新工場建設等、複数行から大型の資金調達を行う際に、銀行側
から「シンジケートローン(SL)でまとめましょう」と提案
されることがあります。確かに契約一本化や期中管理の簡素化
は魅力です。しかし中小企業にとっては、アレンジャーフィー
と厳格なコベナンツ(財務制限条項)が大きなハードルになり
ます。個人的には、総合的に見て、同じ複数行スキームでも
「協調融資(コンソーシアム融資)」を推奨します。以下では、
その理由と協調融資を円滑に進めるコツを整理します。

1.アレンジャーフィーは「見えない利息」
シンジケートローンを組成すると、調達額の1~3%程度のア
レンジャーフィーと、年次エージェントフィーが発生します。
仮に10億円を調達すれば数千万円の一時コスト、加えて毎年
数百万円の維持費が必要です。協調融資であれば払わなくても
済むコストをわざわざ負担するかどうかが最初の分岐点です。

2.コベナンツは経営の「足かせ」になりやすい
SLでは参加行平等を担保するため、パリパス条項や財務コベ
ナンツが細かく定められます。典型的には「自己資本比率○%
以上」「債務償還年数○年以内」「主要役員の変更は事前承認」
など。違反すると全行が一斉に期限の利益を喪失させる権利を
持ち、資金繰りが良好でも契約変更を迫られるリスクがありま
す。事業環境が読みにくい中小企業にとって、経営の自由度を
引き下げる制約は避けたいところです。

3.協調融資の「煩雑さ」は工夫で緩和できる
協調融資は行ごとに契約を結ぶため、担保設定や返済スケジュ
ールが複線化しやすいのは事実です。しかし、以下の3点を押
さえれば管理負荷は大幅に下げられます。

1)リードバンク方式
メイン行を窓口とし、他行条件も基本的に追随形式で揃える。

2)共通条項表の作成
返済条件・担保順位・財務指標を一覧化し、全行と共有。修正
はこの表だけに反映させる。

3)年1回の共同面談
決算後にメイン行主催で参加行を招き、事業報告と次年度計画
を一括説明。バラバラの面談を減らす。

これにより「契約は行数分ですが、運営は実質一本化」という
体制が実現します。手数料ゼロの協調融資と、費用の伴うSL
の差額が毎年のキャッシュを守ることを考えると、手間をかけ
る価値は十分あります。

4.判断フロー(簡易チェックリスト)

・調達額が5億円を下回るか?
→ はい:協調融資で十分対応可能。

・参加行は3行以内に収まるか?
→ はい:協調融資の管理負荷は限定的。

・社内外に財務人員が確保できるか?
→ はい:SLの管理簡素化メリットは限定的。

・事業計画に「柔軟な増額」より「手数料節約」を優先したいか?
→ はい:協調融資向き。

3つ以上「はい」があれば、協調融資を選んだほうが総コスト
は低く抑えられる可能性が高いと言えます。

■まとめ
・アレンジャーフィーとエージェントフィーは「隠れ金利」で
す。規模が大きくない中小企業には無視できない負担になる可
能性があります。

・シンジケートローンのコベナンツは経営の自由度を縛ります。
環境変化の激しい中小企業ではリスクが高いと考えます。

・協調融資でもリードバンク方式と共通条項表で管理は簡素化
可能です。

費用を抑えつつ、制約を減らし、必要な資金を確保する。この
3点を優先するなら、中小企業には協調融資が現実的な選択肢
となります。まずはメイン行に協調スキームの枠組みを提示し、
手数料を掛けずに複数行をまとめる段取りを検討してみてくだ
さい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です