先日、ある経営者の方から「接待費が多いので、自分の店を作
ったほうが安上がりではないか」と相談を受けました。じつは
この手の相談は珍しくありません。
本業が好調になり資金に余裕が出ると、接待の場として飲食店
を持ちたい、税金を払うくらいなら店でも作っておこうという
気持ちが湧いてくる経営者は多いものです。
しかし、このような理由で飲食店経営に踏み出すのは、経営判
断として非常にリスクの高い選択です。本気で新規事業として
取り組む場合とは前提が全く異なり、想像以上に悪影響が大き
くなります。
■ 接待費の節約目的では、飲食店の赤字は埋まらない
飲食店を持てば、外で飲むより安く済むだろう。こうした発想
はもっともらしく見えますが、現実には成立しません。
飲食店は看板を上げた瞬間から固定費が発生し続けます。
家賃、人件費、光熱費、仕入れ、消耗品など、接待費の削減で
賄えるレベルではありません。
たとえ接待費が月に数十万円かかっていたとしても、飲食店の
赤字はその金額を軽く超えることがほとんどです。
結果として、節約するどころか本業の利益で飲食店の赤字を穴
埋めする構造になりがちです。
■ 税金を払うくらいなら飲食店でも…という発想も危険
「税金を払うくらいなら店を作ったほうが良い」という考え方
もよく聞きますが、これは典型的な誤解です。
税金は利益の一部ですが、飲食店の赤字は利益を確実に減らし
ます。
税金を減らすために飲食店を始める行為は、節税どころか、本
業まで巻き込んで会社全体の財務体質を弱める可能性が高くな
ります。
■ 金融機関の評価は確実に下がる
金融機関は、飲食店を道楽的に始めたかどうかを非常に敏感に
見ています。
理由は以下の三つです。
1.本業の集中力が落ちると判断される
2.利益を生まない投資に走り、財務規律が緩んでいると見え
る
3.「赤字体質の事業を作った」ことで、返済能力の評価が下
がる
特に3つ目は深刻で、赤字の飲食店を持っているだけで、会社
全体の格付が下がり、資金調達力が落ちることがあります。
金融機関は何を始めたかよりも、なぜ始めたかを重視します。
そこに経営的な合理性がない場合、評価がマイナスに振れるの
は避けられません。
■ 背景にあるのは「本業好調期の油断」
飲食店を道楽的に始める経営者の多くは、本業が好調な時期に
判断しています。
資金に余裕がある、気持ちにも余裕があるため、「少しくらい
遊びでやっても大丈夫だろう」と感じてしまうのです。
しかし、事業の黄金期こそ、
・内部留保を積む
・組織を強くする
・本業の改善に投資する
べきタイミングです。
余剰資源を本業と無関係な事業に流すことは、会社の成長可能
性を自ら削ってしまう行為です。
飲食店を始めたいという気持ち自体は否定しません。しかし、
経営の基本は資源を最も効果的に使うことにあります。もし、
飲食店という選択肢が本気の事業計画ではなく気分や感覚に近
いのであれば、もう一度立ち止まって考えてみる方が賢明です。
