「本体の業績は伸び悩んでいる。だから事業Aだけを切り出し
て新会社を作り、ゼロから資金調達できないか」。このような
相談をお受けすることが、しばしばあります。しかし結論から
言えば、株主も代表者も同じままでは“新会社”とは見なされず、
融資の扉はほぼ開きません。

まず、日本政策金融公庫や信用保証協会は「事業の実態」を重
視します。法人番号が変わっても、経営者と株主が同一なら
“同じ会社”と判断され、既存企業の評価(赤字・リスケ中など)
がそのまま反映されます。
民間銀行が無担保・無保証のプロパー資金を、新設法人にいき
なり出すことも極めてまれです。

「では株主と代表者を他人に替えれば?」という声もあります。
確かに形式上は可能性が残りますが、それはもはや自分の事業
ではなく、資金調達の権利も意思決定も他者の手に渡ることを
意味します。新会社の経営者として責任が取れないまま資金調
達に成功しても、その後の経営が順調に進む保証はありません。
むしろ、経営権と資金コントロールを失うリスクが高まります。

金融機関が見ているのは「数字」と「態度」です。赤字でも、
借入のリスケ中でも、改善計画に沿って着実に利益を積み直す
姿勢こそが最大の信用回復策です。実績を積み、約束を守り、
報告を徹底する。地味ですが、これ以外に扉を開く方法はあり
ません。

もちろん、新会社設立を完全に否定するわけではありません。
事業を守るための法的整理や持株会社化など、合理的な再編が
必要な場面もあります。ただし前提は、「既存会社が示した誠
実な改善の軌跡」です。そこを飛ばして“形だけの別会社”に逃
げ込んでも、信用はゼロどころかマイナスからのスタートにな
ります。

金融機関は努力の痕跡を数字で測ります。赤字縮小→単月黒字
→通期黒字、この階段を上る企業には、確実に追加融資の可能
性が拡がります。「信用は借り換えできない」。だからこそ、
自社の帳票に一つでも多くの黒数字を刻むことが、次の資金調
達を呼び込む最短ルートになります。

もし改善の階段を上れないままでは、残念ながら市中金融機関
からの調達は現実的ではありません。その際は、個人的な支援
者や事業パートナーを探し、別ルートでの資金確保を検討する
ことになります。

形式だけを変えても評価の土台は変わりません。まずは本業の
改善と信頼の回復を図り、その上で組織再編や新会社設立を検
討することが、結果的に最短ルートとなります。

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