インフレ、円安、金利上昇が同時に進行する局面は、中小企業
にとって「収益力」「資金繰り」「財務安全性」が同時に試さ
れる厳しい環境です。コスト増と借入負担増が重なるため、従
来型の延長線上の経営では対応が難しくなります。ここでは、
より実践的な観点から留意点を整理します。

■1.粗利経営への転換 ― 売上至上主義からの脱却

インフレ下では売上高は名目上増えやすくなります。しかし重
要なのは「粗利額」と「粗利率」です。原材料費や外注費が上
昇する中で、売上拡大だけを追うと利益が残らない構造に陥り
ます。
製品・サービス別に粗利を把握し、不採算取引を見直すことが
不可欠です。値上げは一律ではなく、「価格弾力性」の低い商
品から段階的に実施するなど戦略的に行うべきです。また、長
期契約の価格条項にスライド制を導入するなど、インフレ耐性
のある契約設計も重要になります。

■2.為替変動を前提とした経営体制

円安は輸出企業には追い風ですが、輸入依存度の高い企業には
逆風です。為替は短期的な予測が困難であるため、「当たるか
外れるか」ではなく、「変動することを前提とした体制」を整
える必要があります。
具体的には、想定為替レートを複数設定したシナリオ損益計算、
為替予約の活用、調達先の分散などです。また、円安メリット
を活かせる事業(越境EC、海外取引、インバウンド需要)を
育成することも、中長期的なリスクヘッジになります。
為替差損益を営業努力で吸収できる体質づくりこそが本質的な
対策です。

■3.金利上昇局面での借入戦略再設計

金利上昇は借入コストの増加につながります。特に変動金利比
率が高い企業は早急な見直しが必要です。
まず、借入金一覧を作成し、金利条件・返済期限・担保状況を
整理します。そのうえで、固定金利への切り替えや借換えを検
討します。重要なのは「今の金利水準」だけでなく、「将来さ
らに上昇した場合の耐久力」を試算することです。
また、成長投資と防衛的借入を区別することも大切です。利益
を生まない借入は極力抑制し、投資案件はIRR(内部収益率)
を基準に判断するなど、資本コストを意識した経営へ移行する
必要があります。

■4.キャッシュフロー最優先の資金管理

インフレと金利上昇が重なると、黒字倒産リスクが高まります。
利益が出ていても、売掛金回収遅延や在庫増加により資金繰り
が逼迫する可能性があります。
月次資金繰り表を精緻化し、少なくとも半年先まで可視化する
ことが望ましいです。在庫回転率の改善、売掛金回収期間の短
縮、支払条件の見直しなど、運転資金の圧縮は即効性のある対
策です。「利益」よりも「現金」を重視する姿勢が、危機耐性
を高めます。

■5.人件費上昇への構造的対応

物価上昇は従業員の生活コストを押し上げ、賃上げ圧力を強め
ます。しかし金利上昇により企業側の負担も増えます。単純な
ベースアップだけでは持続性がありません。
重要なのは、生産性向上による原資の創出です。業務標準化、
デジタル化、自動化投資などにより、一人当たり付加価値を高
める必要があります。賃上げは「コスト」ではなく「投資」と
位置づけ、成果と連動させる設計が望ましいでしょう。

■6.財務安全性の再構築

不確実性の高い局面では、自己資本比率の向上と内部留保の確
保が最重要課題です。不要資産の売却、遊休設備の整理、事業
ポートフォリオの再評価を通じて財務体質を強化します。
同時に、金融機関との継続的な対話を行い、経営計画の透明性
を高めることが信用力向上につながります。金利上昇局面では、
金融機関は選別姿勢を強めるため、日頃からの信頼構築が差を
生みます。

インフレ・円安・金利上昇という環境は、「コスト増」「為替
変動」「資金調達負担増」という三重の圧力を伴います。しか
し、粗利重視経営への転換、為替変動前提の体制構築、借入構
造の再設計、キャッシュフロー管理の徹底、生産性向上投資を
進めることで、むしろ競争優位を築く企業も現れます。

鍵となるのは「感覚ではなく数値で判断する経営」と「守りを
固めたうえでの選択的な攻め」です。環境変化を恐れるのでは
なく、構造改革の契機と捉える視点が求められます。

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