前回号の続きです。

事業全体の活性化や事業立地の付加・転換など、事業自体をそ
の本質から見直そうとするときは、ビジネスの全体像を現した
ビジネスモデル俯瞰図を作ってみるとわかりやすいです。ビジ
ネスモデル俯瞰図を使って、事業の活性化を図りたいときの着
眼点を整理いたします。

■着眼点4:サービス代理店を付加する事例を紹介します。

同業者や新規事業を求める事業者(個人含む)に、自社事業の
ノウハウを提供して自社のパートナーとして活動してもらう事
例です。フランチャイズシステムも含みます。

●飲食店等でよくあるフランチャイズシステムもこの様式です。
自社の商品やサービスは(本来)自社でエンドユーザーに直接
提供・販売すべきものですが、同業者や新規事業を求める事業
者(個人含む)に対して自社のソリューション一式を提供して、
自社と同じビジネスを展開してもらうことで、加盟料やライセ
ンス料、供給品を提供して収益を上げます。

副業やフリーランスの方々が増える中で、比較的大きな資金を
要するフランチャイズシステムではなく、小資金で運営できる
ビジネスパッケージであれば、個人事業者やフリーランスにも
十分受け入れられるはずです。

例えば、多額な投資が必要で大きな売上を見込める商圏は自社
で展開し、自社で展開するのには小さすぎる商圏はそのエリア
に在住する個人に任せるオプションが現実的です。
今、このような小さな事業パッケージがたくさん生まれていま
す。副業やフリーランス、個人事業者はこのようなビジネスパ
ッケージを探しています。
例1)スマートフォンの修理を行う事業者Aは、大商圏では好
立地に自社店舗を出店して展開すると同時に、地方都市やロー
カルエリアでは自社ノウハウを提供する『修理ノウハウ習得者』
を養成して事業を行っています。訓練費用や機材提供収益等を
上げることができます。

例2)造園や庭仕事などのノウハウを、独立希望者に教えて事
業パートナーを募るB社があります。営業活動は本部が一括で
行い、業務は事業パートナーが受託して行います。B社は造園
や庭仕事の専門業者で、すべての業務を自社で行っていました
が、あるタイミングから事業パートナーとのアライアンスモデ
ルに切り替えています。

例3)ウーバーイーツは、本部、飲食店、ユーザーの中に組み
込まれたサプライチェーンです。受注の仕組み作りと加盟飲食
店の開発は本部が行い、ユーザーへのデリバリー機能を引受け
ます。

◎ビジネスモデル俯瞰図で説明すると、今回の事例は、お客様
に伸びる矢印に対して横向きの矢印を新たに作ることになりま
す。同業者や他業種の事業者、個人もパートナーとして引き込
みます。特に、副業やフリーランスの方々を自社のサプライチ
ェーンに引き込んで活躍してもらうモデルは、時流に適合した
最適解の一つです。

◎ビジネスモデル俯瞰図のお客様の軸を変えるという意味だけ
ではなく、今回ご紹介したモデルは拡張性・汎用性に優れたビ
ジネスの型です。独自性のある商品やサービスを有する事業者
様は、自社のみで展開するのではなく、そのソリューションを
ルール化して、同業者を含む第三者に対して提供することもで
きます。自社の有する独自性は、同業者にとっては極めて有益
な個性であり、同業者からのニーズも大きいはずです。一方、
ノウハウやスキルの保護のためには、契約方法や提供方法の工
夫が必要です。

…次回につづく

「勘定合って銭足らずという言葉」があります。利益は出てい
るのにお金が無いという状態です。なぜそのような事態に陥る
のでしょうか。まずは運転資金のメカニズムを知りましょう。

■ 運転資金のメカニズム
経費の支払いは翌月10日、仕入の支払いは翌月20日、売上金
の回収は翌月末、という取引条件のケースです。

・売上高が100万円の場合
売上高100万円-仕入高70万円-経費20万円=利益10万円と
利益は出るのですが、売上金の回収より先に経費と仕入の支払
が来るため、90万円を一時的に立て替えなくてはなりません。
これが運転資金です。

・売上高が200万円に増えた場合
売上高200万円-仕入高140万円-経費40万円=利益20万円と
利益は倍増しましたが、立て替えなくてはならない金額も180
万円に倍増します。売上を伸ばせば伸ばす程、大きな立替金が
必要になりますので、銀行からの借入を検討しなくてはなりま
せん。

経営者の中には「出来るだけ借金はしない方が良い。」と考え
ておられる方も少なくありません。しかし、運転資金の借入は、
売上が入金されるまでの資金をつなぐ安全性の高い借入です。
経営者として、せっかく売上を伸ばす能力を有しておられるの
ですから、ファイナンスを活用することを過度に恐れる必要は
ないと思います。

また、借入のタイミングも重要です。出来るだけ借金をしたく
ないと言う思いが強すぎると、資金が本当に足りなくなった時
点でしか融資を申し込みません。無駄な借入をしないという点
において一見良い事のように感じますが、経営的には無計画と
も言えます。

前述の企業の場合、売上を伸ばせば伸ばす程資金が不足するこ
とは、財務的な知識があれば事前に分かることです。資金が足
りなくなってから借入に動くのではなく、営業に精を出す前に
資金を確保しておく必要があります。

前回号の続きです。

貴社のビジネスモデル俯瞰図の中で、お客様へと伸びる矢印に
着目してください。お客様とは…細分化すると多くの属性が生
まれます。ビジネスモデル俯瞰図を分析するときは、ビジネス
の流れを示す一つ一つに着目して確認してください。特に、誰
に売るのか?=顧客の分析は重要です。
■着眼点2:お客様を細分化して、特定のお客様への個別対応
を充実させた事例を紹介します。

●例えば、ある家電量販店(大手ではありません)は、過去の
販売履歴から、その過去の購買金額・年齢や自店との距離を定
めて重点顧客を選定し、その顧客には購買金額の多寡にかかわ
らず個別無料配達を行っておられます。100円の商品一つで
も無料でお届けするとの意味です。訪問時の付加サービスや御
用聞き機能を充実させることで、高額家電の購入、過度に値引
きを必要としない売上につながっているようです。顧客に対し
て一律に対応するのではなく、その対象を分析・選別して細や
かに対応することで、その売上と利益を伸ばしておられます。

◎ビジネスモデル俯瞰図の中で、お客様へと伸びる矢印に着目
してください。お客様とは…細分化すると多くの属性が生まれ
ます。上記のお店の場合は、大手量販店がひしめくエリアで、
競合各社が自店への集客を試みる中、自店への誘導ではなく、
客先へ足を運ぶ選択を行いました。その仮説を持ったうえで、
お客様の選別を行ったのでしょう。

一方、あるお客様への個別対応を充実させることは、その他の
お客様を対象から除外することになります。漠然とお客様を捉
えるのではなく、(失礼な言い方になりますが)お客様を選別
する、この発想は重要です。
■着眼点3:事業者向けに事務機材を販売する事業会社様の事
例を紹介します。

●例えば、事業者向けに事務機材を販売する事業会社様は、地
方支店におけるその営業エリアが複数の県にまたがっており、
大変広範囲な営業エリアを設定していました。営業マンの日々
の平均訪問可能件数は2件未満で、遠方の時は1件だったそう
です。あるタイミングから方針を見直して、その管轄するエリ
アを面積で5分の1程度にまで絞り込みました。営業マンの平
均訪問件数は3倍以上に増え、売上・利益とも数倍に伸びてい
ます。

◎ビジネスモデル俯瞰図の中で、お客様へと伸びる矢印に着目
してください。お客様とは…細分化すると多くの属性が生まれ
ます。上記の事業会社では、ある意味欲張って、広範で実力を
上回るエリアを設定してしまっていたがために、大変非効率な
状況でした。エリアを適正な水準に是正したことで、営業効率
が飛躍的に改善し、売上・利益とも大きく伸びています。
限られた経営資源を広く分散させてしまうと、その成果も激減
します。【分散症候群】と呼ばれる経営上の疾病です。
【Simple化】絞り込んで、そこに集中的に経営資源を投下して
ください。

…次回につづく

経理担当者が数年に渡って会社のお金を着服していた等、従業
員による不正のニュースがしばしば流れます。ニュースになる
ほど多額ではないにせよ、どの会社でも起こり得る出来事です。
決して他人事と考えず、日ごろから管理体制をしっかりと整え
ましょう。

最も不正が発生しやすいのは、現金取引が多い業種です。ある
飲食店では、実に売上の1%程度が不正によって失われていた
という報告もあります。1日の売上高が10万円とすると、そ
の1%は1,000円です。1日あたりの不正金額は少額でも、
年間に換算すると36万5千円となります。営業利益率を5%
とした場合、36万5千円の利益をカバーするためには、月商
の約2か月分となる730万円の売上が必要です。大き過ぎる
損失です。

仕入や経費の水増し等もよくある手口です。目立たない程度に
会社の預金を引き出し、仕入として会計処理を続ける不正です。
仕入担当者が仕入先と結託し、振込金額の一部を仕入先から従
業員にキックバックする形を取られると、見抜くのはさらに難
しくなります。

不正が起きるのはお金を扱う部署だけではありません。最近で
は、個人間で物品を気軽に売買できるウェブプラットフォーム
がいくつもあります。会社の備品や材料を盗み、インターネッ
トで販売する不正も増えています。

もちろん不正を働く社員が悪いのですが、不正を働ける環境を
放置している経営者にも大きな責任があります。(信頼してい
るからと言って)1人の社員に経理業務を任せっきりにしてい
たり、仕入や在庫管理を現場任せにしたりしていないでしょう
か。経営者のずさんな管理体制が従業員を犯罪者にしてしまっ
ている可能性もあります。

また、不正は税務面から見ても問題です。経営者は知らなかっ
たとは言え、結果的に仕入や経費を水増しして申告しているた
め、利益の過少申告が問われます。従業員にお金を奪われたう
え、さらに追加の税金も負担しなくてはなりません。

コロナ禍により利益を出すのが本当に難しい経営環境が続いて
います。不正という目に見えない資金流出を防止するためにも、
業務プロセスの再確認と定期検査等の導入を検討してはいかが
でしょうか。是非、ご相談ください。

ファイナンスはビジネスにとって極めて重要な機能です。分割
支払い手数料無料で躍進した通販会社や、クレジットカードの
黎明期に自社クレジットを普及させて主婦の支払いを1か月先
送りにした(※結果他のスーパーで買い物しにくくなる)食品
スーパーなど、その成功例はたくさんあります。また、プラッ
トフォーマーは、そのすべてが金融機能を有しています。大き
な収入源です。
一方、金融事業を自らが営める中小企業は稀有です。それでも、
世の中に現存する金融ソリューションをうまく活用することで、
自社ビジネスを後押しできるモデルを導入することはできます。

■着眼点1:自社の商品やサービスを販売しやすくするために、
ファイナンス機能を追加した事例を紹介します。

●ある製造卸販売事業者様の場合、その販売先候補や卸先候補
に対して、その与信上の懸念から新規先の開拓が十分できてい
ませんでした。このケースでは、商品力の問題よりも、販売す
るための与信力の判断または付与が問題になります。
新規顧客開発のためにファイナンス機能を付加することで、大
きな売上アップを狙えます。

具体的には、

◆その1…クレジットの付与

新規販売先に対するクレジットを付与します。クレジット会社
と提携して、与信上の懸念から新規取引を避けていた販売先に
対しても営業を活性化できます。

◆その2…ファクタリングの付与

新規卸先に対してファクタリングを付与します。クレジット会
社と提携して、与信上の懸念から新規取引を避けていた卸先に
対しても営業を活性化できます。

クレジットやファクタリング等、商流を有する企業と金融会社
との相性は抜群です。上手に提携してください。上記の企業様
の場合、ファイナンス機能の付加で、10%以上の売上増を見
込めます。

●事業者向けに原材料をネットで販売するネット販売会社が、
その販売先に対して、自ら設立した金融会社を使ってファイナ
ンス事業を行いました。月末締め翌月末払いの支払いサイトを、
1か月伸ばす毎に1%の料率で金利を付与します。
支払いを2か月伸ばした時、月間購入額100万円に対して2
%の金利が付与されます。このファイナンスは年率12%の金
融商品です。この会社は、商材販売の利益に付加して、金融収
益を計上することができます。また、自社商材の販売実績と、
金融会社として確認できる個人情報を合わせて審査することで、
優良債権として運用できます。

金融会社を自らが設立するのには相応の体力が必要です。この
ケースでも、金融会社とのアライアンスで代替えできます。

■商品やサービスに自信があれば、ファイナンスなどの付加機
能の追加を検討してください。

日本の企業、特にメーカーは、その製品の単機能の性能を磨く
ことには優れているが、その製品の使われ方に対する全体設計
が米国企業に比べて苦手だといわれることがあります。
自動車作りでは世界一であっても、新しい自動車社会の構想力
ではグーグルに劣っているのかもしれません。
同様に、商品やサービス自体の性能や品質向上には熱心でも、
そのサービスや商品を販売するための仕組み、ソリューション
の構築は苦手かもしれません。

◎事業再構築の一環として、ファイナンス機能の付加をご検討
ください。B2Bの領域では、普及の余地が残っています。

…次回につづく

借入にポジティブな印象を持っている方は少ないと思います。
ただ、経営者である以上、極端にネガティブになることもよく
ありません。借入について論理的に考え、上手に活用しましょ
う。

借入をしたくないとお考えの経営者様から次のようなお話をよ
くお聞きします。一見正しいように聞こえますがそうでしょう
か。

・借金はするなと親から教えられた。
・負債が多すぎて倒産した会社がある。
・自己資金だけで経営した方が安全性は高まる。

借金と言っても借入の目的でその性質は全く違います。遊ぶお
金など、消費に回るお金を借りることは健全ではありません。
消えてなくなり、新しい収益を生まない借入だからです。新た
な収益を生むことを目的とした事業性の借入を、消費性の借入
と同一に考えるのは大雑把すぎます。親の教えはおそらく消費
性の借入のことではないでしょうか。

負債が倒産の原因とされることがよくありますが、負債が増え
ればその分現金も増えますので、負債が増えることで倒産する
ことはありません。倒産の原因は負債の増加ではなく、業績の
悪化です。業績が悪化したことが原因で、結果として負債が多
く残ったというのが正確な表現です。

自己資金だけで経営した方が安全性は高まるというのは本当で
す。但し、「潤沢な自己資金」というのが正確な表現です。ギ
リギリの自己資金では、安全性が高まるどころか、非常に不安
定な経営を強いられます。自己資金が潤沢にないならば、まず
は借入で潤沢な資金を確保し、利益の蓄積とともに無借金に近
づけていくというのが流れです。

事業性の借入は大きく分けて3種類あると思います。ひとつは
倒産防止のため、手元資金を潤沢にする借入、二つ目は、事業
を伸ばすための投資を目的とした借入、三つ目は、赤字を補う
ための借入です。

倒産防止の借入は、安全性を高める借入ですので、全ての企業
が積極的に活用してもよいと考えます。投資を目的とした借入
は、事業力に自信がある経営者ならば活用を検討してもよいと
考えます。赤字を補う借入は、消費性の借入と同じく収益を生
まない借入です。借りる前によく検討する必要があります。

弊所では借入に関するアドバイスを行っております。
是非、ご相談ください。

前回号のつづきです。

■何十年間も同じことを繰り返している会社は少なくありませ
ん。創業以来、先代以来…ずっと同じことを行っています。事
業を創る、事業立地を見直す、イノベーションを企てる、これ
らの発想すらありません。それでも、社長は、従業員も皆まじ
めに?働いています。この会社は、静かに衰退をたどりながら、
時に急激にその使命を終えることになります。

「今年生まれた子供たちが、二十年後に就職する会社の半分は、
今存在しない会社だ」と言われています。二十年で会社の半分
は入れ替わるとの仮説です。多分そうなるのでしょう。AIに
取って代わられる業種、話題を呼んでいますが、自社がその中
に入っているのかの心配には及びません。すべての会社が時代
に取って代わられるからです。

変化しなければ会社は存在意義を無くします。時代毎のニーズ
に対応することが生き残るための条件です。経営は、連続的な
小さな変化を続けて行かなければなりません。この小さな変化
は、時間を経て大きな変化を遂げます。激変したように見える
会社も、小さな変化の積み重ねです。

■「事業計画を策定する」このテーマについて言及しています。

事業計画は、変化のための種です。何をどう変えて、○○まで
にどのように変化させるか!この仮説こそが事業計画です。過
去の流れを踏襲するだけの数値計画を作って満足してはいけま
せん。

■事業計画作成時の重要度

※事業計画作成時には、以下の要素が含まれているか確認して
ください。

◆事業立地の見直し・イノベーションの付加ができているか?
…重要度S
◆収益モデルの創造・見直しができているか?
…重要度S
◆現状の認識は十分か?
…重要度A
◆(仮)のゴール〔マイルストーン〕の設定はできているか?
…重要度S
◆全体を包括する整合性の取れた数値計画ができているか?
…重要度A
◆数値計画と資金計画との整合性を確認できているか?
…重要度B
◆マネージメント体制は成長についていけそうか?又は、妥当
か?
…重要度B
◆日々修正しながら現実的に対応できているか?
…重要度S

■経営者の仕事は、事業立地とビジネスモデルの検証・構築、
すなわち事業計画の立案・見直し以外にありません。

経営者の仕事は何?あれもこれも…たくさんありますが、重要
度で下位から消去して最後に残るのは、「事業立地とビジネス
モデルの検証・構築、すなわち事業計画の立案・見直し」です。
であるにも関わらず、大半の経営者はこれらの仕事をぞんざい
にしています。故に、経営者不在の企業体になり下がっていま
す。創業時に考えたビジネスモデルや、親から受け継いだビジ
ネスモデルを進化・発展させることなくただただ継続していま
す。事業計画と称して、過去の事業の時間軸を先に延ばして置
き換えるだけの数値計画を作って自己満足しています。体裁の
良い数値計画は事業計画ではありません。肝に銘じてください。

■経営者には3つの胆力が必要です。

経営にウルトラCは滅多にありません。一つ一つ理詰めで考え
抜く、一つ一つ確実に行動に移す、都度調整しながら継続して
積み上げていく…この行為を粛々と続けていくことこそ王道で
す。
1.理詰めで考える知力と、これを継続する知的胆力
2.確実に行動し続ける行動力と、これを継続する肉体的胆力
3.中々上手く行かないことに耐える耐力、これを継続する精
神的胆力
経営者には3つの胆力が必要です。

■事業計画とは、江戸時代に中国の奥地の○○を目指す長い旅
の旅程表のようなものです。

存在自体が不確実なゴールに向かって、一歩ずつ歩みを続けて
行かねばなりません。(江戸時代に)日本から中国の奥地を目
指すなら、まずは大陸に渡る手立てを考えます。渡れる航路を
求めて港に向かいます。そのためには、港に向かうための旅費
が必要になります。大陸に渡っても、続く道の存在は不確実で
す。それでも渡ります。ゴールまでの旅費の算段が読めなくて
も、それでも一歩ずつ前に進みます。これらの過程では、様々
なトラブルにも見舞われることでしょう。トラブルをできるだ
け避けながら、遭遇したら解決しながら、不確実なゴールに向
かって歩み続けます。この旅路にゴールは存在しません。

経営とは、ゴールではなく、そのプロセスそのものであるよう
に思います。知的胆力と肉体的胆力、そして精神的胆力を鍛え
ながら、経営という長旅に共に挑んでいきましょう。
楽しみながら。

「中小企業が伸びるか否かは社長の資金調達力で決まる。」と
言われることがあります。実際、事業を大きく拡大している企
業は、総じて資金調達が上手くいっています。この「資金調達
力」とは一体何でしょうか。

ご相談に来られるお客様の中には、本来融資を受けられる実力
があるにも関わらず、財務スキルの不足や調達戦略の間違いに
よって調達に苦労している方が一定数おられます。この場合、
弊所で調達戦略を練り直し、融資申し込み資料の作成をお手伝
いすることで資金調達が可能になります。一般的には、これら
のスキルを資金調達力と呼ぶことが多いようです。

しかし、銀行融資プランナー協会が考える資金調達力とは、こ
のような目先の調達を成功させるスキルではありません。本当
の資金調達力とは、「事業の拡大に必要な資金を調達し続けら
れる体制を構築すること」だと考えます。

そのためには、金融機関と円滑な関係を構築することが必須で
す。円滑な関係とは、会社の良い面だけでなく、悪い面も含め
て理解したうえで、積極的に融資取引をしてもらえる関係です。

もちろん、一夜にして金融機関から信頼を得ることはできませ
ん。決算書の提出時に業績報告を行ったり、月次試算表や資金
繰表を定期的に提出したりして経営状況を共有し続けることで、
徐々に信頼関係が構築されます。

他にも、事業計画書を作成し、経営方針、目指している目標や
資金が必要になる時期等を共有しておくことも大切です。

資金調達は、お金が必要な時だけ行うものという認識を改め、
常日頃から継続的に行うものと理解して取り組んではいかがで
しょうか。経営品質の向上に努め、金融機関と積極的に情報共
有を行い続けることで、資金調達力は着実に高まります。

◆1:新しい事業計画を立案する時には、今の事業立地に関す
る検証に時間を割いてください。事業計画作成の要諦は、事業
立地の見直しです。よりアッパーでニッチな領域への事業立地
の変更を検討してください。

○以下、高収益企業研究の第一人者でおられる三品和広教授の
言葉を引用します。
『…事業の根底には立地(誰に何を売るか)があり、その上に
構え(出荷するモノをいかに入手して顧客に届けるか)、製品
(いかに個別製品を魅力的に仕立てるか)、管理(いかに品質・
原価・納期を守るか)が重層構造を成している。…中期経営計
画などで立地や構えに手をつけることなく、製品の刷新や管理
の強化を打ち出している企業は数多くあるが、この次元で動き
だしたところで、高収益への転換に結び付いた事例はほとんど
ない。…』 〔三品和広教授(高収益企業研究の第一人者)〕

◎事業計画を作成することは、事業立地を検証し見直すことで
す。過去の流れをそのまま踏襲することを事業計画と呼び、そ
れを繰り返していると事業の革新は生まれません。何十年も同
じ事業立地にとどまって、ジリ貧に陥るのはこのケースです。
過去の流れに沿った体裁の良い数値計画を事業計画と呼ぶのは
止めましょう。

◆2:事業計画は、過去からの流れをそのまま維持する保守的
な計画でない限り、その予測は難解であって、その多くは計画
通りに進捗しません。多くのクリエイティブな計画の成功事例
は、後に理論武装されて解説を加えられています。後付けです。
保守的な計画でない限り、事業の正確な予測はできない前提で、
事業を執行してください。クリエイティブな計画を鵜呑みにす
ることは大変危険です。

『現実的には、ある程度先を考えておきながら適時対応してい
くことになるだろう。実現された戦略は最初から明確に意図し
たものではなく、行動の一つひとつが集積され、その都度学習
する過程で戦略の一貫性やパターンが形成される。』

※マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院にて1965年に
経営学修士及び1968年に博士を取得された異色の経営学者と呼
ばれるヘンリー・ミンツバーク博士の言葉を引用しました。

◆3:事業計画作成時の注意点!

1.事業計画は、そのアイデアが斬新で素晴らしいほど予測が
難しい!
2.事業計画は、起点の認識と終点のイメージ化が重要。プロ
セスは都度計りながら進める!
3.作成した事業計画を鵜呑みにしてはいけない。脱・前のめ
り!

◆4:事業計画作成の要諦!

1.事業立地の確認・選定…どんな事業を!
2.収益モデルの創造(ビジネスの型の確定)…どのような形
で!
3.起点(現状)を認識する!…力相応を知る!
4.(仮)のゴールのイメージ化…目指すゴールは!
5.起点からゴールまでの道筋を仮決めする!

上記を踏まえた上で、

6.全体を包括する整合性の取れた数値計画の立案!
7.数値計画と資金計画との整合性の確認!
8.マネージメント体制の整備!
9.日々修正しながら現実的に対応する!

◆5:事業計画執行時の注意事項(追記)!

1.コントロールできることを完全にコントロールすること。
2.頑張ればコントロールできることをできるだけコントロー
ルすること。
3.コントロールできないことには、出来るだけ適合すること。

コントロールできることをコントロールしない、これは放漫経
営です。頑張ればコントロールできることをコントロールしな
い、これは怠慢経営です。そして、コントロールできないこと
までコントロールしようとする、これは独りよがり経営です。

自社の明るい未来のために、真の事業計画を作成しましょう。
過去の流れに沿った体裁の良い数値計画を事業計画と呼ぶのは
止めましょう。

ある関与先様から、「業績が回復せず資金繰りが厳しい。次の
返済が出来そうにないが、延滞したら自宅を差し押さえられた
りしないか心配だ。どのように対処すべきか。」とのご相談が
ありました。

返済が難しくなった時の一般的な流れは以下となります。

1.返済条件の変更
金融機関は、融資先から返済が出来ないという相談を受けた場
合、まずは返済金額の減額を行って様子を見ます。

2.代位弁済(保証協会利用の場合)
返済条件を変更した状態からさらに業績が悪化し、金利や追加
の保証料すら払えなくなった場合、金融機関は保証協会から融
資金を回収します。この時点で、貸主が金融機関から保証協会
に変わりますので、その後の返済計画については、改めて保証
協会と協議することになります。

3.差し押さえなど(プロパー融資の場合)
プロパー融資の場合も、条件変更からさらに業績が悪化した段
階で担保の処分や連帯保証人の資産差し押さえ等を行います。
主要な資産を差し押さえられると事業を継続できませんので、
多くの場合はここで事業の継続を断念することになります。

上記のとおり、金融機関は一度の延滞だけで、いきなり差し押
さえを行うようなことはしません。貸出条件の変更等により、
業績の回復を相当な期間待ってくれます。ただ、これには経営
者が業績の回復を諦めていないこと、さらに金融機関と情報共
有が出来ていることが大前提となります。

経営者自身が業績の回復を諦めてしまえば金融機関は回収に走
らざるを得ません。また、十分な説明が得られない、連絡が取
れない場合も、強制的な回収に走らざるを得なくなります。返
済のあてがない時は、金融機関からの連絡に応じるのは苦痛で
すが、貸し手の立場で考えると、連絡が取れないほど不安なこ
とはありません。

業績が苦しい時ほど信頼関係が重要です。貸し手の理解を得ら
れるよう真摯に対応すれば、相手も真摯に対応してくれます。
無駄に恐れることはありません。