2025年、物価上昇と人件費高騰という“構造的変化”が日本企
業を包み込んでいます。最低賃金は全国平均で1,100円超を視
野に入れ、原材料費・エネルギー費・物流コストも高止まりし
たままです。とりわけ中小企業は、価格転嫁の難しさゆえに、
利益を削り、体力を消耗している現実があります。

しかし、「我慢して価格を据え置く」ことは、もはや顧客満足
ではありません。持続可能なサービスや雇用の維持こそが、企
業の社会的責任であり、そのためには避けて通れないのが“値
上げ”という選択です。

その象徴的な事例が、カレーハウスCoCo壱番屋(ここ壱)の
一連の動きです。

■2度の値上げを断行した「ここ壱番屋」の判断

CoCo壱番屋は、2023年10月に続き、2024年8月にも主要メ
ニューの再値上げを実施しました。具体的には「ポークカレー」
が40円程度引き上げられ、各種トッピング商品も含め、全体的
に平均3~5%の価格改定となりました。
理由は明確です。企業努力では吸収しきれない原材料費の高騰、
最低賃金引き上げに伴う人件費負担、さらにはフードロス対策
や物流人員の確保など、継続的なコスト構造の変化に対応する
ための不可避な措置でした。
ここ壱番屋は、公式発表や各種メディアを通じて「引き続き品
質とサービスを維持するためにご理解をお願いしたい」と誠実
に訴えました。

■一部の批判と客数減、それでも「増収」

2024年8月の値上げ後、一部の報道では「また値上げか」「も
う手頃感がない」といった消費者の声が取り上げられました。
実際、ここ壱番屋の客数は前年比で約5%減少しています。
しかし、ここで重要なのはその“結果”です。値上げによって
客単価が上昇し、最終的に売上は前年を上回る「増収」となっ
たのです。
つまり、値上げによる離脱客をある程度見込んだ上で、それを
上回る価値を提供し、顧客単価を改善することで収益構造を維
持・強化したのです。
これはまさに、「企業の持続可能性を守るための戦略的な値上
げ」であり、単なる価格の引き上げではありません。

■中小企業経営者への示唆「それでも、やらねばならない」

ここ壱番屋は全国チェーンであり、ブランド力や集客力で中小
企業とは立場が違うという意見もあるでしょう。しかし本質は
そこではありません。
この事例が伝えているのは、「批判があっても、客数が一時的
に減っても、やらねばならない時はある」という、経営者の覚
悟の問題です。
価格据え置きで利益が出なければ、従業員の待遇も設備も守れ
ず、顧客へのサービスも劣化します。逆に、価格を見直し、そ
の分の価値を磨き、納得を得る努力を続ければ、収益性は維持
できます。

■価格据え置きは「顧客第一」ではない

多くの経営者が「値上げは裏切り」「顧客に申し訳ない」と考
えがちです。しかし、安価にこだわるあまり、品質が低下し、
スタッフが疲弊し、事業が先細っていくようでは、本末転倒で
す。

今必要なのは、「価格=信頼の対価」という意識です。「うち
は値上げしません」と言うのではなく、「品質と人を守るため
に価格を見直します。その価値は必ず提供します」という姿勢
こそが、経営者の責任です。

■“痛み”を乗り越えるのは、「覚悟」と「説明力」

値上げには一時的な客数減や批判のリスクが伴います。しかし、
それでも向き合わなければならない時があります。それが今で
す。

ここ壱番屋は、繰り返し値上げを実施しながらも、増収を実現
しました。これは、「経営の持続性を守るために、逃げずに選
択を下した」結果です。

中小企業にとっても、それは同じです。値上げは“最後の手段”
ではなく、長期的な競争力と信頼性を守る“戦略”です。今こ
そ、値上げの恐怖から解放され、「伝える力」と「信頼づくり」
で乗り越える経営へ、シフトしていくことを強く提言いたしま
す。

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