「DX」と聞くと「IT投資=コスト増」と感じる経営者も少
なくありません。しかし、勤怠管理や経費精算、受発注管理な
どのクラウド化は、単なる人件費削減や業務スピード向上にと
どまらず、営業キャッシュフローの改善という形で財務にも大
きな効果をもたらします。今回は、その“見えない効果”を具体
事例を交えて整理します。

1.売掛金回収の早期化

製造業A社は紙の請求書を郵送しており、発行から入金までの
日数が平均50日かかっていました。クラウド請求システムを導
入し電子請求へ切り替えた結果、平均回収日数が50日→40日に
短縮しました。年間売上高20億円の同社では、約5,500万円分
の資金が早期に回収でき、運転資金の借入依存度が下がりまし
た。これはそのまま営業キャッシュフローの改善につながりま
す。

2.在庫水準の最適化

卸売業B社では、営業担当が勘に頼って発注していたため在庫
が膨らみ、棚卸資産は常時3億円超でした。クラウド型受発注
管理システムを導入し、販売実績に基づく自動発注に切り替え
たところ、在庫を2億円台前半に圧縮できました。資金繰り表
では1億円近いキャッシュが「現金化」され、借入圧縮と金利
コスト削減に直結しました。

3.支払業務の平準化と資金管理の精度向上

サービス業C社では、経費精算が紙ベースで行われていたため、
月末に経費精算や買掛金支払が集中し、毎月数日間だけ大きな
資金不足が生じていました。その結果、当座借越を一時的に利
用し、年間で100万円超の利息負担が発生していました。

同社はクラウド経費精算と銀行口座の自動連携を導入し、リア
ルタイムで「いつ・いくら資金が出ていくか」を可視化しまし
た。その結果、「今月末は資金が足りなくなる」と事前に把握
できるようになり、仕入先に支払日を数日調整してもらう交渉
や、必要な短期借入を前もって手当てするなどのアクションが
可能になりました。これにより月末の資金不足ピークが下がり、
当座借越の利用残高は平均で3,000万円減少。年間利息負担は
約60万円削減され、営業キャッシュフローの改善につながりま
した。

■ まとめ

DXは「効率化」や「人件費削減」として語られることが多い
ですが、実際には下記3つの効果を通じて営業キャッシュフロ
ーを改善する財務戦略そのものです。

・売掛金の回収を早める(A社事例)
・在庫を圧縮して資金を解放する(B社事例)
・支払を平準化して資金繰りを安定させる(C社事例)

IT投資の費用対効果を考える際には、「何年で人件費を回収
できるか」だけでなく、「資金繰りがどれだけ改善するか」と
いう視点を持つことが、銀行対応や資金調達力の強化にも直結
します。

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