新入社員を受け入れる時期が近づいてきました。どのように伝
え、どのように導くかが、彼らの成長に大きな影響を与えます。
彼らにとって、社会人としての第一歩を踏み出すこの期間は、
単なる仕事のスタートではなく、今後のキャリアを左右する大
切な基礎づくりの時間です。特にこの時期に、「一定期間は加
減をせずに働く」ことの重要性をしっかりと伝えていただきた
いと思います。
新入社員は、まだ仕事の進め方が分からず、体力的にも精神的
にも負荷を感じる場面が多いでしょう。しかし、最初から効率
やバランスばかりを考え、「無理をしない働き方」を覚えてし
まうと、成長の機会を逃してしまいます。仕事の基本を身につ
け、実務を通じて経験を積むためには、一定期間、全力で取り
組む姿勢が不可欠です。
■彼らに伝えるべきことは、スポーツと同じで、「バットを振
らなければ野球はうまくならない」という考え方です。どんな
に理論を学んでも、実際に手を動かし、試行錯誤を繰り返さな
ければ、スキルは身につきません。仕事も同様で、成功も失敗
も含めた経験こそが成長につながります。最初のうちは「がむ
しゃら」に取り組むことが、後々の自信や実力につながること
を、指導の中でしっかりと伝えるべきではないでしょうか。
■指導をする上で、もう一つ意識していただきたいのは、「ビ
ジネスを習得するのに王道はない」という点です。最近はSN
Sや書籍などで「効率的な働き方」や「スマートな仕事術」が
多く紹介されていますが、新人のうちは、それらを意識しすぎ
るのは逆効果です。なぜなら、基礎ができていない状態で応用
に走っても、実力はつかないからです。
「とにかくやってみる」「先輩のやり方を真似てみる」「地道
な作業を徹底してこなす」といった経験こそが、ビジネスの本
質を理解するための唯一の方法です。そのため、新入社員には
「効率」よりも「徹底」を意識させるような指導が必要ではな
いでしょうか。
■また、彼らに伝えるべき重要な考え方として、「自分への投
資のために、身銭を切って学ぶ姿勢」があります。会社の研修
や勉強会はもちろん貴重ですが、それだけでは十分とは言えま
せん。本当に成長したいのであれば、自分の時間やお金を使っ
て学ぶことが大切です。
例えば、専門書を買う、資格取得に挑戦する、セミナーに参加
するなど、自ら学ぶ習慣を身につけることが、長期的な成長に
つながります。この際、「会社が費用を負担してくれるなら勉
強する」のではなく、自分自身の将来のために投資する意識を
持たせることが重要です。ここをしっかり伝えなければ、「会
社のために働く」という受け身の姿勢から抜け出せず、成長の
幅が狭まってしまいます。
特に伝えたいのは、「身につけたスキルは会社の財産ではなく、
自分の一生の財産になる」ということです。会社に貢献するた
めにスキルを磨くのではなく、自分自身の市場価値を高めるた
めに努力する。その結果として、会社にも貢献できるという考
え方を持たせることが重要です。
■どれだけ仕事ができるようになっても、社会人としての基本
を疎かにしてはいけません。その中でも、「約束を守ること」
「時間を厳守すること」は最も重要なルールです。
時間を守る、納期を厳守する、報告・連絡・相談を徹底する。
これらの基本を徹底することで、信頼が生まれます。特に若手
のうちは、「仕事ができるかどうか」よりも「信頼できる人間
かどうか」が評価に直結します。小さな約束を守ることが、や
がて大きなチャンスにつながることを、研修の中で繰り返し伝
えてください。
■さらに、「謙虚であること」も大切です。経験が浅い段階で
は、素直に学ぶ姿勢を持つことが何より重要です。自分の考え
を持つことは大切ですが、まずは周囲の意見に耳を傾けること
を意識させてください。どんなに優秀な人でも、謙虚さを忘れ
た瞬間に成長は止まります。
まずは「守」を徹底させる。指導の際に意識してほしい考え方
として、日本の伝統的な学びの姿勢である「守破離(しゅはり)」
があります。これは、「守」:基本を忠実に守る「破」:基本
を応用し、自分なりの工夫を加える「離」:独自のスタイルを
確立するという成長のプロセスです。新入社員には、まず「守」
の段階を徹底させることが重要です。つまり、基本を忠実に学
び、実践し、身につけることに集中する。自己流でやるのでは
なく、先輩や上司のやり方をしっかり吸収する姿勢を持たせて
ください。
貴社の、日本の未来を担ってくれるかもしれない若手人材を、
優しく、厳しく育ててあげてください。我々が若かりし頃にそ
うしてもらったように。