ある飲食店で経常利益が年間300万円出ているとします。経営
者の多くは「もう1店舗出せば利益は600万円に倍増するので
は」と考えがちです。しかし現実はそう単純ではありません。
まず、新店舗を出すには多額の初期投資が必要です。保証金や
内装工事費、厨房機器の購入、スタッフ採用や教育など、数千
万円単位の資金がかかります。銀行からの借入で賄うにしても、
返済負担が利益を圧迫し、黒字化までには時間がかかるのが普
通です。さらに立地や競合状況によっては、思ったように売上
が立たず、赤字が膨らむリスクもあります。「1店舗で黒字だ
から2店舗でも黒字になる」という単純計算は極めて危険です。
一方で、既存店舗にはまだ改善余地が眠っていることが少なく
ありません。たとえば、
・客単価を上げるためのメニュー改良やセット提案
・回転率を高めるためのオペレーション改善
・食材ロスや人件費シフトの見直しによる原価率・経費削減
・常連客との関係強化やSNSを活用した新規集客
これらはすぐに取り組める施策であり、大きな投資を必要とし
ません。小さな改善を積み重ねるだけで、経常利益300万円を
400万、500万円へと高めることは十分可能です。
重要なのは「既存店舗の収益性を最大化する力」こそが、将来
の出店を成功に導くという点です。既存店舗で十分な利益を出
せない状態で新店舗を増やしても、経営の基盤が広がるどころ
か、リスクと負担だけが増えることになります。逆に、既存店
舗で利益率を改善し、手元にキャッシュを蓄えることができれ
ば、新規出店に踏み切るときも資金面・人材面の余裕を持って
取り組めます。
まとめると、経営者にとって「拡大」への意欲は大切ですが、
その前にやるべきは足元の磨き込みです。既存店舗での最大限
の努力を尽くし、その成果が十分に出てからこそ、次の店舗展
開が「利益を倍にする現実的な道」になります。
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