近年、日本では物価上昇が続いており、それに伴い大企業を中
心に賃上げの動きが加速しています。特に2024年の春闘で
は、大企業が5%を超える賃上げを実施し、新卒の初任給も相
次いで引き上げられました。この流れの中で、中小企業も賃上
げを行わなければ、人材の確保がますます難しくなることが予
想されます。以下では、物価上昇の影響、大企業の賃上げと新
卒初任給アップの現状、中小企業が賃上げを行うべき理由につ
いて解説します。

■1.物価上昇が続く中、実質賃金の確保が課題に

近年の日本経済では、物価の上昇が大きな問題となっています。
総務省が発表する消費者物価指数(CPI)は、2023年に
前年比+3.2%、2024年も+3%前後の上昇が見込まれ
ています。特に、食料品やエネルギー価格の高騰が家計を圧迫
しており、労働者の実質賃金(名目賃金から物価上昇を引いた
もの)は減少傾向にあります。

こうした状況では、従業員が現在の給与のままでは生活水準を
維持することが難しくなります。特に、もともと賃金水準が低
めの中小企業に勤める労働者は、「より給与の高い企業への転
職を検討する」可能性が高まります。そのため、企業が人材を
確保し続けるためには、物価上昇に見合った賃上げが不可欠と
なります。

■2.大企業の賃上げと新卒初任給アップの影響

2024年の春闘では、大企業を中心に大幅な賃上げが行われ
ました。例えば、トヨタ自動車は5%以上の賃上げを実施し、
日立製作所やパナソニックなどの大手企業も同様の動きを見せ
ています。

さらに、多くの企業が新卒初任給の引き上げを決定しました。
例えば、
・三菱UFJ銀行:初任給を25万円に引き上げ
・資生堂:初任給を30万円に大幅アップ
・ソニーグループ:初任給を30万円に引き上げ

このように、大企業が賃上げを進めることで、労働市場全体の
給与水準が引き上げられています。これは中小企業にとって大
きな課題となります。なぜなら、新卒・中途を問わず、人材が
より給与の高い大企業へ流れてしまうリスクがあるからです。

また、従来は「安定志向」で大企業に就職する傾向が強かった
若年層の価値観も変化し、給与を重視して転職を決断する動き
が強まっています。特に、IT・エンジニア職などでは、スキ
ルのある人材が給与の高い企業へ流れる傾向が顕著になってい
ます。

■3.中小企業も賃上げをしなければ人材確保が困難に

こうした状況の中で、中小企業が賃上げを行わなければ、優秀
な人材の確保はますます難しくなります。その理由を以下の3
点に分けて説明します。

●1.人材不足が深刻化している

中小企業ではすでに慢性的な人材不足が続いています。少子高
齢化が進み、特に若手労働力の確保が困難になっています。日
本商工会議所の調査(2024年)によると、中小企業の約60
%が「人材不足」を経営上の大きな課題として挙げています。
こうした中、賃金の低い中小企業は「給与の高い企業へ転職し
たい」と考える従業員を引き留めることが難しくなります。結
果として、人材が流出し、さらに業務が回らなくなる悪循環に
陥る可能性があります。

●2.「給与の低い会社には入りたくない」という意識の変化

近年の新卒採用市場では、「給与の高さ」が企業選びの重要な
ポイントになりつつあります。就職活動をする学生の間では、
「給与の低い企業には将来性がない」という認識が広がってお
り、中小企業が優秀な学生を確保することがますます難しくな
っています。
例えば、2023年のマイナビの調査では、「企業を選ぶ際に
最も重視するポイント」として「給与・待遇の良さ」を挙げた
学生が過去最高となりました。つまり、中小企業が賃金を引き
上げない限り、優秀な新卒が集まらず、将来的な企業の競争力
低下につながる可能性が高いのです。

●3.物価上昇により「今の給与では生活が厳しい」と感じる
人が増えている

物価上昇が続く中で、「現在の給与では生活が厳しい」と感じ
る労働者が増えています。特に、家賃や生活費の高騰が続く都
市部では、給与の低い企業で働くことのリスクを強く感じる人
が多くなっています。こうした状況では、企業が賃上げを行わ
なければ、従業員が転職を検討しやすくなります。特に、中小
企業では「給与が上がらないなら辞めてしまおう」と考えるケ
ースが増えるでしょう。

■中小企業にとって賃上げはコスト負担ではありますが、今後
の経営を考える上で避けて通れない課題です。政府の支援策や
生産性向上を活用しながら、競争力を維持するための対策を講
じることが求められています。厳しいですがこれが現実です。

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