成長を志向する中小企業にとって、現在の経営環境は決して甘
いものではありません。人手不足の常態化、原材料やエネルギ
ー価格の上昇、価格転嫁の難しさなど、経営判断を迫られる局
面は年々増えています。しかし、こうした厳しい環境の中でも、
着実に業績を伸ばす企業が存在する一方で、静かに体力を失っ
ていく企業があるのも事実です。その差は、経営者の努力や社
員の真面目さだけではありません。経営数字とどこまで真剣に
向き合っているかという点にも大きく影響されます。

多くの中小企業では、決算書は今なお「税務申告のための書類」
にとどまっています。売上高や営業利益といった結果の数字は
見ていても、「なぜその数字になったのか」「どこに経営上の
歪みが潜んでいるのか」まで踏み込めていないケースが少なく
ありません。成長を本気で望むのであれば、まずこの姿勢を改
めなければなりません。経営数字は、過去の成績表ではなく、
未来の選択肢を示す地図だからです。

まず経営者が押さえるべきは、「売上・利益」だけではありま
せん。重要なのは、その数字がどこから生まれ、どこで削られ
ているのかを理解することです。数字は結果ではなく、経営構
造を映し出す鏡です。

第一に確認すべきは、どの商品、どの顧客が本当に利益を生ん
でいるのかという点です。売上規模の大きさや取引年数の長さ
と、利益への貢献度は必ずしも一致しません。値引き、過剰な
サービス、属人的な対応が常態化し、気づかぬうちに利益を圧
迫しているケースは少なくありません。商品別・顧客別に粗利
益を分解することで、初めて「伸ばすべき事業」と「見直すべ
き取引」が明確になります。

第二に、固定費と変動費の構造を正しく把握する必要がありま
す。売上が減っても下がらないコストは何か、売上に連動して
増減するコストは何か。この構造を理解せずに価格戦略や事業
拡大を考えることは極めて危険です。特に固定費比率が高い企
業ほど、売上変動に対する耐性は弱く、数字に基づくコスト構
造の理解が経営の安定性を左右します。

第三に、人件費が生み出す付加価値を直視しなければなりませ
ん。人件費は単なるコストではなく、企業の競争力そのもので
す。一人当たりの粗利益や付加価値を把握せずに、「人が足り
ない」「人件費が重い」と語ることはできません。採用や賃上
げ、配置転換、外注化といった判断は、感情論ではなく数字に
基づいて行うべき経営判断です。

第四に見落とされがちなのが、在庫や売掛金に資金が滞留して
いないかという視点です。損益計算書上は黒字であっても、回
収されない売掛金や動かない在庫が増えれば、資金繰りは確実
に悪化します。これらは決算書の利益には表れにくいものの、
企業の体力を静かに、しかし確実に蝕みます。キャッシュの流
れを意識した数字管理なくして、持続的な成長は望めません。

成長とは、単に売上を伸ばすことではありません。利益とキャ
ッシュを伴い、再現性をもって拡大していくことです。そのた
めには、経営数字を結果として眺めるのではなく、構造として
分解し、因果関係を理解する必要があります。数字を分解して
初めて、「次に何を打つべきか」「何をやめるべきか」が見え
てきます。

経営数字の管理は、管理そのものが目的ではありません。真の
目的は、意思決定の質とスピードを高めることにあります。値
上げをするのか、事業を絞るのか、人を増やすのか外注化する
のか。数字に基づいた判断は、迷いを減らし、経営者に覚悟あ
る決断を促します。

中小企業が次の成長ステージへ進むために必要なのは、特別な
才能や派手な戦略ではありません。必要なのは、経営数字と正
面から向き合い、数字で判断する覚悟です。成長を本気で望む
のであれば、まずは経営数字の管理レベルを一段引き上げるこ
と。そこから、企業の未来は確実に変わり始めます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です