「借りたお金は返すもの」。
もちろんこれは基本的な感覚ですし、個人の生活では当たり前
のことです。
ですが、企業経営、特に中小企業における運転資金の考え方は、
少し事情が異なります。
運転資金とは、事業を毎日動かしていくために、常に社内に存
在していなければならないお金です。
仕入れ→製造→販売→回収という流れの中で、売上が回収され
る前に出ていく支払がある限り、資金の循環は必要不可欠です。
よくある誤解に、「借りた運転資金を少しずつ返していけば、
やがて健全になる」という考えがあります。
ですが、正常な経営をしている限り、運転資金は返して終わり
ではなく、使いながら維持していくものです。
むしろ、事業が成長するほど必要な運転資金は増えていきます。
「一度借りて返しきる」という考え方は、事業の実態に合って
いないのです。
この考え方は、銀行の仕組みにも似ています。
たとえば銀行は、預金者から預かったお金をすぐに全額返すこ
とを前提にはしていません。
社会全体でお金が動いているという前提のもと、「一定の残高
が常に回っている」状態を保っています。
企業にとっての運転資金もまさに同じです。返し切ることを前
提にするより、“回し続ける”ことを意識すべき資金だと言える
でしょう。
もっと身近な例を挙げれば、従業員の給与や家賃の支払もそう
です。
こうした定常的な支出は、毎月確実に発生します。にもかかわ
らず「一度借りて返済すればOK」という姿勢では、資金はす
ぐに足りなくなってしまいます。
必要なのは、「毎月かかるお金は、常に循環する構造として資
金を組んでおく」という発想です。
また、運転資金と設備資金は必ず分けて考えるべきです。
設備資金は一度の支出(機械、車両、内装工事など)に対して、
回収計画に基づいて返済していきます。
一方、運転資金は事業を動かし続ける限り必要な“循環資金”で
す。
これを同じように返済してしまうと、キャッシュが回らなくな
るのです。
ですから、運転資金は「返済しきる」のではなく、不足すれば
追加で借りるというスタンスが基本です。
これをネガティブにとらえる必要はまったくありません。むし
ろ財務戦略としては正しい選択です。
資金を使いながら回す、そして必要なときに追加で確保する。
この柔軟性こそが、経営の継続性と安定性を生み出します。
ぜひ一度、自社の運転資金に対する考え方を整理してみてくだ
さい。
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