イノベーションとは技術革新の意味ではありません。
イノベーションとは新・結合(=新しい組み合わせ)を意味し
ます。
経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションとは
「新結合(New Combination)」によって社会に新たな価値
をもたらす行為だと定義しました。これは大企業だけの話では
ありません。むしろ、制約の多い中小企業だからこそ、機動力
を活かした“結合の再構築”が競争優位の鍵になります。
以下では、「5つの新結合」を中小企業の具体事例とともに紹
介し、経営者が自社の成長戦略にどう活かせるかのヒントを紹
介します。
■1.新しい財貨(製品)の導入
事例:株式会社ユーグレナ(ミドリムシ関連製品)
同社は、健康食品や燃料の原料として注目される「ユーグレナ
(和名:ミドリムシ)」の大量培養技術を確立し、食品・化粧
品市場に参入しました。当初、消費者には馴染みのない素材で
したが、「体に良い微細藻類」という価値訴求により、徐々に
市場を創出しました。これはまさに「消費者が知らなかった新
しい財貨の導入」によるイノベーションです。
◎自社にとって「当たり前」の技術や知見が、世の中ではまだ
知られていない価値かもしれません。マニアックな知識や独自
素材こそ、新市場を開拓する鍵です。
■2.新しい生産方式の導入
事例:町工場による3Dプリンタ活用(都内・板金加工業者)
ある金属加工中小企業は、従来の切削中心の加工工程に加え、
3Dプリンタによる試作品製造を導入しました。開発リードタ
イムを大幅に短縮し、デザイン事務所やベンチャー企業からの
受注が急増しました。これにより、従来のBtoB製造業からプ
ロトタイピング支援企業へとポジションを転換しました。
◎「この業界ではこうするもの」という前提を疑いましょう。
設備投資やIT技術の導入は、中小企業こそ柔軟に取り入れら
れます。生産方式の革新は、新たなビジネスモデルへの扉を開
きます。
■3.新しい販路の開拓
事例:地方の和菓子店が越境ECを活用(新潟県・創業100年
の菓子舗)
地方にある老舗和菓子店が、海外向けの越境ECに参入しまし
た。(コロナ禍の)インバウンド需要の消失後も、SNSと連
動した発信で台湾・香港・北米の固定ファンを獲得しました。
国内だけでは維持が難しかったブランドを世界に広げました。
◎販路は「地域」や「業界」の常識に縛られる必要はありませ
ん。オンラインを活用すれば、ニッチな商品にも世界中にファ
ンが生まれます。自社の強みを誰に届けるか、視野を広げるだ
けで売上構造が変わります。
■4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
事例:廃棄野菜を使ったクラフトビール開発(兵庫県の醸造所)
農家が廃棄予定だった規格外野菜を副材料に使用し、ユニーク
なクラフトビールを開発しました。サステナブル志向の若年層
や観光施設に受け入れられ、話題性と環境貢献性の両立を実現
しました。
◎既存の仕入先や材料を見直し、「捨てられていたもの」や
「使われていなかったもの」に着目してください。今ある資源
を別の視点で捉えることで、競合がいない“ブルーオーシャン”
に踏み出せます。
■5.新しい組織の実現
事例:シェアリング人材で形成された経営チーム(福岡県・
ITベンチャー)
正社員雇用にこだわらず、業務委託や副業プロ人材を活用して、
マーケティングや開発部門を構築しています。固定費を抑えつ
つ、高度なスキルを持つ人材で組織を形成しました。フルリモ
ート前提の組織体制は、コロナ禍以降の変化に柔軟に対応して
います。
◎「社員がいないと会社じゃない」という思い込みを捨てまし
ょう。今は“人を雇う”ではなく“人と組む”時代です。経営資源
を外部に求め、柔軟な組織構造を設計することで、規模の壁を
超える力が得られます。
■まとめ:経営者こそ「新結合の担い手」であれ
シュンペーターが語った「企業家」とは、まさに“常識の再結
合”に挑む存在です。中小企業であっても、あるいは中小企業
だからこそ、固定観念を打ち破る柔軟性と実行力が求められま
す。
現状維持はリスクであり、変化こそが成長の源泉です。今日か
ら、あなたの会社の中にある“結合可能な資源”を探し、何かを
組み直すことから始めてみてください。イノベーションは、あ
なたの手の中にすでに眠っているかもしれません。