中小企業の経営者にとって、法定福利費の増加は避けられない
課題となっています。近年の社会保障制度改革や少子高齢化の
進展に伴い、法定福利費は右肩上がりで上昇を続けており、企
業の財務に大きな影響を与えています。中には税負担よりも重
たいと感じておられる社長様もいらっしゃるのではないでしょ
うか。
■ 適用範囲拡大の動き
厚生労働省は、社会保険の適用範囲を段階的に拡大しています。
2024年10月から、従業員数51人以上の企業にも社会保険の
適用が拡大されました。これにより、より多くのパート・アル
バイト従業員が社会保険の対象となり、社会保険料負担が増加
しています。
■ 負担増加の推移
社会保険料率の推移を見ると、中小企業の法定福利費負担が年
々増加していることが分かります。まず、厚生年金保険料率は
2004年の13.58%から段階的に引き上げられ、2017年以降は
18.30%で固定されています。この約5%の上昇は、企業にとっ
て大きな負担増となっています。
健康保険料率も上昇傾向にあります。2003年3月までは月例給
与の8.5%、賞与の1.4%でしたが、2003年4月以降は総報酬制
に移行し、当初4.2%だった料率は年々上昇しています。さら
に、2025年には約15.92%まで上昇すると推計されており、企
業の負担はさらに重くなることが予想されます。
■ 増加の影響
法定福利費の増加は、中小企業にとって以下のような影響が予
想されます。
1.コストの増加:社会保険料の引き上げにより、企業の資金
負担が年々増加しています。
2.法定外福利厚生費の減少:法定福利費の増加を補うため、
他の福利厚生費が減少することが予想されます。
3.採用競争力の低下:大企業と比較して中小企業の福利厚生
費は低く、法定福利費の増加がこの格差をさらに広げる可能性
があります。
4.利益率の低下:法定福利費の増加は直接的に企業の利益率
を圧迫し、中小企業の財務状況に悪影響を与える可能性があり
ます。
■ 対策
中小企業は、法定福利費の増加に対して以下のような対策を講
じることが重要です。
1.生産性向上:業務の効率化や省力化投資を通じて、人件費
の増加を抑える努力が必要です。
2.人材戦略の見直し:採用や定着率向上のために、限られた
予算内で効果的な福利厚生制度を構築する必要があります。
3.価格転嫁の検討:コスト増加分を適切に価格に反映させる
ことも検討すべきです。
4.政府の支援策の活用:中小企業向けの各種支援制度を積極
的に活用し、負担軽減を図ることが重要です。
5.労働時間や雇用形態の見直し:社会保険の適用基準を考慮
しつつ、効率的な人員配置や業務委託の検討が必要です。
人材の雇用や育成は、中小企業にとって最も大きな投資です。
従来の「人が足りないから採用する」という行動様式を見直し、
人の代わりに機械やAIに投資することや、外注や業務委託を
活用することなど、あらゆる可能性を検討していく必要があり
ます。これにより、法定福利費の増加に伴う負担を軽減し、持
続可能な経営を実現する道が開けると考えます。