■1.お客様の声を聴くだけでは不十分な時代へ
「お客様の声を聴くことが重要」とよく言われますが、令和の
時代においてはそれだけでは十分ではありません。現代のお客
様は自分の困りごとをすでに解決できる手段を持っていること
が多く、本当に必要なものを明確に認識していない場合が多い
からです。

例えば、スマートフォンが登場する前、多くの人は「持ち運び
できる高性能なPCが欲しい」と考えていました。しかし、
Appleは「人々はPCではなく、もっと直感的で便利なデバイ
スを求めている」と考え、iPhoneを開発しました。このように、
成功する企業は市場のニーズを先回りし、お客様自身が気づい
ていない価値を提案しているのです。

■2.マーケットイン vs. プロダクトアウト、時代に合うのは
どちらか
従来、多くの企業は「マーケットイン」型の考え方を重視して
きました。つまり、お客様のニーズを調査し、それに応じた商
品やサービスを提供するという手法です。これは一見合理的に
思えますが、問題点もあります。

●マーケットインの課題
お客様の声に頼りすぎると、すでにある製品の改良にとどまり、
大きなイノベーションが生まれません。競合他社も同じように
市場調査を行うため、同質化します。お客様の意見は「今ほし
いもの」に基づいており、「将来必要になるもの」には気づい
ていないことが多いからです。

一方で、「プロダクトアウト」型の考え方は、企業側が先に仮
説を立て、世の中に新しい価値を提案する手法です。Appleや
Teslaのような企業はこの考え方を採用しており、「お客様の声
を聞く」のではなく、「お客様がまだ知らない価値を提示する」
ことで市場を創り出しています。

■3.中小企業こそ「仮説提案型」の経営が必要
「プロダクトアウト」と聞くと、大企業だからできることだと
思われがちですが、むしろ中小企業こそこの考え方を取り入れ
るべきです。なぜなら、大企業と同じ市場調査をして競争して
も勝てる見込みは薄く、独自の強みを活かした提案力が求めら
れるからです。

●成功事例1:町工場の技術を活かした新商品開発
ある中小企業の町工場では、長年にわたり精密加工技術を活か
して大手メーカーの下請けをしていました。しかし、取引先の
コスト削減が進む中、このままでは厳しいと考え、自社ブラン
ドの商品開発を決意しました。そこで、社内の技術を活かして
「極薄のステンレス製コーヒーフィルター」を開発。市場には
まだなかった商品でしたが、「ペーパーフィルター不要」「環
境に優しい」という価値を訴求し、大ヒットしました。このよ
うに、「お客様が求めるもの」ではなく、「自社の技術を活か
せる新しい価値」を提案したことで成功を収めたのです。

●成功事例2:飲食店のメニュー開発における提案型アプロー

ある地方の和食店では、観光客の減少により売上が落ちていま
した。通常であれば「お客様の声を聴いて、人気メニューを増
やす」といった対応をするかもしれません。しかし、この店は
「お客様が気づいていない魅力を提案する」ことに注力しまし
た。具体的には、地元の食材を活かした創作料理を開発し、
「ここでしか食べられない特別な体験」としてSNSで発信。結
果的に、観光客だけでなく地元客のリピーターも増え、売上が
回復しました。

■4.どうやって「仮説提案型」の経営を実践するか
では、実際にどのようにして「仮説提案型」の経営を進めれば
よいのでしょうか? 以下のステップが有効です。

●1.自社の強みを再確認する
まずは、自社が持っている技術・ノウハウ・リソースを棚卸し
し、「何が他社と違うのか」を明確にします。

●2.お客様の未来の課題を考える
現在のニーズではなく、「この先お客様がどんな困りごとを抱
える可能性があるか」を想像します。

●3.小さく試して反応を見る(MVP戦略)
いきなり大きく投資せず、試作品や試験的なサービスを提供し、
反応を確認しながら調整していきます。

●4.ストーリーを持たせて発信する
単なる商品・サービスとしてではなく、「なぜこれを作ったの
か」「どんな価値があるのか」というストーリーを発信するこ
とで、共感を得られやすくなります。

■5.まとめ
お客様の声を聴くことは大切ですが、それだけに依存すると競
争の中で埋もれてしまいます。成功する企業は、マーケットイ
ンではなくプロダクトアウトの発想で、お客様がまだ気づいて
いない価値を提案しています。特に中小企業は、独自の技術や
強みを活かしながら、未来のニーズを予測し、積極的に仮説を
立てて提案する姿勢が求められます。成功事例に学びながら、
自社ならではの新しい価値を創り出すことで、大企業にはない
独自のポジションを築くことができるでしょう。

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