日本の中小企業は、最低賃金の上昇やエネルギー・原材料価格
の高騰に直面しながらも、価格転嫁が進まずに苦しんでいます。
「値上げ=顧客離れ」という固定観念に縛られてしまい、結果
的に利益を圧迫してしまうケースは少なくありません。そこで
注目すべきが、需要や時間帯、在庫状況に応じて価格を柔軟に
変える「ダイナミックプライシング」です。大企業だけの手法
と思われがちですが、工夫次第で中小企業にも活用可能な強力
な戦略となります。

■1.大手企業が証明する収益改善の効果
ダイナミックプライシングはすでに多くの業界で成果を上げて
います。

●航空・ホテル業界
・繁忙期は高価格で収益を確保し、閑散期は割安に提供して稼
働率を最大化。
●外食チェーン
・ピークタイムは価格を上げ、アイドルタイムは値下げするこ
とで混雑緩和と集客を両立。
●テーマパークやコンサートチケット
・需要予測に基づいて価格を変動させ、売上を伸ばすだけでな
く、顧客分散を実現。

こうした事例は、価格を固定するよりも「変動させる」方が、
収益性・顧客体験の双方を改善できることを示しています。

■2.中小企業でもできる実践シナリオ
中小企業の現場にも応用可能な場面は多岐にわたります。

●飲食店
・金曜夜は通常価格を維持し、平日昼はセットメニューを割安
にして空席を埋める。
・天候連動型キャンペーンとして「雨の日割引」を導入し、集
客を安定化。
●美容室・整体院
・直前キャンセル枠を値下げして即時予約を促進。
・繁忙期の年末や土日にはプレミア価格を設定し、利益を上積
み。
●小売業
・在庫が多い商品は値下げで回転を早め、人気商品は需要期に
値引きを抑制。
●レンタル業
・季節商材(スキー用品や祭事用備品など)は繁忙期料金を設
定し、オフシーズンは割安に提供。

これらはPOSSデータや予約アプリを活用すれば十分に実現
可能です。難解なAIシステムを導入しなくても、まずは「曜
日」「時間帯」「在庫量」というシンプルな切り口から始めら
れます。

■3.利点は「利益最大化」と「顧客満足度向上」
ダイナミックプライシングの本質は、単純な値上げではなく
「売れ残りや混雑による機会損失をなくすこと」にあります。

●利益の最大化
・需要が高い時期に価格を調整することで利益を確保し、閑散
期には値下げで稼働率を高める。
●顧客分散効果
・混雑時を避けたい顧客にはオフピーク価格を提供し、快適な
サービス体験を実現。
●従業員の負荷軽減
・ピーク時の集中を抑制できるため、人手不足が深刻な中小企
業にとっても労務管理がしやすくなる。

つまり「顧客の満足度を下げずに、収益と働きやすさを両立で
きる仕組み」です。

■4.導入の壁を乗り越える方法
「顧客に不公平感を与えないか」という懸念はもっともですが、
工夫次第で解決できます。

●納得感のある説明
・「早割」「直前割」「平日限定」など、顧客が理解しやすい
形で設定する。
●透明性の確保
・店頭や予約サイトで価格ルールを明示し、誤解を避ける。
●小さな実験から開始
・まずは曜日別・時間帯別などシンプルな仕組みから導入し、
顧客反応を見ながら調整。

近年は、中小企業向けのクラウド型ダイナミックプライシング
サービスも登場しており、AIが需要を予測して価格の目安を
示してくれるため、専門知識がなくても導入が容易になってい
ます。

■5.「価格を守る」から「価格を活かす」へ

固定価格が当たり前だった時代は終わり、価格を柔軟に動かす
ことが競争力を生む時代に入っています。物価高・賃上げ・人
手不足という逆風に対して、価格を固定して守るだけでは企業
の体力は削られてしまいます。中小企業がとるべきは「価格を
活かす」戦略です。需要の波に合わせて価格を変え、収益機会
を最大化する。これこそが持続的な経営を実現する新しい発想
です。

大きな投資をせずとも、まずは自社の予約や販売データを振り
返り、「混む時間」「空いている曜日」「在庫の山」を見つけ
ることから始められます。そこに小さな価格実験を仕掛けるこ
とが、未来の利益構造を変える第一歩になるでしょう。

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