創業から順調に成長する企業と、途中で行き詰まってしまう企業の違いは、営業力にあることは間違いありません。そもそも売上を立てられなければ企業は存続しないからです。ただ、営業力があっても行き詰まってしまう企業も多くあります。要因は財務力(資金調達力)の弱さにあります。

営業力があり、業績が軌道に乗り始めた創業者様を悩ますのが税金です。利益とキャッシュが連動しない取引条件で営業をしている企業の場合、利益を上げれば上げるほど、手元キャッシュでは払えない額の法人税が発生します。「事業を軌道に乗せるためにがむしゃらに頑張ってきた結果、ゴール(決算)の手前で多額の税金が発生することに気付く。しかし、手元に税金を払えるだけの資金がない。」というパターンです。

このような状況のとき、相談するのはたいてい周りの先輩経営者です。返ってくる回答は、「税金なんかまともに払っている人はいないよ。上手に節税しないとダメだよ。」といった主旨のものが多いようです。順調に成長する企業とそうでない企業の運命の分かれ道は、この節税の意味をしっかりと教えてくれる方が周りにいるかどうかです。

税金が払えない、もしくは払いたくないために節税をして利益を減らす行為は、自ら資金調達の可能性を閉ざすことになります。業績は順調に推移することもあれば下降することもあります。節税をすることで、「業績が下降した時に資金調達が上手くいかない。資金が不足するため事業を縮小せざるを得ない。縮小することでさらに利益が上がらなくなってしまう。」という負のスパイラルに陥ってしまいます。

創業して3年以内に7割の企業が廃業するとも言われていますが、売上を上げるという第1の関門をクリアしたにも関わらず、節税をしたために資金調達ができず、最後は資金に詰まって存続を諦めてしまう企業も相当数あると感じています。

弊所では、創業者に限らず、資金調達を常日頃から行い、利益を思い切って出すことを提案しています。先日も、お付き合いを始めたばかりのお客様から、「(利益が出ている)決算書を銀行に渡したら、去年までは2,000万円借りるのがやっとだったのに、すぐに8,000万円の提案を持ってきました。決算書でこんなに違うんですね。」とおっしゃっていました。

利益を減らして少ない手元資金で経営をするのか、もしくは、利益を出して8,000万円の資金調達を行って経営をするのか。本当に大きな違いです。

経営者が患う病の一つに『お人好し症候群』があります。過半の経営者が、程度の差はあれ発症しています。検証してみましょう。

■お人好しで会社をダメにしてしまう社長は少なくありません。

自己診断をお願いします。
・自分はお人好しだと思う。〔  〕
・自分は従業員に甘いと思う。〔  〕
・自分の判断は、どちらかというと甘いと思う。〔  〕
・自分の判断は、どちらかというと曖昧だと思う。〔  〕
・自分はNOと言いにくい性格だ。〔  〕
これらにはすべて迷わず〔 × 〕が付く経営を意識して行わねばなりません。

■一方、愛の無い経営では人はついてきません。愛は経営者としての重要な資質の一つです。「厳しい経営判断に愛を添える経営(稲盛和夫氏)」が理想なのでしょう。

お人好し経営に陥る原因を探してみましょう。

◆一つ目の原因は『弱さ』です。

○その場しのぎを繰り返す。
大局的な見地を持たずに、目先の事象を「目先迎合、その場しのぎ」でやり過ごそうとする経営者がいます。問題点逃避型、経営者には不適格です。

○皆に好かれたい、嫌われたくない。
出来るだけ敵を作らないように発言し行動することは経営者にとって重要な行動指針です。
無意味な敵は不要ですが、時に敵対しても主義主張を通さねばならない場面もあります。社内に対しても同じです。全員から良い?社長と思われることは不可能です。嫌なことを言えない経営者です。考え直してください。

◆二つ目の原因は『知見不足』です。

○全体最適が理解できていない。
経営判断においては、常に部分最適よりも全体最適を優先しなければなりません。この二つが矛盾する時に、部分最適を容易に選択してしまう経営者がいます。知見が不足しています。

◆三つ目の原因は『考え違い』です。

○曖昧な指示しか出さない。お任せ主義。
皆に考えさせること、これはこれで重要です。一方、細かく・明瞭に指示を出すことも重要です。前者ばかりの経営者は、真の指揮官とは言えません。特に中小企業は、ほとんどが後者であるべきです。ご再考ください。

◆四つ目の原因は『愛の取り違え』です。

○ボランティア精神を経営に持ち込み過ぎる。言うまでもなく会社は社会のためにもあります。
・行う事業が社会の役に立つ。
・従業員の雇用と教育を担う。
・納税して利益を世の中に還元する。
・上記の過程で社長も十分に報われる。
これらを実現・継続するために、提供する商品・サービスや役務の価値と、その価格を図りながら、また、競合相手と戦いながら切磋琢磨しています。利益の追求も当然必須です。

○一方、経営と比べてボランティア活動は、ある意味容易です。
捧げ続ければよいからです。経営にボランティア精神を持ち込んではいけません。全く違う二種類の基準は同居できません。容易なボランティア魂が会社を凌駕します。経営者は、まったく別の場所・環境でボランティアに励むべきです。または、「税引き後利益の○○%をボランティア活動に使う」、このような明確な指針で対応すべきです。
「この商品は、ボランティア的な意味合いで値引きして」これをやると会社自体がダメになります。

◎愛の無い経営者は大成しません。愛は経営者としても、人としても、最も重要な資質の一つです。この前提で、「経営者は心に一匹の鬼を忍ばせる経営」・「厳しい経営判断に愛を添える経営(稲盛和夫氏)」を行いましょう。多くの偉人が語る経営の王道です。

お人好しと愛を区別して判断・行動して下さい。

本日は、個人事業からスタートし、長年コツコツと実績を積み上げてきた社長様が、より大きな資金を活用して事業を拡大した事例を、インタビュー形式でご紹介します。

◆まずは自己紹介をお願いします。

飲食店を3店舗経営しています。23歳で独立し、現在13年目になります。

◆当事務所とのお付き合いのきっかけを教えてください。

お付き合いをスタートさせていただいた当時は、10坪程度のバーを2店舗、30坪程度のレストランを1店舗経営していました。年商は8,000万円程度だったと思います。

設立してからずっと資金力が乏しかったため、小さなお店や、立地条件があまり良くないお店しか出店できませんでした。それでも何とか食べられるぐらいは利益を出してきましたが、このまま気楽にやっていても将来が無いと感じるようになりました。

自分なりにいろいろと考えた結果、やはりもっと売上の取れる店舗を持たないと大きくはなれないと感じましたので、思い切って資金調達をして立地の良い場所に店を出そうと決意しました。

ただ、最大でどれくらいの融資を受けられるか見当もつかなかったため、融資の専門家を探していたところ、貴所の融資サポートサービスに出合いました。

◆当事務所の融資サポートサービスはいかがでしたか?

実は前の税理士さんも、「資金調達に強い。」と謳っていたので契約しました。しかし、出店のため2,000万円を調達したいと相談すると、「無理だ」と言われたため、出店を諦めた経緯があります。ただ、その先生に他にもいろいろな融資の相談をしても納得のいく説明を受けられなかったり、先生の紹介で行った金融機関で、「貴社は営業エリア外ですので取り扱い出来ません。」と初歩的な断られ方をしたりしたため、少しずつ、「本当に資金調達に強いのかな?」と疑念を抱くようになりました。

そのような経緯があって、違う専門家の意見も聞きたいと思うようになり、貴所にコンタクトを取りました。お会いしたその日に希望を持てる見解をいただき、また、多くの実績を有していることが分かりましたので、すぐにお願いすることにしました。

その後は、「調達目標額が大きいので複数行に分けて調達しましょう。」「調達先の候補はX行とY行にしましょう。」などの具体的な提案をもらい、融資申し込み資料の作成はもちろん、実際に金融機関を回って事前説明をするところまで、私の代わりに行ってくれました。私は元々金融機関の方と話しをするのが苦手ですし、資料の作成はもっと苦手ですので、銀行対応業務を丸投げ出来た感じです。結果も希望どおり2,000万円の資金を調達することが出来ました。

◆現在の状況はどうですか。

おかげさまで立地の良い場所に店舗を持つことが出来ました。
今までの店舗と比べると、保証金の額も家賃も倍以上になりましたが、売上も大きく取れるので利益が残るようになりました。また、以前運営していたバーは閉店し、レストランも売却しましたが、現在の売上規模は以前と変わりません。さらに、現在、同じ規模の店舗を出店する計画を進めていますので、来期の売上高は1億5,000万円程度まで拡大する見込みです。貴所との出会いがきっかけで事業が大きく変わりました。感謝しています。

少ない自己資本でしっかりと利益を出しておられる社長様は、他人のお金を活用することで、さらに大きく事業を伸ばすことができる可能性を有しています。そして、他人のお金を最大限活用するためには、財務管理体制がしっかりしていることが絶対条件です。社長様の「事業力」に弊所の「資金調達力」を合わせることで、面白い化学反応が起きるかもしれません。

 

■ある製造小売業様との取組みをご紹介します。

長期間価格の改定(値上げ)も行わず、新商品を継続的に投入しながら、まじめに経営を続けてこられました。経営内容は健全ですが、営業利益は10%を大きく割り込んでいました。
※製造小売業です。卸は行わず、自店舗のみで販売しています。当然価格決定権は自社にあります。営業時間の設定も自由です。

■当初の与件と仮説は…

1.価格を改定します。平均で3~5%以上値上げします。
2.アイテムを絞ります。5%~7%以上絞り込みます。
3.毎週定休日を設けます。営業時間を14%短縮します。
4.売上横ばい以上、営業利益+5%以上が目標です。

◆原価表と単品ごとの売上データを確認しながら、一品ごと商品を確認します。製造部門と販売部門、社長も交えて丁寧に議論を行い、答えを出します。ただし、「平均3~5%以上の値上げ」と「アイテム5%~7%以上絞り込み」は必達目標です。

◇以下のような意見が飛び交います。
・値上げを決めようとすると、「高くしたら売れません。」
・商品を切ろうとすると、「お客様が望んでおられます。」 一つ一つ事実かどうかを検証します。

◆時間帯別売上高を確認しながら、曜日ごと、時間帯ごと、時期(旬や月初・月末等)ごとの売上推移を確認します。定休日の設定、営業時間の短縮を模索します。ただし、「定休日の設定」は必達目標です。

◇以下のような意見が飛び交います。
・「お客様にご不便をおかけしてしまいます。」 一つ一つ事実かどうかを検証します。

必達目標を厳守しながらも、丁寧に時間をかけて、恐る恐る…の気持ちで進めます。

■結果は…

1.価格を改定します。平均で3~5%以上値上げします。
⇒平均で3%の値上げ実施!
※一部のアイテムは高すぎるとの判断から値下げしました。
2.アイテムを絞ります。5%~7%以上絞り込みます。
⇒5%絞り込み実施!
3.毎週定休日を設けます。営業時間を14%短縮します。
⇒週2日、各2時間営業時間を短縮。当初目標大幅未達です。
4.売上横ばい、営業利益+5%以上が目標です。
⇒改定後3ヶ月平均で、前年同期比売上2%増、前年同期比営業利益4%増です。

平均3%の値上げと営業時間週4時間の短縮に対して売上は2%増です。客数が若干減じています。ただし、営業利益は4%増、確実に積み増しできました。
改定直後のデータですので、継続して確認する必要がありますが、悪くなる趨勢はありません。
これからも毎年、同様のプロジェクトを継続する予定です。

■絞り込み&値上げ(SP経営、Simple&Profitable)プロジェクトはたいへん有効です。
1.価格を改定します。
2.アイテムを絞ります。
3.営業時間を短縮します。
4.売上横ばい、営業利益+5%以上が目標です。

貴社も取組んでみてください。
「長期間価格の改定(値上げ)も行わず、新商品を継続的に投入しながら、まじめに経営を続けてこられました。」
この様な会社様であれば、ほぼ確実に増益になります。

繰り返しになりますが…
◎「日本の企業は顧客の声を聞きすぎる。顧客の過度な要望への対応は、企業を疲弊させ、低生産性の元凶になっている。顧客を神さまと勘違いして、過剰な対応を行うということは、一方で、自社の経営と社員を疲弊させることになる。顧客に提供するサービスの内容と、負担いただく価格のバランスが、国全体として崩れてしまっていることが、日本の生産性を著しく低くしてしまった。〔お人好し症候群〕が起点となり、〔分散症候群〕と〔安売り症候群〕が常態化している。…」

私は上記の仮説を持っています。

リスケジュール中は、原則新規融資を受けることができませんので、新規融資を受けるためには、一旦リスケジュールを解消する必要があります。

ひとつの方法として、新しい借入でリスケジュールをしている借入を一括完済するという方法がありますが、新しい借入れを申し込む金融機関は、今現在リスケジュールを依頼している金融機関ではなく、別の金融機関に依頼するのが得策です。最近取り組んだ事例をご紹介します。

■A社の事例

【借換え前】
・X銀行より約1.5億円の借入
・リスケジュールにより毎月50万円の返済

【借換え後】
・Y銀行にて1.5億円肩代わり+新規融資2,000万円を実行
・毎月返済額117万円

A社は数年前からリスケジュールをしていますが、足元の業績が回復し、年間1,000万円程度の返済が可能な状況になりました。また、受注の幅を拡げるために新たな人材を雇用したいと考えており、資金調達が必要になったことも、正常化に踏み切った要因です。

当初A社の社長様は、長年お付き合いのあったX銀行から新規融資を受けたいと考えていました。しかし、X銀行の答えは、「まずは返済を正常化して欲しい。新規融資は正常化して数か月間様子を見た後に検討したい。」というものだったようです。正常化を行う目的は新規融資を受けることですので、もし融資を受けられなかった場合は、「正常化して返済額が増えただけ。」となってしまいます。社長様は思い悩んで弊所にご相談に来られました。

リスケジュールとは、元々の約束通りに返済ができていない状況です。銀行は約束を守ってくれなかった相手に対して、追い貸しをすることは非常に慎重になりますので、X銀行の対応は至極当然です。

ただ、おかしな話ですが、X銀行ではすぐに新規融資を検討することができなくても、X銀行以外の銀行だったらすぐに新規融資を検討することができます。他行から見れば、リスケ先ではなく、単なる新規先であるためです。これまでの経緯は関係なく、純粋に今後1.5億円+αの返済が可能と判断できれば、融資を実行することができます。

弊所にてお付き合いのあるY銀行に相談したところ、事例でご紹介した通り、15年返済の新規融資で1.5億円の肩代わりと、2,000万円の新規融資を実行してもらえました。さらに、返済を正常化したことで、日本政策金融公庫からも1,000万円の追加融資を受けることができました。

誤解のないように説明しますと、X銀行の対応が悪かったということではありません。X銀行から見れば、A社はリスケジュール中の要注意先であり、一方、Y銀行から見ればA社は1.7億円の新規見込み先です。対応が違うのは当然のことです。

金融機関にとって、リスケジュールがある先に正常化と同時に新規融資を行うことは大変困難なことです。いたずらに銀行同士の借り換え合戦をあおるつもりはありませんが、正常化と同時に資金調達を行う場合は、自社を魅力的な新規見込み先と捉えてくれる別の銀行に相談するのが得策です。

当事務所、『新・税理士』事務所が取組む財務支援業務について解説いたします。ご理解の上、存分にご活用ください。

■当事務所、『新・税理士』が取組む財務支援業務は…

1.スポット業務として行う資金調達支援(だけ)ではありません。
⇒(正)継続的な財務機能の充足、財務部長の代行業務です。
2.資金に困った企業様の救済支援(が本質)ではありません。
⇒(正)成長企業の財務部長としての伴走です。
3.資金調達時に、社長様金融機関訪問時の同行を行うことではありません。
⇒(正)財務部長の代行者として、主体的に金融機関と関わります。

◆クライアントには、財務支援の指針をはっきりとお示ししています。

『新・税理士宣言(クライアント向け)』…
○税理士は税務のプロです。
◎我々『新・税理士』は、税務+財務・金融のプロです。
○税理士は、税務申告のために経営数字を預かります。
◎我々『新・税理士』は、税務顧問業務にプラスして…つづく
※詳細はお問合せください。

■クライアントに提示する財務の指針も明確です。

1.「必要な時に必要な資金を調達する」(借り手の論理)ではありません。
⇒(正)「借りられる時に借りられるだけ借りる」(貸し手の論理)の推奨です。
※借り手の論理が通用しにくいからです。

◆クライアントに提示すべき『財務の方針』、その要諦は『お金に困らない経営を目指していただく』ことです。

○手持ち資金の最大化を図る。
→金利を気にせずに『借りられる時に借りられるだけ借りる。』
○適時・継続的に借入れを行う。
→『貸し手の論理』(借り手の論理ではなく)に沿って資金
調達を継続する。
○利益を最大限だす。
→納税を恐れずに利益をだす。自己資本の充実と簡易キャッシュフローの最大化を図る。
○継続的な資金管理を行う。
→精度の高い6カ月~1年先までの資金繰り計画を持ち続ける。
○金融機関へ財務情報を適時提供する。
→金融機関との窓口になって、モニタリング機能を充足する。

■金融機関との関係を構築するために…

1.金融機関とのご縁を求めて訪問することではありません。
⇒(正)クライアントの財務部長として、金融機関との継続的な関係を構築することです。
⇒(正)資金調達時には財務部長として、資料作りも含めて主体的に関わることです。

◆金融機関には、当事務所のスタンスをはっきりとお示ししています。

『新・税理士宣言(金融機関様向け)』…
◎我々『新・税理士』は【ミッション】
・クライアント企業の金融支援をミッションに掲げています。
・金融機関様との良好な関係構築を目指しています。
◎我々『新・税理士』は【新しい機能】
税務顧問業務にプラスして、『資金繰り円滑化支援業務(キャッシュフローの番人業務)』を引き受けています。継続的にお預かりするクライアントの経営数字を税務申告のためだけではなく、資金繰りの円滑化のためにも活用しています。…つづく
※詳細はお問合せください。

■当事務所、『新・税理士』が行う財務支援業務は、クライアントが『お金に困らない経営を目指す』ための継続的な機能、財務部長の代行業務です。

●スポット業務として行う資金調達支援(だけ)ではありません。
●資金に困った会社様の救済支援(が本質)ではありません。
●社長様金融機関訪問時の同行を行うことではありません。

税理士(税務の専門家)としてだけではなく、『新・税理士』(税務+財務の専門家)としてのご用命もお待ちしております。
皆様方の、金融機関対応を含む財務支援業務についても、深い知見と経験を有しております。
当事務所は『税理士』ではなく、『新・税理士』です。

2008年に起きたリーマン・ショックを受け、中小企業の倒産や破産を防ぐ目的として、2009年に中小企業金融円滑化法が実施されました。同法に基づいて、多くの中小企業様が借入返済のリスケジュールを実施することとなりましたが、現在までリスケジュールを継続している企業様も多くいらっしゃいます。

リスケジュールは、返済負担が軽減されるというメリットがある一方で、リスケジュールを継続している間は、新規融資を受けられないという大きなデメリットがあります。一度リスケジュールを行うと、中々正常化できない要因はここにあると思います。

経営状況が悪化した際に、取り敢えず止血をするという処置は全く間違っていません。しかし、弱った体を回復させるためには、エネルギーの注入が必要不可欠です。事実、リスケジュールを実施した企業様は、売上高が毎期じりじりと下がっていく傾向が見受けられます。新たな資金が入らないため、思い切った投資ができないことが要因のひとつです。

もし、貴社が、「一定の割合で業績は回復したが、元の金額を返済できるほどではないため、リスケジュールを現在も継続している。」という状態ならば、リスケジュールからの脱却に挑戦できるかもしれません。

リスケジュールから脱却する方法は、「返済を元の金額に戻す」だけではありません。元の返済額より少ない金額でも、長期の返済に借換えすることができれば、脱却することができます。元の返済額が100万円で、現在は30万円の返済しかできていないとしても、仮に3,000万円の借入残高があった場合、30万円×100回払いの借入に借換えできれば正常先となります。

ただ、「リスケジュールが継続できれば、現状の資金繰りは問題ない。」という企業様からは、「もうこれ以上借入は増やしたくない。」「借りることができても返済ができるか不安。」「現状維持(リスケ状態)で構わない。」という声もございます。確かに、借入で苦労されたので慎重になるのは当然のことと思います。しかし、最も気にしていただきたいのは、何の投資もせずに数年後も今と同じキャッシュフローを確保できるか
という点です。過去数年の決算書を並べて見て、わずかでも売上が減少傾向にあるならば、今のうちに手を打っておくべきだと思います。

信用保証協会も、リスケジュールから脱却するための保証制度を用意して、正常化を支援しようとしています。勇気を持って、正常化にチャレンジしましょう。

■営業時間・営業日の短縮…

○店舗ビジネスの経営者は、その店舗を最大限効率的に活用しようと考えます。当然です。では、効率的とはどのように運用することでしょうか?多くの経営者が考える効率的とは…できるだけ長時間店舗を営業すること、家賃は同じだから、お客様が来店されるから等々が理由です。長時間営業しても、家賃が固定費で同じだから、本当でしょうか?営業すれば人件費という大きな経費が必要になりますが、営業しなければ人件費は発生しません。(休日に充当できます。)店舗を最大限効率的に活用することは、イコール、できるだけ長時間営業することではありません。この視点を重視してください。

○店舗ビジネスにおいて営業時間をいかに短縮するか?これが大きなテーマです。
居酒屋を経営しているとします。給料日前の月曜日を休みにしたらどうなりますか?時間帯別売上高、曜日別、時期別(給料日前等)の売上高を確認してください。ランクを付けてください。繁忙期の繁忙日をSランクとするなら、閑散期の閑散日はCかDランクになるはずです。Sランク~Dランクまで、すべて営業することが、本当に有効活用なのでしょうか。

◎できるだけ営業時間・営業日を短縮する、この『絞り込む』経営が必要になってきました。
経営に必要なのは、その売上高ではなく、その利益です。3万円を売り上げるために、それを上回る経費を投入している営業を止めましょう。減収になっても、増益になる経営を目指してください。

■アイテムを絞り込む…

○取り扱いアイテム数をいかにして絞り込むか?これが大きなテーマです。
居酒屋を経営しているとします。居酒屋が10アイテムで経営できるはずありません。50アイテム、100アイテム…でしょうか。
ここで重要なのは以下の2点です。
◆1.101アイテムよりも、100アイテムの方が効率的で美味しくなるということです。一つでも少ない方が、生産性と品質が向上します。100アイテムと101アイテムでは誤差の範囲でしょうが、この差が大きくなればなるほど、顕在化します。
◆2.時間の経過とともに、アイテム数は増える傾向にあるということです。メニューを絞り込む・止めることは難しく、温存すること、増やすことは容易だからです。商品別の売上高を確認してください。ランクを付けてください。Sランク~Dランクまで、すべて本当に必要でしょうか。3つカットして1つ追加する、全体で数十%減らすぐらいの思い切った目標を立てて取り組んでください。

◎できるだけアイテム数を減らす、この『絞り込む』経営が必要になってきました。
100アイテムの生産性と品質を維持しながら提供するオペレーションと、80アイテムのそれでは、その収益性等すべてに雲泥の差が生まれます。少ない方がよい、この原理・原則を忘れないでください。

■価格を見直す、値上げする…

○価格への弱腰姿勢を是正する、経営の大きなテーマです。
集客商品だから、目玉商品だから、原価率は高いが価格が高いので粗利益額は確保できるから、これらをフック商品にして…等々、安売りを正当化する理由はいくらでも見つかります。
安くするための理由ではなく、高くするための工夫に知恵を絞ってください。

◎価格をすべて見直してください。
値決めが経営に与えるインパクトを過小評価してはいけません。
一品一品丁寧に、材料原価と手間原価(生産性)を勘案しながら、1円単位で値決めを再考してください。アイテムの絞り込みと同時に行うと効率的かもしれません。また、深夜の営業時間帯には特別料金を加算することも重要です。

必要な原価・コストを織り込んだ上で、必要な売上高を確保できないビジネスは確実に淘汰されます。サービス残業も近未来には確実になくなるはずです。法で規制されます。従業員がいなくなります。そのためには、売上至上主義、頑張りすぎる経営からの脱却が必要なようです。残された時間は限られています。
『営業時間・営業日の短縮』・『アイテムを絞り込む』・『価格を見直す、値上げする』この3つのテーマを実行に移してください。

コラムをよく読んでいただいているお客様から次のようなお話がありました。

「先日融資を申し込みに行った際、資金の使い道を聞かれたので、『手元資金を増やすため。』と答えた。すると担当者から、『そのような目的での融資はできない。』と言われた。このコラムではいつも、借入を活用して手元資金を増やすようにと言っているが・・」

おっしゃる通り、実は、「手元資金を増やすため」という融資目的は銀行にはありません。借入をする企業側から見ると、なぜ「運転資金」なのに借してもらえないのかと不思議に感じるかもしれませんが、銀行側では、「運転資金」の定義が明確に決められており、「手元資金を増やす」というのは、この運転資金の定義から外れています。

なぜ銀行は運転資金を定義して、それ以上の融資をしないようにしているのでしょうか。理由のひとつは、もし、「手元キャッシュが潤沢にあり、設備投資も全く行う予定がない。」という企業に融資をした場合、余った資金が株式や不動産などの投機に流れ、バブル景気を誘発する可能性が高まります。また、見方によっては、銀行は強い立場を利用して、お金のいらない企業に無理やり融資を受けさせていると捉えられる可能性もあります。

よって、銀行がプロパーで運転資金を融資する場合は、その企業が本当に必要な経常運転資金の額を算出し、この金額を大きく超えないようにします。以下はプロパーで運転資金の融資を検討する場合の稟議書の記入例です。

【資金使途】
(2017年1月期 貸借対照表より)
所要運転資金6,000万円=営業上の売上債権5,000万円+棚卸資産3,000万円-営業上の買入債務2,000万円

【調達方法】
所要運転資金の調達6,000万円=既存貸出3,000万円+本件貸出3,000万円

このように、本当に必要な経常運転資金の額を算出するため、実需の範囲内でしか融資を受けられません。よって、プロパー融資で手元資金を増やすことは理論上困難です。

しかし、日本政策金融公庫や保証協会の運転資金の考え方は全く違います。こちらの運転資金の考え方は、「月商の〇か月分」というものです。業種や経営成績にもよりますが、概ね2か月程度です。保証付き融資で運転資金の融資を検討する場合の稟議書の記入例は以下となります。

【資金使途】
仕入、人件費などの諸払いに充当

【調達方法】
本件により全額

プロパーに比べると大変アバウトです。月商の2か月をベースにしているため、実際に必要な経常運転資金の額より多くの融資を受けられる可能性があります。

以上のことから、借入を活用して手元資金を増やす最良の方策は、実際に必要な運転資金はプロパー融資で調達することです。
そうすれば、日本政策金融公庫や保証協会の借入は、理論上、その分が全額手元資金に上積みされます。

■資金余力がほとんど無い計画を立てて、その計画通りに執行すると、短期間で破たんする可能性が高くなります。

○例)
自己資金数百万円、創業融資600万円~800万円(自己資金を勘案すると、通常はこれが創業融資の限度額です。)、総事業予算約1,000万円の事業体が、この総予算をすべてつぎ込んでデスバレーを越える計画を立案した時、その売上が計画を下回れば途端に経営危機に陥ります。自己資金数百万円、創業融資600万円~800万円、総事業予算約1,000万円の事業体は、数百万円以上の余力を残して立ち上がる計画を立案すべきです。売上の進捗が計画に対して遅れた時に、この余力資金でリカバーすることができます。

○そもそも、創業1期目に、計画通りの売上を作れるケースは稀です。極端に保守的な計画を立てれば別ですが。成功者の大半は「紆余曲折を経て、何とか事業が立ち上がった」と言っています。当初に想定した「仮説」通りに事業は立ち上がらない、この達観が必要です。

◆創業事業計画に対する誤解とは…

第20期目の会社が第21期目の計画を立案した時、その計画はよほどの冒険でもしない限り、  10%も狂わないはずです。第3期目の会社が第4期目の計画を立案した時、その実現の蓋然性には、まだまだ多くの疑問が残っています。創業時に作成する創業1期目の創業事業計画書の精度は?大きな疑問が残ります。当然です。創業事業計画とはそのようなものです。それでも、大きな指針・目安として必要です。この目
安とのかい離を確認しながら事業を進めるために必要です。
創業事業計画書は、絶対に必要ですが、鵜呑みにしてはいけません。

■大きな自己資本を有していない創業者が大きな事業をやりたいなら、二段階、三段階で事業を成長させてください。

○例)
自己資金が数百万円の創業者は、総事業予算1,000万円程度の事業しか立ち上げることができません。まずは、この範囲で事業を軌道に乗せる計画を作って実現してください。第一ステージが軌道に乗った時、次の資金調達を行って第二ステージをクリアしましょう。このステージアップを経て、あるレベルを超えた時、エクイティー資金(社長が望むなら)の調達も視野に入ってきます。飛躍を狙うのはこのステージです。

○小資本しか持ち合わせていないが、大きな資金調達ができれば短期間で成長できる、故に資金調達を行いたい…このような考えは稀有な幸運と実力を持ち合わせたほんの一握りの人たちのみに通用する論理です。一般的ではありません。
※ベンチャーキャピタルは、将来性も当然ですが、一定以上の実績を待ち合わせた事業体に出資します。実績の無い計画書に出資するケースはほぼ無いと考えてください。

◆エクイティー資金(ベンチャーキャピタルからの投資)に関する誤解とは…

ベンチャーキャピタルは…
1.
計画書には原則出資しません。小さな成功実績に出資します。この小さな成功に、大きな資金をつぎ込むことで、時間と規模、競合との差別化を買うための出資です。
※計画書に出資する事例は、あくまでも推測ですが、日本国内で年間数例以下でしょう。
2.
短期間に大きく成長できる蓋然性が出資の条件です。イメージは、最長5年ぐらいで、純利益が数億円以上、この純利益がその後さらに大きく伸び続ける事業に出資します。

■今の力相応に創業しましょう。

大きな野望を捨てる必要はありません。望むのなら、十年後・二十年後に成し遂げればよいのです。
ただし、今は、今の力相応の事業に取り組みましょう。

○自己資金(自分の力や縁で調達できる資金)が数百万円なら、創業融資を最大限行って、総事業予算1,000万円位の事業を立ち上げましょう。まずは、このステージをクリアすることです。

○自己資金(自分の力や縁で調達できる資金)が5千万円準備できるなら、それ相応にスタートすればよいでしょう。

◆今の力に不相応な創業は総じて失敗します。

今、力がないのに大きなことをやりたい、これは間違えです。無いものねだりです。経営者としては失格です。大きなことをやりたいが、今はお金がないので、力相応の小さな成功を積み上げて、最終的には大きなことを成し遂げる、これが正解であるはずです。
大きな、大き過ぎると思われる夢を捨てる必要はありません。ただ、未来の大きな夢と現実を、はっきりと区分けして創業してください。