新年明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

今年は令和4年です。昭和97年ではありません。誰もが知って
いるはずですが、昭和の経営・考え方をそのまま踏襲している
方も少なくありません。新年を迎えるに当たって、もう一度令
和の経営について考えていただければ幸いです。

■1:昭和と令和は社会情勢が大きく異なります。

●昭和は、危険・不便・不快等、解決すべきテーマがたくさん
ありました。前回の東京オリンピックが開催された1964年の
冷蔵庫の普及率は10%だったそうです。大変不便な世の中でし
た。このような大きな困りごとを解決するためのプロダクト開
発と大量生産、それを実現するための同質化されたマネージメ
ント体制が構築され、「ジャパンアズNO.1」と世界中の注目
を浴びるまでに成長を遂げました。バブルの崩壊までは…

●令和は、安全・便利・快適を実現し、大きな課題を見つけに
くい時代です。皆が残された小さなテーマの解決に総動員して
取り組むことで、強烈な同質化・価格競争を招いています。低
成長と低収益のスパイラルから抜け出せません。

■2:であるにも関わらず、我々は、昭和文化に縛られた環境
で今日も生きています。

先輩の経営者、仲間、コンサルタント、書籍…ほとんどが昭和
です。結果として、我々は昭和の経営原則を疑いもせず、信じ
込んでいます。

◆新しい経営原則について考え直してみませんか?

・【PL】売上ではなく利益を、規模から質への転換を!
・【BS】所有する経営から持たない経営へ!
・【MG】ボトムアップの経営からトップダウンの経営へ!
雇用から業務委託へ!

■3:さらに、我々は、昭和のビジネスモデルから未だに抜け
出せません。

2世代上の先輩たちが定義した業種・業界に縛られ、はるか昔
に創造されたマネタイズ・ビジネスの型を未だに模倣していま
す。

◆新しいビジネスの型に転換しませんか?

・サブスクリプション1.0⇒2.0
・ソリューション提供企業への転換
・D2C(C2M)、クラウドファンディング
・DX
・業界の壁を破る
・ニューミドルマン(購買代理)⇒プラットフォーム
…等々

■4:これからは、すさまじいスピードでビジネスが変わります。

◆1:真のネット企業がリアル企業を凌駕します。
例)銀行の凋落、すべての分野で同じ事が起こります。

◎OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフ
ラインの融合を意味しますが、その真はネット企業がリアル企
業を飲み込む現象です。

◎さらに、ITの3次元化(メタバース)が始まります。

◆2:カーボンニュートラル(炭素ゼロ)政策が自動車業界を
直撃します。出荷額62兆円、全製造業の19%、GDP比12%
(2018年)を占める自動車業界に激震が走ります。

◎自動車エンジン向けにアルミニウム鋳造設備を開発・製造し
ていた大阪技研(大阪府松原市)の破産が4月、決まった。
(2021年6月16日、日経新聞)、この記事が象徴的です。

■5:様々な分野でルールチェンジが起こっています。

見方を変えることができれば、我々中小企業やこれから事業を
始める若者には大きなチャンスです。100mを早く走る競技で
は勝てないが、100mを20秒ジャストで走る競技を作ることが
できれば、金メダルも夢ではありません。下剋上・激変、チャ
ンスの到来です。

特に、以下の3つは新ルール構築の目玉になるテーマです。

●OMO(Online Merges with Offline)!
⇒デジタルシフトではなくDX(デジタルトランスフォーメー
ション)を!

●メタバース!
⇒ITが2次元から3次元空間の中に移動します。

●SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な
開発目標)」17の目標と、それを達成するための具体的な169
のターゲット!

■6:隆々と生き残り、成長する企業体を作りましょう。作れ
ます。

1.昭和のルールにとらわれず、
2.強烈な同質化・価格競争を回避し、
3.新しい事業立地やビジネスの型を理解して導入し
4.できれば、新しいルールの創造者としての地位を確保する

◎SP経営!=脱・昭和、令和の経営!
令和企業に転身し、前途洋々たる未来に向かって、共に頑張って
いきましょう。

本年もよろしくお願いします。
感謝・合掌

グループ会社を持つ企業の資金調達事例です。グループの概要
は下記となります。今回、C社の資金調達をお手伝いしました。

A社:設立6期目(借入実績あり)
B社:設立4期目(借入実績あり)
C社:設立3期目(借入実績なし)

金融機関はグループ会社への新規融資を嫌います。理由は実態
把握に手間がかかるためです。

グループ会社のそれぞれが全く別の事業を営んでおり、かつ、
グループ間で一切の取引も無い場合は、単独の会社として融資
検討をすることが可能です。しかし、大抵の場合、グループ間
で営業上の取引があったり、資金の貸し借りがあったりするた
め、融資対象の会社だけでなく、関連するグループ会社すべて
の財務状況を調査しなくてはなりません。通常の会社を審査す
るよりも数倍の手間がかかります。

具体的には、グループ間で利益操作を行っている可能性を払拭
するため、グループ合算の貸借対照表や損益計算書を作成しま
す。すべてのグループ会社の決算月が同一であれば簡単ですが、
決算月が違う場合は正確な財務状況がつかみにくくなるため、
さらに作業が複雑になります。

しかし、手間をかけてグループ合算資料を作成したところで、
必ず融資を出せるとは限りません。金融機関の担当者の立場で
考えると、「融資案件が他にもある中で、わざわざ手間のかか
る案件に関わりたくない。」というのが本音のようです。

よって、グループ会社がある会社は、金融機関の担当者に手間
をかけさせないよう、会社側で説明資料を作成しておくことが
重要です。

資料を作成するにあたり、金融機関が必ず知りたがるポイント
は下記になります。

・グループ合算で利益が出ているか?
・グループ合算で債務超過となっていないか?
・グループ間で実態のない取引を計上していないか?
・グループ間で資金の融通がないか?

これらの疑念を払拭するためには、最低限、下記の資料を用意
する必要があります。

・グループ間の取引状況が分かる取引関係図
・グループ合算の貸借対照表
・グループ合算の損益計算書

C社も、これらの資料を提出することで、スムーズに新規融資
を受けることができました。

資金調達が上手くいかないと感じているグループ企業の経営者
様、説明資料の不足が原因かもしれません。

是非、ご相談ください。

アフターコロナの財務戦略についてお話しします。

新たな変異株の出現でコロナ禍の終焉時期は確定しませんが、
それでもいつかは平時を迎えます。この病を多くの人たちが安
全の概念ではなく安心、受け入れの境地に立った時、他の感染
症と同じ対応になるのでしょうか。

約半数の事業がコロナ禍の影響を大きく受けたと言われていま
す。特に飲食やサービス・旅行関連などへの影響は甚大でした。
この損失を借入で賄った事業者は、今後長期間に渡って返済し
ていかねばなりません。

以下、対応を考えてみましょう。

◆PLが健全化できそうな会社に対する国の対応は…

国は、コロナ禍で生じた赤字を特別損失と見なし、返済を超長
期まで引き延ばせる施策を引き続き打ち出してくるはずです。
PL審査で新規の融資も実施しながら、積極的な支援を続けるは
ずです。場合によっては、DES(デッドエクイティースワップ)
で株式に転換し、備忘価格でオーナーが買い戻すなど、実質的
な棒引きを行ってくれる可能性もありそうです。

◎PLを合わせる、黒字化を図る、コロナ禍でダメージを受けた
会社様も、できるだけ短期間に黒字化を達成しなくてはなりま
せん。BSが痛んで債務超過に陥ろうとも、PLを整えましょう。
足元の収支がバランスしておれば、コロナ禍起因の棄損は説明
が付きます。コロナ融資や事業再構築補助金を存分に活用して、
とにかく黒字化を図ってください。

◆PLが健全化できそうにない会社に対する国の対応は…

上記と同様に、返済を超長期まで引き延ばせる施策を引き続き
打ち出してくるはずですが、健全でないPLに対する新たな融資
付けは難しく、リスケを繰り返しながら時間を稼ぐことしかで
きません。
最終的には整理することになります。

コロナ禍の融資対応は簡単でした。
国策として提供された「雨傘融資」の要件は、「コロナ禍の影
響で売上が落ちたので融資をお願いしたい。」のみであり、極
めて容易に資金調達ができました。

アフターコロナは徐々に平時に戻ります。
一方、アフターコロナ、平時に実施される「日傘融資」の要件
は、返済原資の有無であり、事業体の健全性です。180度、そ
の融資方針が転換します。

来年以降、有事「雨傘」から平時「日傘」に徐々に転換するプ
ロセスを迎えるに当たり、コロナ禍で生じた損失補填のための
融資金返済に迫られます。数年以上経過し、平時に完全に戻っ
た時には苦境に立たされる企業様も少なくないはずです。

◆財務戦略を持ってください。

当事務所では、アフターコロナの状況を想定し、クライアント
に対する財務支援体制の充実を図っています。コロナ禍で被っ
たBSの棄損を処理する長い旅路の伴走者としての役回りを担わ
せていただきます。

一年間お世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
感謝・合掌

 

金融機関は「決算書」を拠り所に融資審査を行います。中小企
業の場合、税理士事務所が税務目線で作ることが多い決算書で
すが、金融機関は税務署ではありませんので、「税金が正しく
計算されているか。」ではなく、「貸したお金が本当に返って
くるか。」という目線で見ています。よって、税務上は正しい
決算書であっても、提出された決算書をそのまま分析するので
はなく財務の目線で修正しています。

下記にセルフチェックの手順をご紹介します。すべての金融機
関が必ず下記の手順で診断している訳ではありませんが、基本
的な考え方としてご了承願います。

1.損益計算書の修正および診断

◆ 減価償却不足を修正します。
減価償却の未計上は税務上問題ありませんが、利益が正しく計
上されないため、財務上は必ず計上します。よって減価償却不
足がある場合、「税引き後利益-償却不足額」で利益修正を行
います。

◆ 役員報酬を修正します。
役員報酬を減らして利益を大きく計上するなど、役員報酬は利
益の調整弁になりやすい項目です。役員報酬額を実際に必要な
生活費よりも過小に計上している場合は、「実際に必要な生活
費(※360万円程度)-役員報酬額」を税引き後利益から差
し引きます。反対に実際に必要な生活費以上の役員報酬を得て
いる場合は、「役員報酬額-生活に必要な生活費(※800万
円程度)」を税引き後利益に加算します。
※金額はイメージしやすいように例示したものです。あくまで
も参考程度とお考えください。

【返済能力の診断(診断その1)】
修正後の損益計算書を基に返済能力を診断します。企業の返済
能力は、「修正後の税引き後利益+減価償却費」で求められま
す。この値がプラスであれば第1段階の診断はクリアです。マ
イナスであればプロパー融資を受けるのは難しくなります。

【適正借入額の診断(診断その2)】
返済能力を確認したら、次は借入額が返済能力に見合っている
かを診断します。「(金融機関からの借入額-現預金)÷(税
引き後利益+減価償却費)」で求められる値が「10」未満に
収まっていれば資金調達余力があると判断されます。10以上
となった場合は新たな借入は難しくなりますが、正式な算式は
さらに細かいものになりますので個別でお問い合わせください。

2.貸借対照表の修正および診断

◆ 不良資産の修正
資産の中から、実際は価値の無い資産を減算していきます。例
えば、回収不能な売掛金や貸付金、不良在庫、使途不明な仮払
金などは減算の対象です。販売先が破産を申し立てた場合、税
務上は破産手続きが完了するまで資産に計上しておかなくては
なりませんが、実態は回収見込みが薄いため、財務上は減算し
ます。

◆ 返済不要な負債の修正
社長個人からの借入金など、差し迫って返済が不要なものは負
債から減らすことが出来ます。

【安全性の診断(診断その3)】
倒産しにくい会社かどうかを、「自己資本」で判断します。こ
の場合も、修正後の貸借対照表を基に、「修正後の資産-修正
後の負債」で自己資本を算出します。損益計算書の診断結果が
良好で、この値もプラスであれば融資を受けられる可能性はさ
らに高くなります。

以上、3つの診断の結果はいかがだったでしょうか。ひとつで
もクリアできていない項目があれば財務面に問題を抱えている
ことになりますので、お早めにご相談ください。

コロナ禍の影響もあって、リモートワークが浸透しました。経
営者はその長短を自社の特性を合わせて検証しながら、これか
らの業務のオペレーション・働き方を最適化していかねばなり
ません。

リモートワークに関して積極的に運営してきたであろう識者の
見解を集めて以下列記しました。判断材料としてご確認くださ
い。

◆1.リモートワークを徹底することで、優秀な人材を全国から
集めることができている。完全リモートで全国一律賃金の某IT
企業は、優秀なITエンジニアの採用に困らない状況が続いてい
る。

◆2.全国に店舗展開している某アパレル企業は、リモートイン
フラを整備したことで、店舗間及び店舗と本部の情報格差がな
くなった。今まではリアルが主体の情報発信を行っていたので、
遠隔地とは情報格差が生じていたようだ。

◆3.採用時にリモート面談を行うことで、より多数の入社希望
者との面談が容易になった。最終面談のみリアルで対応してい
る。リモート面談とリアル面談との差異はあまり感じない。

◆4.リアルの参加者とリモートからの参加者が同居する会議に
おいては、リモート参加者に疎外感を与えない配慮が必要だ。
某企業は、リアルで参加可能な人(出社中の人)にも、自席か
らリモートで参加(全員リモートに統一)させている。

◆5.リモートワークだから従業員の業務管理が難しいのではな
い。そもそもオフィスワーク時に自席で勤務している部下の業
務を完全に管理できているわけではない。

◆6.某大手外資系企業はリモートワークを推奨しているが、一
方、出社時の社員間のコミュニケーションを充実させるための
事務所リニューアルを行った。

◆7.オフィスワーク時に話した内容も、リモートワーク者に伝
わる配慮が必要だ。オフィスワーカーとリモートワーカーの情
報格差を作ってはいけない。

◆8.リモートMTG時こそ、その前後の雑談的な時間を確保する
と有効だ。無駄時間を意図的に作るようにしている。

◆9.リモートワークへの適性や好みは各自異なる。一律に週3
日出社等とルール化するのではなく、柔軟に運用すべきだ。
リモートワーカーとオフィスワーカーがお互いを肯定し合える
文化を作りたい。

◆10.自宅での勤務環境を確保できない社員に対する配慮は必要
だ。自宅近隣でのサテライトオフィスの利用を促し、併せて、
自宅での環境整備費用を補助している。

◆11.新人(新卒及び中途入社)のオンボーディングに関しては、
リアル対応を充実させた方が良さそうだ。一方、これすらリモ
ート対応で十分との意見もある。

◆12.リモートワークの短所を考えるとき、それが不慣れな故に
起きている問題なのか、本質的な問題なのかの見極めが必要だ。

…等々

【リモートワーク】か【オフィスワーク】か、この二者選択で
はなく、これらを上手く使い分ける【ハイブリッドワーク】が
解でしょう。

また、業種や業態、会社の文化・考え方によって取り組み方は
それぞれでしょうが、全否定して取り組まない会社は時代から
取り残されることになりそうです。
デジタルネイティブなZ世代(※Z世代は、2021年現在の年齢
にして10~21歳)の社会進出が始まります。完全【オフィス
ワーク】で、毎日定刻に出社を余儀なくされる会社に、優秀な
若者が就職しなくなっても不思議ではありません。働かせ方?、
事業の運営についても改革が必要です。

ご存知の方も多いと思いますが、会社や事業にはライフサイク
ルがあります。ライフサイクルとは、会社や事業が、導入期→
成長期→成熟期→衰退期という成長カーブを描くという考えで
す。ライフサイクルと借入の関係について見てみましょう。

■ ライフサイクルの例
飲食店を例に取ります。出店からお客様に認知されるまでの局
面を導入期、お客様の評価を得て売上が増加していく局面を成
長期、売上の成長が止まり横ばいが続く局面を成熟期、お客様
に飽きられて売上が減少していく局面が衰退期です。

■ 飲食店の借入
飲食店の場合、導入期に出店資金を借入するのが一般的です。
店舗の設備資金として、1,000万円を7年返済で借りた場
合、7年以内に1,000万円超の剰余金を生み出す成長カー
ブを描くことが必須条件となります。極端に小さな成長カーブ
や短いライフサイクルで寿命を終えてしまえば、借金を残して
閉店することとなり、最悪の場合、法的整理をすることになり
ます。それなりの成長カーブを描いたとしても、剰余金が
1,000万円に届かなければ、リスケジュール等による返済
期間の条件変更を金融機関に依頼しなくてはなりません。

単純な例で借入とライフサイクルの関係を説明しましたが、実
際はもっと複雑です。より大きな成長カーブを描くために、成
長期に借入を行って複数店舗を出店する経営者もいます。また、
衰退期に借入を行い、店舗のリニューアルにより再度成長カー
ブを描く経営者もいます。各ステージにおける借入の役割と注
意点を説明します。

○導入期の借入
借入はてこの役割を果たします。導入期に500万円の自己資
金を有していた場合、借入を行わず500万円だけでお店をつ
くる場合と、1,000万円の借入をして1,500万円でお
店を作る場合では、期待できる成長カーブの大きさが変わりま
す。5年から7年でどれくらいの規模に成長させたいかをイメ
ージして借入の額を決定しましょう。

○成長期の借入
事業の拡大に伴い、業種によっては運転資金需要が旺盛になり
ます。運転資金の借入は、売上債権や在庫といった資産を見合
いに行う借入ですので、成長に伴って借入が膨らんでも問題は
ありません。しかし、新たな設備資金の借入は、導入期に行っ
た借入が順調に返済できていることが前提です。導入期の借入
が順調に返済できていないということは、予定どおりに成長カ
ーブが描けていないことを意味しています。マイナスからの返
済スタートになりますので、導入期の失敗を本当にリカバーで
きるかどうかの見極めが必要です。

○成熟期の借入
成熟期は利益を享受する時期です。新たな借入の需要はありま
せん。成熟期でも資金が忙しい場合は、予定通りの成長カーブ
を描けていないことを意味しています。成長途中の踊り場なの
か、衰退期に向かう局面なのかを見極め、必要に応じてリスケ
ジュール等の対応が必要です。

○衰退期の借入
事業が先細りしていく過程ですので、衰退に伴って借入も減ら
していきます。店舗のリニューアルや商品改良により、第2次
成長カーブを描くことを目指すならば、新たな借入を検討しま
すが、寿命に逆らう追加投資は創業よりも難しいと言われます。
引き際を見誤り最後に大きな借入を抱えてしまうことも珍しく
ありません。

会社や事業には寿命があり、山を登った後には必ず下らなけれ
ばならないことも考慮して借入を行う必要があります。借入の
状況を、ご自身が描こうとしている成長カーブの大きさや現在
の位置に照らし合わせて検証することも大切です。

創業時や新規事業立ち上げ時に、計画通りコントロールするこ
とはほぼ無理です。売上高・粗利益率・販管費のすべての項目
を確実にコントロールすることは最終目標です。

■経営の最終目標は、様々な指標を確実にコントロールするこ
とです。これができれば、結果として望む利益も創出できます。

◆ただ、これらの指標は、それらが複雑に絡み合っているので
厄介です。

例えば…
・売上を上げようとすると、販促費(販管費)が膨らむ。
・一方、販促費(販管費)を投入しても、予定通り売上が増え
るわけではない。
・割引をして粗利益率を落とすと売上が増えることがある。
・ただ、売上が増えても、粗利益の総額(売上×粗利益率)が
増えないこともある。
・逆に、値上げをすることで、売上が増えることもある。
・営業人員(販管費)を増やせば売上が増えるはずである。
・ただ、人件費(販管費)の増加分を賄えないこともある。
・旅費交通費(販管費)を減らせば、売上が落ちることがある。
・開発費(販管費)を増やせば、将来の売上は増えるはずだ。
・ただ、将来とはいつなのか、また、どれぐらいなのか予見し
にくい。

◆また、投資と成果には時間差が出ることも問題を厄介にして
います。

例えば…
・販促費(販管費)の投入と売上の増加には、タイムラグが発
生する。
・営業人員(販管費)の投入と売上の増加には、さらに大きな
タイムラグが発生する。
・開発費(販管費)の投入と売上の増加には、相当長期のタイ
ムラグが発生する。

◆本来コントロールできるはずの、単独の販管費項目ですら見
込み違いが発生します。

例えば…
・人件費(販管費)に想定外の時間外手当が発生して止まらな
い。
・採用がうまく進まず、採用コスト(販管費)が膨らんだ。
・投資(販管費)が計画を大きく上回ってしまった。
・原価の高騰で粗利益率が下がってしまった。

だから経営とは面白くもあり辛くもありますが、社長という道
を選んだのなら、楽しみながら取り組みたいものです。

■長い時間を経て、経営管理体制を構築して、安定した業績を
出せている会社は、様々な指標が、結果として適正にコントロ
ールされています。

既存の業容のまま、少しの成長を付加しようとするとき、結果
に大きな狂いは生じないはずです。販管費に新規採用分の人件
費や追加の開発費・販促費等を追加して、それらの売上に対す
る貢献分を売上に足しこんで利益を予見します。ただ、大きな
投資や新しい事業に挑戦する時は、上記の様に容易ではありま
せん。現業の指標に対して、動く費用の割合が大きくなるので、
その精度は著しく低下します。

■創業時や新規事業の立ち上げ時に、計画通りコントロールす
ることはほぼ無理です。

第20期目に立てた第21期目の計画は、総じて正しく終結す
るはずです。
一方、創業時に立てた第1期目の計画は、概ね当たりません。

故に新規事業の立ち上げ、創業は、少なくない割合でうまくい
きません。また、「創業事業計画を鵜呑みにしてはいけません。」
とお伝えするのはこのためです。

■それでも、経営を安定・成長させるためには…

◆1:コントロールできることを完全にコントロールすること
◆2:頑張ればコントロールできることをできるだけコントロ
ールすること
◆3:コントロールできないことには、出来るだけ適合するこ

この三つを意識して経営していかねばなりません。極めて難解
なコントロール業務も、意思を持って継続すれば、何とかなる
ものです。

経営の最終目標は、売上高・粗利益率・販管費のすべての項目
を確実にコントロールすることです。これができれば、結果と
して望む利益も創出できます。まずは、月次の資金繰り管理か
ら始めてください。

経営を管理する、この発想は極めて重要です。意識して継続す
れば管理は出来るようになります。

卸事業を行うA社様の事例です。会社の幹部に経営を引き継ぎ
たいと考えており、そのための対策が求められていました。事
業承継時に最もよくある課題は下記の2点です。

1.事業を譲り受ける方が株式の購入資金を用意できない。
2.会社の借入に対して個人が連帯保証をすることに抵抗があ
る。

A社も同様に上記の課題に直面していました。資本金は
1,000万円(1,000株)ですが、幹部の方が個人的に
用意できる資金は100万円程度であり、過半数の議決権も取
れない状況です。

この問題は自己株の買い取りにより解決しました。自己株の買
い取りとは、社長が持っている株式を会社に売却する方法です。
会社が買い取った株式は議決権を持ちませんので、大半を会社
に売却することで、少数の株式でも経営権を後継者に引き継ぐ
ことができます。

まず、社長が保有している株式1,000株のうち900株を
900万円で会社に売却し、残り100株を100万円で後継
者に売却しました。これにより、後継者は100万円の資金で
100%の経営権を取得することができました。また、社長様
も当初出資した1,000万円全額を回収できました。

次に個人保証の問題です。政府は、できるだけ経営者の個人保
証をとらないようにしようと「経営者保証に関するガイドライ
ン」を定めましたが、実務上は銀行も保証協会も簡単には無保
証に応じてくれないのが現状です。この制度に最も積極的に取
り組んでいるのは日本政策金融公庫だと感じます。

A社も個人保証を入れた借入が3,000万円超ありましたが、
日本政策金融公庫より無保証で4,000万円の借入を行うこ
とができたため、既存の金融機関とは交渉しやすくなりました。
もちろん日本政策金融公庫は、既存借入の肩代わり資金として
融資をしてくれた訳ではありませんが、交渉が難航すれば一括
返済という最終手段で対応できます。

これらの事業承継対策は短期間に行った訳ではありません。特
に自己株の買い取りは、株価の問題もあるため、複数年に分け
て行っており、自己株式の買取資金についても、金融機関の協
力があって実現しました。

事業承継時にネックとなる問題は「資金」です。事業承継を考
えておられる経営者様は、是非ご相談ください。

その事業が将来立ち上がるかどうか?
こんなことはだれにもわかりません。
それでも論理と蓋然性から、高い確率で重要な問題点を指摘し
て助言することは出来ます。
(※この確率にあてはまらない天才事業家は除外する前提で読
んでください。)

■以下は、創業時に陥りやすい間違え、財務無策の実例です。

◆1:創業1期目が赤字、2期目に追加の資金調達(融資)を
目論む計画

創業1期目が赤字の時、2期目の資金調達は容易ではありませ
ん。創業時の自己資金と創業融資で、黒字化まで自力で持って
いかないと、次の融資はほぼ受けられません。計画の見直しが
必要です。(財務無策です。)

◆2:創業自己資金300万円で初年度の資金調達金額
3,000万円とする計画

計画自体が無謀に見えます。創業時に、こんな多額な融資はほ
ぼ受けられません。計画の見直しが必要です。(財務無策です。)

◆3:創業自己資金50万円の会社が、創業1期と2期で累計
6,000万円の赤字を出す計画

どんなに経歴や計画書が立派であっても、この計画を支持する
金融機関はありません。そもそも力不相応な計画に見えます。
計画の見直しが必要です。(財務無策です。)

◆4:創業三ヵ年計画の資金繰りの辻褄が合っていない計画

資金繰り計画書を作ったら資金ショートします。資金繰り計画
を持ち合わせていないので、矛盾に気づいていません。計画の
見直しが必要です。(財務無策です。)

◆5:創業三ヵ年計画に、創業融資の返済原資を見出せない計

返済を賄う利益を計画段階から計上できていません。返済原資
の無い融資を金融機関は行いません。計画の見直しが必要です。
(財務無策です。)

◆6:創業自己資金300万円、資金的にはぎりぎりの計画で
すが、創業融資をとりあえず受けない計画

「とりあえず自己資金でやってみて、必要になれば融資を受け
たい。」この考え方は根本から間違えています。行き詰まった
時に融資を受けられる可能性は高くありません。最初に創業融
資を受けるべきです。(財務無策です。)

■併せて、創業時に陥りがちな楽観主義について言及します。

◆1.『計画通りに進む』との楽観主義!

○10期目の会社が立てた11期目の計画、概ね計画通りに進
捗するでしょう。
○3期目の会社が立てた4期目の計画、計画の見積もりには不
安が残ります。
○創業時に立案した1期目の計画、過度に保守的に見積もらな
い限り当たりません。
計画通りに事業は進まないのです。これが実態です。それでも
計画は目安として必要です。目安を立てて、ずれを確認しなが
ら事業を運営するために必要です。

◆2.『少ない費用で立ち上がる』との楽観主義!

計画通りに進捗しなかったとき、それを解決するのは時間です。
当初立てた仮説を修正しながら試行錯誤を繰り返します。事業
自体が的外れでなければ、時間を要しながらも着地します。計
画に対して余分に費やした時間を埋められるのは資金・お金し
かありません。資金不足で頓挫する、これは時間を稼ぐ資金を
確保できないとの意味です。

◆3.『資金が必要になればお金は借りられる』との楽観主義!

計画通りに進まずに、時間が必要、時間を確保するための資金
が必要になった折に、金融機関に駆け込んで、資金を求めよう
とします。これは原則間違えです。難解です。
計画が遅れた、時間を掛ければ軌道に乗る、この蓋然性の説明
は容易ではありません。金融機関は原則、足元の進捗・実績を
基準に、将来生み出すキャッシュフローを勘案して融資の可否
を判断します。(金融機関が有するのは「日傘」であって「雨
傘」ではありません。)

◎どうすればよいか…計画をしっかり立案します。一方で、そ
の計画を鵜呑みにせずに計画が遅れることを想定して資金を最
大限調達し続けること、これが正解です。

◆4.『安くしても売れればやって行ける』との楽観主義!

「とにかく売れさえすれば何とかなる」、このように考える社
長様も少なくありません。「売れなければ何ともならない・始
まらない」は正解ですが、「とにかく売れさえすれば何とかな
る」は正しくありません。
一定額以上売れた時には一定以上の利益を捻出できる値決め・
価格設定は経営上極めて重要です。手間暇をしっかり掛けて、
よくよく考えて、シミュレーションをしっかり行って、腫物に
触るように慎重に決めてください。とにかく値決めに対しては
全身全霊を注いでください。

◎どうすればよいか…安売りは絶対にしない、価格を売るため
の道具に使わない、安売りでしか勝負できない事業なら、事業
自体を再考してください。

知って、学んで備えてください。創業に関する手続き・資金調
達・計画立案についても、当事務所にご相談ください。

先日、資金調達の相談をお受けしたある企業様の事例です。義
理の父親から会社を引き継いで約1年が経過しましたが、資金
調達ができず困っているという相談でした。

決算書を拝見すると、銀行借入が相応にあり、自己資本は債務
超過の状態にありました。金融機関が融資しづらい財務状況で
す。債務超過に陥った要因を探るため、過去の決算書を確認し
たところ、前年、前々年と2年に渡って総額約5,000万円の退職
金が出ていました。そこに、コロナウィルス感染拡大の影響で
業績が悪化し、現在の状況に陥ったようです。

話をお聞きすると、前社長が特に退職金を欲しがった訳ではあ
りませんが、会社の株を引き継ぐためには株価を引き下げる必
要があり、敢えて赤字を出したと説明がありました。

会社をご子息や従業員に引き継ぐ場合、代表取締役は株主総会
等を開催して決議すれば変更できます。しかし、株主が前社長
のままであれば、新社長は雇われ社長となり、本当の意味で事
業承継が完了したとは言えません。よって、株式もあわせて新
社長に引き継がなくてはなりませんが、株式は客観的な評価額
で譲渡しなくてはならないため簡単ではありません。

前述の会社様についても、元々株式の評価額が5,000万円程度
あったそうです。新社長が個人的に5,000万円で株式を購入し
たり、贈与を受けたりすれば会社の価値は下がらなかったので
すが、株式譲渡所得税や贈与税を発生させないため、税理士さ
んと相談したうえで、株価をゼロにして無償で譲渡するという
方法を取ったそうです。

これにより、税金を出来るだけ払わないという目的は達成でき
ましたが、新社長は、銀行借入もままならないボロボロの会社
を引き継ぐことになりました。

株価を引き下げて後継者に株式譲渡を行う方法は、中小企業の
事業承継においてポピュラーな承継方法のひとつです。しかし、
株価を引き下げるという行為は会社の価値そのものを引き下げ
る行為にあたります。当然、金融機関から見ても魅力のない会
社になってしまいます。

中小企業にとって金融機関との関係は大変重要です。事業承継
後も金融機関と円滑な関係を継続することが会社にとって最優
先だと判断すれば、譲渡所得税や贈与税を支払ってでも会社の
価値は下げないという視点も必要です。

税務目線だけでなく、財務の目線でもよく検討してください。