相関は強いと感じます。勝ち組は総じて安くない価格帯を狙
い、値引きを好まない傾向にあります。一方、負け組は安い価
格帯を狙い、更に値引きを多発します。

『値決めこそ経営』(京セラ名誉会長、稲盛和夫先生)、この
言葉を肝に銘じてください。どんなに良いものを創りだしても、
その値決めを間違えると台無しになります。故に、値決めは大
変難しい最高レベルの経営判断事項です。であるにもかかわら
ず、値決めを安易に、どちらかというと安めにつけてしまう経
営者は少なくありません。松下幸之助先生はその著書の中で、
パナソニック(当時松下電器)は、相当大きくなるまで、松下
幸之助先生自身が値決めの最終決裁をされていた、と語ってお
られます。

「自社の値決めが正しいのか?」この解は誰にもわかりません
が、少なくとも多くの手間暇と知恵を最大限投入して、悩んで、
悩んで、悩み抜いて決める…この習慣を持っていただきたいと
思っています。

過去(この数十年)において、日本の企業の多くが、どちらか
というと安すぎる値決めを繰り返してきたために、今の経済の
停滞(デフレ)を招いたのではないかとの仮説を持っています。
特にこの傾向は中小企業に顕著です。

以下、【安売り症候群】という疾病を整理いたします。自社・
ご自身にあてはめてご確認ください。

■【安売り症候群】という疾病の正体は…(有病率50%)

◆価格を売るための道具に使うと「繁盛貧乏」になります。

「値決め」は経営の要諦です。であるにも関わらず、値決めに
掛ける手間暇が少なすぎると思っています。総じて安く付けす
ぎているとも思っています。間違えた「値決め」が経営に与え
るダメージを過小評価してはいけません。
経営者は閑散な状態を嫌います。故に、安すぎる「値決め」を
して、貧乏しても繁盛したいと考える傾向があります。「繁盛
貧乏」がはびこるのはこのためでしょう。
経営者は楽な道を選びます。苦労して付加価値を積み上げるよ
りも、価格を低く抑えて価値とバランスしようと考えてしまい
ます。価格を売るための道具に使ってしまいます。
安売り戦略の大罪は、良いものを創り出そうとする知恵を奪い
取ることです。この愚策を長年続けている集団から、新たな商
品やサービスを創り出す創造力は生まれません。商品やサービ
スの価値と価格のバランスは、その価格を下げて市場に合わせ
るのではなく、その価値を向上させることで調整してください。
多くの偉人たちが語る経営の王道です。

◆「値決め」が弱気で利益を出せない経営体、さらに、新しい
価値を生み出す創造力を無くしてしまった経営体を『安売り症
候群』と呼びます。

◆『安売り症候群』の経営体には、以下のような症状が現れま
す。

□1.頑張っているのに儲からない。
□2.新しい商品、サービスを創造できていない。
□3.利益は出なくて良い、と思うことがある。
□4.値上げをしたいと思っていてもできない。
□5.ぎりぎりの経営をしていると感じる。
いかがでしょうか?

◆病名:『安売り症候群』を整理します。

値決めに対する姿勢が弱気で、利益管理も曖昧になる病です。

●原因

安くないと売れないとの思い込みが原因です。良いものには相
応の値段を(それなりのものはそれなりの値段を)付けてくだ
さい。良いものを安く売る必要はありません。原価が上がれば
価格を見直す、この当たり前の企業行動を取らなければ、利益
がどんどん減ります。利益が薄くなればなるほど、良いものを
作ろうとする知恵や創造力を失います。最後は、薄利は善、利
益は悪の心境に陥ります。こうなると末期です。

●症状

二つのレベルに分かれます。繁盛貧乏のレベルが第一段階です。
このレベルは頑張っているのに値決めを間違えていて儲からな
い状況です。この段階では価格の見直しを行えば容易に治癒で
きます。第一のレベルを続けていると、頑張っても儲からない
と思い込み、頑張る意欲、より良いものを創造しようとする力
を失くしてしまいます。最後には、儲からない自分を正当化す
るために、儲けは悪、儲からないことが善、ビジネスそのもの
を否定するようになります。

『値決めこそ経営』(京セラ名誉会長、稲盛和夫先生)です。
「値決め」には、多くの手間暇と知恵を最大限投入して、悩ん
で、悩んで、悩み抜いて決める…この習慣を持っていただきた
いと思っています。
「値決め」は現場ではなく、トップが決めるべき事項です。