前回号の続きです。
経営を変えたい、会社を成長させたい、多くの経営者がそう願
います。しかし、そのためにまず取り組むべきは「戦略の見直
し」でも「人材の刷新」でもありません。最も効果的で、すぐ
に始められる変革の第一歩、それは「時間配分の見直し」です。
経済評論家・大前研一氏は次のように語っています。
「人間が変わる方法は3つしかない。ひとつ目は時間配分を変
えること。ふたつ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合
う人を変えること。」
ここでは「時間配分を変えること」について言及します。
この言葉は、経営者の自己革新において極めて本質的です。な
ぜなら、時間は唯一、誰にとっても平等に与えられた資源であ
り、その使い方次第で成果が大きく変わるからです。
【1】今の「時間の使い方」は、未来の成果を決定している
経営者の1日は忙しく、会議、現場対応、経理、営業、トラブ
ル処理と、やることは山積みです。しかし、その多くは「緊急
だが重要ではない」仕事に追われていることが少なくありませ
ん。未来を変える仕事、戦略立案、人材育成、新規事業の構想、
資金調達の検討、こうした「重要だが緊急ではない」仕事に、
どれだけ時間を使えているかが経営者の成長を左右します。
【2】時間配分の見直しがもたらす変化
経営者が1日のうちたった1時間でも、「考える時間」「学ぶ
時間」「戦略を練る時間」にあてれば、半年後、1年後の企業
の方向性は大きく変わります。
・毎朝30分、思考を整理するノートを書く
・週に1時間、専門書を読む
・月に1日、オフィスを離れて未来を考える時間を確保する
こうした小さな時間の投資が、長期的なリターンを生むのです。
【3】「経営者でなければできない仕事」に集中せよ
時間を再配分する際、まず見直すべきは「自分でやらなくても
いい仕事」にどれだけ時間を使っているかです。
・経理処理を細かくチェックしていないか
・現場の細部に口を出しすぎていないか
・社員ができる仕事を、自分が抱え込んでいないか
こうした業務を手放し、「経営者にしかできない仕事」未来を
描き、方向を決め、資源を配分する仕事に時間を集中すべきで
す。
【4】時間の再配分は「行動の習慣化」から始まる
人は、自分が習慣化していないことには時間を割きません。だ
からこそ、まずは「変えたい時間の使い方」を習慣に落とし込
む工夫が必要です。
・朝イチに「今日の重要タスク」を決める
・毎週○曜日は「学びの時間に充てる」と決めておく
・月初の1日は「戦略レビューの日」とスケジューリングする
このように、あらかじめ時間をブロックし、“意図的に確保す
る”ことで、時間の質が変わり、経営者自身の視座も高まって
いきます。
【5】「忙しい=成果が出ている」と錯覚しない
多くの経営者が「忙しさ」に充実感を見出してしまいます。し
かし、忙しさは「思考停止」の温床にもなります。忙しい状態
こそ、時間配分を根本的に見直すサインだと捉えるべきです。
・自分がいなくても回る業務は手放す
・判断が遅れる業務は、最初から人に任せる
・アポイントは「緊急性」ではなく「戦略性」で優先順位をつ
ける
こうした意識改革により、本当に集中すべき仕事に時間が戻っ
てくるのです。
【結言】時間配分を変えることが、経営の未来を変える
中小企業の経営環境は、日に日に複雑さを増しています。判断
の質、スピード、視野の広さ、これらすべては、経営者自身の
「時間の使い方」の中から生まれます。
会社を変えたければ、まずは自分を変える。自分を変えるには、
何よりも先に「時間の再設計」を行うべきです。その第一歩は、
カレンダーの見直しからでも構いません。あなたの時間の流れ
を変えることが、社員の時間の流れを変え、最終的には会社全
体の成長サイクルを変えていくのです。